炎症の観点から疾患の発症メカニズムを解明し、治療薬を創出する

September 2016

徳島大学先端酵素学研究所炎症生物学分野
教授 齊藤 達哉 先生

 

自然免疫とよばれる防御機構を介した炎症応答は様々な疾患の発症に関わっています。免疫学に薬学的アプローチを取り入れ、炎症の観点から疾患の発症メカニズムの解明と治療薬を作り出していく研究についてお話を伺いました。  

 

研究のきっかけは、子供の時の「感動」と「疑問」が原点


子供の頃に風邪をひいた際に、親からもらった薬を飲んで症状が軽くなったことに「感動」し、また「なんで治るのかな」という疑問を感じたことがきっかけとなり、薬学を志しました。大学では、薬をどうやって作るのか、薬がどうやって効くのかを学んだわけですが、新しい薬を作りたいと思ったことから研究の道に入りました。病原体を排除する、あるいは炎症(熱)を和らげる方法を理解するためには、免疫系を理解することが大事ではないかと考え、免疫学、特に自然免疫学を専攻しました。
東京医科歯科大学で過ごした大学院生時代は、自然免疫応答の分子メカニズムを、細胞レベルで研究していました。2014年まで所属していた大阪大学微生物病研究所および免疫学フロンティア研究センターでは、准教授まで務めていくうちに部下も増え、自然免疫応答の生体レベルでの研究と共に、もともとやりたいと思っていた薬が効くメカニズムと薬のシーズになるような化合物の同定まで研究を広げてきました。    

 

 

様々な疾患に自然免疫を介した炎症が関わっている


炎症には、感染症(病原体)から身を守る重要な役割があります。この炎症を誘導する重要なシステムが、自然免疫です。また、最近クローズアップされてきているのは、自然免疫を介した炎症が誤って起こったり、極端に強く起こったりすると、逆に身体に悪いことが起きてしまうということです。

身近なところで言うと、栄養を取りすぎると痛風になったりします。実は、栄養成分の代謝物(尿酸)の結晶が体内に溜まり、自然免疫を介して炎症を非常に強く誘導してしまうことにより痛風が発症するのです。また、長寿化により問題となってくるのが、認知症です。その中のアルツハイマー病の発症にも、自然免疫を介した炎症が関わるということがわかってきています。この誤った炎症の誘導を抑制することができれば、疾患の発症を予防し、健康のまま長寿を全うできるようになる可能性があります。アレルギーを引き起こす黄砂や花粉にも、自然免疫を介した炎症を誘導する性質があります。自然免疫を制御することにより、アレルギー症状を緩和することが出来るかもしれません。
自然免疫を介した炎症のメカニズムを解明することにより、治療薬の開発にも貢献できるのではないかと期待しています。

 

炎症の「なぜ」を研究

現在は、「炎症がそもそもどのように起こるのか」そして「炎症が起こるとなぜ病原体が排除できるのか、なぜ身体が傷つくのか」などのテーマについて研究を進めています。前者については異常を感知するセンサーの同定、後者については炎症の実行因子の同定に取り組んでいます。また、「どうして炎症の制御機構が破たんするのか」についても研究しています。例えば、細胞の恒常性を維持することで知られているオートファジー*が自然免疫を介した炎症に関わることを世界に先駆けて発見しており、オートファジーが炎症を制御するメカニズムの解明に取り組んでいます。
*細胞に強いストレスがかかった際に、危険物を細胞内から除去し、また細胞内の有効成分の再利用を促進することにより、細胞の機能維持・生存促進に働く分解システム。

