フローサイトメトリーによる簡単な17マーカー、18カラーのヒト血液フェノタイピング

Content Type: アプリケーションノート
著者: James McCracken, Ph.D.1, Jonel Lawson1
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はじめに

フローサイトメトリーの能力は、レーザーやより多くの検出器、より優れたシグナル処理が追加されたことによって進化しつづけており、ハイ パラメータ アプリケーションは、特別なラボだけのものから一般的なものへとなりつつあります。ただし、高品質のデータを得るためには、パネルを構成する抗体と蛍光色素の組み合わせを何度も繰り返し測定し、信頼性の高い結果を得るための包括的な試験が必要となることから、こうしたハイ パラメータ アプリケーションを確立するプロセスは、ユーザーにとっては手ごわいと感じられることがあります。しかし、フローサイトメトリーのシグナル検出の革新によって、パネルデザインとデータ生成のプロセスは容易になります。

シグナル検出にAvalanche Photodiode detectors(APD)を用いたことで、CytoFLEXは容易なパネルデザインを可能にする2つの重要な利点を備えています。まず、APDはPhotomultiplier tubes(PMT)に比べて、より広いスペクトル範囲においてより高い感度を示します。次に、この高い光感度によって測定誤差が小さくなり、その結果、広がりが小さくなります(図1)。ハイ パラメータ実験では、spillover spreading(漏れ込みの補正によるネガティブピークの広がり)を最小限に抑えることにより、暗い集団と陰性の集団をより確実に識別できるため、暗いマーカーに対するチャンネル選択はそれほど重要ではなくなります。さらには、DURACloneなどのドライ抗体試薬パネルを使用することによっても、デザインを容易にすることができます。DURAClone IMパネルを「バックボーン」として用いることで、多くのパラメータを事前に最適化し安定した状態に保ったまま、追加の染色を随時行うことが可能です。

CytoFLEXとDURACloneの革新的テクノロジーを組み合わせることにより、ハイ パラメータ実験系を作成する際のデザインやセットアップに要する労力を減らすことができます。このノートでは、CytoFLEX LXDURAClone IM T Cell Subsetパネルを用いて、簡単にパネルをデザインし、信頼性の高いデータを作成する方法を示します。また、CytoFLEX LXには多数の検出チャンネルが含まれていますので、ひとつのDURAClone IMバックボーンを複数の実験デザインやニーズに合わせて変更することで、実験中に生じた新たな質問に素早く答えることができます。ここでは、これらのテクノロジーを用いて18カラーパネルを迅速にデザインし、試験を行った例を説明します。

図1 PMTベースのシステムとAPDベースのシステムの比較

パネルA  ペクトル範囲におけるAPDとPMTの量子効率(QE)、すなわち光子から電子への変換効率を示したグラフ。このように光子から電子への変換効率が高くなることで、測定誤差が小さくなるため、感度および分解能が高くなります。図提供:「フローサイトメトリーにおけるアバランシェフォトダイオード検出器と光電子増倍管検出器の比較(A Comparison of Avalanche Photodiode and Photomultiplier Tube Detectors for Flow Cytometry)」Paul Wallace et al, 2008, Proceedings of SPI, Vol 6859 2

パネルB PMT(左図)とAPD(右図)のSpherotech 8ピークビーズの比較から、特に650 nmを超える蛍光波長でQEが高くなるため、非常に暗いビーズでも分解能が良好となることが示されています。

パネルC  APDベースのシステム(右図)では、PMTベースのシステム(左図)に比べてQEが高いために、隣接する検出器のデータの広がりも小さくなります。

パネルD  DURACloneを使用した場合と使用しない場合の抗体パネルデザインワークフローの比較。DURACloneパネルは、パネルのバックボーンとして事前に最適化し安定した試薬が提供されていることで、より少ない労力で大きなパネルを構築することができます。DURACloneはそれだけ使用するか、より多くの色を試験および追加することができます。

