板倉 英祐 先生
千葉大学 大学院理学研究院 生物学研究部門 教授
千葉大学 理学部は「新しい発想と探究心を友とし、自然界の未知なる分野を拓こう」を掲げ、自然科学の根底をなす基礎科学を担っています。理学部には5つの学科があり、宇宙・地球・生命・分子・原子核・素粒子および数学・情報数理学に関する活発な研究と教育活動を実践しています。「私たちがまだ知らない自然界の不思議」を見つけ出し、真理を解き明かす能力を備えた人材の育成を目指しています。
今回は、コンパクトフローサイトメーター CytoFLEX Sおよび卓上型セルソーター CytoFLEX SRTを導入された大学院理学研究院 生物学研究部門の板倉 英祐 教授にお話を伺いました。
まずは、板倉先生のご研究内容についてお聞かせいただけますでしょうか?
私の研究は、もともと「老化」に強い興味を持ったことから始まりました。老化には様々な原因が提唱されていますが、その中で私は特に「タンパク質の恒常性」、いわゆるプロテオスタシスに注目しています。老化個体では、タンパク質の品質管理が低下し、悪くなったタンパク質が細胞内に蓄積することが老化の一因とされています。
この中で、私は特に「オートファジー」という細胞内のタンパク質分解システムに学生の頃から興味を持ち、研究の中心としてきました。約10年前に千葉大学に着任してからは、オートファジーだけでなく、細胞外のタンパク質分解系など、新たな分野にも研究を広げています。例えばアルツハイマー病のように、悪いタンパク質が細胞外環境に溜まることで発症する疾患がありますが、そういった悪いタンパク質がどのように分解されるのか、その分子メカニズムを中心に現在研究を進めています。
研究を始められたきっかけや経緯についてお聞かせいただけますでしょうか?
私はもともと生物学がすごく好きでした。勉強が得意とは言えませんでしたが、生物学を「知ること」が楽しくて将来は生物学を極めたいと考え、大学に入学してすぐに研究者になることを志しました。博士課程に進んで研究者となり、自分の研究室を持つことで、様々な研究ができると信じ、ずっとこの道を歩んできました。
近年のご研究成果の中で、特に注目すべき発見や進展などございましたら教えていただけますでしょうか?
ポスドク時代まではオートファジーを中心に研究していましたが、オートファジーの分野では大隅先生がノーベル賞を受賞されるなど、世界中で研究が進展していました。大隅先生からは学会などでお会いするたびに、「若い研究者は、誰もやっていないことをやりなさい」という言葉をよく聞きました。
そこで、私はオートファジーとは全く異なる新しい研究に取り組むべきだと考え、千葉大学で独立する機会を得て始めたのが「細胞外のタンパク質分解系」の研究です。オートファジーは細胞内のタンパク質を分解しますが、血液中にも多くの悪いタンパク質が存在します。これらはオートファジーやユビキチン・プロテアソーム系では分解できません。
私は、この細胞外の悪いタンパク質を見つけて分解へ導く新たなシステムが存在するのではないかと考え、培養細胞やマウスでタンパク質分解を検出できる評価系を構築しました。このシステムを使って研究を進めたところ、「細胞外シャペロン」と呼ばれるものが、細胞外の悪いタンパク質を見つけて分解へ導く経路があることを発見したのです。現在は、それがどのように悪いものを見つけるのか、どのような種類のタンパク質が分解できるのかといった分子メカニズムの解明に大きく取り組んでいます。
今後のご研究における課題や展望についてお聞かせいただけますでしょうか?
「悪いものを見つける」というのは簡単なことではありません。人間が見て「良い」「悪い」を判断するのとは違い、タンパク質が悪くなっているかどうかを分子レベルで見分けるのは非常に難しい問題です。例えば凝集体ならまだしも、一つのタンパク質が変性(ミスフォールド)した時に、何がそれを認識できるのか?という点です。人間が見ているわけではないので、タンパク質がどのように悪い部分を認識し、分解へ導くのか、その分子メカニズムを解き明かすことがまず重要です。
この基礎が分かれば、応用研究へと展開できます。例えば、これまでは分解できなかった悪いタンパク質を、機能を改変したタンパク質を導入して分解できるようになることで、疾患の原因となる悪いタンパク質を分解できる方法を提案できるようになればと考えています。
ご研究の中でフローサイトメーターをどのように活用されていらっしゃいますか?
