g-Max:ベックマン・コールターの多機能な超遠心用製品群への性能追加
内容タイプ: Application Note
著者:
Chad Schwartz, Ph.D., Application Scientist I
Randy Lockner, M.S., Centrifugation Marketing
Randy Pawlovich, Director of Product Management & Strategy
Beckman Coulter, Inc., Indianapolis, IN 46268
g-Maxシステムを利用することでベックマン・コールターの超遠心ロータに次のような便利な性能を追加することができる:
- 容量の柔軟性
- 最大限の効率性
- ヒートシール技術
容量の柔軟性
ロータキャビティ内のチューブサポートをユニークな形で利用するg-Maxは、効率性を高める一方で遠心加速度を低下させることなく、小容量のサンプルを垂直、固定角、およびスウィングバケットロータで遠心することを可能にするシステムである。この革新的なシステムでは、ベックマン・コールターが特許を保有しているベルトップ式のポリプロピレン製Quick-Seal1チューブおよびフローティングスペーサを使用する。従来のスリーブタイプのアダプタとは異なり、g-Maxのスペーサはチューブの上に「浮いて」いるため、サンプルがチューブキャビティの最大半径の位置に保たれるようになっている。これはつまり、手持ちのロータで効率良く小容量の遠心を行えるということである。
最大限の効率性
ペレット化を行うアプリケーションでは、分離にかかる時間が短縮される。チューブの底部でペレットを形成するまでに粒子が移動する必要のある距離(沈降経路長)を短縮することで、g-Maxテクノロジーは研究者の作業時間を大幅に削減し、効率を向上させることができる。
図1:固定角ロータにおいてg-Maxシステムを使用した場合、フルサイズのチューブおよび従来型のアダプタのどちらと比べても、大きな利点がある。 |
ヒートシール技術
Quick-Sealチューブは、すべてのスウィングバケットロータ、垂直チューブロータ、近垂直チューブロータ、およびほとんどの固定角ロータで使用できるよう設計されている。チューブには多くのサイズがあることに加えて、3種類のデザイン(ドームトップ、ベルトップ、およびコニカルベルトップ)が提供されている。Quick-Sealチューブは、バイオハザードによる汚染の可能性がある場合には特に有用である。キャップを使うことなくチューブをヒートシールするため、非常に確実な密封方法であり、研究者の安全と研究環境の清潔さを守ることができる。
固定角ロータ
BSA粉末をPBSに溶解し、280 nmにおける吸光度が1.0 ODとなるようBSAストック溶液を調製した。サンプルのOD測定には、光路長10mmのベックマン・コールター製DU730紫外/可視分光解析システムを使用した。PBSを用いてBSAを0.4および0.9 ODの作業濃度にまで希釈した。
ロータやチューブの効率については、k-ファクタが優れた尺度となる。この尺度から、沈降係数s(Svedberg単位)が既知の粒子をペレット化するのに必要な時間t(時間)の目安を知ることができる―これらの間にはt = k/sという関係性がある。k-ファクタは遠心時間に正比例するため、k-ファクタが低いほどロータの効率が高いということになる。表1には一例として、Type 70.1 TiおよびType 90 Tiロータを使用した場合に、g-Maxシステムが、従来のアダプタやフルサイズのチューブに比べてどの程度優れた性能を発揮するか示した。k-ファクタを比較すると、g-Maxテクノロジーを使用してペレット化操作を行った場合、スリーブタイプのアダプタと比べて、所要時間が3分の1から4分の1になる。また、従来型のスリーブタイプのアダプタの多くは、安定性の点から、ロータの最高回転数で使用することができない。さらに、g-Maxシステムを使用すると、フルサイズのチューブと比べた場合でも遠心時間を短縮することができる。例えば、Type 90 Tiロータで13.5 mLのチューブを用いた場合のk-ファクタは25であるが、6.3 mLのチューブを使用すると14となる。
表1. ロータのタイプによる性能比較 | ||||
アダプタの種類 | 容量 (mL) | 最大回転数 (rpm) | k-ファクタ | 最大RCF |
