CytoFLEX mosaicシステムを用いたコンベンショナル検出とスペクトル検出の比較:DURAClone IM T細胞サブセット抗体パネルでのケース

Domenico Lo Tartaro (University of Modena and Reggio Emilia, Italy),
Krittika Ralhan (Beckman Coulter Life Sciences, India),
Fanuel Messaggio (Beckman Coulter Life Sciences, US)s

はじめに

コンベンショナルフローサイトメトリーではダイクロイックミラーと個別のバンドパスフィルタを使用して特定の波長を測定し、1 つの蛍光色素に対して1 つの検出器が使用されますが、スペクトルフローサイトメトリー では各蛍光色素の全波長領域の波形情報を収集します。そのため、スペクトルフローサイトメーターは、バンドパスを用いたコンベンショナルフローサイトメーターとは異なり、蛍光色素の数よりも多くの検出器が組み込まれています。スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic は、CytoFLEX LX およびCytoFLEX S* フローサイトメーターに、従来のコンベンショナル検出モードに加えスペクトル解析機能(スペクトル検出モード)を追加することが可能です。モジュール式なので、すでにCytoFLEX LX/S をお使いのお客様にはスペクトル検出モードへのアップグレードとして、これから購入されるお客様にも将来必要となった時のサステナブルなソリューションとして提供します。

本アプリケーションノートでは、フローサイトメーターCytoFLEX LX のコンベンショナル検出モードと、スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 88を接続したスペクトル検出モードを用いた、DURAClone IM T細胞サブセット抗体パネルの比較解析のプロセスを紹介します。両検出モードを比較することで、それぞれの利点に関する貴重な洞察が得られます。この解析には、ドライ抗体試薬DURAClone IM T細胞パネル(T 細胞サブセットの細胞表面マーカーを簡単に検出可能な10 カラー、10 モノクローナル抗体試薬パネル)を使用しました1。DURAClone IM T細胞パネルは、Tリンパ球の成熟段階(ナイーブ、エフェクター、メモリー、分化終末期)を識別します。ドライ試薬テクノロジーが採用されており、作業ワークフローを効率化します。抗体のカクテル化、ピペッティング、抗体ロット間のタイトレーションが不要なワークフローとなるため、これらの作業中に発生する可能性があるエラーが減少し、手順もシンプルになります。

ポピュレーションやサブセットの同定はコンベンショナル検出モードとスペクトル検出モードで一致していた一方、感度においてはスペクトルフローサイトメトリーの方が特に暗いマーカーや存在量の少ないポピュレーションの同定に優れており、シグナル対ノイズ比も向上する結果となりました。スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic はモジュール式であることから、コンベンショナルフローサイトメトリーの機能とスペクトルフローサイトメトリー機能を併せ持つことができ、幅広い実験アプリケーションに柔軟に対応できます。このような汎用性の高さから、CytoFLEX mosaic はフローサイトメトリーに多様なニーズを持つ研究者への実践的かつ有用なソリューションです。

背景

T細胞を介する免疫は、免疫応答研究の大きな柱の1 つです。ナイーブTリンパ球は、胸腺で成熟した後、CD197(CCR7)やその他のリンパ節ホーミング受容体を発現し、血液およびリンパ系を循環します。二次リンパ組織で抗原提示細胞と相互作用することで外来抗原に曝露されると、T 細胞から抗原特異的エフェクター細胞への分化が惹起され、同時にCD27 やCD28 の発現が低下します。エフェクター細胞と共に、迅速な抗原特異的免疫応答能力の維持に不可欠なセントラルメモリーT 細胞(CD45RA-CD197(CCR7)+)やエフェクターメモリーT 細胞(CD45RA-CD197(CCR7)-)が産生され、長期間残ります。T 細胞分化の最終段階では、CD57(エフェクター表現型)とCD279(PD-1)(共抑制分子、疲弊表現型)の発現が上昇し、T 細胞が終末分化期あるいは疲弊表現型へ進行したことを示します。

