密度勾配超遠心法による簡便な細胞小器官の分画

Augest 2015

福山大学薬学部
免疫生物学
教授 赤﨑 健司 先生

近年、細胞内のタンパク質の局在は、目的タンパク質を蛍光標識し共焦点顕微鏡で観察像を得ることで調べられています。この方法は簡便でありますが、細胞内局在のマーカーと重なるか否かでの判断しかなく、裏付けのデータを得ることが求められることがあります。

従来、タンパク質の細胞内局在は、細胞を破砕後に、遠心機を用いた細胞分画法によって研究されていました。その後、ショ糖密度勾配遠心法によって、細胞小器官をより細かく分離することができるようになりました。ショ糖密度勾配遠心法を行うためには超遠心機が必要です。目的タンパク質が酵素の場合はその活性を、受容体の場合はリガンド結合を測定することで、さらに特異的抗体が入手可能な場合はウェスタンブロッティング法などにより、その局在を確認するのがショ糖密度勾配遠心法です。

しかし、この方法はショ糖密度勾配を作る段階の煩雑さから、年々と研究者が避ける傾向にあります。現在では、超遠心機の性能が向上したので、より簡便に安全に使えるようになっています。さらに密度勾配用媒体として、ショ糖の代わりにPercoll(GE Healthcare)を用いることで予め密度勾配層を作ることなく細胞分画を行うことができます。このため、密度勾配遠心法はイメージされているより簡便な方法になっています。

そこで、今回は、福山大学薬学部免疫生物学教授 赤﨑健司先生にPercollを用いた細胞分画法につきまして寄稿していただきました。

 

赤﨑教授と超遠心機 Optima L-100 XP

赤﨑教授と超遠心機 Optima L-100 XP


 

Percollを用いた細胞分画法

私たちの研究室では、細胞小器官であるリソソームの膜を構成する糖タンパク質(LAMP)に関する研究を行っております。培養細胞に目的タンパク質のcDNAをトランスフェクションし、発現させて、そのタンパク質がリソソームへ移行しているかどうかを密度勾配超遠心法により細胞小器官を分画して、調べています。私たちの研究室では、密度勾配用媒体であるPercollを用いることで簡便に細胞小器官を分画しており、その方法をご紹介いたします。

細胞小器官を超遠心機で採るやり方は、本当に簡単なんです。

細胞小器官の分画は、密度勾配遠心法により行います。通常は、密度の異なったショ糖溶液を積んでおいて、その上にサンプルを乗せ、スウィングロータで遠心します。すると、上昇力と下降力の釣り合うところでゴルジ体など各小器官の層ができてきます。しかし、この方法では、密度勾配層を作成する煩わしさがありました。

Percoll は、シリカコロイドで、遠心力をかけることで自動的に密度勾配を形成します。これはセルフグラジエント・オートフォーションと呼ばれています。このため、サンプルとPercoll を混和し遠心するだけで、自動的に密度勾配をつくりながら、その密度にちょうど合うところにサンプルが集まります。しかも、この遠心分離では固定角ロータを使うため、沈降距離が短く短時間で分離が終了します。本当に簡単に分画することができます。

プロトコールを Fig.1に示しました。本プロトコールは、リソソームに最適化してありますが、 Percollの濃度と遠心力を調整することで、その他の細胞小器官の分画に応用することができます。

 

Percollを用いた細胞分画法のプロトコール

Fig.1 Percollを用いた細胞分画法のプロトコール

参考文献
Tabuchi N et al., Ile (476), a constituent of di-leucine-based motif of a major lysosomal membrane protein, LGP85/LIMP II, is important for its proper distribution in late endosomes and lysosomes. Biochem Biophys Res Commun. 2002;295(1):149-156.

 

培養細胞ですと、少ししかタンパク質が取れませんので、どこに何が存在するか解りません。このため、マーカーエンザイムを測るようにしています。私たちの研究室ではリソソームをターゲットとしているので、マーカー酵素として、β- グルクロニダーゼという酵素を測定しています。その分布から実験の成否を判断しています。β-グルクロニダーゼが一番重い画分に70%程度あれば成功と判断して、次のステップに進むようにしています。

セルフグラジエント・オートフォーションの再現性はとても良いですが、細胞を壊す際に細胞小器官を傷ついてしまうことがあります。その場合、本来持っている密度ではないところにその細胞小器官が移動してしまうことがあります。このため、マーカー酵素を必ず測定します。

Fig.2には細胞分画の結果の一例を示しました。△がβ-グルクロニダーゼ活性で、一番密度の大きい17と18フラクションの活性が高いことがわかります。このことから、リソソームの分画がうまくいっていることがわかります。●は発現させたリソソーム膜糖タンパク質LAMP-1の濃度を示しています。LAMP-1の15%程度がリソソーム画分(#16-18)に存在していることがわかります。

 

Percollを用いた細胞分画例

Fig.2 Percollを用いた細胞分画例

参考文献
Akasaki K et al., COOH-terminal isoleucine of lysosome-associated membrane protein-1 is optimal for its efficient targeting to dense secondary lysosomes. J. Biochem. 2010;148(6):669–679

 

 

 

超遠心機での細胞分画による結果と共焦点顕微鏡の結果を併せることでより正確なエビデンスが得られます。

最近では、このような研究は共焦点顕微鏡の実験のみで行うケースが多いようですが、細胞分画をしてタンパク量を定量したデータと併せることで、より正確なエビデンスが得られると考えております。

細胞小器官の分画は、細胞を壊す道具と超遠心機があれば簡単にできますので、チャレンジしてみてください。

 

 

Team - Organelles Simple Fractionation
福山大学薬学部免疫生物学研究室の皆様

Percoll は GE Healthcareの登録商標です。

 

 

 

 

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