Biomek i7ハイブリッド・加圧インテグレーションシステムによる除タンパクカートリッジを用いたビタミンD測定前処理の自動化
Kerstin Thurow1, Heidi Fleischer1, Anna Bach1, Bhagya Wijayawardena2, Miranda Kheradmand2
1Center for Life Science Automation, University Rostock, Rostock, Germany
2Beckman Coulter Life Sciences, Indianapolis, Indiana, United States
概要
ビタミンDはステロイド誘導体で、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)やビタミンD3(コレカルシフェロール)など様々な形で存在します。血清中のビタミンD濃度を測定することで、代謝に関する重要な情報が得られます。ビタミンD測定で最も一般的に行われる方法は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)と呼ばれるものですが、LC/MS法のサンプル前処理には時間がかかり、人的ミスが起こりやすいという問題があります。本アプリケーションノートでは、Biomek i7ハイブリッドを用いてLC/MS法によるビタミンD測定のためのサンプル前処理を自動化しました。この方法は、除タンパクプレート(Phenomenex, Torrance, US)と固相抽出によるサンプルクリーンアップを使用しています。
はじめに
ビタミンDは骨とミネラル代謝の重要な成分です。そのため、血漿および血清中のビタミンD2とD3の定量は、ビタミンの摂取不足あるいは過剰摂取による健康へ深刻な影響を探求しようとする研究者の間でますます重要性を増しています。LC/MSを用いたビタミンD測定のためのサンプル前処理を用手法で行うと、時間がかかり、人的ミスが起こりやすいという問題があります。そのため、ビタミンD分析をハイスループットに実施するには、この複雑なサンプル前処理ワークフローを自動化することが重要です。
除タンパク質とビタミンD結合タンパク質からの代謝物の分離は、通常、アセトニトリル、メタノール、アセトニトリルとメタノールの混合物または2-プロパノールを添加して行います。そのあと、サンプルを1分間ボルテックスし、遠心分離します。その後、上澄みを除去し、窒素を穏やかに吹き付けることで溶媒を蒸発させます。分析の前に、適切な溶媒でサンプルを再溶解させる必要があります1。沈殿工程の前に硫酸亜鉛を添加すると、ビタミン結合タンパク質からビタミンD代謝物がより効率よく分離できたとの報告もあります2。また、アセトニトリル/メタノール溶液で沈殿させる前に、水酸化ナトリウムでタンパク質の結合を分離したと報告するものもあります3。私たちは最近、遠心分離によるLC/MSサンプル前処理の自動化を報告いたしました4 。しかし、そのワークフローでは遠心分離機の組み込みが必要なため、システム全体にかかるコストが上がり、自動化デッキ内に遠心機を設置するスペースが必要になります。そのため、本アプリケーションノートでは、遠心機を使用しない、血清中のビタミンD代謝物25(OH)D3および25(OH)D2測定の自動化法の開発を目的としました。検証には、Positive Pressure Extractor (amplius GmbH, D)を組み込んだBiomek i7ハイブリッドワークステーションを使用しました。
遠心分離を行わないため、本ワークフローではImpact除タンパクプレート(Phenomenex, Torrance, US)を使用しました(Figure1,2参照)5。サンプルと試薬をImpact除タンパクプレートに添加すると、プレート内でタンパク質の沈殿が起こります。混合した後、サンプルを加圧または吸引で濾過し、タンパク質凝集体とビタミンD代謝物を分離します。濾液は固相抽出でさらにクリーンアップすることができます6。
Figure 1. Biomek i7ハイブリッドのデッキにセットした下段のディープウェル回収プレートと上段のImpact除タンパクプレート(Phenomenex, Torrance, US)
Figure 2. サンプル前処理ワークフロー。LC/MS分析を除く全てのステップを、周辺デバイスをインテグレーションしたBiomek i7ハイブリッドワークステーションで行った。
方法
公開されているビタミンD代謝物測定のプロトコルを、Biomek i7ハイブリッドワークステーションで自動化しました(Figure 3,4,Table 1)2。メソッドの開発と評価には、ブタ血清を使用しました(出典:Leibniz Institute for Farm Animal Biology, Dummerstorf, DE)。使用した試薬、消耗品、機器はTable 2~4にまとめています。ビタミンD測定のプロトコルを、Figure 3に示すデッキレイアウトで自動化しました。Positive Pressure Extractor(amplius GmbH, D)を組み込み、固相抽出を行いました。デッキは一度に最大96サンプルを処理できるよう最適化しました。このメソッドは、タンパク質沈殿とカラムのコンディショニングにメタノール水溶液(60/40, v/v)96 mLなど大量の溶媒が必要となるため、Self-Refilling Quarter Reservoir(amplius GmbH, Rostock, DE)を自動充填リザーバとして組み込みました。
自動化プロトコルの各ステップをTable 1に示します。サンプルは専用アダプタ (CELISCA, Rostock, DE) (Figure 4参照)を使用して1.5 mL Eppendorf safe-lock tube(Eppendorf, Hamburg, DE)をBiomek i7デッキに配置し、Table 1に従って処理しました。メソッドの検証は、25(OH)D2および 25(OH)D3濃度1 μg/mLの血清サンプルで行いました。96サンプルの処理にImpact除タンパクプレートを4枚使用しました。サンプルと沈殿溶媒を混合するために、それぞれのImpactプレートとディープウェル回収プレートをシェーキングペルチェ(INHECO Industrial Heating & Cooling GmbH, Martinsried, DE)上に設置しました。ミックスとインキュベーションを3分間行った後、装置に組み込んだPositive Pressure Extractor (amplius GmbH, D)にImpactプレートを移動させ、固相抽出とクリーンアップを行いました。標準2 mLバイアルを使って最終溶出させました。抽出後、LC/TOF-MS (Agilent Technologies, Santa Clara, US)にサンプル10 μLを注入し、流速0.5 mL /minで分析しました。システムは内部標準法に従って、0.01~ 2 ppm 25(OH)D2 および25(OH)D3の範囲でキャリブレーションを実施しました。