*CytoFLEX S V-B-Y-Rのみに対応

材料

装置および備品

  1. ハイエンドコンパクトフローサイトメーターCytoFLEX LX(C06779(日本製品番号C11186)、ベックマン・コールター)
  2. スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 88 U-V-B-Y-R-I(6レーザーUV)(ベックマン・コールター)
    (Table 1)
  3. 解析ソフトウエアCytExpert 2.6.0.105
  4. スペクトル解析ソフトウエアCytExpert for Spectral 1.0.0.49
  5. 遠心機(Avanti J-15R、B99515(日本製品番号B99514)、ベックマン・コールター)
  6. ボルテックスミキサー(Kartell, Italy, TK3S, 1032235)
  7. アスピレーター(Orange Scientifi c、ComfoPette+)
  8. スクリューキャップチューブ 50 mL(Sarstedt, Germany, 62.547.254)
  9. スクリューキャップチューブ 15 mL(Sarstedt, Germany, 62.554.502)
  10. 5mL フローチューブ(Corning、USA、352054)
  11. 分注ピペット
  12. マイクロピペット
  13. ピペットチップ 1,000 μL, 200 μL, 20 μL(Toledo, USA, 30389212, 30389238, 30389225)
  14. その他: バイオハザードコンテナ、アルミホイル、氷

スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic は、フローサイトメーターCytoFLEX ファミリーをスペクトルに進化させます。CytoFLEX S* およびCytoFLEX LX に接続することで、従来のコンベンショナル解析機能に加え、スペクトル解析機能を追加します。このモジュールを追加してお手持ちのCytoFLEX LX またはCytoFLEX S* をスペク トル機能搭載のフローサイトメーターに アップグレードするか、セットで購入することができます。

スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic の構成は2 種類(CytoFLEX mosaic 88、CytoFLEX mosaic 63)です。CytoFLEX mosaic 88 はCytoFLEX LX 用、CytoFLEX mosaic 63 はCytoFLEX S(V-B-Y-R 構成)用の検出モジュールです。本アプリケーションノートではスペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 88 を使用しました。装置の仕様をTable 1 に示します。

フローサイトメーター スペクトル検出モジュール チャネル数 (FSC/ SSC/FL) FSC 355 nm (SSC/FL) 405 nm (SSC/FL) 488 nm (SSC/FL) 561 nm (SSC/FL) 638 nm (SSC/FL) 808 nm (SSC/FL)
CytoFLEX
LX (UV355)
CytoFLEX
mosaic 88
1/6/81 1 1/20 1/20 1/16 1/12 1/10 1/3

Table 1:装置の仕様

試薬および抗体

  1. DURAClone IM T-cell Subsets Tube(25 テスト、製品番号:B53328、RUO)には、DURAClone IM T細胞サブセットチューブ:25 本(1 テストに1 チューブ)、コンペンセーションキット:3 セット(各セットに10 本の単染色用チューブ(CD3-APC-A750、CD4-APC、CD8-A700、CD27-PC7、CD28-ECD、CD45-Krome Orange、CD57-Pacific Blue*2、CD197(CCR7)-PE, CD279 (PD-1)-PC5.5) が含まれます(Table 2)。およびLIVE/DEAD Near IR 876(Invitrogen、製品番号:L34980)
  2. BD CompBeads(製品番号:552843)
  3. ArC アミン反応性コンペンセーションビーズ(Thermo Fisher Scientific、Inc.、製品番号:A10346)
  4. 抗凝固剤(K2EDTA)添加採血チューブ
  5. 10% ジメチルスルホキシド(DMSO)添加熱不活化ウシ胎児血清(FBS)
  6. リン酸緩衝生理食塩水(PBS)バッファ
  7. 2% FBS 添加PBS
  8. CytoFLEX Daily QC Fluorospheres(ベックマン・コールター、製品番号:C65719)
  9. CytoFLEX Daily IR QC Fluorospheres(ベックマン・コールター、製品番号:C06147)
  10. CytoFLEX シース液(ベックマン・コールター、製品番号:B51503)
  11. Flowclean 洗浄剤(ベックマン・コールター、製品番号:C48093)
マーカー 蛍光色素 クローン 製品番号 販売元
CD3 APC-A750 UCHT-1 B53328 ベックマン・コールター
CD4 APC 13B8.2
CD8 A700 B9.11
CD27 PC7 1A4.CD27
CD28 ECD CD28.2
CD45 Krome Orange J33
CD45RA FITC 2H4
CD57 Pacific Blue NC1
CD197 (CCR7) PE G043H7
CD279 (PD-1) PC5.5 PD1.3.5

