無菌医薬品製造のためのペーパーレスによる環境モニタリング

パーティクルカウンター資料集

著者:Bob Latimer(ボブ・ラティマー)

バイオ・医薬品の製造現場において、環境モニタリングに使用される気中のパーティクルカウンターは、何十年もの間本質的には変わらず今に至っています。しかしそれに対し、毎年何百万ドルと言うコストと計りきれない程の労働時間が紙ベースによる徹底的なマニュアル作業に費やされています。大量の印字データ、データを切り貼りする時間、そしてデータの手入力などの作業はバイオ・医薬品製造現場ではあたりまえの事として行われており、これらはすべてコスト的にも無駄に繋がっています。更にこのようなマニュアル作業は、人為的ミスによる本来不要であるデータ確認や、場合によってはデータの取り直しなどの無駄をまねく大きな要因となってきたことです。アドオンソフトがこうした多くの問題を緩和するための「解決策」を提供しているとはいえ、一方で企業の Laboratory Information Management System(以下LIMS)には接続できなかったり、アドオンソフト自体が常にアップデートされていない為に古くなっていたり、FDA 21 CFR Part11のフォーマットに対応しないものが提供されていたりします。 本アプリケーションノートでは、どのようにMET ONE 3400ポータブルパーティクルカウンターがBCR(バイオ・医薬品製造)クリーンルーム向けに設計され、どうやってマニュアル作業の手間を省きつつデータ転送のミスも無しに日々のオペレーション時間(最大2時間)の削減を可能にしたかを述べています。― アドオンソフトの必要性はありません!

はじめに

投与剤や注射剤のような無菌医薬品製造区域で製造されるバイオ・医薬品は、当然ながら不要なバクテリアやウイルス感染に対して安全でなければなりません。製品品質は、そうした製造区域や注入工程の中で作られなければならず、細心の注意を払って設計、施工された環境モニタリングプログラムの実行によって確かなものとなります。ある効果的な環境モニタリングプログラムは、バッチリリースプロセスの基本コンポーネントを形成する環境モニタリング結果と共に、異物混入対策が評価できる基本的な手段を提供しています。一般的に、GMPコンプライアンスに完全対応しているバイオ医薬品工場の無菌充填ラインは、クリーンスーツ(防塵服)の着用、ミニエンバイロンメントやアイソレータ/RABSを採用するなどで管理されています。品質と無菌状態の両方を保証する為に、こうした環境は、cGMP1, EU-GMP2、PIC/S3などのようなGMP(医薬品製造管理および品質管理基準)に一つ以上挙げられている厳格な基準が忠実に守られるよう維持、管理されています。こうした指導は、SOP (Standard Operating Procedure)の定めるスケジュールに基づいて行われる、クリーンゾーンの日常的なモニタリングに加え、充填中に継続して気中パーティクルのモニタリングを行うことを義務づけています。加えて、GMPはそうしてコントロールされている環境は、一定期間毎にISO-14644-14 に再分類されなければならないとも義務づけています。

GMPコンプライアンスに対応している無菌医薬品製造工場で日常的に環境モニタリング管理することで、品質管理マネージャーや管理責任者に対し問題を示すことが可能になります。環境モニタリングデータに関する検証やレポーティングについては言うまでもなく、設備、人的リソースやワークフロー管理を整えることは非常に手間と時間が掛かります。3時間毎のサンプル測定の度に、データ管理プロセスに1時間かかることは珍しいことではありません。更に、多量な数値データをマニュアルで入力したり管理することは、例えば入力ミスにより同じ場所を繰り返しサンプリングした事になっていたり、吸引量を間違っていたり、あるいは印刷されたデータの貼り間違いや貼り漏れのようなヒューマンエラーにとても繋がりやすいのです。 すべての決められたロケーションで正しくサンプリングされたと仮定しても、PDF保存の為の印刷データスキャン処理や長期トレンドを見る為にExcelにデータを移行して整理し、確認するという作業がまだ残っています。

Pharma Manufacturing Paperless Monitoring

これで解決! - MET ONE “Simply Paperless”

