大学における留学生を対象とした英語による遠心機の安全教育セミナーの有用性

June 2018

京都大学大学院医学研究科
医学研究支援センター
特定講師 奥野 友紀子 先生


京都大学大学院医学研究科 医学研究支援センターにはフロア型超遠心機が設置されています。医学研究支援と名前にあるとおり、同センターでは実践的な医学研究サポートをはじめ、学生および留学生への医学研究の基礎技術教育までを行っておられます。今回のインタビューでは、同センターにて共通機器を管理なされている奥野友紀子先生をお招きし、大学研究支援施設が担っている教育のうち、日本で学ばれている留学生への教育についてお話を伺いました。その中で、遠心機の安全教育セミナーは学生・研究者が実験の基礎を学ぶゲートウェイ(入り口)であるというお言葉をいただき、研究先進国といわれる日本において我々が担っている重責を改めて実感いたしました。(インタビュア:マーケティング本部 伊藤俊行)

 

1. 医学研究支援センターにおける遠心機の安全教育セミナーの有用性について

1-i 安全教育セミナーの「教育」としての有用性について

遠心機は非常に歴史があり、分子生物学をはじめ生物学関係の研究には欠かせない機器の一つとなっています。反面、あまりにも当たり前のようにある機器のために、意外と単純なことを忘れてしまいがちです。例えば適したバランスの取り方や、チューブ強度の問題でサンプル量の規定があるのはどうしてなのかなどです。これらの知識・情報が後へ引き継がれることなく、研究室から消えていってしまっているようにも感じます。それを思い出す場を提供することは、研究支援センターとして大事なことです。




また、別の側面となりますが、最近の研究の現場は、キットや、既に最適化されているソフトウエア操作だけになってしまってもいて、その元となる原理や理論などの細かいことを知らずに実験することも可能な時代です。しかし、これらを知らないと正確な測定・研究が担保できません。この問題をどのように学生に認識して貰うのかを考えたとき、まず、安全という面からアプローチすることも有用と思います。遠心機、特に超遠心機は原理的な部分がどのように安全な使用法と結びつくかが明確です。実験キット等が簡便性、安定性、安全性という言葉で、実験の本質をブラインドすることがあるのだということを改めて認識し、そして、今まで行ってきた、これから行うであろう実験は、実はいろいろと注意すべきことが含まれていたのだと気が付いてほしいと思っています。実験には危険な部分もあるけれども、それは測定に必要な原理と裏表の関係にあり、それを理解して使っているからこそ、自分達は研究を進めることができるのだと気付くこと。その意味でも、この遠心機の安全教育セミナーというのは、そのゲートウェイとして非常に有用であると思います。このような機会をコンスタントに提供することが、研究支援センターの活動として強く求められています。

1-ii 安全教育セミナーの共通機器の運用へのメリット

共通機器室には、使用者の皆様が継続的に長く、いい環境で研究できることが求められます。このためには、共通機器室のスタッフの努力のみならず、使用者の皆様にご協力いただくことが重要です。つまり、使用者が安全に、きれいにメンテナンスしながら使っていただくことで、良い研究環境を長く維持できます。このためにも、安全教育セミナーは必要です。


例えば、遠心機で起こりやすい事例として、液漏れ等によるロータの腐食・破損があります。セミナーでは、液漏れにより腐食したロータの写真を使ってメンテナンスの重要性について説明しており、液漏れの放置により自分の実験が止まる可能性があることを学べます。この結果、受講者はメンテナンスに協力していただけるようになります。

1-iii 安全教育セミナーを研究者へ訴求する方法について

遠心機の安全な使用方法を注意喚起する上で、超遠心機はすごく分かりやすい題材です。例えば微量高速遠心機の場合、遠心力も低く、事故が起きにくいため、本当は意識する必要がありますが、研究者の意識に上りません。しかし超遠心機は、インバランス、サンプル量、メンテナンス等のファクターが事故に直結する可能性が高いので、安全な使用方法を意識しやすい機器です。このため、超遠心機で注意喚起し、それに合わせてさらに全般的な遠心機の安全管理についての講習を行うことは、非常に分かりやすく、学生や研究者に通じやすいと思います。

