DURACloneのコンペンセーション設定
はじめに
タンデム色素の種類がますます増え続けていることで多くのパラメータを同時に検出・測定できることから、ハイコンテントなフローサイトメトリーは、臨床研究において利用価値の高い手法とされています。けれども、タンデム色素の品質は、時間の経過とともに、あるいは光や酸素への暴露によって低下し、保管条件が不適切な場合は、次第に色素の発光スペクトルに大きな影響を及ぼすようになり、頻繁なコンペンセーションの調整が必要になります。さらに、タンデム色素は、メーカーによってスペクトルにばらつきがある場合があり、その場合には、ロット毎のコンペンセーション設定が必要になります。
ベックマン・コールターが独自技術を用いて開発した新規のドライ試薬DURACloneは、室温保存で長期間の安定性を確保しています。マルチカラーパネルと対応するシングルカラー蛍光色素の両方が、乾燥、ユニット化され、安定したフォーマットで提供されるため、複数の施設で実施される研究や長期におよぶ研究において、高いレベルの標準化が効果的に達成できます。正確で精密なコンペンセーションも含めて、装置のセットアップは簡単で、専門家でなくても管理できます。下記に、Naviosフローサイトメーター*でのセットアップの手順と、セットアップの確認方法を説明します。
材料
各チューブに、ドライチューブフォーマットのマルチカラーパネル、PMTおよびコンペンセーション設定用のシングルカラーの蛍光色素が付属しています。この他に、下表に記載した試薬類が必要です。
PN RUO / CE-IVD | |
Flow-Check Pro | A69183 / A63493 |
Flow-Set Pro beads | A69184 / A63492 |
Versalyse | IM3648 / A09777 |
IOTest3 fixative solution | IM3515 / A07800 |
VersaComp Beads | B22804 / - |
方法
Ⅰ. サンプルの染色
ドライ抗体カクテルを用いたサンプルの染色については、DURAClone IM Kitに添付の取扱説明書をご覧ください。
コンペンセーション設定のためのシングルカラー染色
- シングルカラーのドライ抗体が入った各チューブの底に、全血100 μLを分注します。
- ECD、PC5.5、PC7、APC-AlexaFluor** 700、APC-AlexaFluor** 750抗体の蛍光色素は、ドライカクテルに含まれる蛍光と同一です(同一ロット)。これらの抗体は、弱く発現している抗原や正常サンプル中に低頻度で発現している細胞上の抗原に結合する可能性があることにご注意ください。その場合は、よく混和した「VersaComp Antibody Capture Positive Beads」を各サンプルに一滴ずつ添加してポジティブビーズポピュレーションを導入します。
- 各チューブを6-8秒ボルテックスします。
- 室温(20–30°C)・暗所で15分間インキュベートします。
- 各チューブにVersaLyse Lysing Solutionを2 mL添加し、速やかに高速で1-3秒ボルテックスします。
- 室温で15分間インキュベートします。チューブを遮光下で静置します。
- チューブを200 x gで5分間遠心し、吸引で上清を除きます。
- 各チューブにPBSを3 mL添加し、ペレットを再懸濁します。
- チューブを200 x gで5分間遠心し、吸引で上清を除きます。
- 各チューブに0.1%のIOTest3 fixative solutionを含むPBSを0.5 mL添加し、ペレットを再懸濁します。
- サンプルのデータ取得準備が整いました。
Ⅱ. フローサイトメトリーによるデータ取得:アプリケーションの初期設定
A. PMTの設定
- 目的の検出チャネルに対応するスキャッター(FS、SS)プロットおよびヒストグラムプロットを作成し、データ取得プロトコルを作成します。ゲーティング領域をスキャッタープロットに設定し、このリージョンにある全ての他のヒストグラムをゲートします。
- 「Protocol Definition」(「Cytometer Control Acquisition Setup」タブの「Parameters」ボタンからアクセスできます)で、使用しないチャネルの選択を解除します。
- プロトコルを「PMT Setting_DURAClone xxx」として保存します(xxxを「IM B Cell」などのパネル名に置き換えます)。
