分析用超遠心機を用いた生体分子複合体の特性解析と測定時のサンプル濃度の関係性

By Dr. Lutz Ehrhardt, Beckman Coulter Life Sciences

はじめに

生体的高分子はモノマー(単量体)として存在することもありますが、多くの場合、生体の維持に重要かつ不可欠な機能を持つタンパク質同士、もしくはそれ以外の生体物質と複合体を形成して存在しています。一方で、タンパク質の製造工程の前処理、精製条件や保存条件が最適でないことが原因で、望ましくない高分子の複合体が形成される場合もあります。

一般的に、生体機能を有するため、自然に分子同士が相互作用した複合体は「会合体」、望ましくないアーティファクトで無秩序に分子が相互作用した複合体は「凝集体」や「凝集物」と呼ばれます。どちらの複合体も発生原因は違うものの、結合様式が可逆的または不可逆的のどちらかであるなど、一部似た性質を持っています。凝集体は目視で視認可能なほど巨大な複合体が形成されることがありますが、オリゴマーやダイマー(二量体)という小さな複合体ですら凝集体となる可能性があります。例えば、会合体と凝集体が、どちらも同じ分子数によって形成されたマルチマー(多量体)であれば、粒子サイズの指標から考えると、これらはどちらも同じサイズになります。

また、どちらのタイプの複合体も、複合体のサイズや複合体を形成する分子の数は、分子が溶けている溶媒の環境(バッファ組成、イオン強度、pHなど)やサンプル濃度によって大きく影響されます。タンパク質同士の相互作用によって形成される複合体(タンパク質の自己集合) においては、溶媒中のタンパク質の濃度に大きく依存します*1

このようにタンパク質複合体は溶媒特性や濃度依存性があるため、特性評価を行うためには検討が必要です。例えば、タンパク質の相互作用に濃度依存性があり、かつ弱い相互作用で会合した複合体を含む系において、最適なタンパク質複合体の特性評価の手法は、以下が条件となります。

  1. 不均一なサンプルの解析が可能であること
  2. 目的の濃度でのサンプルの特性評価、もしくは、少なくともサンプル濃度を変えて濃度効果について解析可能であること

 

例1. タンパク質凝集体測定に長年使用されてきた分析法 : サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)

長年使用されているタンパク質凝集体の特性評価の一つとして、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)があります*2。SECは、均一の細孔サイズを持つ多孔質の担体にストークス半径が異なる分析物が浸潤し、これらの分析物のカラム内の保持時間が異なることに基づき分離され、その結果、これらの溶出時間に差が生じることを利用した分析法です。また分子量の測定は、ストークス半径の異なる同じ立体構造をもつ標準物質(標準タンパク質)の溶出時間を比較することで見かけの分子量を測定でき、さらにSECに質量分析装置を接続して分析物の分子量を決定することも可能です。SECは不均一なサンプルでも使用可能ですが、その溶出画分の濃度は、カラムで発生する拡散力とサンプルが溶出されるまでにカラムから流出した展開溶媒の体積の増加も加わり、溶出分画の濃度が低下します。さらに分析物のストークス半径が小さいほど多孔質の担体中の保持時間が長くなることから、溶出体積は大きくなり、その分析物が含まれる画分の濃度は低くなり検出できなくなる可能性があります。

SECによる分離の結果、各分画に含まれる成分の濃度は、全成分の体積に対する比率に応じてサンプル濃度が低下します。中サイズの分子(全体の80%)、小サイズの分子(15%)、凝集体(5%)を含むサンプルをSECで分離した場合の例を以下に示します。

Figure 1
Figure 1:SECにより分離した3種類の成分を含むサンプルのSECによる分析概要図。SECの分離より生じた分画に含まれる成分とそのサンプル希釈は、サンプルの拡散力とカラムの展開溶媒の増加によります。

 

例2. ところで、超遠心分析法(AUC)では測定中のサンプル濃度はどのような挙動をとるのでしょうか?

Figure 2
Figure 2:AUC-SV – 溶質はセルの底側に移動し、移動境界面の上方には、溶質を含まない溶媒が存在。
Figure 3
Figure 3:AUC-SVによるスキャン結果(一部のスキャン結果のみを表示)、右側の矢印は、プラトー領域の差について、測定の速い時間(遠心開始時の濃度)スキャンと測定の遅い時間(Radial dilutionが見られる)スキャンデータの比較を示す。
Figure 4
Figure 4:AUC-EQ – 遠心力(RCF)が比較的低い場合、溶質は沈降と拡散によって濃度勾配を形成し、サンプルの濃度分布プロファイルが得られます。
Figure 5
Figure 5:AUC-EQ で得られる典型的な濃度分布プロファイル(高分子溶質の全濃度)。得られた濃度分布プロファイルをもとに解析した結果、2つの破線の指数関数分布より、異なる2種類の分子を検収した。

AUCによる測定方法には、沈降速度法(AUC-SV)と沈降平衡法(AUC-EQ)の 2通りあります。

沈降速度法(AUC-SV):沈降速度法は、ロータを高い回転数で回転させ、発生した遠心力が溶質の拡散力を上回ることで、サンプル中の溶質はロータの中心部から外側に向かって沈降します。遠心時間が経過するにつれ、溶質はセルの底まで沈降します。この測定プロセスの間、セルの中ではサンプル中の溶質と溶質が存在しない溶媒の間の移動境界面を観察することができます。この移動境界面はロータの外側に向かって移動します。この移動境界面の移動速度と形状から、溶質の沈降係数、分子量、サイズ(粒径)、溶質のおおよその形状に関する情報が得られます。