2. 留学生に対する英語によるセミナー実施の重要性について

今日、大学運営については国際化の重要性が強くうたわれていて、いかに海外からの研究者を受け入れ、学生を育て、発展性のある新しい関係を作ることができるかが要求されています。特に留学生の場合、受け入れ大学が研究に対するゲートウェイであって、研究の基礎が形成される場所になります。留学生は本国に帰国され研究を指導する立場になる方もいますし、日本でキャリアを積んでから、さらに欧米諸国へポスドクとして留学される方もいます。留学生が次のステップで羽ばたいていただくためにも、知るべきことがしっかりと伝わっていく環境の整備、その中でも基礎・原点に即した説明・講習を英語で提供することは必須であると思います。


留学生の出身国は、日本と同様恵まれた国の場合もあり、そうでもない国の場合もあります。私は業務でベトナムに行かせていただいたことがあります。当時のベトナムでは、研究環境のセットアップは日本ODA頼みである研究施設も多々あり、その後更新されないまま、今の日本ではあまり見られない機器も現役で利用されていました。日本で学んだ留学生が本国に帰ったときには、その人たちが研究環境を整える役割、つまり自分たちで研究を立ち上げ、環境をセットアップして、後進を指導する立場に立つことになろうかと思います。彼らは、研究環境がそれほど恵まれていないとしても、原理を理解して、一所懸命工夫して研究を行う必要があります。そのときに、いかに多くの基礎に基づいた知識経験を持ち帰れているかが鍵となります。


本国に帰る人もいれば、別の国での研究生活を目指す人もいます。どちらにしろ、日本で学んだことが基礎となって次に羽ばたきます。日本から持って帰る知識が財産になるかどうかは、ゲートウェイである大学がいかに正しく分かりやすいものを伝えられるかということに左右されます。理論が分かっていれば、しっかりと研究ができて、発信できて、次に繋がっていきます。教育は、所属する各々の研究室がベースであることは間違いありません。しかし、支援組織としても、留学生に対する研究技術向上のチャンスをできる限り多く準備すべきではないかと思っています。その中で、今回、遠心機の安全教育セミナーを英語で実施していただいて非常にありがたかったです。先にも述べましたが、このセミナーは、原理を学ぶというゲートウェイに最適です。また、超遠心機は研究の基礎的なところを支える技術として、当然、研究をしていると避けては通れない技術です。どのような基礎で動いているのか知ることは、留学生にはとって非常に重要なことです。



 

3. 最後に

超遠心機は、正しく使えば非常に安全で有用な機器ですが、知識なく使うととても危険です。そのため、講習会を行っていただくことは非常にありがたいことです。メーカーが行うことで、情報を効率的に、かつ一番新しく正確な情報が手に入ります。こういった情報を伝えられる機会があればこれからも大事にしたいと思います。


また、講習会により遠心機の使用頻度が上がりました。いろいろなロータを使って、様々なアプリケーションを行っています。単発で使用される方もいらっしゃいますが、標準的な実験系として使用しているケースがほとんどです。留学生も一人で超遠心処理を行っています。ベックマン・コールターのこの安全教育セミナーにより、研究者・学生・留学生の意識を上げる機会を作ることができ、支援センターとして非常に助かりました。

 

施設紹介

京都大学大学院医学研究科 医学研究支援センター



医学・生命科学分野の先端的研究を推進し、国際的な成長力・競争力を確保し発展させていくためには、日々高精度化・高速度化していく先端的研究機器をいち早く導入することが必要です。京都大学医学研究科では、高度な研究技術支援を容易に受けられる環境を組織的に整え、医学研究支援センターを平成23年11月に発足させました。本センターは、DNAシーケンス解析室、創薬拠点コアラボ、質量分析室、蛍光生体イメージング室、マウス行動解析室、小動物MRI室、合成展開支援室の7室から構成され、平成29年度には800名を超える方々が本センターを利用されました。また、若手研究者や大学院生が必要な研究技術を効率的に修得できるように、機器利用講習会や大学院生の実習講義も実施しています。平成29年度からは、企業を含む学外研究者の方も医学研究支援センター保有機器を利用可能になりました。