材料および方法

製品

製造業者

製品番号

CytoFLEX Daily QC Fluorospheres

Beckman Coulter Life Sciences

B53230

CytoFLEX Sheath Fluid

Beckman Coulter Life Sciences

B51503

CytoFLEX Daily IR QC Fluorospheres

Beckman Coulter Life Sciences

C06147

VersaComp Antibody Capture Beads

Beckman Coulter Life Sciences

B22804

VersaLyse Lysing Solution

Beckman Coulter Life Sciences

A09777

Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline

CORNING cellgro

21-031-CV

Brilliant Stain Buffer

BD Biosciences

566349

DURAClone IM T Cell Subsets

Beckman Coulter Life Sciences

B53328

CD20 BUV395

BD Biosciences

563781

HLA-DR BUV661

BD Biosciences

565074

CD19 BUV737

BD Biosciences

564304

CCR4 BV605

BioLegend

359417

CD95 BV650

BioLegend

305641

CD25 BV785

BioLegend

302637

CD33 PC5

Beckman Coulter Life Sciences

IM2647U

iFluor860 (IR fixable viability dye)

AAT Bioquest

1408

Whole EDTA blood (24-HR post venipuncture)

N/A

N/A

740/35 Band Pass Filter

Beckman Coulter Life Sciences

B78217

CytoFLEX LX UV

Beckman Coulter Life Sciences

C11186


ヒント

  • 複数のBrilliant Violet色素またはBrilliant Ultraviolet色素を使用する場合は、アーティファクトをもたらす可能性がある色素の相互作用を防ぐため、これらの色素を添加する前にBrilliant Stain BufferをDURACloneチューブに添加しなければなりません。
  • 試薬が十分に混合されるよう、検体の添加後および追加の蛍光標識抗体を添加後、ただちにDURACloneチューブを攪拌(ボルテックス)してください。

結果

図5 17マーカー、18カラーパネルデザイン。上記のパネルに、この試験で用いたマーカーと蛍光色素の組み合わせを示します。10カラーのDURAClone IM T Cell Subsetのバックボーンを赤枠で示します。使用しなかったチャンネルはグレーの網掛けで示します。

図6a 高純度のゲーティング戦略

 

CD4陽性T細胞

図6b CD4 T細胞サブセット解析

 

CD8陽性T細胞

図6c CD8 T細胞サブセット解析

 

B細胞

図6d B細胞サブセット解析

 

 

Compensation Matrix

Hierarchical Gating

図7 コンペンセーションマトリックスおよび階層的ゲーティング

 

この実験では、計3名の健常ドナーから得た静脈穿刺24時間後の検体を試験しました。まず、バックボーンとして10カラーのDURAClone IM T Cell Subsetを用い、パネルを完成させるために8つのマーカーを追加しました。マーカーと蛍光色素の組み合わせは、マルチカラーデザインの標準原則に従い、望ましいマーカーに対する蛍光標識抗体の入手可能性も考慮して選択しました。

詳細なT細胞解析を開始する前に、予備的なゲーティングを行います。IR励起の固定可能な生細胞識別色素を用いて死細胞を除外し、生細胞をゲーティングします。次に、SSC対CD45プロットとして生細胞をプロットし、これを白血球(WBC)の特定のために用います。デブリを除外するため、WBCの周囲にゲートを作成します。リンパ球ゲートは、SSCが低くCD45が高い蛍光プロファイルを持つ集団の周囲に作成します。リンパ球は、ダブレット(凝集細胞)をゲートアウトし、解析から単球(CD33陽性)を除外することで、さらに絞り込めます。最後に、実験中のシステムの流路系および安定性の内部検証として、Timeプロットを追加しています(図6a)。

ここでは、T細胞サブセットで計24個の集団を評価しました。ただし、評価できる集団はこれらに限定されません。この解析を始めるにあたり、まずリンパ球リージョン内にCD3陽性細胞のリージョンを描画します。これにより、NK細胞(CD8)や単球(CD4)などのこれらのマーカーを発現している可能性があるほかの細胞種類から、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞を区別することができます。

