卓上型セルソーターCytoFLEX SRTによるナノスケール粒子のソーティング
ナノスケールに対応したフローサイトメトリーは、サブミクロン粒子の特性評価に使用される技術の1つです。サブミクロンの大きさの生物粒子でよく探索の対象となるものに、バクテリア、ウイルス、細胞外小胞、エクソソーム等があります。高いスループットとマルチパラメータの解析機能を備えたナノフローサイトメーターは、ますます広く利用されるようになっています。これまでに、ベックマン・コールターのフローサイトメーターCytoFLEXファミリーは、バイオレットレーザーの側方散乱光を利用して80 nmポリスチレンナノ粒子を検出できることが実証されています。CytoFLEXには、光学設計された部品、Wavelength Division Multiplexing(WDM)、アバランシェフォトダイオード、ダイオードレーザーが搭載されており、光散乱や蛍光の検出感度が向上していることが示されています1。光工学の進歩とEV解析におけるフローサイトメトリーの利用の増加に伴い、ナノスケール・フローサイトメトリー の標準化が試みられています。ハイスループットな単一粒子の特性評価を厳密かつ容易に行うことのできるフローサイトメーターは、細胞免疫学の進歩に大きく貢献してきたように、こととナノフローサイトメーターもEV研究にも適用することができるばずです。
ナノスケールのフローサイトメトリー解析については、標準化の試みが進んでいますが、ナノスケールでのソーティングはまだ一般的に使用されていない複雑な技術です。当社のセルソーターMoFlo Astriosでは、25~45%の範囲の効率でナノスケールの小胞を分取できることがすでに実証されています2。ですが、MoFlo Astriosはナノスケールのソーティングを設定・実行するための機能を多数備えているため、複雑です。
卓上型セルソーターCytoFLEX SRTとCytoFLEX S(どちらもAPD検出器、WDM、およびVSSC検出器1を搭載)は、互いに相補的な設計になっているため、性能特性は類似しています。つまり、ナノスケールの粒子の分取が可能と考えられます。さらに、ソーティングを実行するために必要な自動ソート設定と装置セットアップが簡便であることから、CytoFLEX SRTを使用することで、ナノスケールにおいても標準化された再現性のあるソーティングを行えます。
以下の実験では、ナノスケールのサンプルをソーティングするCytoFLEX SRTの能力について説明します。実験結果から、これまでの報告と比較して、CytoFLEX SRTではナノ粒子のソーティング効率が向上し、数種類のナノ粒子を分取できることがわかりました。
材料と方法
装置のセットアップ
ディリースタートアップとQCは、「卓上型セルソーターCytoFLEX SRT取扱説明書」の指示に従って実施しました。装置の電源を入れ、システム起動プログラムを実行し、ノズルを挿入します。起動完了後、CytoFLEX Daily QC fluorospheresをサンプルステーションに配置し、QCを実行します。QCに合格後に、Brittain et al. に記載されているように1、バイオレットレーザーを使用した側方散乱光(SSC)を検出するための装置設定を行います。フローサイトメーターCytoFLEX SとセルソーターCytoFLEX SRTの光学デッキは相補的な設計になっているため、この手順はどちらの装置でも同じです。この設定は非常に簡単で、405/10フィルタと450フィルタのWDM位置を入れ替えるだけです。この入れ替えによって、Pacific Blueチャネルが取り除かれ、Violet Side Scatter(VSSC)チャネルが作成されます。フィルタを再度入れ替えると、元の設定に戻すことができます。
NISTビーズ、蛍光ビーズ、VLP、細菌の調製
NISTビーズ(Polysiences, Inc., Warrington, PA)は全て、FCMPASS - Acquisition and gating of light scatter reference materials V.2.3 に記載されている方法で調製しました。それぞれのストック溶液のボトルを攪拌した後、500 µLのDPBSで1x107個/500 µLの濃度になるように希釈しました。次に、CytoFLEX SRTのVSSC構成を使用して、指定されたゲート内のビーズを合計10,000イベントを測定しました。
