ヒト血清アルブミン-ポルフィリン複合体の多波長超遠心分析

Content Type: Application Note
Courtney N. Johnson | UTHSCSA, Dept. of Biochemistry and Structural Biology, San Antonio, Texas
Heidi Ramsower | UTSA, Dept. of Physics and Astronomy, San Antonio, Texas
Julio Urquidi | UTSA, Dept. of Physics and Astronomy, San Antonio, Texas
Lorenzo Brancaleon | UTSA, Dept. of Physics and Astronomy, San Antonio, Texas
Borries Demeler | UTHSCSA, Dept. of Biochemistry and Structural Biology, San Antonio, Texas

Abstract

超遠心分析(Analytical Ultracentrifugation, AUC)生理学的な溶液の条件下でコロイド系の物理化学的な性状を決定するための方法です。ベックマン・コールターは、Optima AUCに、新たな機能として多波長検出系( Multi-Wavelength, MWL) を導入しました。この多波長超遠心分析(MWL-AUC)によって、コロイド溶液中に存在する相互作用する物質と相互作用しない物質を遠心により流体力学的に分離しつつ、それぞれの物質に対する特徴的な吸収スペクトルを分光学的にデコンボリューション※1でき、それぞれの物質に対する物理化学的な性状解析ができます。

今回の実験では、異なる陽イオン(金属イオン)とポルフィリン(PPIX)との複合体※2と相互作用するタンパク質試料として、ヒト血清アルブミン(HSA)を用いました。このHSAは金属イオンおよび有機金属化合物が直接結合するいくつかのドメインを持ちます。このためHSAは金属結合タンパク質として生体内での生理学的な役割に大きな関心が持たれただけでなく、合成生物学分野
における金属運搬媒体としての用途にも関心を持たれています(例えば、人工血液や太陽エネルギー変換器など)。

このアプリケーションノートでは、HSA- 金属ポルフィリン複合体(HSA-PPIX)と金属イオンの除去されたHSA(アポ-HSA)が混在するコロイド溶液をサンプルとして使用し、MWL-AUCがどのようにこれらの物質を分光学的に見分けることができ、またこれらの物質の流体力学的な形状および大きさの、ごくわずかな変化のシグナルも分離して捉えることができるかについてご紹介します。

※1 デコンボリューション:モノクロメータのスリット関数等の装置関数によって劣化を受けて観測されたスペクトルから、真のスペクトルを回復する手法
※2 異なる陽イオン(金属イオン)とポルフィリン(PPIX)との複合体は、ソーレー帯(Sorét バンド)領域という特徴的な吸収スペクトルを持ちます。MWL-AUCは、このソーレー帯領域を指標としてコロイド溶液中に存在する複合体から発せられるそれぞれのスペクトルを分光学的に検出します

方法

HSA-PPIX溶液の調整

ヒト血清アルブミン(HSA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)はSigma-Aldrich(St. Louis、MO)から購入しました。Tin-chloride Protoporphyrin IX (Sn(IV)PPIX)は、Frontier Scientifi c Inc.(Logan、UT)から購入しました。固体のSn(IV)PPIXをDMSOに溶解後、これを希釈して1%未満のSn(IV)PPIXを含有する溶液ストックを調整しました。この溶液ストックにHSAを溶解後、
透析し、さらに遠心分離をすることにより、凝集体を含まないHSA-PPIX溶液を調整しました。1

UV分光法

アポ-HSAおよびHSA-PPIXの紫外可視吸収スペクトルは、卓上分光光度計で測定しました。なお、ポルフィリンの吸収極大は370~420 nmのソーレー帯となります。また、HSAの吸収極大は278 nm近傍となります(図1 参照)1。これらの測定数値をもとに、各試料中のHSAおよびポルフィリンの濃度を決定しました。

Figure 1. Absorbance spectra of Human Serum (HSA), HSA+PPIX-Sn and HSA+PPIX-Zn Figure 2. Plot of measured wavelengths (green circles). Wavelengths were chosen to emphasize regions of the spectrum where the absorbance has the greatest degree of change.
図1. アポ-HSA、HSA-PPIX-SnおよびHSA-PPIX-Znの吸
光度スペクトル
図2. 測定波長プロット(緑色ドット)
測定波長は、吸光度が極大値を示す吸収スペクトルが強
調できるような値を選択しました。