Type 70.1 Ti | ||||
フルサイズ | 13.5 | 70,000 | 36 | 450,000 |
従来型 | 6.5 | 50,000 | 60 | 212,000 |
g-Max | 6.3 | 70,000 | 24 | 450,000 |
Type 90 Ti | ||||
フルサイズ | 13.5 | 90,000 | 25 | 694,000 |
従来型 | 6.5 | 50,000 | 69 | 197,000 |
g-Max | 6.3 | 90,000 | 14 | 694,000 |
垂直チューブロータ
図2:垂直チューブロータもg-Maxチューブに対応しており、実験デザインに応じて容量を柔軟に変更できる。 |
垂直チューブロータは、遠心時間の短さから、密度勾配遠心に広く使用されている。ベックマン・コールターの垂直チューブロータはすべて、g-Maxシステムを搭載することで、2種類以上のチューブサイズに対応することができる。このタイプのロータで行われることの多い分離操作は、プラスミドDNAの調製である。g-Maxシステムを使用しても沈降経路長は変わらないため、遠心時間を短縮する効果はないものの、垂直ロータの容量を柔軟に変更できることによって、貴重なサンプルを節約したり、希釈効果が大きい場合にはこれを軽減したりすることが可能になる(図2)。
スウィングバケットロータ
図3:スウィングバケットロータは、g-Maxシステムを使用することで最も大きな利点を発揮するロータである。 |
g-Maxシステムの大きな利点、特にスウィングバケットロータを使用する際に発揮される利点の1つは、二次的な封じ込めを行えることである。Quick-Sealチューブにはキャップがなく確実に密封できるため、生物学的な危険がある場合や放射性物質を使用するアプリケーションにおいては、これ以上に実用的な方法はないと言える。g-Maxのフローティングスペーサを使うことで沈降経路長が短縮されるため、バンド間の容量が大きくなっても問題ない場合には、時間を最大限節約することができる。さらに沈降経路長の短いチューブを使えば、容量を柔軟に調節でき、遠心時間を短縮できることに加え、バンド間の容量を減少させることも可能である(図3)。
ロータのタイプごとの利点
g-Maxシステムは、すべてのタイプのロータにおいて、一般的なチューブやスリーブアダプタよりも優れた遠心環境を提供できるが、なかでも最も特長が生かされるのは、固定角およびスウィングバケットロータの場合である。表2には、3つの主要なタイプのロータについて、g-Maxシステムを使用した場合の利点をまとめた。
表2. 各タイプのロータにおけるg-Maxシステムの利点。 | |||
ロータのタイプ | 容量の柔軟性 | 遠心時間の短縮 | ヒートシール技術 |
垂直チューブ | X | X | |
固定角 | X | X | X |
スウィングバケット | X | X | X |
遠心時間が短縮された使用例:エクソソームの精製
図4:g-Maxテクノロジーを利用することで時間が大きく短縮されたプロトコル。g-Max利用の有無を比較して示している。プロトコル修正によって、遠心時間が1時間以上短縮された。 |
エクソソームに関する研究は近年急速に拡大しており、出版される論文数も大幅に増加している。エクソソームは、様々な種類の細胞から放出されて多様な機能を発揮する30-100 nm の小胞であり、癌への関与も多数報告されている。2-6
この興味深い分野をさらに発展させるには、エクソソームの分離プロトコルを改良・効率化することが不可欠である。7 Heここでは、g-Maxテクノロジーを用いて処理時間を短縮し、高収量・高純度でエクソソーム小胞を回収する方法を紹介する。
一般的には、まず培養細胞を低速で遠心してペレット化するステップを2~3回行い、残渣や死細胞を除去する。次に、100,000×gで超遠心を行い、90分間というより長い時間をかけて、エクソソームおよび混入したタンパク質をペレット化する。8ペレットをバッファ(通常はPBS)中に再懸濁した後、密度勾配の上に重層し、18時間遠心する。9各画分を回収して、100,000×gの遠心をさらに1時間ずつ2回行って別々にペレット化した後、電子顕微鏡、粒子サイズ分析装置、またはウェスタンブロットによって特性評価を行い、純度およびサイズを測定する。現在行われているこの方法は、手間と時間がかなりかかるものの、適切な大きさと形状を持った高純度のエクソソームを得ることができる。
