粒子間の相互作用研究から、細胞と粒子の相互作用研究へ

July 2017

福岡大学工学部 化学システム工学科
教授 新戸 浩幸 先生

粒子間相互作用の研究を出発点に細胞と粒子の相互作用に興味を広げられ、材料の表面状態が細胞に及ぼす影響の研究についてお話しを伺いました。

写真提供:福岡大学


新戸 浩幸 先生

研究のきっかけは、生物と材料の接着性への興味

もともとは、化学工学系の出身で粒子間の相互作用について研究をすすめていました。セラミックなどほとんどの材料は、微粒子の集合体です。これら材料の善し悪しは、材料の基となる粒子懸濁液(スラリー)中の粒子の分散・凝集状態に大きく影響されます。この状態を決めるのが、根本となる粒子1つ1つの間に働く力(粒子間相互作用力)です。その結果、最終製品の品質・信頼性にも影響を与えることから、粒子間相互作用力に注目して研究してきました。

研究の中で、「粒子の相手側を細胞にしたらどうだろうか」ということから、材料と生物の接着力に興味を持っていきました。この細胞への接着性はバイオマテリアルに結びつきます。接着というのは、非常に重要で、人工物を体内に入れることを考えた場合、人工の歯のように接着力を上げた方が良い場合と、逆に人工血管のように接着力を上げない方が良い場合があります。このメカニズムを解明するために細胞と材料との接着に興味をもつことになりました。




フローサイトメーターで広がる研究

もともと、微粒子のゼータ電位や粒子間の相互作用力を測定していたので、1個1個を測定できるのは当たり前だと思っており、さらに最初にCytoFLEXを見たので、微粒子1つ1つをフローサイトメーターで測定できるのは、当然だと考えていました。しかし、購入にあたり他のフローサイトメーターを検討するなかで、実際に微粒子を測定できない装置が多く、改めてCytoFLEXのカタログに書いてある意味がわかりました。

電子顕微鏡や共焦点顕微鏡では、「木をみて森を見ず」になってしまいますが、フローサイトメーターは、1個1個の細胞や粒子を計測すると同時に、統計学的に全体像をつかむことができるので、微粒子と細胞の相互作用の研究に有用です。

また、CytoFLEXはダイナミックレンジが広いので、微粒子から細胞までを捉えることができるため、微粒子と細胞を混ぜて、それぞれの微粒子と細胞、微粒子・細胞複合体などの評価に使うことができます。

例えば、体の中にナノ粒子が取り込まれた場合、細胞と接触するまでに、粒子は体液(様々なタンパク等を含む)に接触し、その後、細胞に入ることで毒性を示すことがあるので、毒性試験を行う際に血清を入れたりあえて入れなかったりしていました。この中で、粒子側をコントロールすることで、ナノ粒子の取り込みを見ていました。

粒子側のコーティング条件(BSA、フィブロネクチンなど)を変化させた場合の評価はゼータ電位で測定できますが、この粒子を細胞がどれだけ取り込んだかを評価するときには、フローサイトメーターが大活躍しました。

現在は、粒子表面のコーティングを変えマクロファージと接触させることで、マクロファージの取り込みを見ています。

<微粒子・蛍光粒子の測定のポイント> 微粒子の測定は、バックグラウンドをいかに低くするかがポイントとなります。粒子にタンパク吸着を行う場合、溶液中の未吸着タンパクもノイズ源となってしまうので、タンパクと粒子の吸着後は、3~5回遠心洗浄をおこなうことがポイントとなります。また、タンパク吸着層がボルテックス処理で壊れてしまうこともあるので、ボルテックスを使わず撹拌とピペッティングもポイントとなります。また、蛍光粒子によっては、超音波照射により蛍光物質が粒子から抜けてしまうこともあり、気を付けた方が良いポイントとなります。

 

 

理論を実現し、領域を超える

理論出身の人が実験を行おうとすると、たいがい理論に当てはまるような実験をしてしまいます。私も理論出身なので、同じようなことがあり、当時のボスから「お前のやっていることは小さい」と言われていました。また、理論は一人でもできますが、理論を実現する実験を行うには、一人ではできません。人を引き込むためには、ちょっと先を見据えないといけないんです。

今後は、粒子をコントロールし、その粒子と接触させた細胞の分化を研究することも考えています。その中で、粒子合成のできる方など、様々なスタッフの輪を広げて研究していきたいと考えています。

 

 

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