超遠心分析

沈降速度法は45,000 rpmおよび20 ℃の条件で実施した。エポン製ダブルセクターセンターピースおよび石英製ウインドウを備えたセルアッセンブリにサンプルおよび参照溶液(10 mM NaPO 4 緩衝液)を充てんしました。超遠心分析機は吸光度系及びレイリー干渉光学系の両方光学系を装備したMWL-AUCを用い、intensityモード※3 で42波長の測定を行いました。測定波長については、線形補間された吸収スペクトルと実際に測定された吸収スペクトルの間でカイ2 乗平均誤差(RMSD)が最小となるポジションで設定しました。この手法によって、吸光度が急激に変化する吸収スペクトル領域を強調して検出することができます。またスキャンデータの取得は10.5時間にわたって行い、各測定波長について45回のスキャンデータを取得しました。

※3 解析ソフトウエアUltraScan-III で多波長超遠心分析を行う際、MWL-AUCの実験データを転送する際に使用するモード

MWL-AUCデータ解析

42 測定波長で取得したすべてのデータは、UltraScan-III バージョン2352を用いて解析をしました2。沈降速度法データは、各波長でのメニスカス、データ範囲およびプラトーの位置を定義するデータの前処理を行いました。まず2 次元スペクトル解析(2DSA)3 と時間および回転半径に依存しないノイズの同時低減処理を行い、次にメニスカスのフィッティングを行いました。この2DSA解析ステップは、最適解が得られるまで繰り返し実行されます。さらに、測定波長ごとに得られた2DSA解析データを利用して、時間軸で同期化される有限要素モデル(time-synchronized fi nite model)でのコンピュータによる演算をすることで、多波長分析シミュレーションを得ることができます(図3、図4参照)。
得られたシミュレーションをもとにして、スペクトルベクトルをデコンポーズすることで、各スペクトルの成分に対する新しいデータセットが作成されます。(式1を参照)4

Equation 1. Non-negative least squares of the multi-wavelength dataset by decomposing wavelength profiles into 2 basis vectors representing the intrinsic absorbance spectra of HSA and HSA-PPIX-Sn
式1. 多波長データセットの非負拘束最小二乗法の式を示します。
この式では、アポ-HSAおよびHSA-PPIX-Snの固有の吸光度スペクトルで表される2つの基本スペクトルベクトルをデコンポーズし計算がされることを示しています。

この手法によってスペクトル固有の成分ごとの遠心回転半径の位置並びに走査時間における濃度スケールを描くことができ、固有のスペクトル種ごとの流体力学的な実験データを得ることができます。
今回の実験では、アポ-HSAおよびHSA-PPIX-Snの吸光度スペクトルを用い、得られたシグナルをスペクトル的に異なる2つの流体力学的なデータセットに分けました。これらのデータセットを2DSA分析5 もしくはパラメトリック拘束スペクトル分析(PCSA)6 のいずれかを組み合わせたモンテカルロ解析により解析を行いました。
図5に示すように、波長の関数として得られた流体力学的な実験データをプロットすることにより、各種のスペクトル7 特性を明らかにすることができます。

Figure 3. 25th scan of time synchronized finite element model Figure 4. 50th scan of time synchronized finite element model
図3. 25回目のスキャンデータのtime-synchronized fi nite model 図4. 50回目のスキャンデータのtime-synchronized fi nite model

 

Figure 5. Hydrodynamic properties as a function of wavelength depicting spectral properties
図5. スペクトル特性を示す波長の関数として得られる流体力学的な特性

結果

この研究の目的は、MWL-AUC8 による解析によって精製したHSA-PPIX複合体がアポ-HSAと確実に区別できるかどうかを確認することです。この目的を達成するために、精製したHSA-PPIX-Sn複合体とアポ-HSAを混合したコロイド溶液を準備し解析をしました。
2DSA解析等によって分離した流体力学的データセットをもとにモンテカルロ解析を用いて解析した結果を図6に示します。

 