CD4陽性T細胞サブセットを詳しく見てみると、CD4陽性CD25陽性T細胞の集団は制御性T細胞を構成しています。このマーカーは非常に暗いことが多く、そのためにデータの広がりの可能性が高いマルチカラーパネルで確実にゲーティングを行うことは難しいことから、信頼性を高めるためにFluorescence minus One(FMO)のコントロールを組み込んでいます。CD4陽性細胞のゲーティングでは、Tregの関数としてCCR4の発現を評価することも可能です。CCR4マーカーは皮膚細胞のホーミングにおいて重要な役割を担っており、CCR4陽性細胞のサブセットはエフェクター制御性T細胞の抑制をコントロールしているといわれています3

CD45RAとCCR7を組み合わせることで、ナイーブ(CD45RA陽性CCR7陽性)、セントラル(CD45RA陰性CCR7陽性)、メモリー・エフェクター(CD45RA陽性CCR7陰性)、エフェクターメモリー(CD45RA陰性CCR7陰性)細胞など、活性化中に起こるT細胞サブセットの様々な段階や経路を調べることができます。各表現型は、CD27とCD28の共刺激分子の様々な発現を調べることで、さらに評価することが可能です。

Program Death Cell-1(PD-1)は、CD28スーパーファミリーに属し、制御性T細胞を活性化しますが、エフェクターT細胞の機能は妨げます。また、CD95は細胞を介したアポトーシスに関与します。CD95は主にメモリーT細胞に発現していますが、ナイーブ表現型の少数のT細胞にもCD95が発現しており、これらはいわゆるメモリータイプの幹細胞様T細胞であると考えられます(図6b)4

CD8 T細胞サブセットに関しても、CD4と同様の手法でCD45RA、CCR7、CD28およびCD27マーカーサブセットを調べています。CD8陽性CD57陽性サブセットは、細胞傷害性が高く、増殖能が低い最終分化T細胞を表しています。このT細胞サブセットにおいても、CD45RAの機能としてCD95の発現が再度評価されています(図6c)。

このパネルでは、T細胞ほど十分に抗体染色されていませんが、CD3陰性集団にB細胞(CD19陽性、CD20陽性、HLA-DR陽性)がゲーティングされていることが観察できます。5,6この集団または他の細胞種類において詳細な情報を得たい場合は、バックボーンパネルのオープンチャンネルを用いて容易に変更することが可能です(図6d)。

 

結論

このアプリケーションノートでは、DURACloneのドライ抗体試薬アッセイをバックボーンとして用いることで、イムノフェノタイピングパネルのより詳細な解析を簡単に実施できることを示しました。まずバックボーンを用い、次にサイトメーターのオープンチャンネルを利用することにより、結果を迅速に得ることができ、また、パネルのいくつかのパラメータが事前に最適化されていることが分かっているという安心を得ることができます。また、この方法は、研究における特定の質問に答えるためにdrop-inの試薬を設定できるため、ラボの柔軟性も高くなります。

さらに、DURAClone IMチューブを使用することにより、試薬の分注に要する時間が削減でき、複数の試薬を複数のサンプルチューブに分注する際に起きる過誤の可能性も低くなります。

さらには、CytoFLEXのAPD検出器の感度により、柔軟なハイ パラメータ パネルデザインが可能となります。発現の弱いマーカーであっても、例えば、CD25 BV786をV763チャンネルにセットするように、そのマーカーを高感度のチャンネルに特別にセットする必要はもはやありません。FMOは行われていますが、CD4陽性CD25陰性細胞とCD4陽性CD25陽性細胞との区別ははっきりと確認できたことから、このシステムが暗い集団と陰性の集団を識別できることは明らかです。

 

