卓上型セルソーターCytoFLEX SRTを使用した 稀少なE-SLAM造血幹細胞のソーティングと その後の培養

目的

  • 成体マウス由来E-SLAM幹細胞の解析およびソーティング方法を解説します。
  • 稀少な細胞のソーティングで考慮すべき点を示します。

セルソーターを用いたアプリケーションは、幹細胞生物学分野で活発に行われており、その数はますます増加しています。幹細胞を用いた典型的なアプリケーションには、細胞培養クリーンアップ、クローニングやゲノミクスに使用するシングルセルの分取や、血液・骨髄・その他主要組織検体からの幹細胞単離などが挙げられます。

本アプリケーションノートでは、成体マウスの骨髄から長期造血幹細胞(LT-HSCs, long term hematopoietic stem)を単離する方法を示します。LT-HSCsは、自己複製と呼ばれるプロセスにより、血液系の全細胞およびHSC娘細胞を生成することができます。単離を行うには、まず、生きたシングルセルに、先行論文に記載された細胞表面マーカーストラテジー(CD150+CD48-EPCR+CD45+SCA1+)を使い、 シングルセル移植によって測定されるよう、機能的なHSCを60%以上含むリージョンを設定します。1,2)

ソーティング過程で細胞が受けるダメージが、細胞の生存率の低下や、in vitroでの細胞の膨張の原因となることが、研究者が懸念する点です。in vitroアッセイは、幹細胞の全ての機能のプルーフ リテンションとして使用することはできませんが、シングルセルから複数の種類の成熟細胞が生成されることを実証するのに使うことができます。さらに、in vitroアッセイは、稀少な幹細胞を、既定の細胞機能を定義することでシングルセルレベルの高い純度でソーティングする例を示すことができます。

幹細胞生物学以外の細胞生物学アプリケーションにおける研究でも、複雑な混合物から様々な実験エンドポイントに使用する稀少な細胞(<1%)を取り出す必要がよくあります。本アプリケーションノートでは、卓上型セルソーターCytoFLEX SRTが、稀少細胞の識別と高い純度での分取を行うことができ、稀少細胞のソーティングに有用であることを示しています。

SLAMマーカーと、より特異的なE-SLAMマーカーセットを用いれば、高濃縮された造血幹細胞(HSC)ポピュレー ションの単離が可能です1,2)。高濃度HSCという複雑なものの分取では、セルソーターのいくつかの機能特性が浮き彫りとなります。まず、細胞ポピュレーションを高純度で識別するには、ソーターの高い光感度に加え、検出器による光子のカウントが不正確なことが原因で起こるポピュレーションの広がりを抑える必要があります。これらの細胞は、元々の細胞懸濁液中に存在する数が非常に少ないため(約0.004%)、一つ一つの細胞が貴重であり、それゆえ、研究者がコロニーを培養しようとする全てのウェルに、細胞分裂が可能な細胞が分取されなければなりません3,4)

本アプリケーションノートに示すデータは、誰もが同じ実験を再現できるよう、そして稀少細胞のソーティングおよびソーティング後の培養のデータサンプルを提供することを意図しています。

 

実験の概要

細胞の単離と染色には、以下の文献で確立されている方法を用いました。

Prospective isolation and molecular characterization of hematopoietic stem cells with durable self-renewal potential.2

Combined Single-Cell Functional and Gene Expression Analysis Resolves Heterogeneity within Stem Cell Populations.1

要約すると、マウスを安楽死させ、両後ろ足の脛骨、大腿骨、胸骨を2%ウシ胎児血清(FCS, Sigma社またはSTEMCELL Technologies(SCT)社)を添加したPBS(Sigma社)中で粉砕し、骨髄細胞を単離し、40 μmのフィルタでろ過しました。塩化アンモニウム(NH4Cl, SCT社)で赤血球を溶血し、幹細胞および前駆細胞をEasySep Mouse Hematopoietic Progenitor Cell Enrichment Kit(SCT社)で濃縮しました。E-SLAM Sca-1+細胞を、先行論文(Kent et al., 2009)に記載の通り、CD45 BV421(Clone 30-F11, Biolegend(BL)社)、CD150 PE/ Cy7(Clone TC15-12F12.2, BL社)、CD48 APC(Clone HM48-1, BL社)、Sca-1 BV605(Clone D7, BL社)、 EPCR PE(Clone RMEPCR1560, SCT社)、7-Aminoactinomycin D(7AAD)(Life Technologies社)を使って染色し、卓上型セルソーターCytoFLEX SRTで単離しました。

