吉岡 祐亮 先生
今村 朋美 様
東京医科大学 医学総合研究所
分子細胞治療研究部門
細胞外小胞(Extracellular Vesicles:EV)は、ほぼすべての細胞から分泌される脂質二重膜に包まれた微粒子です。EV は、タンパク質、核酸、代謝産物など、様々な分子を輸送する細胞間のコミュニケーションにおいて重要な役割を果たし、血液凝固、組織修復、神経伝達、ウイルス感染後の免疫応答、恒常性の維持など、多様な生理機能の調和に寄与することが報告されています。一方で、がんにおける転移促進や免疫逃避、神経変性疾患における病的タンパク質の伝播など、病態形成にも深く関与していることが明らかとなっています。したがって、EV の構成分子や放出動態を解析することで、疾患の診断や治療への応用も期待されています。EV は生理と病理の両側面をつなぐ鍵として、基礎・応用の両面から多くの可能性を秘めており、今後の進展が注目される研究分野です。
しかしながら、EV 研究をさらに発展させるためにはいくつかの課題が存在します。EV はサイズや由来、分子構成において非常に不均一であり、分離・精製や解析手法の標準化は十分ではありません。また、EV 研究の報告項目や用語運用の指針となるMISEV(Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles)等の推奨に対する遵守にはばらつきがあります。例えば、"exosome" や"ectosome" といった用語が生成経路(エンドソーム由来/膜出芽由来)の観点をまたいで便宜的・互換的に用いられる例が依然として見受けられます。さらに、単一で普遍的なEV マーカーは想定されず(目的や試料に応じたパネル化が前提)、由来細胞の特定は依然として困難です。これらは、研究の再現性や比較可能性を損なう要因となっています。この背景から、単一粒子レベルで測定でき、コントロール設計が容易なフローサイトメーター(FCM)によるシングルEV 解析が、測定系の標準化を進めやすい手段として注目されています。すべての課題を一挙に解決するわけではありませんが、共通指標と手順を共有することで再現性と比較可能性の改善に寄与します。
本アプリケーションノートでは、EV 研究の歴史的背景を振り返りながら、EV 研究が複雑になりがちなポイントを整理します。続いて、EV 研究を進める上で役立つ視点で、代表的な超遠心法によるEV 回収、それら回収したEV をFCM でのシングルEV解析につなげる染色プロトコルの検討と解析のコツ、そして、得られたデータの解釈までを流れにそって順番に紹介します。なお、本アプリケーションノートではナノフローサイトメーター CytoFLEX nano(以下、CytoFLEX nano)を用いたシングルEV解析を例に、実データとともにFCM の強みと現時点の限界を整理することで、日々の検討の一助となることを目指します。
EV 研究の正確な出発点を決めるのは難しいです。しかし、少なくとも生物学的意義が実験的に示されはじめたのは、1980 年代初頭とされています。一方で、現在では、EVといわれるような構造を持つ小胞の発見の経緯に関しては諸説あり、非常に興味深くも複雑です。長年の報告をたどると、EVという言葉が一般化するまでに、分野や時期によって、さまざまな名称が使われ、研究者間で用語の運用にばらつきが生じていました。
EV の存在が広く知られるようになったきっかけのひとつは1983 年にJohnstoneらが行った報告です。羊網状赤血球の培養上清から、超遠心で得られたペレット画分に膜小胞が含まれていることを電子顕微鏡で観察し、細胞から小胞が放出される現象を明瞭に描写した報告として、のちのEV 研究が本格化する端緒となりました。同年には、Stahl らのグループがラットの網状赤血球を電子顕微鏡で観察し、トランスフェリン受容体陽性の小胞がMVB(多小胞体)から放出される瞬間を切り取った静止像(スナップショット)を報告しました。連続観察が難しかった当時、こうした静止像の積み重ねを手がかりに放出過程のイメージが形づくられていきました。これらの報告を総合すると、細胞外へ放出される膜小胞が、受容体の処理や膜トラフィックなどの物質輸送や排出に関与しうることが示唆されました。まずは「何を担う小胞なのか」(例:受容体処理・不要成分の排出)が問われ、ついで「どこで生まれるのか」(MVB 由来か膜出芽か)の議論が広がりました。