プロトコール

  1. DURACloneコンペンセーションコントロール(DURACloneキットに含まれています)を染色します。
    1. 各コンペンセーションコントロールチューブをラックにセットします。
    2. 陽性および陰性VersaCompビーズ各1滴を各チューブに添加します。
    3. 室温で20分間、遮光して放置します。
    4. PBS+1% BSAバッファー1 mLを各チューブに添加し、300 x gで6分間遠心分離します。
    5. 上清を捨てます。
    6. ボルテックスを行います。
    7. PBS+1% BSAバッファー400 μLに再懸濁します。
  2. 一時使用試薬のコンペンセーションコントロールを作成します。
    1. 陽性および陰性VersaCompビーズ各1滴を各チューブに添加します。
    2. 室温で20分間、遮光して放置します。
    3. PBS+1% BSAバッファー1 mLを各チューブに添加し、300 x gで6分間遠心分離します。
    4. 上清を捨てます。
    5. ボルテックスを行います。
    6. PBS+1% BSAバッファー400 μLに再懸濁します。
  3. 染色血液を調製します。
    1. Brilliant Staining Buffer 50 μLを各DURACloneチューブに添加します。
    2. 一時使用抗体およびiFluor 860のそれぞれの試験量を滴定し、各DURACloneチューブに添加します。
    3. 別の12×75 mmチューブを未染色全血とします。

測定

4. 日常のスタートアップ
a. CytoFLEXシステムスタートアッププログラムを実行します。
b. 検出器の構成を確認します。

図2 UVレーザーを備えたCytoFLEX LXの検出器構成

c. ユーザーマニュアル「CytoFLEXシリーズ取扱説明書」(文書番号B54849xx)に従って、精度管理手順を実施します。

5. コンペンセーション実験を作成します。
a. ロット変更時にコンペンセーションコントロールを更新できるようにするため、使用するDURACloneコントロールとdrop-in試薬のロット番号を入力します。

b. サンプルタイプの列でビーズを選択し、シングルカラーコントロールを反映させます。

図3 チャンネルとサンプルタイプを選択できるコンペンセーションセットアップウィンドウ

c. VersaCompビーズは各チューブ内に陰性ピークが含まれているため、ユニバーサルネガティブ使用のチェックは外します。

 

図4 シングルカラー測定とゲーティングの例

d. 各コンペンセーションサンプルを記録します。
i. 
シングレットビーズが含まれるようにスキャッターゲートを移動させます。
ii. 対数線形スライダーを用いて陰性集団の域を狭め、陰性集団が含まれるようにゲートを移動させます。
iii. 陽性集団が含まれるようにゲートを移動させます。
e. コンペンセーションマトリックスを計算し、ライブラリーに保存します。

 

  6. CytExpertでExperimentを作成します。
a. 作成したコンペンセーションライブラリーをインポートし、現在のゲインに基づいてマトリックスを変換します。
b. プロットを作成します。
c. 記録します。

 

 

参考文献

1. Nguyen R, Perfetto S, Mahnke YD, et al. Quantifying spillover spreading for comparing instrument performance and aiding in multicolor panel design. Cytometry A 2013 Mar; 83 (3): 306-315. Available from URL: 2013 Feb 6; doi: 10.1002/cyto.a.22251.
2. Lawrence W, Varadi G, Entine G, et al. A Comparison of Avalanche Photodiode and Photomultiplier Tube Detectors for Flow Cytometry. Proceedings of SPIE 2008 Feb; Vol 6859. Available from URL: 2008 Feb; doi: 10.1117/12.758958.
3. Baatar D, Olkhanud P, Sumitomo K, et al. Human Peripheral Blood T Regulatory Cells (Tregs), Functionally Primed CCR4+ Tregs and Unprimed CCR4− Tregs, Regulate Effector T Cells Using FasL. J Immunol 2007 Apr 15; 178(8): 4891–4900.
4. Gattinoni L, Lugli E, Ji Y, et al. A human memory T-cell subset with stem cell-like properties. Nat Med 2011 Sep 18; 17(10): 1290–1297. Available from URL: doi:10.1038/nm.2446.
5. Van de Veen W, Stanic B, Yaman G, et al. IgG4 production is confined to human IL-10–producing regulatory B cells that suppress antigen-specific immune responses. J ALLERGY CLIN IMMUNOL 2013 APR; 131 (4).
6. Mauri C, Menon, M. The expanding family of regulatory B cells. International Immunology 2015 JUN; 27 (10): 479-486.

FLOW-4385APP11.18

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