バイオ医薬品の品質管理を目的として細胞カウントを自動化する際の注意点

概要

細胞を治療用医薬品の製造に使用する場合、または薬効・薬理試験に使用する場合、細胞の生存率および濃度を正確かつ優れた再現性で測定することが極めて重要です。自動セルカウンターは、使用するテクノロジーと個々の設定に従い細胞をカウントします。したがって、別の異なる自動システムと比較した場合と、血球計算盤を用いた一般的なマニュアル計数と比較したときの両方で、結果が異なる可能性があります。例えば、一部の人は、細胞濃度を算出する際に、細胞が一定の直径より大きい場合にのみ「生細胞」としてカウントし、それよりも小さい全ての細胞は、生細胞の別の特性から生きていることが示されていても無視する場合があります。本稿の後半で、最小径のみで生細胞を特定する手法によって報告される細胞濃度に約33%のばらつきが生じる事例を紹介します。本稿では、測定者が新しい自動セルカウンターを採用する際の注意点を紹介します。

 

はじめに

治療用タンパク質を生産する際は、最大収量を確保し、また、プログラム細胞死(アポトーシス)を引き起こす過密状態を避けるためにバイオリアクター内で細胞濃度を正確に保つことが極めて重要です。薬効・薬理試験を行う際は、試験サンプル間の細胞の生存率および濃度のばらつきが薬効試験の結果に影響を及ぼさないようにするために、全てのサンプルの細胞濃度を一定に保つことが極めて重要です。どちらの場合でも、細胞を検出・評価するための「正しい」方法はなく、測定者が使用している細胞カウント法に基づいて、それぞれのプロセスを最適化しています。測定者によっては、細胞が一定の直径よりも大きい場合にのみ「生細胞」としてカウントし、その大きさよりも小さい全ての細胞は、生存しているように見えてもカウントしない場合があります。本稿の後半で、最小径のみで生細胞を特定する手法によって、報告される細胞濃度に約33%のばらつきが生じる事例を紹介します。また、1 つの細胞凝集塊を単一の細胞としてカウントする測定者もいれば、凝集塊中の個々の細胞のカウントを試みる測定者もいます。

自動セルカウンター に移行する場合、自動システムが生細胞と非生細胞および細胞片を識別する手法と、この手法がそれぞれのプロセスにどのような影響を及ぼすかについて検討することが重要です。

 

ばらつきを生み出す要素

細胞をカウントする際には、客観的にカウントがなされることが重要です。細胞を計数する多くの研究者、エンジニアは古くから使われている手法である色素排除法を用いて生細胞数をカウントしています。トリパンブルー色素排除法はそのうちの一つの方法です。おそらく最も一般的な手法は血球計算盤と顕微鏡を用いるマニュアル計数法です。血球計算盤を用いるマニュアル計数法では、ユーザー間の結果のばらつきが非常に大きくなる可能性があるため、自動化によるセルカウントが結果のばらつきを低くする一つの解決方法になり得ます。しかし、マニュアル計数法と自動セルカウンターの間で結果が異なる場合、自動セルカウンターによって細胞がどのように検出され、カウントされるかについて検討し、計数プロセスに対してどのような影響が生じるかについて理解することが重要です。

 

血球計算盤を用いる手動法におけるばらつきを生む潜在的要素

血球計算盤を用いる手動法(マニュアル計数)には計数までにいくつかの段階があります。それぞれの段階でばらつきが引き起こされる可能性があるため、自動化によるセルカウントに移行する場合はこれらの各段階を考慮する必要があります。

  1. 正確なピペット操作
  2. 懸濁回数
  3. 色素溶液の混合量
  4. 色素溶液との混合回数
  5. 細胞のサイズ
  6. 凝集塊の解離状態

Dye exclusion method from EP2.7.29 and USP <1046>

図1. 色素排除法による細胞染色の原理

 

正確なピペット操作は極めて重要です。血球計算盤のスライドの容量は通常ではnLスケールです。生細胞の1 mL当たりの濃度をレポートする場合には、nLの単位をmLの単位に変換するために、顕微鏡で観察された細胞数に計数として10,000 ~を乗じる必要があります(用いたスライドの種類やサンプル希釈に応じて計数値を乗じます)。このため、ピペット操作時の容量における小さな誤差や、スライドに注入された細胞における小さな誤差であっても、1 mL当たりの濃度を算出する際に大きく計数値が増減する可能性があります。

サンプル吸引後の、細胞の懸濁は、細胞凝集塊を分離するために効果的である場合があります。しかし、測定者間で熟練度が異なることが原因で、再懸濁と凝集塊の分離に差が生じる場合があります。また、一部の細胞は特に繊細で、実際には過剰な懸濁により生細胞の膜が破裂して色素が侵入し、生細胞が少なくカウントされることがあります。

細胞培養液に混合する不正確な色素溶液の添加は、最終的な細胞濃度の算出の正確性に影響を及ぼします。これは、色素溶液が事実上サンプルの希釈液の役割を果たすため、サンプルの不正確なピペット操作によって容量にばらつきが生じることと全く同じ原因になり得ます。