主にアナライザーとしてCytoFLEXを使用しています。私たちはタンパク質がどれだけ分解されたかを見たいのですが、タンパク質の量を測るには一般的にウェスタンブロットが使われます。しかし、ウェスタンブロットはサンプル調製から電気泳動、ブロッティング、抗体反応まで多くのステップがあり、特に学生が多い私たちの研究室では、常にプロレベルの操作を維持するのは難しい場合があります。
フローサイトメーターの利点は、ステップが非常に少ないことです。細胞を回収して測定するだけなので、データのバラつきも少ない。そこで、私たちはGFPやRFPといった蛍光タンパク質をタンパク質分解の指標として用いるシステムを構築しました。細胞内のGFPやRFPの発現量の増減を定量的に測ることで、タンパク質分解がどれだけ起きたかを簡単に評価できるのです。ウェスタンブロットに比べて圧倒的に簡便で、かつ定量性もすぐに得られるため、まずはフローサイトメーターで仮説の検証をし、変化が見られたらウェスタンブロットなどの詳細な解析を行う、という形で非常に活用しています。また、特定のプローブを使ってリソソームの分解活性を測定するシステムを構築しているのですが、何らかの薬剤を添加した際にリソソームの活性が変化したかどうかを、その蛍光値の増減でアッセイできます。GFPの蛍光値が上がればリソソームが阻害され、下がれば活性化されたと判断できるのです。同様に、ミトコンドリア活性なども別の蛍光システムで測定できるようにしました。また細胞内のリソソーム活性をフローサイトメーターで評価できるシステムも作製しました。細胞内の様々なオルガネラの活性を蛍光で測り、フローサイトメーターで簡単に評価できるようにしています(Fig 1 )。また、ソーターのCytoFLEX SRTもその延長線上で、フローサイトメーターと蛍光値で細胞の活性を評価できるメリットを活かしてほ乳類培養細胞を用いた遺伝子スクリーニングに利用しています。細胞外のタンパクを分解することが分かった細胞の遺伝子をセルソーターとCRISPRを組み合わせることで、網羅的な遺伝子スクリーニングを実施し、細胞外タンパク質分解に関わる遺伝子を同定できました。また、蛍光値の高い細胞や低い細胞を濃縮して、 その後の培養や実験に使うこともあります(Fig 2)。
Fig 1
(板倉先生ご提供)
Fig 2
(板倉先生ご提供)
アナライザーとソーター、両方を導入された背景や目的について教えていただけますでしょうか?
CytoFLEXアナライザーについては、先ほどお話ししたように、細胞内のタンパク質分解活性やオルガネラの活性を蛍光の増減で測るシステムを定量化するために導入しました。他社製品と比較検討した結果、操作が非常に簡便である点が特に大きく、また価格も手頃であったため、コストパフォーマンスが高いと感じCytoFLEXを選びました。
NUVレーザーも導入しており、GFP*1やRFP*2の蛍光測定に加えて、DAPI*3染色で死細胞を識別するために活用しています。
CytoFLEX SRTソーターについては、CytoFLEXアナライザーと同じプラットフォームであるため、操作性がほぼ同じであることが決め手でした。ソーターはアナライザーほど使用頻度は高くありませんが、操作が共通していれば、学生もCytoFLEXを使った経験があれば、SRTもスムーズに使えると判断しました。
*1 GFP: Ex 488nm Em 507nm
*2 RFP: Ex 561nm Em 584nm
*3 DAPI: Ex: 375nm Em 461nm
今後の研究室の将来像についてお聞かせいただけますでしょうか?
現在行っている細胞外タンパク質分解の研究は、その基礎となる発見ができたばかりです。まずは、どのような遺伝子が働き、どのようなタンパク質を認識できるのかといった分子メカニズムを、培養細胞やマウスで解明していきます。そして、関連する疾患との関係を調べていきます。
最終的には、分子メカニズムが完全に解明できれば、これまで分解できなかった悪いタンパク質を、人工的に分解できるようになるような「オーダーメイド分解システム」を開発したいと考えています。悪いタンパク質を特異的に分解できるような、新しい治療法の提案を目指しています。
今後の研究に向けて、弊社ベックマン・コールターにどのような技術支援や製品開発を期待されますか?
サイエンスレポートや論文作成でよくフローサイトメトリーの図を使用するのですが、現在はKaluza(フローサイトメトリー解析ソフトウエア)を使って再解析しています。しかしながら、KaluzaとCytoFLEXでは操作性が全く異なるため、学生が論文作成時に戸惑ってしまいます。KaluzaとCytoFLEXの操作性が統一されると非常に助かります。せっかくCytoFLEX familyという統一されたプラットフォームを使っているのですから、解析ソフトウエアもシームレスに使えると良いですね。
また、学生が多いので、フローサイトメーターに関する情報提供やトレーニングについても期待しています。現在は、私がパワーポイントで作成した3 ~ 4ページのマニュアルを使って学生に操作を教えていますが、原理までを深く理解させるのは難しい面もあります。オンデマンドの動画教材などがあれば、最初の導入時にもっとスムーズに学生が操作を習得できるのではないかと思います。特に、ソフトウエアの操作方法について、基本的なことから応用までをカバーするような情報があると、学生の理解を深める助けになるでしょう。
CytoFLEX Sは、コンパクトでありがながら、レーザーと検出器数の選択のフレキシビリティが高く、細胞研究に必要なデータを高感度で精度よく取得することができるハイパフォーマンス コンパクトフローサイトメーターです。
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