eGFPとtdTomatoタグ付きVirus-like particles(VLP)はRahm Gummuluru博士が作製されたものをご提供いただきました。簡単に説明すると、GAG増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)とtdTomato蛍光タンパク質融合タンパク質の両方、またはどちらか一方を発現するプラスミドHIV-1pGag-eGFPやpGag-tdTomatoの発現が、以前にも報告されています(Cat# ARP-11468 NIH HIV Reagent Program, Division of AID, NIH; contributed by Marilyn D. Resh and George Pavlakis)。HIV Gag-eGFP/tdTomato VLPは、リン酸カルシウムを介したHEK293T細胞のトランスフェクションによって生成されました。回収後、VLPを含む上清から細胞片を取り除き、0.45 μm フィルタでろ過し、20%スクロースクッションを用いて遠心法にて回収しました。VLPのp24 Gag含有量はELISAで測定しました。
別段の記載がない限りBacillus subtilis 株は、B. subtilis 168 trpC2(PB2)およびその誘導体の形質転換で構築しました。B. subtilis株は、2段階法により、5〜10 μ mLのプラスミドDNAまたは1〜2 μLのゲノムDNAで形質転換しました。Wizard Genomic DNA Purification Kit(Promega)をメーカーの指示通りに使用して、ゲノムDNAを調製しました。培養はLB(Lennox)で行いました。
ソーティング後の解析
顕微鏡画像はすべて、オリンパスBX62顕微鏡(オリンパス株式会社、東京都)で撮影しました。画像は、Andor SONAカメラでイマージョンオイルを使用し、40.0倍対物レンズで撮影しました。露光時間を100 msに設定し、FITCシングルチャネルとテキサスレッドシングルチャネルの両方を使用しました。
結果
このセクションでは、様々なサイズの物質(より小さく、より複雑なもの)のソーティングについて説明します。方法の詳細については、前のセクションを参照ください。ここで紹介する様々なソーティング実験は、卓上型セルソーターCytoFLEX SRTの汎用性を実証することを目的とするものです。
単一バクテリアのソーティング(>250 µm)
YFP標識した活性化B. subtilisサンプルをFITC(525/40)チャネルで解析しました。陽性菌をゲートし、単一のバクテリアをスライド上に分取し、蛍光顕微鏡で検証しました。この試験は、この装置で、の屈折率1.38というEVと同じような屈折率を持つ比較的小さな生物(全長2-6 µm、直径0.25-1.0 µm)を分取できることを検証するために行われました4。

Figure 1. B. subtilis のテストソート。 培養したバクテリアをソーティング領域で選別してデブリスとダブレットを除去し、最後にYFP陽性菌(VSSC Threshold 1650/Gain 300, FITC-750, SSC-100)をソーティングしました。ガラススライド上に分取した後、Olympus BX62顕微鏡で可視化しました。画像はAndor SONAカメラを使用し、40.0倍対物レンズで撮影しました。
100 nm YGビーズのソーティング
次に、100 nm YGポリスチレンビーズを150 nm非蛍光ビーズと混合しました。100 nmビーズをスライド上に5個、またはスライド上に1個分取しました。閾値は、2つのビーズポピュレーションを可視化し、電子ノイズイベントと流体ノイズイベントをカットできる低さに設定しました(VSSC Threshold 3000/Gain 300、FITC-400、SSC-500)。このテストソートは、非生物学的な標準物質を使用してナノ粒子を分取できるかどうかを判断するために行われました。

Figure 2. 100 nm YGビーズのソ―ティング。 VSSCパラメータの100 nm領域を用いて 100 nmのビーズを分離しました。ビーズをガラススライド上に分取した後、40倍の倍率(下)で撮像しました。各スポット5ビーズ(左)と、各スポット1ビーズ(右)のソーティングを行いました。各画像上の矢印は、100 nmビーズの位置を示しています。シース液の乾燥によって形成される塩結晶のため、顕微鏡画像のバックグラウンドレベルが高くなっています。
eGFPおよびtdTomatoを標識したVLPのソーティング
eGFPとtdTomatoでタグ付けされたVirus-like particles(VLP)粒子(100-120 nm, RI 1.3695 )は、既存のバイオロジカルコントロールよりも優れた効果をもたらします。どちらも明るいシグナルを放つ、特徴づけられたナノ粒子です。VSSCをトリガーとしてサンプルを解析した後、それぞれの蛍光タンパク質に最適な蛍光トリガーに切り替えました。VSSCの閾値は、FCM PASSのプロトコル6で説明されているように、最初にNISTビーズを使用して設定しました。100,000以上のイベントが収集されました。次に、収集チューブをAmiconフィルタで濃縮し、装置で再度解析しました。結果をFigure 3、4に示します。

Figure 3. GFP陽性およびGFP陰性VLPのソーティング。陽性収集チューブ <strong.(bottom>では、イベントの96%以上が、あらかじめ設定した陽性ゲート内でした(上部中央のパネル)。陰性収集チューブ (下部左のパネル)では、陽性ゲート内のイベントは1%未満でした。