本アプリケーションノートは、データ書き換えによるエラーを回避しつつ、マニュアル作業の時間(印刷データの切り貼り、スキャンやコピー等)を省略することで、パーティクルカウンター1台につき最大2時間/日の作業時間短縮を実現してきたMET ONE3400シリーズで利用できる “Simply Paperless(シンプリーペーパーレス)”と言うオプション機能をご紹介するものです。 このオプション機能を使うことで、測定された気中パーティクルカウンターのデータは直接PDFとExcelに対応したファイルに取り込まれ、自動的にUSBメモリへエクスポートされるか、ネットワーク経由でサーバーへ直接アップロードされます。直接PDFに取り込まれることにより、作業時間を短縮し、大切な環境モニタリングデータが安全で、且つ FDA 21 CFR Part 11コンプライアンスに対応していることを保証します。

ワークフローの作成

医薬品製造における環境モニタリングアプリケーションには、多くのサンプリングを行う [Location(場所)]に異なるサンプルレシピ(測定サンプル設定)が関わっていることがよくあります。複数の作業者が関わって、複数台のパーティクルカウンターを管理しているような施設で、 [Location(場所)]毎にカウンターの設定をマニュアル的に行うことは、結果としてエラーに繋がる可能性があります。MET ONE 3400シリーズのパーティクルカウンターは、とりわけそうしたバイオ・医薬品の環境モニタリングワークフロー管理で必要とされるニーズに対しソリューションを提供するようデザインされています。 そして、001~999の固有に設定されたロケーションID毎にデータ保存が可能であり、それぞれにはアルファベットや数値の組み合わせによるロケーション名が付けられています。ロケーションIDが振られたデータは、計器内の [Area(領域)]にまとめて保存可能で、ディレクトリのツリー構造は本体ディスプレイ上での管理が可能です。加えて、サンプルレシピは、良く使われるサンプルが含まれているロケーションと関連付けられている [Group(グループ)]機能を使用することにより予め決定できます。

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各ユーザーは、サンプリングのワークフローを開始する前に、ログイン用にそれぞれのユーザー名とパスワードを設定します。MET ONE 3400シリーズの効果的な特長の一つとして、ユーザー設定の際、計器の管理者に特定のサンプルレシピ(グループ)と個人のユーザー名を紐付けることができるようにしています。特定の [Area(領域)] や [Location(場所)]はサンプル設定のグループと順番に関連づけることが可能です。このようにして、管理者権限を持っていない一般のオペレーターは、パーティクルカウンターにログオンはできますが、個人のワークフローに関わる設定やサンプル測定する[Location(場所)] にだけしかアクセスできません。

この方法でサンプリングのレシピと場所を管理するもう一つの利点は、すべての3400シリーズのパーティクルカウンターは理想的なプログラミングが可能と言うことで、オペレーターは皆同シリーズの他のパーティクルカウンターでもログイン可能であるため、他のパーティクルカウンターでも担当のワークフローを行えると言うことです。複数台のパーティクルカウンターがすべて同じようにプログラミングされることは、環境モニタリングマネージャー又は管理者の負担軽減にもなります。最初に1台目の3400シリーズのカウンターで 「領域」、「場所/位置」、「サンプルレシピ」、「ユーザー」、そして其々がアクセスするレシピグループのすべてがプログラミングされれば、同様の設定はUSBメモリを使って2台目以降のパーティクルカウンターにコピーすることが可能です。

ワークフローの遂行とPDFファイル作成

PDF化について

環境モニタリングの現場オペレーターは、サンプリングワークフロー完了後、通常は様々な印刷データを別の紙に切り貼りしたものをスキャンしてPDF化しています。サーマルプリンター用感熱紙(感熱紙は半年程度の間に少しずつ薄くなっていきます)は、気中パーティクルカウンターで広く使われてきたことから、こうした作業に繋がっています。実際、経時変化により印刷された文字が薄くなって何も書かれていないように見える印刷用紙が原書であることを証明するために、一般的には印刷された用紙の端にオペレーターにエビデンスとしてサインすることをSOP(標準業務手順書)の中で義務付けています。