Table 2:抗体パネルの詳細

方法

検体の採取

  1. 抗凝固剤としてエチレンジアミン‐四酢酸(EDTA)を含有するVACUETTE 採血管で最大30 mL の血液試料を採取しました。血液は直ちに処理しました。
  2. Ficoll‐Hypaque 法の標準的な手順で末梢血単核細胞(PBMC)を単離しました。
  3. 10% ジメチルスルホキシド(DMSO)添加ウシ胎児血清(FBS)に懸濁したPBMC を液体窒素で凍結保存しました。

サンプル調製と染色

  1. 凍結保存されたPBMC を解凍してRPMI 培養液に懸濁し、37°C、5% CO2 で1 時間静置しました。PBMC の解凍方法について詳しくは、下記のポイント2 で使用しているプロトコルをご参照ください。
  2. PBMC 200 万細胞(2 x 106)をLIVE/DEAD® Fixable Near-IR 876(Invitrogen、製品番号:L34980)で染色しました。室温(RT)、遮光下にて20 分間インキュベートしました。
  3. 細胞をPBS 2 mL で500 × gで5 分間遠心洗浄しました。
  4. 細胞は最初に100 μ L の新鮮な2% FBS 添加PBS 中で再懸濁し、その後CD45-Krome Orange、CD3-APC-A750、CD4-APC、CD8-A700、CD27-PC7、CD57-Pacifi c Blue、CD279(PD-1)-PC5.5、CD28-ECD、CCR7-PE、CD45RA-FITC が固相化されているDURAClone IM T細胞チューブに移し、室温、遮光下で20 分間染色しました。
  5. 細胞を2 mL の2% FBS 添加PBS、500 ×gで5 分間で洗浄し、0.5 mL の2% FBS 添加PBSに再懸濁しました。

コンペンセーション/ アンミキシングの設定

A. コンペンセーション/ アンミキシング マトリックスの設定

  1. コンペンセーションビーズ:
    1. BD CompBeads(カタログ番号:552843) バイアルをボルテックスします。すべてのDURAClone IM T細胞パネルチューブに陽性のBD CompBeads を1 滴添加します。
    2. メーカーの手順書に従ってインキュベートします。
    3. 2% FBS 添加PBS または類似のバッファでビーズを洗浄します。
    4. 陰性のBD CompBeads を1 滴添加して、非染色ビーズチューブを調製します。
    5. 非染色ビーズ(1 チューブ)と単染色コントロールビーズ(10 チューブ)をそれぞれ2% FBS 添加PBS 300 μL で再懸濁します。
      1. フローサイトメーターCytoFLEX LX での設定(コンベンショナル)
        CytoFLEX LX でチューブを測定してコンペンセーションマトリックスを作成します。解析ソフトウエアCytExpert 2.6 でコンペンセーションを設定する場合は、単染色コントロールを使用し、そのコンペンセーションをデータに適用します。
      2. スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 88 での設定
        CytoFLEX mosaic 88 でチューブを測定し、アンミキシングマトリクスを作成します。スペクトル解析ソフトウエアCytExpert for Spectral で設定するには、単染色コントロールを使用し、そのアンミキシングマトリクスでデータをアンミキシングします。
  2. アミン反応性コンペンセーションビーズ(ArC ビーズ- 生死判定)
    1. メーカーの指示に従ってバイアルをボルテックスし、陽性のArC ビーズを1 滴入れてチューブを調製します。
    2. 細胞生死判定色素でArC ビーズを染色します。染色プロトコルに従います。
    3. 洗浄後チューブを測定し、生死判定LIVE/DEAD® Fixable Near-IR 876(Invitrogen、製品番号:L34980)のコンペンセーション/ アンミキシングを調整します。

データの取得

フローサイトメトリーでは、細胞構造物または蛍光標識された細胞抗原から検出される、前方散乱光、側方散乱光、ならびに蛍光の情報に基づいて、目的の細胞ポピュレーションを同定します。

