モノクローナル抗体産生CHO 細胞株の96-ウェルプレートを用いたフェドバッチ培養条件最適化の自動化

Abstract

近年、種々の疾患の治療に関し、モノクローナル抗体(mAb)など免疫グロブリン(IgG)が用いられるケースが増えています。mAb 産生プロセス開発には、培地の最適化、抗体生産性の向上に必要な細胞培養条件の特定など、多くの時間と労力を要する工程が伴います。細胞培養を用いた抗体生産にはフェドバッチ培養プロセスを用いて(細胞に)必要な栄養素を生理的条件下で供給します。高い抗体価を得るため、多くの場合、高性能の基礎培地をフィード液体培地や特定の細胞株に最適化されたフィードレジメンと組み合わせて使用します。培養条件の確立には、実験計画法(Design of Experiments:DoE)を用いて、最適なフェドバッチ培地の組み合わせを、無作為抽出により統計的に決定する方法があります。DoE に基づいたワークフローでは、統計的に相関性のあるハイスループットな解析結果が得られるものの、時間がかかり、ミスが起こりやすいという欠点があります。

本アプリケーションノートでは、バイオ医薬品分野における治療薬開発に向けた細胞ベースのプロセス開発ハイスループット化について、96- ウェルプレートを用いた懸濁細胞培養の自動化と最小化について紹介します。ここに示すワークフローは、DoE の完全実施要因計画(2 水準)メソッドを用いて生成した、個々の異なるバッチフィードの組み合わせを採用しています。そして、IgG を生産するチャイニーズハムスター卵巣細胞(Chinese Hamster Ovary cells: CHO 細胞)株に使用される様々な基礎細胞培養培地を評価できます。次に、培地最適化実験の自動化ワークフローを設計することによって、手作業を減らし、ウォークアウェイ時間を増やしました。そして、培地最適化に要する時間を短縮し、フェドバッチ培地条件スクリーニングや生細胞のカウントおよびIgG 定量を自動で実施できました。

IgG 産生CHO 細胞株をForti-CHO 培地で培養し、各HyClone Cell Boost ™フィード用サプリメントを添加した条件で評価しました。基礎培地に、HyClone の組合せを培養0 日目より添加し、その後240 時間にわたり、細胞生存率測定とlgG定量を行いました。その後、解析対象のCell Boost をそれぞれの相対比率でフェドバッチ培地に添加しました。培地最適条件下とフェドバッチ培養条件下でmAb の抗体価が得られ、同等の抗体価が得られることが確認できました。このワークフローにより、DoE に基づいた、モノクローナル抗体産生プロセス開発のためのフェドバッチ培地条件スクリーニングのハイスループット解析を自動化することが可能です。

 

はじめに

近年、疾患の治療に、モノクローナル抗体(mAb)など免疫グロブリン(IgG)が用いられるケースが増えています。また、mAb 産生時に高い抗体価が得られるよう、処理能力を上げ、高効率で高度な細胞培養プロセス自動化に対する需要も拡大しています。mAb 産生プロセス開発には、培地の最適化、抗体生産性の向上に必要な細胞培養条件の特定など、多くの時間と労力を要するワークフローが伴います。細胞培養を用いた抗体生産にはフェドバッチ培養により必要な栄養素を生理的状態で供給します。高い抗体価を得るため、多くの場合、基礎培地にフィード培地を加え、特定の細胞株に最適化されたフィード培地の組み合わせで使用します。プロセス開発を加速し、効率よく最適化を行うには、合理的で高度な並列処理が可能な仕組みが必要です。

抗体価の高い生産を目的としたプロセス開発には、培地添加物のスクリーニング、培地の最適化、フェドバッチ培養の解析など様々なアプローチが必要です。特に高い抗体価の細胞培養条件特定に異なる細胞培養試薬や培地を組み合わせは重要です。実験計画法(DoE)のような厳格なメソッドを適用すれば、統計的かつ高い信頼性で、最適なフェドバッチ培養成分の組み合わせを、検証対象の要素を無作為にグルーピングして決定することが可能です。しかし、検証に必要な要素数が多くなると、DoE の組み合わせの検証に多くの手間とコストがかかり、データのばらつきも生じます。哺乳類細胞株の フラスコ培養には大量の培地が必要となるため、特にこの傾向が強くなります。例えば、日常的に用いる振とうフラスコ培養では、大量の培地(10mL~ 3 L)が必要です。したがって、独立変数の総数が制限され、検討条件が限られてしまい、有用な要素を除外してしまう危険性があります。