Figure 3. Impact除タンパクプレートを使ったビタミンD測定のデッキレイアウト ー (1)チップボックス:1,070 μL、230 μL、930 μL、(2)遠心分離機、(3)内部標準液(ISTD)、(4)アルミニウム製溶出バイアル瓶アダプタ、(5)サンプル、(6)ディープウェル回収プレートとImpact除タンパクプレート、(7)Self-Refilling Quarter Reservoir 。
注:システムに組み込まれている遠心分離機は本プロトコルでは使用していません。
Figure 4. Biomek i7ハイブリッド・ビタミンD測定前処理自動化メソッド ー 除タンパクにImpactプレートを使用。
Figure 5.(a)サンプルバイアル用のストレージ(CELISCA, Rostock, DE),(b)Positive Pressure Extractor(amplius GmbH, Rostock, DE)
Table 1. Impact除タンパクプレートと加圧式固相抽出を用いたビタミンD測定用サンプル前処理プロトコル
結果
キャリブレーション曲線をFigure 6に示します。25(OH)D2の回収率は71.26% ~86.75%、25(OH)D3では79.57% ~ 88.74%でした。10サンプルで測定されたデータから計算した変動係数(CV)は、 25(OH)D2で4.36%、25(OH)D3で5.1%でした。検出限界(LOD)は、25(OH)D2で4.78 ng/mL、25(OH)D3で7.95 ng/mLでした。定量限界(LOQ)は、25(OH)D2で11 ng/mL、25(OH)D3で20.03 ng/mLでした。LC/MS/MSシステムを利用すれば、検出限界をさらに改善することが可能です。得られた結果は、従来法と同等でした。
Figure 6. (a)25(OH)D2および(b)25(OH)D3のキャリブレーション曲線
まとめ
本アプリケーションノートでは、ビタミンD測定のためのサンプル前処理を、Biomek i7ハイブリッドワークステーションで自動化しました。Positive Pressure Extractor (amplius GmbH, Rostock, DE)を組み込むことで、ワークフローを自動化しました。このワークフローでは遠心分離工程をなくした結果、コストが抑えられています。処理済みのサンプルをLC/MSと作成したキャリブレーション曲線を用いて解析し、メソッドの再現性を検証しました。本自動化ワークフローで得られた低いCV値(2~9%)から、再現性の高さが示されました。得られた結果は、用手法によるサンプル調製と同等のものでした。
参考文献
- Ding S, Schoenmakers I, Jones K, et al. Quantitative determination of vitamin D metabolites in plasma using UHPLC-MS/MS. Anal Bioanal Chem 2010; 398(2): 779-789.
- https://www.gerstel.de/de/GA43_Vitamin-D-Analytik.htm
- van den Ouweland JMW, Beijers AM, Demacker PNM, et al. Measurement of 25-OH-vitamin D in human serum using liquid chromatography tandem-mass spectrometry with comparison to radioimmunoassay and automated immunoassay. Journal of Chromatography B, 2010; 878(15-16):1163-1168
- Thurow K, Fleischer H, Bach A, Wijayawardena B, Kheradmand M, Fully Automated Sample Preparation for the Determination of Vitamin D on Biomek i7 Hybrid Workstation using Centrifugation and Positive Pressure Solid Phase Extraction. Application Note 2021.
- Li S, Pike E, Simple and Fast Quantitation of Nicotinic Acid and Nicotinamide in Human Plasma by Applying ImpactTM Protein Precipitation Plate Technology with Gemini® 3 μm C18 HPLC Columns. Application Note TN 1151, Phenomenex Inc., 2020
- Lensmeyer G, Poquette M, Wiebe D, Binkley N, The C-3 Epimer of 25-Hydroxyvitamin D3Is Present in Adult Serum. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 2012; 97(1):163-168.
使用した機器・試薬・消耗品など
Table 2. 使用した機器
Table 3. 使用した試薬
Table 4. 使用した消耗品
Biomek i-Series自動化ワークステーションは、疾患等の診断での使用を意図しておらず、検証も行っておりません。
本プロトコルはデモンストレーションのみを目的としており、ベックマン・コールターによる検証は行っておりません。本プロトコルに関して、ベックマン・コールターは、明示または暗示を問わず、いかなる保証を行うものではありません。これには特定目的への適合性、または商品性、あるいはプロトコルの特許不権侵害の保証を含みますが、これに限定するものではなく、その他一切の保証を明示的に排除いたします。このメソッドの使用はお客様の責任のみにおいて行われるものとし、ベックマン・コールターは一切の責任を負いません。また、疾患等の診断での使用を意図しておらず、検証も行っておりません。
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