Valita Titer 384ウェルプレートによるIgG定量スループットの向上

はじめに

ベックマン・コールター ライフサイエンスのValita Titerアッセイ は、蛍光偏光(FP)を検出に利用した、迅速でハイスループットなIgG定量法です。 このアッセイは、IgGのFc領域に特異的に結合する蛍光標識されたプローブ(ペプチド)と、IgGのFc領域との相互作用を利用しています。溶液中では一般的に小さな分子は大きな分子よりも速く回転するため、蛍光偏光を測定すれば、分子サイズの変化を効率的に分析することができます。分子が光子を吸収、放出するまでに起こる分子の回転が、偏光に「ねじれ」を生じさせます。IgGが結合していない蛍光標識されたIgG結合ペプチドは、IgGと結合した抗体結合ペプチド(IgGと結合すると最大で20倍大きくなる)よりも速く回転するため、光の偏光性が失われます。つまり、蛍光偏光(FP)は、溶液に平面偏光を照射して励起し、平行平面に放出された励起光(偏光が維持されている割合)の強度と、垂直平面に放出された励起光の強度(偏光が失われた割合)を計測し、この2つの強度を正規化した差分として表わしたもので、通常、ミリ偏光単位(mP)で表示されます。

valitacell light polarization

Figure 1 Valita Titerアッセイの測定原理。抗体に結合していない小さな分子は、溶液中で高速回転します
(上)が、抗体に結合した大きな分子は、ゆっくりと回転します(下)。

製品の特長

Valita Titer 384ウェルアッセイは、先端量子技術プラットフォームValita Titerシリーズの製品です。同シリーズの96ウェルアッセイと比較した場合、1プレート当たり最大で4倍のサンプル数を解析可能であり、使用サンプル量も33%削減できるため、IgG定量のスループットがさらに向上します。384ウェルフォーマットは、「添加-攪拌-測定の3ステップ」というアッセイの特長を維持しつつ、サンプルの調製や洗浄工程が不要で、一部あるいは完全自動化バイオプロセスワークフローに組み込むのに理想的です。アッセイは、蛍光偏光検出能を備えたマルチモードのマイクロプレートリーダーで検出できます。他のIgG定量法とは異なり、Valita Titer 384ウェルプレートは、15分以内に2.5~100 mg/LのIgG濃度を正確かつ均質に測定することができます。さらに測定可能な濃度レンジの広い(100~2000 mg/L) Valita Titer Plus 384ウェル (VAL014)もご用意しております。

材料と方法

  • Valita Titer 384ウェルプレート、製品番号:VAL013、検出レンジ: 2.5 - 100 mg/L
  • CD CHO培地 (GibcoTM、製品番号:10743)
  • BMG Labtech PHERAstar Multimodeプレートリーダー
  • ヒトIgG1 kappa
  • ThermoFisher フィンピペットF2 (製品番号:10413865, 1187735, 11887351, 4662060)
  • Starlab TipOneチップ (0.5- 200 μL 製品番号:S1111-1700) (1000 μL 製品番号:S1111-6811)

方法

アッセイプレートの測定に使用した装置の設定は、Table 1に示す通り、96ウェルプレートを使用した場合の設定と同じです(プレートの種類を除く)。

Table 1: BMG Labtech社製 Pherastarプレートリーダーの設定

プレートの種類 Corning/Costar 384ウェル 黒 平底 #3573
光学設定 蛍光偏光、エンドポイント
光学モジュールFP 485 520 520
蛍光ウェルから焦点とゲインを最適化(0 mg/L)
ゲインの目標mP:70 mP
一般設定 各ウェル200フラッシュ
設定時間0.5秒

アッセイ手順

  1. 細胞培養用培地40 μLを各ウェルに添加し、Fc領域に特異的に結合するプローブを溶解します(Valita Titerアッセイプレートの表面に、乾燥した状態でコートされています)。
  2. 384ウェルプレートの適切なウェルに、標準液/サンプル40 μLを添加します。
  3. マルチチャネルピペットを用いて各ウェルを3度攪拌した後、暗所で5分間インキュベーションします。
  4. インキュベーション終了後、プレートをFPモードで測定します。

Assay Schematic of ValitaTiter assay for IgG quantification using fluorescence polarization

1.Valita TiterプレートはIgGに   
特異的に結合するペプチドが   
コーティングされています。   
2. テストサンプル中のIgGは   
結合したペプチドと複合体を   
形成します。    
3. IgG濃度はプレートリーダーの   
FPモードで計測します。