CytoFLEXを用いて炎症応答に関わる細胞の状態を測定


研究室では、CytoFLEXを用いて、表面マーカーをもとに細胞種(マクロファージ、樹状細胞など)をわける一般的な解析以外に、細胞の状態を見るための解析も行っています。細胞内のリソソームの状態は、自然免疫応答の誘導に関わっています。通常、リソソームは酸性に傾いているオルガネラで、その中に入ってきた異物を壊す役目をもっています。リソソームが機能しなくなった場合というのは、異常な状況(病原体や異物が入ってきたなど)です。このリソソームの機能不全を感知して、自然免疫のシステムは炎症を誘導します。我々は、pHが酸性のときには蛍光強度が上昇し、リソソームの損傷によりpHが酸性ではなくなるときには蛍光強度が低下するアクリジンオレンジやLysotracker DeepRedなどの蛍光色素で、リソソームのpH変化を測定しています。たとえば、痛風の原因物資の尿酸塩結晶や、黄砂の主成分であるシリカの粒子でマクロファージを処理すると、リソソームが傷つき、その結果、pHが変化して、蛍光強度が落ちてきます。この解析により、リソソームの状態を判断することが出来ます。

他にも、自然免疫の活性化に関わる活性酸素種のレベルを、CytoFLEXを用いて測定しています。自然免疫に関わるマクロファージなどの細胞を尿酸塩結晶やシリカ粒子で処理すると、ミトコンドリアから活性酸素種が過剰にでてくることが知られています。MitoSOXという蛍光色素を使って、CytoFLEXで蛍光強度を測定することにより、活性酸素種の産生状況をモニターすることが出来ます。
また、細胞膜表面への分子の移行もCytoFLEX で見ています。細胞の中に本来あるような分子が、ある刺激によって細胞表面に出てくることがあります。蛍光標識抗体で染色された細胞表面の抗原をCytoFLEXにより測定することで、もともと細胞表面になかった分子が、ある刺激を加えることで細胞の中から表面に出てくる様子を検出することが出来ます。

 

フローサイトメーターに求めるのは、将来への拡張性、容易な操作性、コンパクトさ


現在の研究では2レーザー4カラーのフローサイトメーターで対応できますが、次々に開発される新しい蛍光色素やより多くの細胞表面抗原の解析が必要となることが考えられるので、将来的にレーザー数を増やせる自由度や拡張性がフローサイトメーターの選択に極めて大切だと考えていました。しかし、コンパクトなフローサイトメーターには、条件に合うものがなかなか見つからず困っていましたが、CytoFLEXはこの点をクリアしていました。
さらに、機器とソフトウエアの使いやすさ、メンテナンスのしやすさも選択のポイントでした。特に機器のメンテナンスは性能を維持する上で重要です。そのためには、研究者が容易にかつ適切にメンテナンスを行うことが重要です。この点でもCytoFLEXはクリアしていました。

これらの点をクリアしたうえで、研究室の空間を有効に使えるコンパクトなサイズもCytoFLEXを採用する決め手となりました。さらに価格的にも納得できる範囲でした。現在、CytoFLEXは日々順調に稼動していて、非常に満足しています。
蛍光を使用せずに細胞の状態を判断できるパラメーターが増えてくれば、フローサイトメーターは今以上に広範な研究に使用することができるようになると思います。今後の技術開発に期待しています。

 

 

 免疫学に薬学的なアプローチを取り込み、創薬を目指す

炎症の観点から難治性疾患の発症メカニズムを理解し、創薬につなげることを目標に研究を行っていきたいと考えています。既に自然免疫を介した炎症の制御機構の一端を明らかにしており、また炎症を抑制する化合物についてもスクリーニングを進め、興味深い化合物が複数ヒットしています。今後も、ヒットした化合物を基に、新たなメカニズムで作用する抗炎症薬を生み出すことを夢見て、研究を続けていきます。

 

 

 

ハイパフォーマンス コンパクトフローサイトメーター
CytoFLEX

コンパクト、フレキシブル、ハイスペック。

コンパクトでありながら、レーザーと検出器数の選択のフレキシビリティが高く、細胞研究に必要なデータを高感度で精度よく取得することができるハイパフォーマンス コンパクトフローサイトメーター

 

仕 様

搭載レーザー 488nm:50mW / 638nm:50mW / 405nm:80mW(最大3レーザーまで)
解析速度 30,000 イベント/秒