この問題を解決するため、DoE に基づいたフェドバッチ培養条件スクリーニングと培地最適化のための、バイオ医薬品プロセス開発をハイスループット化しました。そして、96- ウェルプレートを使用した懸濁細胞培養の自動化と最小化のためのシステムの設計を行いました。フェドバッチ培養条件の組み合わせは、DoE の完全実施要因計画(2 水準)を用いて作成し、IgG 産生チャイニーズハムスター卵巣細胞(Chinese Hamster Ovary cells: CHO 細胞)株に使用される様々な基礎培養培地を用いて評価しました。次に、フェドバッチ培養条件スクリーニングや生細胞のカウントおよびIgG 定量を自動化できるよう、自動化ワークフローを設計し、培地最適化実験の手作業を減らすことでウォークアウェイ時間を増やし、培地最適化に要する時間を短縮しました。

本アプリケーションノートでは、96 ディープウェルプレートを使用したフェドバッチ培養条件スクリーニングを最適化するため、効率的な自動化ワークフローを検証します。本ワークフローでは、自動分注機(Biomek i7 ハイブリッドワークステーション)および自動セルカウンター(生死細胞オートアナライザーVi-CELL BLU)、SpectraMax i3 プレートリーダー、Kuhner 社製 shaker インキュベーターを統合して使用します(Figure 1)。このシステムにより、細胞や細胞培養培地の分注、フェドバッチ培養条件スクリーニング、添加物の組合せ、生細胞数の自動定量、Valita Titer システムを用いた生 細胞のIgG 産生定量を含んだワークフローの全工程を自動化しました。さらに、Biomek が稼働中に、Biomek のデータ取得・レポートツール(Data Acquisition and Reporting Tool:DART)を用いることにより、自動データ追跡が可能となります。ログファイルからデータを収集してランタイムの情報を合成し、統合システム全体で実行される全ての操作を記録します。

Figure 1. IgG 産生細胞の培養スケールアップに必要な、マイクロプレートを用いた培養条件最適化のための要素技術

 

方法

DoE の完全実施要因計画に基づく培地最適化のための自動細胞培養条件

ヒトIgG1 を発現し、浮遊細胞培養に適合するよう改変されたチャイニーズハムスター卵巣細胞Agarabi CHO 株(ATCC cat# CRL-3440)を、1% 抗凝集剤と200 nM glutamaxを加えたGibco™CD FortiCHO( ThermoFisherScientific cat# A1148301)基礎培地に播種し、Kuhner 社製インキュベーターを用いて、37℃、CO2 8% で培養しました。プロセス開発の検証のため、Cytive 社より購入したCell Boost 培地添加物を、事前にデザインしたDoE マトリックスを用いて評価しました(Figure 2A)。DoE マトリックスは、完全実施要因計画のアプローチによるJMPR ソフトウエアで作成し、5 つの要素(Cell Boost 1、2、3、7A、7B)について細胞培養培地を用いて検証しました(Figure 2A)。n=5 でDoE の完全実施要因計画(2 水準)を使って、32 のランダム変数が作成されます。この変数は、3 つの独立した 生物学的反復(n=3)を使って評価するよう設計されています(Figure 2A-B)。Cell Boost と培地は、Cell Boost 培地添加物の総量が90 μ L となるよう1 : 1 の容量比で混合しました。細胞濃度0.5x106 細胞/mL になるよう細胞を播種し、各ランの細胞培養の総容量が700 μ L となるよう基礎培地を加えました。細胞培養インキュベーション中、プレート全体へ酸素を供給できるよう0.8mm の穴を開けた96-deepwell sandwich covers(Kuhner cat# SMCR1296c)で覆った滅菌済み96- ウェルディープウェルプレート (ベックマン・コールター ライフサイエンス、製品番号:267007)で細胞を培養しました。細胞をKuhner 社製インキュベーターにより37℃、8% CO2、回転振幅50mm、振とう速度225RPM でインキュベートしました(Figure 1)。細胞生存率は96-well サンプルプレートが使用できる生死細胞オートアナライザーVi-CELL BLU (ベックマン・コールター ライフサイエンス、製品番号:C19196)で測定しました(Figure 1)。細胞を様々なタイムポイントで回収し、生細胞濃度とIgG 定量分析を実施ました。下流解析とモデリング評価のため、デー タをDoE JMPR ソフトウエアに保存しました。