1983 年の研究を発展させた同じJohnstoneらは1987 年の論文で、網状赤血球の成熟過程における不要成分(主にトランスフェリン受容体)を排出に関与する小胞に"exosome”という名称を与えました。この報告は “exosome” をMVB 由来の小胞という現在の意味合いで定義づけ、広める契機となり、EV の命名史における重要な転機となりました。
1960 年代後半以降、とくに1980 年代から1990 年代にかけて、EV に対して分野や時期ごとにさまざまな名称が併存しました。たとえば、血小板由来の小胞は1960 年代後半に platelet dust や microparticles として報告され、EV に相当する現象の最初期の報告の一つとして言及されています。1981 年には Trams らが細胞表面から剝離する小胞に “exosome” の語を用いました(現在の MVB 由来の exosome とは対象が異なります)。同様にTramsらは1981 年に“microvesicles”という呼称を用いました。また、1980 年代前半には別グループにより、一方、1983 年には別グループが前立腺由来小胞に対して、組織名に基づく “prostasome” を提案しました。1983 年には別グループが前立腺由来小胞に対して組織名に基づく“prostasome”を提案しました。さらに、1990 年代には細胞膜出芽由来を指す “ectosome” という呼称も用いられるようになりました。当時は、これらが同種の小胞と見なされ、分野ごとに独自の呼称が併用されていました。のちに観察手法や分子解析が進むにつれ、生合成起源(MVB 由来/膜出芽)やサイズ分布、表面分子が異なる粒子群の併存が明らかとなり、用語や基準の整理が課題になっていきました。
このような課題を解決するため、2011 年に「International Society for Extracellular Vesicles(ISEV)」が設立されました。翌年には初の国際学会が開催され、前段で挙げた「用語や基準の整理」に向けた取り組みが本格化しました。ISEV は、EV 研究の標準化に関する「MISEV(Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles)」を策定し、研究に必要な“最小情報”の提示と用語運用の推奨を示しています。これまでに2014 年、2018 年、2023 年の3 回にわたって改訂され、内容が継続的に更新されています。
MISEV では、上記の小胞を包括する用語として “extracellular vesicle(EV)” の使用を基本とすることを推奨しています。その理由は、EV が非常に不均一な集団であり、サイズや由来だけでは安定した分類が困難なこと、現在の技術では、生合成起源の違いで選択的に分離するのが難しいこと、そして、単一で普遍的な分子マーカーが現時点では想定されないことにあります。このため、まずはEVという総称を用い、証拠がある場合に限って補助的なラベル(例:endosome-derived EV(exosome)、ectosome、 small EV、CD63+ EVs など)を併記する運用が現実的です。一方、広報・製品名など一般向けの文脈では“exosome”という言葉が用いられる場面もありますが、研究記述では定義やエビデンスに沿った用語の使用を心がけることが、EV 研究の比較可能性と信頼性の向上につながります。
EV は“多様な粒子が混在する集合体”として扱う必要があります。こうした集団を正しく理解し、適切に分類するには、個々のEV を粒子単位で読む技術=シングルEV 解析が欠かせません。というのも、EV は1 つの小胞内に複数の分子を同時に積み込むため分子構成が一様ではなく、1 粒子で複数項目を同時測定して共発現やサブポピュレーションを捉えることで、初めて実像に近づけるからです。逆に、バルク(集合同定)の平均信号だけでは、少数派の集団や特徴的な組み合わせが埋もれ、“EV が伝えるメッセージ”を見落とすおそれがあります。この観点から、シングルEV 解析に適したFCM が注目されています。
現在、さまざまなEV の回収・分離方法が知られています。それぞれ原理が異なり、一長一短がありますので、各方法の特性を理解し、目的に合った方法を選ぶのがよいでしょう。ただし、どの方法がよいか迷ったときや、まずはEV を回収して実験に使ってみたい場合は、標準的に用いられている超遠心法を選ぶのがおすすめです。本アプリケーションノートで扱うEV も、超遠心法で回収したものを用いています。具体的なプロトコルは、こちらをご参照ください。