同様に、サンプルと色素溶液との混合回数のばらつきが、死細胞および死にゆく細胞への色素溶液の浸透に影響を及ぼす可能性があります。これは単純に、色素溶液が死細胞に浸透するのに時間がかかるため、色素溶液との混合回数にばらつきがあると、細胞が色素に曝露される時間の長さに違いが生じるためです。

生細胞の健康状態が薬理実験、または治療用タンパク質の収量に大きな影響を及ぼす場合、測定者の中には、一定のサイズより大きい場合にのみ、細胞を生細胞としてカウントする場合があります。このため、一般に色素排除だけが細胞生存率を定義する基準ではないことになります。

最後に、細胞凝集塊中の個々の細胞を全て検出してカウントしようと試みる測定者がいる一方で、細胞凝集塊をただ1つの細胞のようにカウントする測定者もいます。細胞をカウントする中で生じるこれらの小さなばらつきが、1 mL当たりの濃度を算出する際にnLからmLへの大きい増倍係数が用いられることで、それぞれの測定者による個々の計数が、大きな誤差として現れる可能性があります。この影響は、バイオリアクター内で1 mL当たりの細胞濃度が高くなる場合および細胞が凝集する傾向が高い場合に特に顕著になる傾向があります。

 

自動セルカウンターの性能

以上のように、血球計算盤を使用する手動法を用いる細胞カウント法における小さなばらつきが、結果として算出される1 mL当たりの生細胞の濃度結果に対し大きなばらつきを引き起こす可能性があります。このような理由から、細胞のカウントにかかわる多くの研究者、エンジニアが、より再現性の高い結果と、より適切に管理された薬理実験、または工業生産の収量を模索する中で、自動による細胞カウント法に切り替えることが多くあります。

しかし、自動セルカウンターは、血球計算盤と顕微鏡を用いるマニュアル計数法に配慮する必要があります。すなわち、自動セルカウンターには、測定者が血球計算盤と顕微鏡を用いるときと同じ手法で生細胞数を特定するように調整できる機能が備わっている必要があります。自動セルカウンターには細胞計測おける計数パラメータを設定し、各パラメータを調整することで、使用する細胞に合わせたカウント、生死判定が行えるような柔軟性が求められます。

下記の図2では、自動セルカウンターにより、画像および測定者が調整できる一連のパラメータを使用して、生細胞と生存していない細胞(死細胞)が判定されています。このセルカウンターでは、撮像した各画像をユーザーが確認することができます。この解析事例では、セルカウンターが、画像を50枚撮像して得られた結果の平均を算出するように設定されています。このセルカウンターでは、生細胞と判定された細胞が緑色の円で囲まれて測定者に示されます。死細胞は赤色の円で囲まれます。

Viable cells are circled in green and non-viable in red

図2. 生細胞は緑色、死細胞は赤色の円で囲まれる画像認識システム

 

図2はセルカウンターによって算出された、解析後の確認画像中の総細胞濃度(cells/mL)および生細胞数濃度(cells/mL)と、この解析によって撮影された全ての画像の平均値としての総細胞濃度(cells/mL)および生細胞濃度(cells/mL)の両方を見ることができます。

この自動セルカウンターは、以下に示す細胞の特性について広範囲に調整できます。

a) 細胞の最小径
b) 細胞の最大径
c) 細胞の輝度
d) 細胞シャープネス
e) 生細胞のスポット領域/サイズ
f) 細胞の真円度
g) 細胞のクラスター分離度

測定者は、a)とb)を設定することで、自動セルカウンターに、カウントする細胞のサイズ(最小径、最大径)を指定することができます。

下記の図3では、細胞の最小径の設定を6ミクロンに変更し、この自動セルカウンターの再解析機能を使って評価しました。

Minimum viable cell diameter set to 6 microns software screen

図3. 生細胞の最小径を6ミクロンに設定し再解析を実施した場合

 

図3は、最小径を6ミクロンに設定したことによって、この自動セルカウンターで、画像中の矢印(緑)で示した円で囲まれている直径が8.10ミクロンである細胞がカウントされていることを確認できます(図3:解析写真直下の青文字情報)。この設定によって、この自動セルカウンターで取得した50枚の画像を再解析することで、1 mL当たり平均10.73×106cells の生細胞(緑四角)が観察されました。

自動セルカウンターでより大きい細胞をカウントするように最小径を15ミクロンに設定し、記録画像の再解析を実施しました。その結果、この設定で新たに算出された1 mL当たりの細胞濃度が表示されました(下記の図4参照)。

Same images re-analysed with minimum viable cell diameter set to 15 microns software screen

図4. 生細胞の最小径を15ミクロンに設定して再解析した場合

 

図4と図3を比較すると、自動セルカウンターで、画像番号50(図4)の小さい細胞が生細胞として検出されていないことが分かります(矢印で示した緑色の円で囲まれていない細胞)。このように、解析する最小径の設定値を変えることで、画像中の生存細胞としてカウントされた細胞の総数が減少したため、図3で報告された平均生細胞濃度10.73×106cells/mLから図4で報告された平均生細胞濃度7.23×106 cells/mLに低下しました。その差は生細胞3.5×106cells/mLで、ほぼ33%減少しました。