こうした原始的な習慣にも関わらず、コンプライアンスに敏感で、リスクを嫌うバイオ・医薬品業界では、このようなやり方を環境モニタリングに必要な作業として受け入れ続けています。そうした状況から、「Simply Paperless」の開発をする中で抜本的なゴールの一つは、すべての実用的な目的の為にPDFページを作成し、切り貼り作業で作られたPDFと同一のことができるようにすることでした。 ここで注目したいのは、FDAが確立された自動コンバージョン、又はエクスポート方式5を使って電子レコードを作成することを推奨しており、例として挙げられているPDFとXMLの何れも3400シリーズのポータブルパーティクルカウンターではサポートされているということです。6

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3400シリーズのパーティクルカウンターは、管理者が実際に切り貼り・スキャンしたマニュアル作業と同じ見た目に近い形のPDF化を可能にしており、ページ毎の印刷ができたり、新しいファイルを作らずにページ作成が可能だったりするなどの特長もあります。― すべてシンプルなルールが基準です。

サンプリングロケーション

3400シリーズのパーティクルカウンターをロケーション毎に移動して、事前に決められたサンプルレシピで測定することをよりシンプル化することはできませんでしたが、パーティクルカウンターにログオンし、「グループ」アイコンを押してレシピグループにアクセスすることで、オペレーターはその中から実行したいレシピグループを選択することが可能です。パーティクルカウンターは、そのグループにアサインされたロケーションリスト内の最初のロケーションが初期値になっています。オペレーターは、この最初のロケーションに移り、サンプリングを行い、測定終了を待ちます。一旦終了すると、オペレーターは「アドバンス」ボタン(下図、+マークボタン)を押すことで、パーティクルカウンターはワークフロー内の次のロケーション名を選択してサンプリングワークフローを実施します。

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レビュー及びコメント

バイオ・医薬品向け環境モニタリングの為にデザインされたSOPの多くは、現場オペレーターに印刷データへコメントを付けることを義務付けています。MET ONE 3400シリーズは、オペレーターがPDF版の印刷データ上にコメントを付けられるようにする機能を持たせることでこの規則に従っています。管理者はオペレーターがコメントを付けることを、その時適用されているSOPの規定毎に「オプション」または「必須」に設定可能です。オペレーターはSOPによって事前設定されたコメントリストから選択するか、ソフトキーパッドを使用してコメントを入力します。コメントはデータレコードと関連づけられており、PDF版で実際の印刷データにも表示されます。

データレポート

作成したそれぞれのPDF ファイルは、ワークフローの最後に保存用にエクスポートすることが可能です。そこには多くの便利な機能があり、中でも最もシンプルなのはUSBメモリを介しての保存です。ファイルのPDF化はあっという間ですので、ワークフローの最初にUSBメモリをMET ONE 3400シリーズに差し込んでおくのが一番簡単な方法です。ワークフローの最後に、作業者はUSBメモリを抜き取るだけでデータファイルの回収は完了します。しかしながら、バイオ・医薬品業界ではコンピュータシステムバリデーション(CSV)の観点からUSBメモリをNGとされるケースが多く、そのようなユーザー向けに、PDF化したデータファイルをFTPファイルで転送することも可能としています。

PDFとExcelファイルを使用してネットワーク上で測定データ移動を行うことは、ITに不慣れな方には面倒なことのように聞こえるかも知れませんが、MET ONE 3400シリーズの場合はシンプルにできています。FTP(ファイル転送プロトコル)は、70年代の初めに開発されましたが、今では広く使用され定着している成熟したテクノロジーです。ITのプロフェッショナルであれば誰でも、FTPがネットワーク間の安全なファイル転送の主流であることは知っており、事実、今日ではほとんどの企業がFTPを自分達のネットワークイントラとして活用しています。
MET ONEの”Simply Paperless”データ転送は、そうしたFTPとSecure Shell (SSH and SFTP) プロトコルがベースとなっており、SSL/TLS keyのやり取りやAESなどのような主要な暗号化技術やセキュリティツールのほとんどがサポートされています。特定のFTPサーバー設定に関しては、ここで述べる内容とは外れますが、FTPの機能性は多くのFTPサーバー上でテスト済です。一旦FTP接続が設定されると、それは完全にユーザーにとって透明性のあるものになり、日々セットアップする必要はありません。