  1. 推奨濃度(20 x 106 cells /mL)で細胞を再懸濁します。注意: 解凍した細胞は細胞生死判定色素で染色します。
  2. DURAClone チューブに細胞懸濁液100 μL を添加します。
  3. DURAClone の取扱説明書に従ってインキュベートします。

注意: BD CompBead とアミン反応性コンペンセーションビーズのサイズは異なりますが、自家蛍光のスペクトル特性は類似しています。そのため、コンペンセーション/ アンミキシング設定では、BD CompBeadsとアミン反応性コンペンセーションビーズの両方に同じ未染色ビーズチューブ(陰性のBD CompBeads 1 滴)を使用しました。

  1. フローサイトメーターCytoFLEX LX(コンベンショナル)でのデータ取得
    1. 装置の設定(光学ケーブル等)がコンベンショナル検出モードのフローサイトメーターになっていることを確認します。スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 取扱説明書(D172052)をご参照ください。
    2. CytoFLEX Daily QC Fluorosphere(ベックマン・コールター、製品番号:C65719)およびDaily IR QC Fluorosphere(ベックマン・コールター、製品番号:C06147)を測定して、サンプル測定前に装置の アライメントを検証します。
    3. 注意: 装置のセットアップとdaily QC については、フローサイトメーターCytoFLEX LX 取扱説明書(B49006)をご参照ください。

    4. QC のCytosettings を適用して、サンプルを測定します。
    5. コンペンセーションビーズでは、散乱プロットでの主なポピュレーション10,000 イベントを取得しました。
    6. 細胞解析用として、散乱光プロット中のリンパ球40 万個以上を取得しました。
  2. スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 88 でのデータ取得
    1. 装置の設定(光学ケーブル等)がスペクトル検出モードのフローサイトメーターになっていることを確認します。スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 取扱説明書(D172052)をご参照ください。
    2. CytoFLEX Daily QC Fluorosphere(ベックマン・コールター、製品番号:C65719)およびDaily IR QC Fluorosphere(ベックマン・コールター、製品番号:C06147)を測定して、サンプル測定前に装置の アライメントを確認します。
    3. 注意: 装置のセットアップとdaily QC については、スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic 取扱説明書(D172052)をご参照ください。

    4. QC のCytosettings を適用して、サンプルを測定します。
    5. コンペンセーションビーズでは、散乱光プロットでの主なポピュレーションと10,000 イベントを取得しました。
    6. 細胞解析用として、散乱光プロット中のリンパ球40 万個以上を取得しました。

データ解析

  1. 解析ソフトウエアCytExpert でのデータ解析
    1. 解析ソフトウエアCytExpert で新しいExperiment を開き、別々のフォルダに「sample.fcs」ファイルと「unmixing .fcs」ファイルを追加します。
    2. 計算したコンペンセーションを「sample.fcs」ファイルに適用します。
    3. Figure 1 およびTable 3 のように、ゲートポピュレーションを定義します。
  2. スペクトル解析ソフトウエアCytExpert for Spectral でのデータ解析
    1. スペクトル解析ソフトウエアCytExpert for Spectral で新しいExperiment を開き、別々のフォルダに「sample.fcs」ファイルと「unmixing.fcs」ファイルを追加ます。
    2. 計算したアンミキシングを「sample.fcs」ファイルに適用します。
    3. Figure 1 およびTable 3 のように、ゲートポピュレーションを定義します。