CytoFLEX nano では、最大6色の蛍光を同時に検出することができます。本アプリケーションノートではコンペンセーションが必要ない3色を用いて、EV 膜染色およびCD9とCD63 の2つのEV マーカータンパク質の抗体染色を同時に検出する方法をご紹介します。通常、抗体染色の測定では、同時にアイソタイプコントロール(IC)抗体で染色したEV サンプルを測定する必要がありますので、用意するサンプルは以下の3つです。
| 膜-DeepRed (Ex 640 nm / Em 640 - 760 nm) |
CD9-Pacific Blue™/ IC-Pacific Blue™ (Ex 405 nm / Em 455 nm) |
CD63-PE/IC-PE (Ex 488 / 565nm / Em 575 nm) |
|
|---|---|---|---|
| A) 未染色 | – | – | – |
| B) IC抗体染色 | – | ◯(IC) | ◯(IC) |
| C) 3重染色 | ◯ | ◯(CD9) | ◯(CD63) |
EV サンプルは大腸がん細胞株であるHCT116 の培養上清から超遠心法にて回収したものを用いました。超遠心法のプロトコルは第3 節 EV の分離・回収技術を参照してください。
使用試薬・機器
膜染色
膜染色と抗体染色を組み合わせる場合は、膜染色を先に行うことをおすすめします。膜染色と抗体染色を行う順番によって、抗体での染色効率が変化することがあります。その理由は確かではないのですが、抗体染色を先に行った場合、続く膜染色の工程(カラムを用いた洗浄など)で抗体が外れることが考えられます。ここでは、ExoSparkler を用いた膜染色の方法を示します。
抗体染色
装置の取扱い方法やソフトウエアの基本的な操作方法はCytoFLEX nano クイックガイドを参照してください。ここでは、EVサンプルの測定手順を示します。なお、測定に必要なサンプル容量は、150 μL 以上です。
本節では、第5 節で取得した CytoFLEX nano のデータについて、解析し、考察します。実施した主な項目は、EV 膜染色と、抗CD9 抗体・抗CD63 抗体を用いた免疫染色です。さらに、EV の粒子サイズについてはFCMPASS™ を用いて解析し、その結果もあわせてご紹介します。
まずは、散乱光による微粒子の検出結果です。図1 は、横軸にVSSC1-H をとったヒストグラムです。CytoFLEX nano には、405 nmレーザーのViolet Side Scatter(VSSC)検出器が2 系統(VSSC1 とVSSC2)搭載されています。VSSC1 は高感度ですが、そのぶん測定レンジはやや狭めです。一方、VSSC2 は、感度は劣るものの、広いレンジをカバーする設計です。したがって、small EV のような100 nm 前後の微小粒子を主な対象とする場合は、VSSC1 を用いるのが適しています。VSSC1 の値が大きいほど、より大きな粒子であることを示します。5-2 で設定したThreshold は、サイズの小さなデブリを取り除き、EVと微小デブリを切り分けるためのものです。ただし、EVと同程度の大きさのデブリについては、VSSC1 だけでは区別できません。そこで、EV の膜を染色し、EV 由来イベントがどの程度を占めているかを確認しましょう。
EV の膜染色の手順は、第4 節【膜染色】に記載のとおりです。使用する色素の波長(色)は、併用する抗体の蛍光標識と重ならないように選べばよく、手順自体は同じです。本アプリケーションノートではDeep Red(深赤)系の色素を用いました。図2-1は、横軸に膜染色の蛍光強度をとったヒストグラムです。未染色EV を基準に、偽陽性率が約0.5%となるよう陽性判定のカットオフを設定し、同一条件で膜染色試料を評価したところ、94.7%が膜染色陽性でした(図2-1、手順は前節参照)。この結果から、今回の条件では EV サンプル中の微小デブリ(非EV 粒子)の混入は相対的に少なく、設定したThreshold のもとで検出された微粒子の約95% が膜染色陽性=EV 由来と判断できます。