Pharma Manufacturing Paperless Monitoring

一旦MET ONE 3400シリーズのデータファイルがFTPサーバーを介してネットワークロケーションに転送されると、データファイル(例えば印刷データがPDF版になったデータ)は独立した電子レコードとして扱われるか、もしくはExcelデータをLIMSにインストールするために更に解析されます。3400シリーズのパーティクルカウンター内で測定・保存されたデータファイルの解析は、一般に入手可能なパーシングツールを使用することで可能です。パーシング機能は、ほとんどの主要なLIMSでは一般的であり、実際に多くのバイオ・医薬品製造施設において日常的にPDFファイルからデータを抜き取るツールとして採用されています

特定のパーシング機能のセットアップは本稿のテーマと外れますが、MET ONE 3400シリーズのデータファイルは、LIMSで使用されている多くの一般的な解析ツールでテスト済です。

アーカイブされるロケーションレコードはさておき、環境モニタリングオペレーターは測定されたデータを長期トレンドモニタリングの為にExcelファイルに転送することができます。これは3400シリーズが持っているまた別の優れた特長です。印刷データのPDF版が作れることに加え、3400シリーズは同じデータをExcelファイルに保存することも可能です。この方法によって、マニュアルデータと転送エラーの可能性は(バーチャルに)取り除かれます。

MET ONE “Simply Paperless“によるワークフローとデータ管理ソリューションを展開することで、バイオ・医薬品メーカーは、環境モニタリング活動でかねてから習慣となっているマニュアル作業で生じる無駄や間違いを取り除くことにより、かなりの時間をセーブすることができています。

MET ONE “Simply Paperless”の採用は、ほとんどの会社や組織にとって簡単にできる変更です。環境モニタリング管理者がMET ONE 3400シリーズの中で直ぐに取り入れられるワークフローソリューションとは、既存のSOPへのインパクトが無い、又は最小限に抑えて展開可能ということ、そして作成されるPDFファイルがこれまで手作業で行ってきた切り貼りからPDF化の手順と同じような形で設定可能であるということです。

MET ONE “Simply Paperless”の採用は、既存の手作業で行うデータ保存と一緒に展開可能で、実際に採用者の多くはマニュアル作業を無くして、同等の作業がシンプルに実現できる“Simply Paperless”のみを採用し始めています。他にも、MET ONE “Simply Paperless”をLIMSで管理するのを機に採用している所もあります。

どの方法を選択するにせよ、これほど簡単で分かり易くバイオ・医薬の環境モニタリング現場に革新的な改善プロセスをもたらすものは滅多にありません。

参考文献

  1. Guidance for Industry. Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing ― Current Good Manufacturing Practice. Food and Drug Administration, 2004.
  2. Good Manufacturing Practice, Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products. Brussels, Commission Europeenne, 2009.
  3. Pharmaceutical Inspection Convention, Pharmaceutical Inspection Co-Operation Scheme, 2009
  4. Clean rooms and associated controlled environments (ISO 14644-1). Geneva, International
  5. Organization for Standardization, 2004.
  6. Title 21―Food and Drugs, Chapter I―Food and Drug Administration, Department of Health and Human Services, Sub-Chapter A, Part 11 ― Electronic Records.
  7. Guidance for Industry, Part 11, Electronic Records; Electronic Signatures ― Scope and Application, 2003

筆者紹介

Bob Latimer(ボブ・ラティマー)
Bob Latimerは、ベックマン・コールター社ライフサイエンス事業部において、気中パーティクルカウンター関連製品のマネージャーであり、主に医薬品、電子、産業用機器製造現場のようなコンタミネーション管理の必要な環境で使用される機器類にフォーカスを置いている。電気及び電子技術者である彼は、粒子計測技術において24年に渡る経験を持ち、後にイギリスのWarwick Business SchoolでMBAを取得している。数年間のアジア勤務を経た後、現在は南オレゴンのリサーチ施設に勤務している。

 

 

 

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