- シングルカラーチューブを測定し、PMTをセットアップします。シングルカラーチューブの各測定の間(「Cytometer Control Acquisition Setup」タブの「setup mode」を有効にしてください)、リンパ球の陰性集団の数値の平均が0.3となるよう、このシングルカラーに割り当てられた検出のボルテージを調整します。
- この設定でFlow Set-Pro beadsを実行します。シングルレットのビーズが見えるよう、FSディスクリミネーターの設定値を下げます(例:FSCディスクリミネーターの値を10にする)。
- 各チャネルのビーズポピュレーションのX-Modeの値を記録します。
- X-Mode ± 10%の値を計算し記録します。
B. 自動標準化のパネル作成
自動標準化パネル作成を実施する前に、「Tools」のプルダウンメニューの「Custom Dye Entries」で、全ての色素が適切に定義されていることを確認します。
- 色素の選択
- 「Tools」のプルダウンメニューから「Custom Dye Entries」を選択します(図1)。
<図1> - 下記のウインドウが開きます(図2)。
<図2> - 選択したい色素がリストに含まれていない場合は、「Dye Name」入力欄に入力します。
- 「Add」をクリックします。
- 追加したい全ての色素に、同じ手順を繰り返します。
- 「Done」をクリックします。
- 「Tools」のプルダウンメニューから「Custom Dye Entries」を選択します(図1)。
- 取得プロトコル「DURAClone xxx.pro」を作成します(xxxを「IM B Cell」などのパネル名に置き換えます)。必要なプロットと適切な停止条件を含むことを確認します。このプロトコルはAutoSetup Application Definitionにおいてデータ取得プロトコル、検証プロトコルとして使用できます。
- 「Autosetup」の定義
- 「Tools」プルダウンメニューから「AutoSetup Application Definition」を選択します(図3)。
<図3> - 次のウインドウで、「Current user only」と「Create New」を選択し、NEXTをクリックします(図4)。
<図4> - 下記の手順で、アプリケーションのBase Protocolとして「PMT Setting_DURAClone xxx.PRO」(II.A.3.で作成済)を選択します。
- 「Browse」から取得プロトコルフォルダの場所を特定し、開きます。
- 「PMT Setting_DURAClone xxxPRO」を選択し、開きます。
- 「Protocol Summary」に適切なパラメータが含まれていることを確認します(図5)。
<図5> - NEXT をクリックします。
- このアプリケーションはStandard Filter Blockを使用しているため、「Standard Filter Block」を選択し、NEXTをクリックします(図6)。
<図6> - 色素を選択するか、適切な色素が表示されていることを確認し、NEXTをクリックします(図7)。
<図7> - 次のウインドウでは、Flow-Set ProのX-Mode targetsの初期値は変更せず、そのままにしてNEXTをクリックします(図8)。
<図8> - アプリケーションに、“AS DURAClone xxx”などの適切な名前を付けます(xxxを「IM B Cell」などのパネル名に置き換えます)。(プロトコルフォルダコンテンツ構成のため、ファイル名はASで始めることをお勧めします。)NEXTを選択します(図9)。
<図9> - 「Create a verification Protocol」ボックスが選択されていないことを確認します(図10)。
<図10> - 「Add additional verifier」を選択し、プロトコル「DURAClone Verify xxx.PRO」を検証プロトコルとして選びます(図11)。
<図11> - 次のウインドウで「NEXT」を選択します。
- 「FINISH」 を選択し、「Application Definition Report」を確認します(図12)。
<図12>
- 「Tools」プルダウンメニューから「AutoSetup Application Definition」を選択します(図3)。
- ターゲットレンジの入力
- 「AS DuraClone xxx_STAND.pro」を開きます。