Figure 2 蛍光偏光をIgG定量に用いるValita Titerアッセイの概要

1. プレートの各ウェルにはあらかじめIgGのFc領域に特異的に結合するペプチドがコーティングされています。
2.IgGサンプルがプローブに結合します。
3. 結合は蛍光偏光モードで測定します。

結果

Valita Titer 384ウェルアッセイで細胞培養用培地中のIgG濃度を正確に検出可能か評価しました。この評価法は相対定量化法であるため、より正確な結果を得るには、標準として使用する分子がテストサンプルと均質であることが重要です。この例では、ヒトIgG1 kappaのテストサンプルの定量には、ヒトIgG1 kappaを用いて作成した検量線を使用しました。それぞれの抗体分子に対し、8点のIgG1 kappa検量線(0-100 mg/ L)を3度繰り返して作製し、Valita Titer 384ウェルプレートで分析しました。検量線を作成すると同時に、既知濃度の試験サンプルを検量線を用いて算出し、測定バイアスの評価を行いました。

ValitaTiter standard curve

Figure 3 Cubic fit (3次多項式曲線)を用いてプロットしたValita Titer検量線 (R2= 1)

検量線サンプルには、3次多項式フィッティングが最適の近似であることを確認しました。下記散布図で、IgG濃度[mg/L]は縦軸、Raw FPは横軸にプロットしました[Figure 3]。線形の方程式を使って、Raw蛍光偏光値アウトプットをxに代入してyを求め、IgGテストサンプル濃度を算出しました。このアッセイで、既知濃度のテストサンプルの測定結果は絶対濃度からの精度バイアスが10%以下でした。また、2サンプル間の標準偏差2mp以下、プレート内変動係数[CV]2%以下と、優れた再現性も実証されました[Table 2]。Figure 4から、Valita Titer 384ウェルアッセイによって生成されたIgGテストサンプルの濃度が、絶対値とR2 < 0.99という高い相関性があることがわかります。

Table 2: Valita Titer384ウェルプレートを用いた濃度既知のIgGテストサンプルの定量で得られたデータのサマリ

サンプル中IgGの既知濃度(mg/L) 測定された濃度rep1 (mg/L) 測定された濃度rep2 (mg/L) 測定された濃度rep3 (mg/L) 平均(mg/L) 標準偏差(mP)  精度バイアス(%) 変動係数(%)
90 90.4  89.8 89.2 89.4 0.71  -1 0.456
80 79.9 78.5 80.6 79.7 0.85 1 0.578
70 75.2 70.8 71.6 72.8 1.63 4 1.152
60 56.3 57.2 57.4 56.8 0.95 05 0.749
50 51.1 53.5 50.5 51.7 1.51 3 1.232
45 42.1 41.9 42.1 41.9 0.69 -7 0.615
40 40.8 42.1 39.9 40.9 1.14 2 1.023
25 24.3 24.9 24.1 24.0 0.78 -4 0.835
20 19.1 18.4 18.3 18.1 0.74 -9 0.838

ValitaTiter assay predicted IgG concentrations

Figure 4 Valita Titerアッセイで、イヌポリクローナルIgGの抗体濃度の実測値に近似のIgG濃度が得られました(R2 = 0.9997)

結論

本アプリケーションノートに示したデータから、Valita Titer 384ウェルアッセイは、Valita Titer 96ウェルアッセイの優れた特長を全て備えており、溶液中のIgGサンプルおよび標準液を、短時間でロバストかつ正確に測定することが可能であることが実証されました。このアッセイはハイスループットで、開発の様々な段階で、クルード・精製どちらのIgGサンプルでも、直接、迅速かつ正確に定量することができます。 バイオプロセス分野で自動液体分注システムの利用が拡大する中、高いスループットが求められる場合に自動液体分注システムへ組み込むことで生産性を最大まで高めることが可能なValita Titer 384ウェルは、非常に重要なツールとなります。


略語

FP: 蛍光偏光

mP: ミリ偏光単位

IgG: 免疫グロブリンG

著者

Dr. Anna Boland-ValitaCell Ltd.製品開発サイエンティスト。トリニティ・カレッジ・ダブリンにて分子薬学修了。クイーンズ大学ベルファストにて薬学のphDを取得。

Dr. Hannah Byrne-ValitaCell Ltd.バイオロジカルサイエンス部門長。ダブリンシティ大学にて分析科学修了、生物化学のphDを取得。

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