高精度の迅速診断に向けて - Navios EXによる造血器腫瘍細胞の10カラー解析の導入 -

Jan 2019

兵庫県立がんセンター
検査部 検査技師長 芳賀 由美 氏
血液・輸血部門 リーダー 米澤 賢二 氏

検査部 検査技師長 芳賀 由美 氏


兵庫県立がんセンター(兵庫県明石市: 400床)は「科学と信頼に基づいた最良のがん医療の推進」を基本理念に地域に密着した医療を提供している。血液・輸血検査室に所属する8名のうち6名の臨床検査技師は、輸血・骨髄移植関連検査を行いながら、骨髄・末梢血液像検査をはじめとする血液学的検査だけでなく、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫といった造血器腫瘍の検査や経過観察において必要とされる細胞表面マーカーを調べるフローサイトメトリー検査(FCM検査)を年間約1,000件(造血器腫瘍解析検体は約800件)実施している。2017年12月より血液・輸血検査室ではベックマン・コールター社製最新ハイエンドクリニカルフローサイトメーター Navios EXの最上位モデルとなる3レーザー10カラーモデルを導入することで10カラー解析を始めた。10カラー解析の導入について、検査部検査技師長の芳賀 由美 氏とFCM検査を担当している米澤 賢二 氏にお話を伺った。

 

フローサイトメトリー検査業務の改善にむけて

芳賀氏は「院内実施可能な検査は導入したいと考えています。」と検査を外注するよりも院内でのFCM検査実施に意欲をみせている。「外注検査に比べ、院内検査は検査所要時間が短く、検査結果を迅速に臨床に報告できることが大きな理由です。金曜日に入院した患者さんの検体が午後遅く提出されたとしても、院内検査であれば技師の頑張りによって、その日のうちに結果を報告することができます。すると、土曜日からの治療開始が可能となります。この対応ができることが患者さんにとって一番のメリットだと思います。」と話す。一方で年間約1,000件のFCM検査を実施している血液部門の超過勤務の改善に向けても10カラー導入に期待を寄せている。「今は、10カラー解析への過渡期のため、どれだけ業務の軽減につながったかは明らかではありません。超過勤務が一番多い血液部門ですが、10カラー解析に移行すると測定本数が格段に減少するため*1、今までよりもサンプル測定が早くなると思います。また、サンプル調製における省力化、技師間差をなくすという観点から、ドライコーティング試薬であるDuraClone*2を使用することも非常に新しい取り組みだと思っています。こういった取り組みが検査の質の向上や業務の軽減につながっていくと考えています。」

*1)  国内FCM検査は3カラー解析が主流であり、1サンプルから得られる細胞マーカーの情報は2種類程度である。多種のマーカーを解析したい場合では、多い場合は10種類以上のサンプルを検体から調製・測定し、得られた1連の結果をつなぎ合わせて目的細胞のマーカー発現パターンを解析する。一方で10カラー解析では同時に9種類以上の細胞マーカーを解析することができるため、調製・測定が必要なサンプル数も約1/4となるため、検査時間の短縮が見込まれる。

*2) DuraCloneはプレミックスされた抗体試薬が乾燥状態でサンプルチューブ底部にコーティングされているため、従来の液状抗体試薬で必要な試薬分注作業が不要となり、検体添加だけで抗体反応が開始できます。液状試薬と同等の性能を有しながら、室温での保管・長期安定性が確保されています。ご希望に沿ったカスタマイズをベックマン・コールターでは承っています。

 

フローサイトメトリー検査のスペシャリスト育成

芳賀氏は、欧米に比べてFCM検査のマルチカラー化が遅れている日本では3カラー解析が主流の中で「がんセンターでは治療後に再発につながる微少残存病変の検出等を行える10カラー解析は重要であり、これからは必須の検査になってくると思っています。」と話す。

「今でも病理診断科の先生方にはFCMの検査結果は常に注視しており、診断の参考にしていると言っていただいています。重要な検査のため責任は重大ですが、診断・治療につながっているということが現場の技師の励みにもなっています。」と続ける一方で、「FCM検査の解析技術を修得するには、相応の知識と実務経験が必要であるため、スペシャリストの育成にも注力する必要がある。」と話された。「スペシャリストの育成にはある程度の年月が必要ですが、兵庫県の場合、県立の9病院の中で異動があるため、なかなか育成が思うようにいかないことがあります。FCM検査を極めるため異動させないでいると本人のキャリアアップにならないため、管理職としては非常に悩ましいところです。一方で、やはり我々は検査を専門に行う技術職で、FCMを極めたスペシャリストの育成が望みであり、彼らが報告する検査結果が当院の目指す「科学と信頼に基づいた最良のがん医療の推進」に貢献できるものと考えています。幸い当院にはFCM検査のスペシャリストと呼んでも良い経験を積んだ技師がいて、県内外の病院から多くの研修や見学を受け入れています。また、研修会やセミナーで教育的な講演を行い、人材の育成に努めています。この様な優秀な技師においては、当院を含めた県立病院での活躍はもちろんではありますが、もっと広く活躍の場を広げ、日本のFCM検査を牽引し検査レベルの向上に貢献してもらいたいと思っています。」