データ解析

ゲーティングストラテジー

  1. 各二次元プロットにゲートをかけて、細胞集団を同定するためのゲーティングストラテジーを設定します。
  2. リンパ球が確実に取得されるよう、前方散乱光(FS)パラメータの検出下限閾値を低く設定します。
  3. Time vs Live/Dead Near IR 876 プロットを作成して単一細胞を選択し、死細胞、電子ノイズ、取得対象外イベントを除外します。
  4. 前方散乱高さ(FSC-H)および前方散乱幅(FSC-W)でダブレットを除外します。
  5. 前方散乱領域(FSC-A)と側面散乱領域(SSC-A)を使用して、リンパ球をゲートします。
  6. CD45-KrO(Krome Orange)vs. CD3-APC-A750 を使用して、CD3+CD45+T 細胞をゲートします。
  7. CD4-APC vs. CD8-A700 プロットで各々の陽性集団をゲートし、T 細胞をさらにCD4+T 細胞とCD8+T細胞に分類します。
  8. CD4+ およびCD8+ 細胞については、CD45RA-FITC vs. CCR7-PE プロットでT 細胞を以下の4つの表現型サブセットに分類します。このサブセットは、CCR7 とCD45RA の発現に基づいて次のように特性評価されました。
    1. ナイーブT 細胞(N):CCR7+ CD45RA+
    2. セントラルメモリー(CM):CCR7+ CD45RA
    3. エフェクターメモリー(EM):CCR7- CD45RA
    4. エフェクターメモリーRA(EMRA):CCR7- CD45RA+
  9. 最後に、CD4+T 細胞およびCD8+T 細胞ポピュレーション(N, CM, EM、EMRA)にCD27 およびCD28(分化および長寿のマーカー) が発現しているか、あるいはPD-1 およびCD57(細胞老化/疲弊のマーカー)が発現しているかを評価しました。

T 細胞ポピュレーションのゲーティングストラテジー 

Figure 1: T 細胞ポピュレーションのゲーティングストラテジー。ダブレット除去と死細胞除去のゲーティングから始まり、リンパ球の絞り込み、CD3+ T 細胞の同定、CD4+ およびCD8+ サブセットのゲーティングを行い、分化および活性のマーカーに基づいて解析。

 Dot plots showing the sequential gating strategy for T-cell analysis  

Figure 2:(A) コンベンショナル検出モードでのT 細胞サブセット解析ゲーティングストラテジーのドットプロット。各段階で、陽性ポピュレーション(単一細胞、生細胞、リンパ球、CD3+CD45+、CD4+、CD8+、CD45RA vs. CCR7 で定義されるT 細胞サブセット)の割合を表示。CD4+とCD8+についてはさらに、CD27/CD28 およびPD-1/CD57 の発現を評価した詳細解析も示す。
(B) スペクトル検出モードでも、同等のゲーティングを展開した。これらのプロットから、同一のゲーティングストラテジーで展開した場合、陽性ポピュレーションの割合が同等であることがわかる。

Comparison of conventional and spectral mode for signal-to-noise ratio

Figure 3: コンベンショナルとスペクトル検出モードで測定した場合の、各マーカー(CD3 APC-A750, PD-1–PC5.5、CD45-KrO)のシグナル対ノイズ比の比較。各マーカーのシグナル対ノイズ比から、スペクトル検出モードでの感度と分解能が高く、特にCD3 -APC-A750(240.59 vs. 116.95)とCD45- KrO(134.46 vs. 22.83)で顕著であることがわかる。

結果と考察

この結果から、コンベンショナルフローサイトメトリーとスペクトルフローサイトメトリーでのポピュレーションのサブセットのゲーティングによる同定は同じように行うことができ、主要な細胞ポピュレーションの割合は、両者で同程度でした>(Figure 2)。例えばリンパ球ゲートでの陽性ポピュレーションの割合の高さ(スペクトル検出モード :99.9%、コンベンショナル検出モード:99.8%)のように、両手法による生細胞および各サブセットが同定される割合(%)はほぼ同じでした(Table 3)。この同等性から、スペクトル検出モードとコンベンショナル検出モードで同様の結果が得られ、T 細胞サブセット解析の作業効率は変わらないことが示唆されます。

しかし、シグナル対ノイズ比は、特にCD3-APC-A750 (240.59 vs. 116.95)やCD45-Kro (134.46 vs. 22.83)のようなマーカーで、スペクトル検出モードの方が明らかに高い結果となりました(Figure 3)。スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic はより感度が高く、蛍光色素のオーバーラップを分離し、スピルオーバーやバックグラウンドノイズを低減します。このことから、スペクトル検出モードが、コンベンショナル検出モードでは検出が難しかった弱陽性のマーカーや存在量の少ないポピュレーションの同定に特に有用であることが示唆されます。