自動細胞播種

Biomek ソフトウエアを用いて、自動化ワークフローを設計しました。開始時点 (T0)での細胞播種、Cell Boost 培地添加物の分注(Figure 2B)、生細胞数カウントのための細胞回収、Valita Titer kit(製品番号:VAL003)を用いたIgG レベルの自動解析が自動化のカギを握るプロセスです。Biomek による自動化メソッドで運転している間は、DataAcquisition and Reporting Tool (DART)が、エラー、ピペッティング、分注などメソッドによる操作の詳細全てを記録します(Figure 3A, 赤の矢印)。この設定によって、Biomek ソフトウエアは対応する全てのデータをログファイルへ記録することが可能です。このログファイルは、コピー&ペーストの操作をしなくても、インテグレーションされた全てのシステムで閲覧することができ、ランの詳細はDART report builder で自動解析されます。

Figure 2. CHO 細胞内でのIgG 産生に対する5 種類のCell Boost 培地添加物の効果を評価するための、DoE 完全実施要因計画に基づいたマトリクス

ValitaTiter アッセイによる自動IgG 解析

Valita Titer (製品番号:VAL003)アッセイの自動化を、使用説明書に記載のプロトコルに沿って行いました2。液体分注ステップは、Biomek i7 ハイブリッドワークステーションによる自動化メソッドで行いました(Figure 3A)。まずアッセイバッファー(Forti-CHO)60 μ L を、96- ウェル黒色ValitaTiter プレートの各ウェルに添加し、システムに組み込んだOrbital Shaking ALP を用いて5 分間振とうしながらインキュベーションしました。ヒトIgG 抗体をForti-CHOバッファ中で100mg/L から1 mg/L に段階希釈して、標準曲線を作成しました。次に、標準曲線サンプルをValitaTiter アッセイプレートに添加し、5 分間振とうしました。最後に、システムに組み込んだ、蛍光偏光検出カートリッジを備えた SpectraMax i3x(Molecular Devices)にプレートを移し、暗所で3 分間インキュベートして偏光を測定しました。同じ手順で未知サンプルの解析を行い、培地を遠心により細胞培養サンプルから回収し、自動でValitaTiter 解析に供しました。解析のために、0、96、144 時間のタイムポイントでサンプル採取を行いました。

Figure 3. Biomek 自動化に使用したメソッドと、細胞播種、培地成分添加、IgG 定量を自動で行うための自動化装置のデッキレイアウト

 

結果と考察

Cell Boost サプリメントを添加したサンプルにおける細胞生存率

高い抗体価でのIgG生産を目的として培地最適化ワークフローの自動化を評価しました。最初にDoEに基づいたアプローチによりIgG 生産性の評価に必要となる培地添加物の組み合わせを特定しました(Figure 2B, 3A-B)。自動化メソッドでは、細胞播種、培地添加物の添加、生細胞濃度算出を行いました。異なる培地添加物を添加後の細胞生存率を、様々なタイムポイント(0 ~ 200 時間)で解析しました。0(開始)時点では、96 ディープウェルプレート6 枚それぞれに濃度0.5x106 細胞/mLで播種し、DoE のデザインに従ってCell Boost 培地添加物を加えました(Figure 2A-B)。同時に細胞のインキュベーションを開始し、24 ~ 48 時間ごとにプレートを1 枚回収して、その細胞生存率を測定しました。細胞を別のプレートでインキュベートし、異なるタイムポイントで解析しても、培地やスパイクしたCell Boost 培地添加物の種類で、細胞増殖率に一貫した再現性が認められました。5 つの培地添加物の増殖曲線は、それぞれの条件によって細胞増殖率が変動しました。この効果を詳細に精査するため、実験で用いた要素をグルーピングしてデータ解析を行いました。その結果、添加した培地添加物が1 種類のみのグループと基礎培地との比較では、増殖率に大きな違いは認められませんでした。

Cell Boost 培地添加物を2 種類添加した条件では、添加物の種類によって異なる結果が観察されました。具体的には、Cell Boost 1 と7Bを添加された細胞の増殖率が、2種類の添加物で処理された他のグループや基礎培地と比較して、低い結果となりました。3 種類以上のCell Boost 培地添加物を添加したグループでは、様々な条件でベースラインと同程度の細胞生存率が維持され、増殖率が向上しました(Figure 4E-F) が、2 つの条件では増殖率が低下しました(Figure 4F)。

モノクローナル抗体産生CHO 細胞株の96-ウェルプレートを用いたフェドバッチ培養条件最適化の自動化

Figure 4. 生細胞の定量。A)ワークフローの概要、B)全32 サンプルをn=3 で実施、計96 サンプルで行った細胞増殖、C)ベースラインの培地とCell Boost 培地添加物を1 種類添加した培地での増殖の比較、D)ベースラインの培地とCell Boost 培地添加物を2種類添加した培地での増殖の 比較、E)ベースラインの培地とCell Boost 培地添加物を3種類添加した培地での増殖の比較、F)ベースラインの培地とCell Boost 培地添加物を4種類添加した培地での増殖の比較。