ここでは、g-Maxの先進的な技術を利用することで、沈降経路長を短くしつつも高いg力を維持し、実験時間を大幅に短縮する方法を紹介する(図4)。
改良した方法
改良したプロトコルでは、凍結保存されていた細胞を培養し、その生存率をベックマン・コールターのVi-CELLで測定した。Vi-CELLは、技術として確立されているコールター原理を利用し、培養している細胞のサイズ、数、および生存率を正確に知ることができる装置である。生存率の高い細胞を得た後、細胞培養サンプル25 mL(6×105細胞/mL)を50mLのコニカルチューブに移し、50 mL用のコニカルアダプタを装着したSX4750Aロータにセットして、Allegra X-15R卓上遠心機で750×g、10分間の遠心を行った。その後上清を回収し、2,000 x gで20分間遠心した。この上清からさらに細胞残渣を除去するため、15 mLのQuick-Sealチューブを使用し、Optima XPN超遠心機にSW 32 Tiロータを装着して、10,000×gで再び20分間遠心した。再度上清を回収し、0.22 μmのメンブレンでろ過した後、15 mLのQuick-Sealチューブに入れ、g-Maxアダプタを使用して100,000×g、40分間の遠心分離を行った。今度は上清を吸引し、1x PBSに再懸濁してペレットを回収した。
ベックマン・コールターのBiomek 4000ラボオートメーション用ワークステーションを使用することで、図5に示した容量および密度の密度勾配を重層する際に、迅速で均一かつ再現性高くこの操作を実施することができた。再懸濁したエクソソーム(1 mL)を密度勾配の上に重層し、100,000 x g、4˚Cで18時間遠心した。
各画分を上から500 μl採取し、隣接した3つの画分ごとに混合して、混合後の総容量が1.5 mLとなるようにした。次に、サンプルを1.5 mLのQuick-Sealチューブに移し、g-MaxアダプタとともにOptima MAX-XP超遠心機を用いて100,000×g、4℃で45分間遠心した。最後に、ペレットをPBSに再懸濁した後、同じ1.5 mLのQuick-Sealチューブおよびg-Maxアダプタを使用し、Optima MAX-XP超遠心機でさらに100,000 x gで45分間遠心して余分なOptiPrepを除去した。最終的なペレットを100 μLのPBSに再懸濁し、純度の分析を行うまで-20℃で凍結した。
図6には、2つの方法で回収した粒子について、サイズに関する特徴をベックマン・コールターのDelsaMaxシステムで評価した結果を示した。文献に記載され一般的に使用されている分離プロトコルおよびg-Maxを使用した改良版の実験手順の両方について、厳密なパラメータとともにDLSを使用し、1.5 mLの画分8種類をすべて分析した。1〜12番目の初期の画分には、直径10 nm未満のところにピークが見られ、タンパク質が多く混入していることが示唆された(データ非掲載)。また、16〜24番目の後期の画分にもタンパク質が多く混入していることに加えて、直径250 nm以上の粒子も含まれていたことから、細胞残渣や他の大きな分子の混入が示唆された(データ非掲載)。
しかし、文献記載のプロトコルとg-Maxを使用する改良版プロトコルの両方において、13〜15番目の画分には、エクソソームであることが示唆されるサイズの粒子(直径約30〜100 nm)が含まれていた。このことは、密度勾配によってエクソソームと混入物質を適切に分離することができ、両プロトコルはエクソソームの分離において同等の効率を有していることを示している。このデータは、g-Maxテクノロジーを使用した方法が、貴重な時間を節約しながらも、正確で再現性のある結果を得られることを示すものである。
図6:密度勾配遠心の後、DelsaMaxを用いて再懸濁したペレットの特性評価を行った。ここでは、g-Maxテクノロジー(赤)(n=9)で分離した粒子のサイズを、文献に記載のプロトコル(黒)(n=3)と比較している。両プロトコルともに、20 nm未満のサイズの粒子が得られたことから、タンパク質の混入が示唆される。しかし、30 nmから100 nmの大きさの粒子は、エクソソームの存在を示している。 |