続いて第4 節【抗体染色】に手順に従い、 CD9 と CD63 を染色した結果を示します(図2-2, 2-3)。染色効率をより正確に見積もるため、解析の母集団は EV膜染色陽性イベント(EV+)に限定しました。抗体染色では、前節のとおりIC 抗体で染色したEV サンプルを陰性対照とし、偽陽性率が約 0.5%となるよう陽性判定のカットオフを設定しました。その結果、CD9 陽性は42.7%、CD63 陽性は11.4%でした。さらに、CD9・CD63 の共陽性(CD9+CD63+)は7.7%、CD9単陽性(CD9+CD63-)は35.1%、CD63 単陽性(CD9-CD63+)は3.8%となりました(図3)。このように、一般にEV マーカーとされるCD9 やCD63 であっても、すべてのEV に一様に存在するわけではなく、一部のEV に限られることが示されました。ただし、陰性は「不検出」であること意味し、分子がゼロであることを示すものではありません。検出には一定数の抗体結合が必要であり、使用する蛍光色素の明るさや機器感度、設定した陽性判定のThreshold によっては、分子の存在量(EV 表面密度)が少ない場合に陰性へ分類されることがあります。さらに、抗体クローンによる親和性・エピトープ認識の違いや、エピトープへのアクセス性の差(立体障害など)によっても、検出感度は変動します。
最後に、FCM データからEV のサイズを推定する方法を紹介し、その結果を示します。一般的な細胞測定では、Forward Scatter(FSC)を大きさの目安として用います。FSC は、粒子がレーザー光を前方(進行方向)へどれだけ散乱したかを測る信号で、細胞サイズ域では前方散乱がおおむね粒子(細胞)の大きさに比例するためです。一方、EV のようなナノサイズの微粒子ではFSC の感度が不足しやすく、屈折率の影響も相対的に大きいため適しません。そこで、本アプリケーションノートでは、粒子がレーザー光を側方へどれだけ散乱したかを表すSide Scatter(SSC)を用いてEV の粒子サイズを推定します。SSCは単純な直線関係ではなく、粒子径・屈折率・レーザー波長・検出光学系(集光角)に依存し、ナノ領域ではミー散乱(Mietheory)で記述されます。ミー散乱に自力で当てはめてサイズを推定することも理論上は可能ですが、数式処理に加えて装置固有の光学条件(集光角など)の推定が必要で、一般的な研究室ではハードルが高いのが実情です。そこで本アプリケーションノートでは、アカデミアで利用可能なソフトウエアFCM PASS™ とキャリブレーション用ビーズ、そしてFCM のSSC データを組み合わせて、サイズを推定します。FCM PASS™ の詳細とプロトコルは、ベックマン・コールターのウェブサイトに掲載されています(日本語ページ)。こちらをご参照ください。
簡単な流れとしては、
というステップで、VSSC データをサイズ分布へと変換します。それでは、実際にFCM PASS™ でサイズ推定したデータを見てみましょう。
使用したEV は、前立腺がん細胞株PC3MLの培養上清から回収したものです。サイズの違いを確認するため、同一バッチの培養上清からlarge EV(lEV)とsmall EV(sEV) に分けて回収しました。本アプリケーションノートの標準プロトコルと異なる点は、フィルトレーションを行わず、粗遠心後の上清を15,000xg・40 分間遠心したペレットをlEV としたことです。さらに、その遠心後の上清を超遠心してsEV を回収しました。図4-1 に示すように、VSSC1-H の強度分布はlEV の方がsEV より高く、より大きな粒子を多く含むことが分かりました。ただし、散乱強度だけでは粒子サイズの差の程度は定量できません。そこでFCM PASS™ を用いてサイズ推定を行った結果が図4-2 です。lEV はsEV と比べて100 ~ 200 nm 帯の割合が高く、さらに少数ながら200 ~ 300 nm および400 ~700 nm 帯の粒子も観察されました。以上より、lEV とsEV を目的どおりに分画できていることが確認できました。
本アプリケーションノートでは、FCMを用いたEV の基本的な検出と解析の流れを紹介しました。EV 研究が進むほど、その多様性(ヘテロジェナイティ)ゆえに“平均像”を見るだけでは実態がつかみにくい場面が増えてきます。そんなとき、1 粒子単位で読む=シングルEV 解析が心強い味方になります。バルク解析は、モザイク越しに全体の色味を眺めるイメージです。全体像はつかめますが、タイル一枚一枚の色や並びは分かりません。一方、シングルEV 解析はモザイクを外してピクセル単位で色と配置を確認できるため、少数派のタイルや特定の組み合わせ(共発現やサイズなど)まで見え、元の画に近い細部まで見ること が可能です。