扇型セルの内部でサンプル中の溶質がセルの底側(ロータの外側)の位置に向かって移動すると、サンプルの比体積がごくわずかに大きくなるため、移動境界面とプラトー領域におけるサンプル濃度は低下します。このとき、移動境界面とプラトー領域のサンプル濃度は遠心開始時と比較し、約10~最大20%に希釈された状態になります。これをRadial dilutionと言います。またRadial dilutionの割合と遠心時間について確認すると、扇型のセルのどの位置であっても同じ割合で減少します*6

移動境界面の中点の移動速度は、サンプルに含まれる溶質の物理化学的な特性により変化します。サンプルに含まれるそれぞれの溶質の移動境界面の中点の移動速度はこれらの移動速度に合わせて変化しますが、Radial dilutionは同じ割合で一定に変化します。この測定データを熱力学的なパラメータによるフィッティング(数値解析)を行うことで、それぞれの溶質の物理化学的性質を見分け、理解することができます。このように、AUC-SVではRadial dilutionの影響を制御することができ、サンプルに含まれるごく少量の成分でも精度よく特性解析を行うことが可能です。

沈降平衡法(AUC-EQ):沈降平衡法は、セルの底部にまで溶質が移動しない程度の、比較的低い回転数(低い遠心力)で行います。遠心場をかけたセル内では、拮抗する力である沈降と拡散によって、溶質は濃度勾配を形成します。最終的にセル内のどの位置においても、どの成分も濃度が変化しなくなった状態(沈降と拡散が釣り合った状態)となり、その濃度分布プロファイルは指数関数分布となって平衡に達します。つまり、セル内の重力場を含めた化学ポテンシャルが一定となり、さらにこの平衡状態の濃度分布はボルツマン分布をとるため、熱力学的な解析が可能となります。平衡状態の濃度分布プロファイルを熱力学的に解析することで、分子量、化学量論、凝集状態、会合定数などの結果を得ることができ、サンプルの特性評価(全濃度領域の会合定数を含む)が可能となります。

 

おわりに

AUC-SVおよびAUC-EQのどちらの解析においても、遠心中に形成されるセル内のRadial dilutionや濃度勾配の影響を制御でき、沈降係数や分子量の決定、化学量論、凝集体の評価、会合定数などの特性解析において広く使われています。

AUCが自然科学の第一原理に基づく手法と呼ばれる所以は、熱力学をもとにした測定原理であるためです。AUCでは分子量などの算出のために標準物質を必要としませんし、また測定中は分子や複合体が自由に浮遊している状態で実験が行えるので、マトリックス効果等による解析データへの悪影響が生じるリスクもありません。AUCは、いつでもご自身の研究対象サンプルを自然に近い状態で特性解析をすることが可能です。

 

分析用超遠心機 Optima AUC

  • 標準物質を必要とせず、さらに支持体を用いない状態でタンパク質の解析が可能な自然科学の第一原理に基づく手法
  • 溶媒の選択制限がほとんどなく、サンプルを溶液のままの状態で解析可能
  • 1回の解析により、分子の形状、粒径、分子量、化学量論、純度検定、不均一性評価、凝集体評価、タンパク質相互作用(解離会合)解析が可能
  • 光学系:
  • サンプル容量:
    2セクターセンターピースの最大量:450 μl
    6チャネル平衡法用センターピースの最大量:120 μl
  • 測定波長域:190 – 800 nm
  • 分子量測定範囲:
    102 Da(ペプチド/オリゴ糖)- 108 Da(ウイルス/細胞器官)
  • サンプル濃度域:
    紫外可視吸光測定時:0.005 – 1-2 mg/ml(黄体形成ホルモン)
    干渉計測定時:0.025 - 4-5 mg/ml (ウシ血清アルブミン)

 

参考文献

  1. Jun Liu, Sandeep Yadav, James Andya, Barthélemy Demeule, Steven J. Shire. Analytical Ultracentrifugation and´its Role in Development and Research of Therapeutical Proteins. Methods in Enzymology, Vol. 562, Analytical Ultracentrifugation, Edited by James L. Cole, Elsevier, ISBN 978-0-12-802908-4
  2. Aditya V. Gandhi, Mark R. Pothecary, David L. Bain, John F. Carpenter. Some Lessons Learned from a Comparison Between Sedimentation Velocity Analytical Ultracentrifugation and Size Exclusion Chromatography to Characterize and Quantify Protein Aggregates. Journal of Phramaceutical Sciences, Vol 106, Issue 8,August 2017, 2178-2186
  3. Sun K, Sehon A. The use of polyacrylamide gels for chromatography of proteins. Canadian 416 Journal of Chemistry. 1965;43:969-976.
  4. Compton BJ, Kreilgaard L. Chromatographic analysis of therapeutic proteins. Anal Chem. 418 1994;66:1175A-1180A
  5. Liu J, Demeule B, Shire SJ. Separation‐Based analytical methods for measuring protein 420 aggregation. In: Mahler H, Jiskoot W, eds. Analysis of Aggregates and Particles in Protein 421 Pharmaceuticals. Wiley Online Library; 2011:9-3
  6. “Basic Principles Of Analytical Ultracentrifugation“, Peter Schuck, Huaying Zhao, Chad A. Brautigam, Rodolfo Ghirlando, CRC Press, 2016, ISBN 978-1-4987-5115-5