これらの結果から、プレートへの細胞播種は、Biomek で行うことが可能であり、分注はマルチチャンネル分注、あるいはSpan-8 分注のどちらでも実施可能でした。さらに、細胞生存率の測定は、自動分注機でインキュベーターのプレートからセルカウンターのプレートに分注し再インキュベーションするか、必要に応じた実験上の追加操作を行うため、プレートに再播種しても測定することができます。Biomek の液体分注ステップによる細胞への影響は認められなかったことから、自動化ワークフローはハイスループット化に対応し、細胞アッセイのための多変量解析で使用するDoE マトリックス の検証に、利用可能であることが示唆されました。

ValitaTiter 自動化ワークフローのバリデーション

ValitaTiter アッセイの自動化を、取扱説明書に記載のプロトコルに従って行いました。ValitaTiter 自動化アッセイの確度を評価するため、Biomek i7 ハイブリッドワークステーションを用いて標準曲線を作成しました(Figure 5)。コントロールのヒトIgG を、濃度100 mg/L~ 1 mg/Lで、トリプリケートで検証した後、蛍光変更を測定しました。この測定で得られたR2 値は0.9919 でした(Figure 5)。

モノクローナル抗体産生CHO 細胞株の96-ウェルプレートを用いたフェドバッチ培養条件最適化の自動化

Figure 5. 標準曲線の解析

IgG 抗体価に対するCell Boost サプリメント添加処理の効果

次に、DoE の形式によるCell Boost を添加して細胞培養を行い、IgG 標準曲線を利用して、IgG 未知のサンプルの濃度をする自動化ワークフローをデザインしました。それぞれのプレートに対して標準曲線を作成し、未知サンプルのIgG濃度を測定しました。得られたデータを直接DoE ソフトウエアにインポートしてモデルを作成し、Cell Boost 培地添加物の添加処理が、産生されるIgG 抗体価や細胞生存率に及ぼす効果を解析し、細胞生存率とIgG 抗体価レベルの関連付けを行いました。これにより、各Cell Boost 培地添加物の添加により産生されるlgG 抗体価を正確に推定することができるユニークな予測モデルが作成できました(Figure 6A)。このモデルに基づき、Cell Boost 培地添加物7a および7bは、培地添加物1 ~ 3 のいずれかと組み合わせてAgarabi-CHO モノクローナル抗体産生細胞株を含むForti-CHO 培地に追加した場合、特異的にIgG レベルを強化することが示唆されました(Figure 6A)。

さらに、Cell Boost 条件の細胞生存率から、Cell Boost 培地添加物3、7a、7b で処理した場合に生細胞濃度が最も高く、高い抗体価のIgG 産生であることが示されました。このような結果から、Figure 1 に示した自動細胞培養システムは、IgG 産生のためにデザインした細胞ベースのワークフローにおいてスループットが向上することが示されました。これらの技術は、アッセイの最小化も可能にし、治療用抗体のスクリーニングと開発に必要な、低コストでの製品開発、培地添加物の検証、そして培地最適化を可能にします。

モノクローナル抗体産生CHO 細胞株の96-ウェルプレートを用いたフェドバッチ培養条件最適化の自動化

Figure 6. 自動化ワークフローによる培地最適化とIgG 産生のDoE 予測モデル‐A) DoE の完全実施要因計画による複数あるいは単一のCellBoost 添加によるIgG 産生予測モデル。上の図は、各Cell Boost の統計的解析とIgG の抗体価レベル強化の可能性を示す。B)各Cell Boost が、細胞生存率および最大IgG 抗体価レベルに及ぼす効果に関する解析結果を示す。

Data Acquisition and Reporting Tool( DART)による自動データ追跡

インテグレーションされた複数の装置で、複数の培地条件を検証する細胞アッセイを実行すると、膨大な量のデータが生成され、そのデータの管理、保存、検索に細心の注意が必要になります。ここで示しているワークフローでは、データ管理ソフトウエアData Acquisition and Reporting Tool (DART)でデータ追跡を行いました。DART は、Biomekのソフトウエアと共に機能するよう設計されており、Biomek ワークステーションに組み込まれているシステム全体のデータを継続的に確保できます。