Figure 6. A single wavelength (278 nm) experiment (left) shows two peaks but the species represented by those peaks is unable to be discerned. The multiwavelength experiment (right) allows us to baseline separate each component. This allows us to discern which peak represents apo-HSA (red) and which peak represents the HSA-PPIX-Sn complex (blue).
図6. 単一波長(278 nm)での解析結果(左)では2つのピークが見られますが、それらのピークによって表される種(HSA-PPIX-Sn複合体かアポ-HSAか)を識別することはできません。一方、多波長分析での解析結果(右)では、各成分をベースラインで分離することができるため、どのピークがアポ-HSA(赤色)を表し、どのピークがHSA-PPIX-Sn複合体(青色)を表すかを識別することが可能です。

 

これらの結果によって、得られたシグナルをさらに2つの異なる流体力学的データセットに分離することで、溶液中の固有のスペクトル成分について濃度並びに流体力学的なパラメータを決定できることを示しています。またHSA-PPIX-Sn複合体の沈降係数がアポ-HSAよりもわずかに大きいことも示しています。
HSA-PPIX複合体およびアポ-HSAの吸光度スペクトルの差を比較することで、流体力学的データを2 種のそれぞれのピークのデータセットに分離することができます。図6に見られるように、単一波長(278 nm、アポ-HSAの吸高度のピークのときの値)において2 種類のピークが見られるとき、どちらのピーク種がアポ-HSAおよびHSA-PPIX-Snを含むピーク種を表しているか不明確ですが、2 種のそれぞれのピークのデータセットに分離する方法により、個々の種のピークをスペクトル別に分けることができれば、たとえ流体力学的に非常に類似している場合であっても、ベースラインでの明確なピークの分離が可能となります。これにより、従来のAUC解析よりもはるかに高い分解能での解析結果を得ることができます。さらに、異なる吸光度スペクトルをもつ複数のピーク種をもつ物質が存在する混合溶液に対しても、物質が流体力学的に良好に分離できるのであれば、各種固有の吸光スペクトルとして各成分のピークを得ることが可能です(図5および図6参照)。しかしながら、混合溶液中に存在する2つのピーク種が流体力学的に非常に近似し、かつ単一のスペクトルしか持たない場合、これらの物質を識別することは困難です(図5)。
このAUCでの研究課題の改善ができれば、同じ光学特性しかもたない物質間の相互作用解析研究において大きなメリットをもたらすことでしょう。

References

  1. Hu J, Demeler B, Brancaleon L. Experimental and Computational Study of the Binding of Metalloporphyrins to the Metal Binding Sites of Human Serum Albumin (2017) Unpublished
  2. Demeler, B Methods for the Design and Analysis of Sedimentation Velocity and Sedimentation Equilibrium Experiments with Proteins. Cur. Protoc. Prot. Sci. (2010) Chapter 7:Unit 7.13.
  3. Brookes E, Cao W, Demeler B A two-dimensional spectrum analysis for sedimentation velocity experiments of mixtures with heterogeneity in molecular weight and shape. Eur Biophys J. (2010) 39(3):405-14.
  4. Gorbet GE, Pearson JZ, Demeler AK, Cölfen H, and B. Demeler. Next-Generation AUC: Analysis of Multiwavelength Analytical Ultracentrifugation Data Methods in Enzymology, Aug 2015. doi:10.1016/bs.mie.2015.04.013
  5. Demeler B and E. Brookes. Monte Carlo analysis of sedimentation experiments. Colloid Polym Sci (2008) 286(2) 129-137
  6. Gorbet G., T. Devlin, B. Hernandez Uribe, A. K. Demeler, Z. Lindsey, S. Ganji, S. Breton, L. Weise-Cross, E.M. Lafer, E.H. Brookes, B. Demeler. A parametrically constrained optimization method for fitting sedimentation velocity experiments. Biophys. J. (2014) Vol 106(8), pp1741-1750
  7. Karabudak E, Brookes E, Lesnyak V, Gaponik N, Eychmüller A, Walter J, Segets D, Peukert W, Wohlleben W, Demeler B, H Cölfen. Simultaneous Identification of Spectral Properties and Sizes of multiple Particles in Solution with sub-nm Size Resolution. Angewandte Chemie 2016 Sep 19;55(39):11770-4.
  8. Zhang J, Pearson JZ, Gorbet GE, Cölfen H, Germann MW, Brinton MA, Demeler B. Spectral and Hydrodynamic Analysis of West Nile Virus RNA-Protein Interactions by Multiwavelength Sedimentation Velocity in the Analytical Ultracentrifuge. Anal Chem. 2017 Jan 3;89(1):862-870.

 

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