本アプリケーションノートで示した実データでも、シングルEV 解析の利点がはっきり表れました。まず、膜染色の結果から、未染色を基準に設定したThreshold のもとで約95% を膜性粒子=EV 由来と判断でき、解析の母集団をEV に限定できました。バルク解析では、集団のうちどの程度がEV かをこの精度で見積もることは困難です。また、抗体染色ではCD9 陽性率、CD63 陽性率、および共陽性率(CD9+CD63+)を割合として定量できました。これは、集団内サブポピュレーションの比率や共発現の組み合わせを直接評価できることを示しています。バルク解析では平均信号にとどまり、サブポピュレーションの割合を 直接求めることはできません。
本アプリケーションノートでは、このようなサブポピュレーション解析を1 種類で例示しましたが、由来細胞や培養条件の異なるEV を横並びに比較することで、特徴的なEV 集団の抽出や細胞の応答性の可視化につながります。他にも、超遠心、サイズ排除クロマトグラフィー、ろ過や沈殿といった前処理条件の違いが、膜染色陽性率や CD9/CD63 のサブポピュレーション比、サイズ分布に与える影響を横並びで比較できます。さらに、この枠組みはロット間(ロット内・日内・日間)の再現性確認にも利用でき、EV を基盤とした創薬や製造の品質管理(QC)に活用できます。
本アプリケーションノートで示したように、FCMによるシングルEV 解析は、母集団の明確化(膜染色)、サブポピュレーションの定量(CD9/CD63)、サイズ推定(VSSC → FCM PASS™)を同じ測定系の中で行える点が強みです。とはいえ、FCM が出したデータは万能の答えではありません。たとえば、検出限界や屈折率の仮定に依存するサイズ推定、表面分子中心の情報といった前提があるため、電子顕微鏡・NTA・質量分析、ウェスタンブロット法など他法との併用が望まれます。
それでも、単一粒子で“色と並び”を直接読むというFCM の特長は、日々の検討や条件比較、品質管理において持っていて損のない道具であることは間違いありません。本ノートが、読者のみなさまの実験設計と再現性向上の一助となれば幸いです。
FCMには「扱いにくく、解析が難しい」という先入観がありましたが、実際は想像以上にユーザーフレンドリーで、「本当にEVを捉えられているのか」と疑いながら解析を重ねるうちに、EV をきちんと測れているという手応えに変わりました。EV マーカーがすべてのEV に一様ではないことも、頭では分かっていても、自分のデータで陽性率・共陽性率として可視化されると納得感が違います。シングルEV 解析で一度に得られる情報が増え、10 年前に比べて格段に実用的になったと感じます。(吉岡 先生)
FCMに不慣れな状態でCytoFLEX nano を使い始めたため当初は不安がありましたが、QC から測定までの操作も簡便で、すぐに習得することができました。1 年以上にわたり20 回以上使用していますが、QC を通過しなかったことや測定中のエラーは一度もなく、安定性の高さも大きな魅力です。必要サンプル量も少なく、慣れてくると1 サンプルあたり約6 分で測定が可能です。このため、細胞添加試験のために膜標識したEV の染色効率の確認など、これまで十分に評価できなかった部分を補うことも可能になりました。(今村 様)
本アプリケーションで紹介するプロトコルでは、EVと抗体の反応後に、未結合の抗体をカラム等で除去していません。未結合抗体の除去が必要となるのは、解析の際に未結合抗体が偽陽性イベントとして計数され、結果を歪めるおそれがある場合です。標識抗体は蛍光を持つため、凝集などで一定以上の大きさになると、EV 由来でないにもかかわらず陽性として検出される可能性があります。一方、凝集していない未結合抗体はVSSC1 のThreshold を下回るためトリガーされず、原則としてイベントには含まれないと考えられます。そのうえで、抗体のみ(EV なし)の対照を、添加した抗体量や取得時間を含む条件をそろえて測定しました。その結果、EV を含むサンプルでは1 分間の取得で246,924 イベントが検出されました(図A)。一方、抗体のみでは同じ取得時間にもかかわらず768 イベントでした(図B)。このことから、未結合抗体に起因するとみなせるイベントの割合は約0.3%(768/246,924)にとどまり、解析結果への影響は実務上、無視できる水準と判断しました。