これらの実験の目的は、異なるmiRNAの分子ビーコンを同時に検出することであるため、eGFPとtdTomato VLPサンプルを組み合わせて、SRTで異なる蛍光ポピュレーションを高純度で分離できるかどうかを検証しました。FITC陽性ゲートとPE陽性ゲートに選別した後、収集チューブを解析して純度を確認しました。純度は、tdTomato陽性ポピュレーションで97%、GFP陽性ポピュレーションで98%でした。結果をFigure 4に示します。

Figure 4. Sorting of tdTomatoおよびGFP VLPのソーティング。(A)ゲインおよび閾値:VSSC 200、SSC 400、GFP 700、tdTomato 500。閾値VSSC 4000。(B)ゲインおよび閾値:VSSC 200、SSC 400、GFP 700、tdTomato 500。閾値GFPH 1000およびtdTomato 1000。(C) Bに基づいて分類されたポピュレーション。閾値の調整でノイズの大部分を除去できるよう、サンプルバッファのみを流して装置のノイズを特定しました。
おわりに
ナノスケールの生物学的製剤の解析と特性評価には、複数の手法が用いられています。フローサイトメトリーによるナノスケールでの研究が進み、特定の粒子を単離する必要性が大きくなっていることから、EVの分取が可能かどうかを検討してきました。このアプリケーションノートでは、卓上型セルソーターCytoFLEX SRTを用いたナノ粒子の解析とソーティングについて報告しています。ここに示したデータを総合すると、卓上型セルソーターCytoFLEX SRTは、直径1ミクロン以下の粒子をよく分取できることが明確に示されています。バクテリア、VLP、ビーズのソーティングを目的とした実験では、精度の高い結果が得られました。我々は、他のフローサイトメトメーターを用いたナノ粒子の選別法として発表されている手法よりも、はるかにシンプルな装置で、ナノ粒子を高純度でソーティングできることを実証しました。
この実験の実施に当たって専門知識とサポートを提供してくださった、フローサイトメトリーのテクニカルディレクターで、細胞外小胞検出センターのプログラムディレクターであるJohn Tigges氏、ならびに、Beth Israel Deaconess Medical CenterのBrandy Pinckney氏に、感謝の意を表します。また、標識VLPをご提供いただいたRahm Gummuluru博士(NEIDL、BU)に感謝の意を表します。
参考文献
- Brittain, G. C. et al. A Novel Semiconductor-Based Flow Cytometer with Enhanced Light-Scatter Sensitivity for the Analysis of Biological Nanoparticles. Sci. Rep. 9, 16039 (2019).
- Morales-Kastresana, A. et al. High-fidelity detection and sorting of nanoscale vesicles in viral disease and cancer. J. Extracell. Vesicles 8, 1597603 (2019).
- Welsh, J. A. & Jones, J. C. Small particle fluorescence and light scatter calibration using FCMPASS software. Curr. Protoc. Cytom. 94, e79 (2020).
- Katz, A. et al. Changes in refractive index and size of Bacillus subtilis spores during activation, measured by light transmission. in (CLEO). Conference on Lasers and Electro-Optics, 2005. 1575- 1577 Vol. 3 (IEEE, 2005). doi:10.1109/CLEO.2005.202203.
- Geeurickx, E. et al. The generation and use of recombinant extracellular vesicles as biological reference material. Nat. Commun. 10, 3288 (2019).
- Welsh, J. A. et al. FCMPASS software aids extracellular vesicle light scatter standardization. Cytometry A 97, 569–581 (2020).