DART ソフトウエアを搭載したインテグレーションシステムは、Biomek による自動化メソッドおよびランの詳細を保存するデータベースであるDART レポジトリにアクセスします。DART では、メソッド実行時の成功、失敗に関する情報が保存され、日付、時間、デッキポジション、プレート、容量、プレートバーコード、Biomek デッキからインテグレーションされた解析装置へのプレートの移動や、解析装置からBiomek デッキへの移動などについても詳細が正確に保存されます(Figure 7)。データはDART のレポートビルダー機能で自動追跡されるため、ミスが起きやすいコピー&ペースト作業による従来型の操作を必要最低限にできます。また、保存データの詳細は、リモートからデータベースを閲覧でき、マイクロソフトExcel 上でも閲覧できます。

モノクローナル抗体産生CHO 細胞株の96-ウェルプレートを用いたフェドバッチ培養条件最適化の自動化

Figure 7. DART ソフトウエアを使用した自動データ追跡。メソッドの実行、ラボウエアの詳細、ウェルの詳細、レポートからデータを追跡する自動化DoE メディア最適化ワークフローのためのDART データベース。

DART ソフトウエアは、各メソッドの実行や、メソッドへのアクセス回数の保存も可能で、実行時間、検出したエラー、分注の詳細にとどまらず、ランの成功・失敗両方について詳細情報を保存します(Figure 7)。関連するメソッドの比較、成功したランと失敗したランとの比較をDART データベースブラウザ内で行うことができ、各メソッドの実行や、メソッドの各段階の比較、各ランの間に更新が行われたかどうかを追跡できます(Figure 8)。この機能は、Biomek メソッドで収集したデータと、異なった挙動が見られた場合にその原因を探る際の指針となります。

モノクローナル抗体産生CHO 細胞株の96-ウェルプレートを用いたフェドバッチ培養条件最適化の自動化

Figure 8. DART ソフトウエアを用いたメソッド実行比較の例。DoE メディア最適化自動化ワークフローのラン(成功2 件、失敗2 件)のDART による比較。

 

おわりに

本アプリケーションノートでは、モノクローナル抗体の産生に向けた、培地最適化などの細胞培養条件の検討を実行するのに必要な技術や装置と共に、Biomek に統合した様々なシステムの自動化ワークフローについて検討しました。このワークフローでは、抗体価の高いIgG 産生を可能にするフェドバッチ培地添加物と培地の組み合わせを特定するため、完全実施要因計画の実験デザインを使用しました。そして、モノクローナルIgG 産生CHO 細胞株を用いて、高い抗体価の抗体産生を実現するCell Boost 培地条件を特定することを目的に、DoE をベースとする予測モデルを作成できました。

ワークフローの自動化とともに、Biomek ソフトウエアと連動してランの詳細なデータを自動で収集し、追跡可能なソフトウエアであるDART を実証しました。データはDART レポジトリに格納され、リモートで簡単にアクセスが可能です。ネットワーク化されたBiomek ハイブリッドワークステーションシステムとDART データ追跡機能を組み合わせたことで、細胞ベースの医薬品探索ワークフローに必要なBiomek システムの液体分注ステップと、データの処理/ 保存、そして、インテグレーションシステムの自動化が実現しました。

参考文献

1. Markert S, Joeris K. Establishment of a fully automated microtiter plate-based system for suspension cell culture and its application for enhanced process optimization. Biotechnology Bioengineering. 2017 114(1):113-121. doi: 10.1002/bit.26044. PMID: 27399304.

2. Michael Hayes, Automation of IgG Quantification using the Biomek i7 Hybrid Automated Workstation. www.beckman.com content code 21.09.2634.AUTO.

機器と材料


機器 メーカー
Biomek i7 hybrid automated liquid handler Beckman Coulter Life Sciences
SpectraMax i3x plate reader Molecular Devices
Orbital shaker Benchmark Scientific
37°C Kuhner shaker incubator 7 Kuhner Shaker Inc
Vi-CELL BLU cell viability analyzer Beckman Coulter Life Sciences


培地添加物 メーカー 製品番号
 Valita Titer Assay  Beckman Coulter Life Sciences   VAL003
CD-Fort-CHO  ThermoFisher Scientific A1148301
Cell Boost 1 Cytiva SH31113.02
Cell Boost 2 SH31114.02
Cell Boost 3 SH31115.01
Cell Boost 7A SH31119.01
Cell Boost 7B  SH31120.03


消耗品 メーカー 製品番号
BC230 Pipette Tips Beckman Coulter Life Sciences B85906
BC1070 Pipette Tips B85945
BC1025 Pipette Tips B85981
VI-CELL BLU reagent kit C06019


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