セルのソーティングは、ベックマン・コールター社の推奨するセットアップ、精度管理、コンペンセーションに従い、丸底96ウェルプレートのウェルに細胞を一つずつソーティングしました。各ウェルにはあらかじめ100 ~ 200 μLの無血清培地(SFM: Iscove’s Modifi ed Dulbecco’s Mediumにウシ血清アルブミン10 mg/mL、インスリン10 μg/mL、トランスフェリン200 μg/mL、ペニシリン100 U/mL、ストレプトマイシン100 μg/mL[全てSCT社]、2-メルカプトエタノール 10 ~ 4 M [Sigma-Aldrich社]を添加したもの)を充填しました。ソーティング後に、各ウェルに生きた細胞一つだけが入っているかを顕微鏡下で確認しました。

図1. ソートセットアップ

 

結果

最初に顕微鏡による目視にて、全てのウェルに生存シングルセルが分取されたことが確認できました。続いて細胞を10日間培養した後、ウェルを顕微鏡観察し、分取した細胞が(先行文献3,4に記載されたのと同様に)コロニーを形成したことを確認しました。これは、高い増殖性と、未分化細胞の表現型マーカーの両方を保持する幹細胞を同定する一つの方法です。

ウェル内でのコロニー形成の例を図2に示します。

図2.

プレートの全てのウェルをチェックした結果、細胞を分取した96ウェルのうち92ウェルで様々なサイズのコロニーが形成されたことが確認されました。ソート後増殖の全体のプレート効率は95.8%でした。この細胞増殖の画像を図3に示します。

図3.

 

これらのデータから、卓上型セルソーターCytoFLEX SRTは複雑なサンプルから稀少細胞をソーティングすることが可能であることが裏付けられたと同時に、マルチカラー実験において優れた検出力およびソーティング能力を有することが示されました。さらに、稀少細胞をシングルセルで分取した後、培地で分裂が可能であったこと、高い細胞生存率、稀少な造血幹細胞のコロニーが作成されたことも示しています。

稀少細胞のソーティングを成功させるポイント

  • プレート内が細胞のみである場合、全ての細胞がうまく機能するわけではありません。調整培養液やフィーダー細胞の使用を検討します。
  • 稀少細胞のソーティングではソート時間は短いほどよいのですが、細胞のアボートにより、下流実験に十分な試料が得られない結果となる可能性があります。ソーティング前に濃縮する、あるいはイベントレートを下げると、アボート率を下げることができます。
  • コンペンセーション済みのマルチカラーサンプルに見られるポピュレーションの広がりは、色素を慎重に選択することで抑えることができます。本アプリケーションノートの著者は、複数のレーザーラインと蛍光発光に大きな相違があることを利用して、オーバーラップが最小となる色素を選択した点にご留意ください。

最後に、本実験へのご協力と、サンプルおよび試薬をご提供いただいたKaren Hogg博士(Bioscience Technology Facility at the University of York, York, England)並びに、David G. Kent博士(University of York)に御礼申し上げます。

 

参考文献

  • Wilson, N. K. et al. Combined Single-Cell Functional and Gene Expression Analysis Resolves Heterogeneity within Stem Cell Populations. Cell Stem Cell 16, 712–724 (2015).
  • Kent, D. G. et al. Prospective isolation and molecular characterization of hematopoietic stem cells with durable self-renewal potential. Blood 113, 6342–6350 (2009).
  • Kent, D. G. et al. Self-renewal of single mouse hematopoietic stem cells is reduced by JAK2V617F without compromising progenitor cell expansion. PLoS Biol. 11, e1001576 (2013).
  • Kent, D. G., Dykstra, B. J., Cheyne, J., Ma, E. & Eaves, C. J. Steel factor coordinately regulates the molecular signature and biologic function of hematopoietic stem cells. Blood 112, 560–567 (2008).

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