分析用超遠心機を用いたタンパク質間相互作用の解析

By Dr. Elmar Spies, Beckman Coulter Life Sciences

はじめに

タンパク質間相互作用(PPI)によってタンパク質は集合体を形成し、生命維持に必要な機能を獲得します。PPIは同種のタンパク質同士が結合するホモ複合体と異種のタンパク質が結合するヘテロ複合体に分類でき、されにこれらが2量体や多量体を形成します[1]。また、PPIはタンパク質の調整作業中や保存中にアーティファクトとして生じる場合もあります。球状タンパク質においては、構造上、露出した表面または誘導された結合表面で相互査証反応が起こります。また、抗体による抗原ペプチドの認識のように、不連続または連続したエピトープのどちらかを介した相互作用もあります[2]。このように、PPIの強さや結合様式について理解しておくことは、タンパク質の機能を理解するうえで極めて重要です。したがって、タンパク質担体と複合体についてPPI解析を行い、これらの役割を理解することは、基礎研究だけでなく創薬研究においても注目されています。

超遠心分析法(AUC)は、溶液中で解析を行うため、タンパク質の結合挙動に影響を与えない可能性が高い、非常に優れた PPIの研究技術で、相互作用評価、化学量論など流体力学的な解析が可能です。搭載された2種類の光学系は広いサンプル濃度範囲で測定することができ、弱い吸収のタンパク質や粒子を解析することに適しています。沈降平衡法(SE)と沈降速度法(SV)はどちらも、PPIについての理解を深める有用な手法であり、互いに補完しています[4]

 

Figure 1
Figure 1: モノクローナル抗体(イムノグロブリンG, IgG2a, mAb)分子。現在、バイオ医薬品のほとんどがモノクローナル抗体医薬品。緑は軽鎖、青は重鎖を示す。

例1. HeV Vタンパク質と宿主細胞由来タンパク質間の相互作用がウイルスの病原性を促進

Atkinsonら[5]による研究で、ヘンドラウイルス(HeV)のVタンパク質と、ウイルス病原性に不可欠な核輸送タンパク質との相互作用について説明されています。ヘンドラウイルスは1本鎖マイナス鎖RNAウイルスファミリーに属し、ヒトに致死性の疾患を引き起こし、現在有効なワクチンはありません。HeVは宿主細胞の細胞質内で完全な複製をしますが、一部のタンパク質は核膜を介して核内に輸送されます。40 kDaを超えるタンパク質が膜を通過するためには、核膜孔複合体を介して核膜を通過する必要があります。

核輸送経路の一つはインポーチンスーパーファミリーによって制御されています。Atkinsonらは、Vタンパク質の核の両方向(核→細胞質、細胞質→核)の輸送メカニズムについて解析し、Vタンパク質の両方向の輸送はインポーチンα2/β1およびエクスポーチン1/Ran-GTPによって媒介されること、さらにVタンパク質が核輸送されるときにこれら両方のタンパク質複合体と結合することを、沈降速度法を用いて証明しました。Vタンパク質の沈降係数は2.5S、インポーチンα2/β1の沈降係数は6.4S、エクスポーチン1/Ran-GTPの沈降係数は5.1Sです。核内へのインポートまたはエクスポートタンパク質を等モル濃度で V タンパク質をインキュベートし、沈降速度法で解析をすると沈降係数が大きくなることから、V タンパク質がこれらの核内輸送蛋白質複合体に直接結合していたことがわかります。この解析から、ウイルスタンパク質とインポーチンα2/β1 との相互作用を阻害可能な低分子阻害剤の開発につなげることができ、HeV 感染に対する新たな治療法を提供できる可能性があります。

 

Figure 2
Figure 2: Atkinson SC et al. (2018) Scientific Reports 8, 358

例2. 三量体FtsQBLが細菌のディビソームの形成を制御

Glasら[6]は、細胞収縮、隔壁形成、細胞分離という、明確な一連の過程である細菌の細胞分裂時の複合体形成について見識を示しています。グラム陰性菌である大腸菌のディビソームは、最大10の必須タンパク質と15前後のアクセサリタンパク質から成る高分子複合体です。このディビソーム形成にFtsQBL複合体が重要な役割を果たしますが、その中心となるのがFtsQタンパク質であると考えられています。FtsQタンパク質は、細菌の細胞分裂の阻止を目的とするPPI阻害剤の有力な標的ですが、FtsQBL複合体が膜結合型の複合体であるため、これらの解析は複雑です。Glasらは、FtsQ、FtsB、Ftsの3つのタンパク質のペリプラズムドメインを使い、複合体形成メカニズムを沈降速度法で解析しました。

Figure 3

Glasらの研究から、FtsQBL複合体は、化学量論的にFtsQ:FtsB:FtsLが1:1:1のモル比で結合した3量体で、その沈降係数は1.9 S(分子量51 kDa)でした。さらにこの3量体同士が2量体を形成し、その沈降係数3.4 S(分子量123.1 kDa)であったことが明らかになりました。一方、FtsQB複合体は沈降係数が2.3S(分子量65kDa)であったことから、ヘテロ2量体が形成されると考えられます。FtsQBL複合体の形成メカニズムが解明されると、細菌のディビソーム形成を抑制するための阻害剤の開発に役立ちます。

 

分析用超遠心機 Optima AUC

  • 標準物質を必要とせず、さらに支持体を用いない状態でタンパク質を解析できる唯一無二の技術
  • 溶媒の選択制限がほとんどなく、サンプルを溶液のままの状態で解析可能
  • 1回の解析により、分子の形状、粒径、分子量、化学量論、純度検定、不均一性評価、凝集体評価、タンパク質相互作用(解離会合)解析が可能
  • 光学系:
    • レイリー干渉計
    • 紫外可視吸光測定計
  • サンプル容量:
    2セクターセンターピースの最大量:450 μl
    2セクターセンターピースの最大量:120 μl
  • 測定波長域:190 – 800 nm
  • 分子量測定範囲:
    102 Da(ペプチド/オリゴ糖)- 108 Da(ウイルス/細胞器官)
  • サンプル濃度域:
    紫外可視吸光測定時:0.005 – 1-2 mg/ml(黄体形成ホルモン)
    干渉計測定時:0.025 - 4-5 mg/ml (ウシ血清アルブミン)

 

参考文献

  1. Principles of protein-protein interactions Jones S & Thornton JM (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 13-20
  2. Small molecules, big targets: drug discovery faces the protein-protein interaction challenge. Scott DE et al. (2016) Nat Rev Drug Discov. 15, 533-550
  3. Analytical ultracentrifugation as a tool for studying protein interactions Harding SE et al. (2010) Biochem. Soc. Trans. 38, 901-907
  4. Analytical ultracentrifugation as a tool for studying protein interactions Schuck P (2013) Biophys Rev 5, 159-171
  5. Recognition by host nuclear transport proteins drives disorder-to-order transition in Hendra virus
  6. The Soluble Periplasmic Domains of Escherichia coli Cell Division Proteins FtsQ/FtsB/FtsL Form a Trimeric Complex Glas M et al. (2015) J Biol Chem 290(35), 21498–21509

 

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