96ウェルプレートを利用して細胞の計数条件を決める有効な方法

 

このアプリケーションノートでは、Vi-CELL BLUのプレートモードをどのように使いこなすかについて紹介します。96ウェルプレートすべてにサンプルがロードされた場合、解析に約3時間を要します。一般的に生存率が低い細胞、または、培養装置やリアクターから取り出した場合の環境変化に過敏な反応をする細胞にとって理想的な解析とはいえません。

しかしながら、プレートローダーを使用すると、1 回のプレート測定で複数の異なる細胞計測を行うことができます。したがって、様々な培養条件における細胞計測や計測手順を評価することで、細胞計測条件をより理想的なものにできます。以下において、プレート測定の一例を紹介します。一般的によく使われている細胞を評価した結果、細胞の特徴が計数を通して明確に示されました。

Vi CELL BLU side load image

Figure 1. 生死細胞オートアナライザー Vi-CELL BLU

 

細胞計数に関する評価

CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、EL4(Mouse T Lymphocyte Cell Line)細胞、SF9(Ovarian tissue from Spodoptera frugiperda)昆虫細胞およびHeLa細胞を使い、長時間分析、異なる細胞調製が様々な細胞種に与える影響を調べました。

 

サンプル調製がCHO細胞へ与える影響

細胞播種する際には、細胞を洗ったり、回収したりする必要があります。その過程で遠心と再懸濁を伴います。この操作は、ほかの実験目的にもよく行います。CHO細胞は一般的に強い細胞として認識されています。しかし、CHO細胞の増殖は非常に特徴的な性質を有しており、最適な増殖には特殊培地が必要です。以下の実験において、CHO細胞の遠心操作は1,000 g、5分で統一しています。培地に再懸濁、または緩衝液に懸濁する際の遠心としては比較的に優しい回転数です。このような細胞調製法における一連の操作がCHO細胞に対して影響があるか調べました。

 

測定結果

細胞濃度(M/mL) 生存率(%) 細胞の直径(μm)
無処理 4.83 94.30 16.12
1 スピン後に培地に懸濁 5.05 94.48 16.17
1 スピン後にPBSに懸濁 4.70 65.69 14.17
2スピン後にPBSに懸濁 4.45 53.77 13.99

 

上記の実験結果より、推奨培地にCHO細胞を遠心・再懸濁した場合のみ、生存率、細胞直径に大きな影響を与えませんでした。しかしながら、PBSに懸濁した場合には、劇的な生存率の低下および有意な細胞直径の短縮が観察されました。また、細胞濃度の減少が見られました。これは、再懸濁過程で細胞をロスした可能性が考えられます。遠心操作、PBS 懸濁を2回実施すると、さらに細胞の生存率、細胞直径に悪い影響を与えました。

 

impact of sample preparation method on CHO cell concentration vi-cell bluimpact of sample preparation method on CHO viability and diameter

Figure 2. 細胞調製によるCHO細胞への影響

 

EL4細胞における懸濁回数への影響

EL4細胞は、一般的にもろい細胞と考えられています。理想的な環境下で培養しても、増殖は遅く、生存率は70%以下です。EL4細胞を調製し、96ウェルプレートに分注しました。解析に用いたセルタイプは、標準的なMammalianCell のセルタイプを基に設定しました。その後、懸濁回数を変えて細胞に与える影響を調べました。

この実験は、ボルテックスによる混合や遠心によって容易に損傷を受けることが知られている細胞に対して、懸濁回数の影響を調べることを目的にしています。

 

測定結果

EL4細胞に対する懸濁回数の実験結果

懸濁回数 総細胞数 生細胞数 細胞濃度
(M/mL)
生存率
(%)
細胞の直径
(μm)
1 4648 2837 1.72 61.06 11.34
3 4637 2715 1.72 58.54 11.34
5 4660 2582 1.73 55.69 11.34
7 4660 2448 1.73 52.53 11.32

 

細胞数、細胞濃度、細胞直径には、統計的な有意差は認められませんでした。しかし、懸濁回数の増加に伴い、生細胞数が目立って減少し、細胞の生存率が低下しました。以上の結果から、 細胞の性質によって細胞懸濁回数を検討することが、細胞集団中の生細胞を正しく評価することにつながることが分かりました。したがって、 このような特徴を有する細胞にとって、過度な懸濁は避けるべきです。

 

impact of mixing cycles on EL4 cell viability

Figure 3. EL4細胞に対する細胞懸濁回数の影響

 

プレートを用いて長時間測定を実施した場合のSF9細胞計測への影響

SF9細胞は、理想的な培地環境で培養しても容易には高濃度に達しません。また、生存率は概ね60%以下です。したがって、プレートを使った多検体測定にはある程度長い時間を要するため、細胞に影響を与えてしまう可能性があります。長時間のサンプル測定がSF9細胞に影響を与えるかを評価するため、プレートを使った長時間解析を行いました。解析のセルタイプは標準に備わっているSF9セルタイプを使いました。

3時間にわたる多検体測定を実施しました。その結果、生存率にほとんど影響がなく、死んでいる細胞や膨張した細胞、細胞直径が長くなるようなことは起きませんでした。SF9細胞を用いたこの実験では、SF9細胞の生存率を高く培養することができませんでした(60%以下)。しかし、この実験でSF9細胞を培養装置から取り出し、長時間外部環境下においても、測定に耐えるだけの強い性質を有していることが分かりました。

 

cell viability and average diameter of SF9 cells over time

Figure 4. SF9細胞を用いたプレートによる長時間測定の生存率と平均直径への影響

 

HeLa細胞を用いた長時間測定評価

HeLa細胞にストレスを与えるため、コンフルエントな状態で培養を行いました。その後、細胞を回収し、細胞懸濁液を作製しました。次に、細胞を96ウェルプレートに分注し解析を行いました(サンプル間の時間を等しくするため、サンプルの解析順序を考慮して実験を行っています)。

注意すべきことは、プレートの後方ポジション(解析順序が後ろに位置する)に入れられているサンプルは、細胞濃度が増加しました。さらに、時間経過とともに細胞直径も増加していることが確認されました。

 

percentage increase in average diameter over time for HELA cells

Figure 5. 時間経過とともに細胞直径が長いHeLa細胞の割合が多くなる

 

取得した画像から、膨張していたり、多数の非細胞小胞を形成しているような細胞が増えていることが確認できます。非細胞小胞を形成している細胞は通常細胞計測に影響しません。なぜなら、セルタイプ設定によりカウントから除外されているからですが、設定によりカウントすることも可能です。この解析によって明らかになったことは、HeLa細胞を用いた長時間測定により、細胞が膨張し、平均細胞直径が約10%増加しました。セルタイプ設定の最小直径の閾値より、小さい細胞が膨張し、閾値を上まわることでカウントされてしまう可能性があります。

 

cell swelling and blebbing in HELA cells after >2 hours outside incubator

Figure 6. 培養装置からHeLa細胞を2時間以上外に出したときに観察された細胞の膨張と小胞を有する細胞

 

結論

プレートを用いて多検体測定を行うことで、サンプル調製方法、長時間測定耐性、培養装置の外に置かれた場合の許容時間、およびこのような条件下での細胞の生存率、細胞直径などを評価することを勧めます。遺伝子改変CHO細胞や不死化したHeLa細胞でさえ丈夫な細胞であると考えられていますが、何らかのストレスや採用した細胞調製方法によってストレスを受けている可能性があります。細胞の性状を知ることで、計測手順および最適な計数条件を見つけることは、細胞培養において非常に重要なことなのです。

 

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