 

10カラー解析を始めて

Scientist2 - Hematopoietic Tumor Cells
血液・輸血部門 リーダー 米澤 賢二 氏

米澤氏は、開口一番に10カラー解析を始めて医師から「FCM検査の概念が変わった。」と言われたと笑顔を見せた。そして、「医師も今までの解析結果と同じような結果だと思っていたようですが、それが階層ゲートで絞り込むことで多くの正常細胞の中に存在する微少な腫瘍細胞を検出できただけでなく、1 µL中に数個の細胞しか存在しない脳脊髄液検体100 µL中にも腫瘍細胞の存在を指摘でき、臨床医からものすごく好評です。」と続けた。さらに「従来法である3カラー解析と新しい10カラー解析を並行して行っていた期間に、検体量が少なくどちらかしか実施できない場合には、検査を依頼した医師は全員10カラー解析を希望しました。」と言い、10カラー解析を始めてから検査依頼数は急速に増加していることからも、「臨床医からの評価・期待が高まってきていることを感じられていて、我々もうれしいし、より気が引き締まります。」と話した。

 

10カラー解析における業務負荷について

10カラー解析を始めて検査依頼数が急速に伸びたことによる業務負荷がどれほどのことなのかを米澤氏に聞いたところ、「まだ始めたばかりなので、解析に手間取ることもあって、従来とそれほど変わってないかもしれません。サンプル調製はDuraCloneを使用し、測定サンプル本数は大幅に減ったので、それらは大きく改善したと思います。一方で、解析に時間が掛かるようになりました。蛍光補正のこともありますが、何より臨床医にわかりやすい報告をしたいので、階層ゲートを使用した際のコメントの入力や、報告書のレイアウトを変更するなど、色々な形式で報告するようになったからだと思います。でも、Bリンパ腫を解析した際にはすべてのプロット図をCD19 × 他マーカーで示すといった、今までにないレイアウトで報告したところ、外注検査の報告書の%棒グラフより好評でした。」と話し、「従来法に比べて測定までの時間が短縮でき、解析に時間を掛けられるようになったので、臨床医にわかりやすく良い報告ができるよう工夫する時間ができました。全行程に掛かっている時間は、今のところ従来法と同じくらいですが、臨床医からの評価は非常に高くなっていますので、業務効率は上がっていると思っています。解析にもっと慣れてくれば、解析時間が短縮されて更に効率が上がってくるのではないかと思っています。」と続けた。

10カラー解析における今後の課題

最後に10カラー解析における課題について米澤氏に聞いた。

「10カラー解析でなくてもマルチカラー化は進めた方が良いと個人的には思っています。報告ゲート位置を決めるのが難しいのではないかとご質問をいただいたことがありますが、実際には同時に多くの細胞マーカーの情報がわかるので、異常細胞を見つけるのは従来法より簡単になっています。ただ、蛍光補正の知識や症例の経験が必要だとも思います。多岐にわたる蛍光の漏れ込みがありますので、陽性に見える集団が実は他の色素の漏れ込みなのか、本当に陽性なのか判断しなければなりません。漏れ込みの場合は結果データに違和感があるのですが、それを感じることができる経験も重要なのかもしれません。良質な検査結果を安定的に提供するためには、人材育成が最も重要と考えており、部署の全員を同じレベルに到達させるにはまだまだ時間が必要だと思っています。私たちの部署では難しい症例はみんなで討論しながら解析していますが、判断が難しい症例では、やはり従来法や単染色およびFMO*3での再検が効果的です。」と話し、最後に「我々の取り組みが兵庫県だけでなく、日本のFCM検査の向上に少しでも貢献できればとてもうれしく思います。」と締めくくった。

*1)FMO (Fluorescence Minus One)はマルチカラー解析において他の色素からの漏れ込みによる偽陽性が疑われる場合に実施する蛍光の漏れ込みを確認方法の1つである。マルチカラー染色における蛍光標識抗体を1つ抜いたサンプルを調製・測定することで蛍光の漏れ込みを確認します。

 

Team  - Hematopoietic Tumor Cells

患者さんのために全員で明るく前向きに検査に取り組む
血液・輸血部門のみなさま
(写真中央がNavios EX 3レーザー 10カラーモデル)

 

 

施設紹介

Building - Hematopoietic Tumor Cells

兵庫県立がんセンター
所在地:兵庫県明石市北王子町13-70

 

 

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