高速冷却遠心機に搭載の優れた"空気摩擦熱減少システム"

空気摩擦熱減少システムによる
温度制御・ロータ加速度・エネルギー効率の向上

ベックマン・コールターの高速冷却遠心機には、50 年以上にわたり空気摩擦熱減少システム(FRS)が搭載されています。FRS は、それまでの高速冷却遠心機の遠心効率と処理容量の改善を目的として採用されました。実際にFRS を搭載した高速冷却遠心機は、従来のFRS 非搭載の高速冷却遠心機と比べ、温度制御の安定性の向上ロータ加速度の向上遠心駆動装置の耐久年数の延長、そして運用コストを低減させつつ、処理容量が多い大型のロータや高い遠心力で遠心可能なロータの使用を実現しました。このアプリケーションノートでは、FRSの優れた点と、FRS が実現した大幅な性能の向上により、ベックマン・コールターの高速冷却遠心機Avanti JXN シリーズのユーザが得られる利点についてご紹介します。

 

そもそも、FRS とはどのようなシステムかご存じでしょうか?FRS の心臓部は、遠心機本体のチャンバー内から空気を吸いだし、ロータの回転中にチャンバー内を1/4 気圧まで減圧する、強力な真空ポンプです。FRS によって、高速冷却遠心機の2つの主要なシステムである駆動システムと冷却システムへの負荷を軽減でき、高速冷却遠心機の信頼性を高めます。チャンバー内の部分的な空気を排出することで、ロータ回転時に発生する摩擦熱や空気抵抗を大幅に減少させ、遠心機の駆動システムのエネルギー効率を高めることができます。

Avanti JXN シリーズのFRS は、遠心中、本体内に搭載された 真空ポンプでチャンバー内の圧力を下げます。 また、その空気はろ過され、本体からラボ内に排出されます。

利点1:遠心加速度の向上

遠心機の最大遠心加速度は、ロータの形状や重量、モーターの出力、回転中のロータとチャンバー内に残存する空気により生じる摩擦や空気抵抗など、いくつもの要因で決まります。

 

FRS により回転運動中のロータにかかる空気抵抗が低減され、その結果、高速冷却遠心機はスムーズな加速や最大速度を容易に維持できるようになり、遠心加速度は向上します。


利点2:温度制御の向上

大容量ロータなどの表面積が大きなロータで高速冷却遠心を行う際は、FRS がより高い精度でロータ温度を制御します。ここで代表的なロータであるJA-14.50 を例に、FRS の利点を分かりやすく説明します。このロータの最高回転数14,000rpm で遠心した場合、ロータの回転軸から最も遠い位置(最大回転半径 :rmax)でのロータの表面速度は最高845 km/ 時に達します。このような高速での遠心時、空気が存在しているチャンバー内では、空気と高速回転するロータの間に大きな摩擦力が生じ、ロータ表面から大量の摩擦熱が発生します。一方、FRS によって減圧されたチャンバー内では、この摩擦力は減少しロータの摩擦熱の発生を容易に抑えることができます。つまり、FRS を搭載していない高速冷却遠心機では、チャンバー内の摩擦熱による大きな温度変動を制御することは大変難しく、設定した温度を一定に保つことが困難なことから、電力を消費する大型で強力な冷却機能を有するコンプレッサーを搭載する必要があります。


利点3:遠心機の耐久年数の延長

ベックマン・コールターの高速冷却遠心機は、長期間使用できるよう耐久性に優れた設計がされています。FRSによるチャンバー内の減圧は、駆動システムや冷却システムのコンプレッサー、ロータ自体への負担を軽減できるため、高速冷却遠心機の耐久性をさらに高めます。


利点4:エネルギー効率の向上

高速冷却遠心機Avanti JXN シリーズは、摩擦熱と空気抵抗を大幅に減少します。Avanti JXN シリーズは、ロータが設定した回転数に到達するまでの加速中にチャンバー内が減圧され1/4 気圧に到達します。チャンバー内の気圧が1/4 気圧に達すると、FRS の真空ポンプは一旦停止し、これ以降、チャンバー内の最適な減圧状態を維持するために必要な場合のみ真空ポンプが作動する「スマートシステム」機能が稼働します。この機能により、ロータの温度制御を向上させるとともに、エネルギー消費を節約することができます。


利点5:運用コストの低減

FRSを搭載したベックマン・コールターの高速冷却遠心機とロータを組み合わせて使用することで、耐久年数の延長とエネルギー効率の向上に加え、ラボの運用コストの削減にも貢献します。回転するロータの空気抵抗を減少させることで、高速冷却遠心機のドライブの加速と最高速度での遠心の維持が容易になります。さらに、チャンバー内の温度を下げ、設定温度を維持するために使用される冷却用コンプレッサーが必要とするエネルギー消費量を低減できるため、より効率的に低温状態を維持することができます。FRS を搭載した高速冷却遠心機は、耐久年数が長く、ラボ内の環境負荷を最小限に抑え、さらに運用コストも削減することが期待できます。


利点6:安全性の向上

ベックマン・コールターの高速冷却遠心機に搭載されているFRS のもう一つの利点は、ラボの安全性の向上です。多くの研究者はバイオセーフティ対策が必要な生物学的に危険性のあるサンプルや、ごくまれに放射性サンプルの遠心を行います。FRS はチャンバー内を部分的に真空状態とする機能のため、チャンバーと真空ポンプを接続している流路に医薬品グレードの高性能捕集フィルタシステムを組み込むことができるため、万一、遠心中のチューブやボトルの破損により病原体を含むエアロゾルやその他の微細粒子が漏出した場合でも、高性能捕集フィルタがこれらの危険物を捕集できるため、ラボ内の大気に暴露されることを防ぎ研究者の安全を確保できます。さらに、FRS はロータの安全性ならびに互換性を確認するためのパラメータとして空気抵抗を利用していることから、機械的な安全性の向上にも寄与します。FRS 非搭載の高速冷却遠心機では、チャンバー内の空気抵抗の確認が困難であることから、ロータの故障や転倒事故の発生を未然に防止する機械的な安全性が脆弱であることが懸念されます。


おわりに

FRS を搭載したベックマン・コールターの高速冷却遠心機Avanti JXN シリーズは、大容量ロータや高遠心力ロータ使用時のロータ速度や温度制御の精度を向上させることができ、機能面で数多くの利点があります。また、FRS は遠心機駆動システムや冷却システムにかかる負荷を軽減させ、全体的な遠心システムの信頼性を高めます。さらに、チャンバー内の減圧時の空気の排出流路に、医薬品グレードの高性能捕集フィルタシステムをオプションとして導入することで、バイオセーフティ対策等の安全性も改善されます。最後に、高速冷却遠心機Avanti JXN シリーズはFRS を標準装備しているため、エネルギー効率を高めつつ、遠心性能と安全性の向上を実現した、先進的かつ高性能な高速冷却遠心機です。


著者

    Chad Schwartz, Ph. D., Application Scientist
    Beckman Coulter Life Sciences, Indianapolis, IN USA

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