自動セルカウンターによる設定で、細胞の最小径を小さく設定するか、あるいは大きく設定するかでカウントされる細胞数が変わり、結果として細胞濃度が変わります。目的とする細胞にとって適切な最小径を設定する必要があります。また、本稿では示しませんが、最大径に関しても、同じように細胞カウントにおいて配慮する必要があります。

設定c)、d)およびe)は、どのように生細胞を検出するかを自動セルカウンターに指示するために使用されます。例として、若干暗い細胞を生存しているとしてカウントするか否かなどが挙げられます。

設定f)の細胞の真円度は、自動セルカウンターで計数する細胞とは異なるデブリス、あるいは壊死細胞片との識別に使用されます。使用する細胞種の生細胞の形状が自然な状態で球状ではない場合には、この設定においては注意を要します。

最後に、設定g)を用いると、ユーザーが、自動セルカウンターに凝集塊、またはクラスター中の個々の細胞を分離してカウントするか、または凝集塊を単純に1つの細胞であるようにカウントするかを設定します。

下記の図5では、自動セルカウンターに凝集塊の一つ一つの細胞を個々の細胞としてカウントするように設定しています。この設定では、生細胞濃度が10.53×106 cells/mLと報告されました。

Counter set to count individual cells in clumps software screen

図5. 凝集塊の個々の細胞をカウントするようにセルカウンターを設定した場合

 

画像の左上の矢印で示した細胞の凝集塊において個々の細胞が緑色の円で囲まれ、全体の生細胞数に追加されていることが分かります。

生細胞の凝集塊を単一の細胞とみなしてカウントするように自動セルカウンターを設定し、このセルカウンターで取得した全ての画像に対して再解析するように指示した場合、算出される値は大きく異なります。下記の図6参照。

Counter set to count cells in clumps as one single cell software screen

図6. 凝集塊を単一の細胞としてカウントするようにセルカウンターを設定した場合

 

細胞数がサンプル中の細胞凝集塊の数によって異なるのは明白ですが、上述した事例では、凝集塊中の細胞を個々の細 胞としてカウントする代わりに凝集塊を1つの細胞としてカウントした場合、報告された総生細胞の濃度が、図5の10.53 x 106 cells/mL から図6の8.85 x 106 cells/mLに低下し、約16%減少しました。この設定は、生細胞濃度が高く、細胞が自然な状態で「塊状」になりやすい場合には、計数において十分な配慮が必要になります。

セルカウンターの設定a)からg)を組み合わせることにより、測定者は、自動セルカウンターが顕微鏡を用いて細胞をカウントする手法により近い値になるように、または異なる自動セルカウンターとの結果が近づけられるよう調整することができます。

 

よく使用される細胞種の設定

自動セルカウンターの新規ユーザーは、生細胞を正確に検出するためのカウント設定において難しく感じる場合があります。そのため、自動セルカウンターには、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)など使用頻度が高い細胞種の設定条件があらかじめプリセットされています(図7)。

測定者は、通常プリセットされた細胞種の中から最も近い細胞種を選択し測定を行います。自動セルカウンターによる細胞のカウント結果と測定者が以前に細胞をカウントしていた手法で得られる結果との一致度をさらに高めるために、あらかじめプリセットされた自動セルカウンターの計数設定を「微調整」します。

 

結論

自動セルカウンターの選択について検討する際は、測定者は、血球計算盤を用いる手動の顕微鏡法から切り替える場合でも、別の自動セルカウンターと交換する場合でも、その自動セルカウンターが、測定者の既存の手法にできるだけ近いカウントを行い、細胞濃度を計数できるように調整可能な十分な柔軟性を備えていることが好ましいと考えられます。画面上で細胞をカウントしている画像を1 枚1 枚見ることができ、セルカウンターがどの細胞を生細胞としてカウントしているかが分かることは、測定者が、調整する必要のあるパラメータを特定するのに有用です。自動セルカウンターのカウント設定を調整し、その新しい設定を用いてセルカウンターに同じ一連の画像に再解析を実施できることは、自動化でカウントされた細胞濃度ができるかぎり以前の手法と一致するように最適化するための、極めて有用な機能です。

 

著者の略歴

Tony Harrisonは、Beckman Coulter Life SciencesのSenior Commercial Product Managerであり、製薬業界およびヘルスケア製品製造業界における応用計測の分野のスペシャリストとして過去12 年間従事しています。それ以前は、製造業界のためのプロセス管理のオートメーションソリューションを提供する企業に勤務していました。また、同氏は国際的な講演者としてもよく知られており、英国、フランス、イタリア、インド、ドイツ、マレーシア、中国、米国、スカンジナビア、アイルランド、ハンガリー、スイス、インドネシア、ベルギー、ギリシャ、スイス、トルコ、エジプトおよびデンマークにおいて、TOC、液中粒子のカウント、水道システムおよびクリーンルームモニタリングのためのオゾン衛生管理に関する教育セミナーを行っています。

 

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