ロータへの対応
g-Maxチューブは、以下の表にまとめた通り、様々なロータに使用できる。多くのチューブは、3つの主要なタイプのロータに対応している。
g-Max対応チューブ | |||
仕様上の容量 (mL) | 仕様上のサイズ (mm) | パーツ番号 | ロータ* |
Quick-Sealポリプロピレンチューブ | |||
1.5 | 11x25 | 344624 | SW 60 Ti, TLA-120.2, MLA-130, MLA-150, TLS-55 |
2.0 | 11x32 | 344625 | SW 60 Ti, TLA-120.2, MLA-130, MLA-150, TLS-55 |
2.0 | 13x25 | 345829 | Types 100 Ti, 50.4 Ti, 50.3, NVT 100, NVT 90, NVT 65.2, VTi 90, VTi 65.2, SW 50, TLA-110, TLA-100.3 MLS-50 |
3.5 | 13x30 | 349621 | Types VTi 90, 100 Ti, TLA-110, TLA-100.3 |
3.5 | 14x25 | 355870 | SW 41 Ti, SW 40 Ti |
4.2 | 16x32 | 356562 | Types 90 Ti, 70.1 Ti, 65, 40, SW 32.1 Ti, SW 28.1, MLA-80, MLN-80, MLA-55 |
5.1 | 13x51 | 362248 | Types VTi 90, 100 Ti |
5.9 | 14x47 | 355537 | SW 41 Ti, SW 40 Ti |
6.3 | 16x44 | 345830 | Types 90 Ti, 80 Ti, 70.1 Ti, 65, 50 Ti, 50, 40, NVT 65, VTi 65.1, SW 32.1 Ti, SW 28.1, MLA-80, MLN-80, MLA-55 |
8.0 | 16x57 | 344621 | Types 50, NVT 65, VTi 65.1 SW 32.1 Ti, SW 28.1, MLA-80, MLN-80 |
10.0 | 16x67 | 344622 | Types 90 Ti, 80 Ti, 70.1 Ti, 65, 50 Ti, 40, NVT 65, VTi 65.1, SW 32.1 Ti, SW 28.1, MLA-55 |
15.0 | 25x38 | 343664 | Types 70 Ti, 60 Ti, 55.2 Ti, 50.2 Ti, VTi 50, SW 32 Ti, SW 28, MLA-50 |
27.0 | 25x64 | 343665 | Types 70 Ti, 60 Ti, 55.2 Ti, 50.2 Ti, 42.1, VTi 50, SW 32 Ti, SW 28, MLA-50 |
33.5 | 25x83 | 344623 | Types 70 Ti, 60 Ti, 55.2 Ti, 50.2 Ti, SW 32 Ti, SW 28 |
Quick-Sealポリプロピレンコニカルチューブ | |||
1.3 | 11x35 | 358655 | SW 60 Ti |
4.0 | 14x48 | 358650 | SW 41 Ti |
8.4 | 25x38 | 358652 | SW 32 Ti, SW 28 |
22.5 | 25x76 | 358654 | SW 32 Ti, SW 28 |
28.0 | 25x83 | 358651 | SW 32 Ti, SW 28 |
Quick-SealUltra-Clearチューブ | |||
15.0 | 25x38 | 344324 | Types 70 Ti, 60 Ti, 55.2 Ti, 50.2 Ti, VTi 50, MLA-50 |
27.0 | 25x64 | 344323 | Types 70 Ti, 60 Ti, 55.2 Ti, 50.2 Ti, VTi 50, MLA-50 |
薄肉ポリプロピレン、コニカルチューブ | |||
1.5 | 11x35 | 358117 | SW 60 Ti |
References
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