コンベンショナルフローサイトメトリーはルーチンのイムノフェノタイピングには有効ですが、より複雑な解析では、スペクトルフローサイトメトリーを使用するメリットが極めて大きくなります。スペクトルのオーバーラップを分離し、希少なポピュレーションや発現の弱いポピュレーションを検出できるスペクトルフローサイトメトリーは、コンベンショナルフローサイトメトリーを補完する有用な選択肢として提供されます。CytoFLEX mosaic は、フローサイトメーターCytoFLEXにモジュールを追加する形で、コンベンショナル検出モードとスペクトル検出モードを1 台にまとめることができるため、幅広い実験ニーズに柔軟に対応できます。

細胞サブセット スペクトル検出 (%) コンベンショナル検出 (%) 所見
生細胞 76.1 72 両手法の効率性は同等
単一細胞 (FSC-A vs. FSC-W) 93.6 94.7
リンパ球 (SSC-A vs. FSC-A) 99.9 99.8
T細胞 (CD3+ CD45+) 69.5 68.6
CD4+ T細胞 64.9 63.6
ナイーブT細胞(N): CCR7+ CD45RA+ 45.3 45.0
セントラルメモリー(CM): CCR7+ CD45RA– 32.0 31.5
エフェクターメモリー(EM): CCR7– CD45RA– 20.0 20.6
エフェクターメモリーRA (EMRA): CCR7– CD45RA+ 2.75 2.95
CD8+ T細胞 26.3 27.3
ナイーブT細胞(N): CCR7+ CD45RA+ 31.1 30.5
セントラルメモリー(CM): CCR7+ CD45RA– 5.3 4.9
エフェクターメモリー(EM): CCR7– CD45RA– 19.8 18.5
エフェクターメモリーRA (EMRA): CCR7– CD45RA+ 43.8 46.1

Table 3:T 細胞サブセットの同定における、スペクトルフローサイトメトリーとコンベンショナルフローサイトメトリーの比較

参考文献

  1. B53328, DURAClone IM T-cell Subsets Tube, 25 Tests, RUO
  2. De Biasi, S., Lo Tartaro, D., Neroni, A. et al. Immunosenescence and vaccine efficacy revealed by immunometabolic analysis of SARS-CoV-2-specific cells in multiple sclerosis patients. Nat Commun 15, 2752 (2024)

謝辞

このアプリケーションノートの裏付けとなるデータの生成に貢献してくださったUniversity of Modena and Reggio Emilia の研究フェローであるDr. Domenico Lo Tartaro に心から感謝申し上げます。

略語

A700 Alexa Fluor* 700
APC Allophycocyanin
アロフィコシアニン
APC-A750 Allophycocyanin Alexa Fluor750
アロフィコシアニン Alexa Fluor750
BD Becton Dickinson
ベクトン・ディッキンソン
CD Cluster of Differentiation
分化抗原群
CD45-RA CD45 isoform RA
CD45アイソフォームRA
ECD R Phycoerythrin-Texas Red-X
Rフィコエリスリン-テキサスレッドX
FITC Fluorescein isothiocyanate
フルオレセインイソチオシアネート
FSC Forward Scatter
前方散乱
IR Infrared
赤外線
KrO Krome Orange
クロームオレンジ
mL Milliliter
ミリリットル
µL Microliter
マイクロリットル
PBS Phosphate Buffered Saline
リン酸緩衝生理食塩水
PC5.5 Phycoerythrin-Cyanine 5.5
フィコエリスリン-シアニン5.5
PC7 Phycoerythrin-Cyanine 7
フィコエリスリン-シアニン7
PE Phycoerythrin
フィコエリスリン
SSC Side Scatter
側方散乱
T cells T lymphocytes
Tリンパ球
UV Ultraviolet
紫外線
U-V-B-G-R-I UV-Violet-Blue-Yellow-Green-Red-IR
UV-紫-青-黄緑-赤-IR

*1 Alexa Fluor(「A」)は、Thermo Fisher Scientifi c Inc.の登録商標です。
*2 Pacifi c Blue(「PB」)は、Thermo Fisher Scientifi c Inc(. 旧Molecular)の登録商標です。
LIVE/DEADは、Thermo Fisher Scientifi c Inc.の登録商標です。

本製品は研究用です。診断には使用できません。
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