- 各ヒストグラムのライナーリージョンを右クリックしてリージョンプロパティを選択し、計算で求めた各チャネルのX-Mode ±10%の値を入力します(セクションII.A.7参照)。
- プロトコルを保存します。
C. コンペンセーション設定
- 「AutoSetup Scheduler」を実行します。
- Toolsバーメニューから、「AutoSetup Scheduler」を選択します(図13)。
<図13> - 「AS DURAClone xxx」を選択し、カローセル番号を入力します(図14)。
<図14> - 「Schedule」 を選択します。
- 次のウインドウが表示されます(図15)。
<図15> - 「Close」を選択してウインドウを閉じます。
- 「Application Manager」ウインドウにワークリストが作成されます。下記のように、ワークリストを完成させてください。
- 「Sample ID 1」を入力します。このサンプル名が、全てのチューブに付けられます。
- ワークリストの「Protocol」欄に記載されているチューブ順に、「Sample ID 2」を入力します。
- ポジション1:Flow-Set Pro
- 次のポジション:対応するシングルカラーチューブ
- 最後のポジション:DuraClone Verify Multicolorチューブ
- チューブ1に、Flow-Set™ Pro beadsを10~20滴添加します。
- カロ―セルを使って、対応するチューブを適切にロードします。
- アプリケーションを実行します。
- 「AutoSetup Wizard」ウインドウで、「Automatically approve Steps」のチェックをはずします。
- 「Auto adjust disable」 にチェックを入れます。
- PMT電圧を変えずにデータを取得します。
- データ取得が終わったら、「Next」をクリックします。
- スキャッタープロットのゲーティング領域をリンパ球ポピュレーションまたはVersaComp beadsに合わせます。
- 蛍光ヒストグラムの陽性リージョンを陽性のピークを囲むよう調整し、「Next」をクリックします。
- 各シングルカラーチューブで、前の2ステップ(5-6)を繰り返します。
- Verify Multicolorチューブを実行し、染色パターンとポピュレーションの妥当性を検証します。
- 染色パターンの妥当性が確認できた場合は、設定を承認し、保存します。染色パターンが妥当でない場合は、セクションCを(3は除いて)もう一度行います(図16)。
<図16>
Ⅲ. フローサイトメトリーでのデータ取得:ルーチンの使用
ルーチンで使用する前に、Flow-Set Proビーズを実行してPMTの検出シグナルの安定性を確認します。
- 「AS_DURAClonexxx_STAND.pro protocol」プロトコルを呼び出します。
- Flow-Set Pro beads(のみ)を測定します。
- データを取得したら、ピークポジション値を検定します。
- ケース1:ターゲットが一致する場合
- プロットと設定を印刷します。
- 取得プロトコル「DURAClone xxx.pro」を開き、以前保存した「cytosettings」でサンプルを実行します。ワークリストの「Sample ID」欄にサンプル名を入力し、リストを作成することをお勧めします。
- ケース2:ターゲットが一致しない場合
- プロットと設定を印刷します。
- 「Return」をクリックします。
- 一致しなかったPMTについて、ターゲットが一致するまで各電圧を5ボルトずつ上げて調整します。
- 「Acquire」をクリックします。
- データ取得終了後、ピークポジションを検定します。
- ターゲットが一致しない場合は、2.~5.を繰り返します。
- 「Abort」をクリックします。
- プロットと新規の設定を印刷します。
- 取得プロトコル「DURAClone xxx.pro」を開き、新規のPMT設定を入力して、プロトコルを保存します。
- サンプルを実行します。ワークリストの「Sample ID」欄にサンプル名を入力し、リストを作成することをお勧めします。
- ケース1:ターゲットが一致する場合
* Navios ハイエンドクリニカルフローサイトメーター
届出番号:13B3X00190000021
一般医療機器(特定保守管理医療機器、設置管理医療機器)
**Alexa Fluor is a trademark of Molecularr Probes, Inc.
DURAClone試薬キットは研究用試薬です。診断には使用できません。