OMIP-104 食事誘発性肥満マウスの肝臓組織免疫細胞構成の検討:公開されているOMIP パネルのスペクトルフローサイトメーター CytoFLEX mosaic システムへの適用

Joost M. Lambooij1, Tamar Tak1, Anisha Jose2, Fanuel Messaggio2
1Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands
2Beckman Coulter Life Sciences

はじめに

肥満誘発性慢性炎症(メタ炎症)は、代謝器官の免疫応答が変化することで起こり、脂肪肝疾患や2 型糖尿病の進行に関与します。このような肥満によって誘発される変化について研究することを目的に、マウスの肝臓と白色脂肪組織サンプルの免疫組成を調べることのできる30 色のスペクトルフローサイトメトリーパネルがすでに開発され、OMIP に公開されています[1]。このパネルは、代謝組織に元々存在する免疫細胞とリクルートされたマクロファージサブセットに注目し、マウス代謝組織における免疫状態の全体構造を把握することを目的とするものです。このパネルでは、クッパー細胞とリクルートされたマクロファージとを分離し、脂肪組織のマクロファージサブセットを同定します。また、マクロファージや樹状細胞の活性化状態のマーカーも含まれているため、代謝障害に関与する免疫細胞の詳細な解析が可能です。

本稿では、OMIP-104 をフローサイトメーターCytoFLEX LX mosaic システム* を用いた場合の性能を評価しました。具体的にはOMIP で公開されているパネルを変更なしで使用した場合に、スペクトル検出モジュールCytoFLEXmosaic への適用の容易さ、パネルのパフォーマンス、肝臓サンプル自家蛍光の処理能力について評価しました。

* フローサイトメーターCytoFLEX LX にスペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic を接続したスペクトルフローサイトメーター

材料

機器と消耗品

  1. フローサイトメーターCytoFLEX LX(ベックマン・コールター PN#C11186)(Table 1)
  2. スペクトル検出モジュール CytoFLEX mosaic 88( ベックマン・コールター PN#D19581)( Table 1)
  3. スペクトル解析ソフトウエア CytExpert for Spectral(ベックマン・コールター)
  4. Daily QC Fluorospheres (ベックマン・コールター PN# 65719)
  5. IR QC Daily QC Fluorospheres (ベックマン・コールター PN# C06147)
  6. クラウド型サイトメトリー解析ソフトウエアCytobank(ベックマン・コールター PN#C47384)
  7. 抗体についてはTable 2 をご参照ください。
  8. その他の材料については、参考文献1の「Supplementary」をご覧ください。

 

機器本体 レーザー スペクトル検出モジュール 各レーザーにおける検出器数
CytoFLEX LX Deep UV 355 nm
Violet 405 nm
Blue 488 nm
Yellow 561 nm
Red 638 nm
IR 808 nm
CytoFLEX mosaic 88 UV: 20個
Violet: 20個
Blue: 16個
Yellow: 12個
Red: 10個
IR: 3個

Table 1:フローサイトメーターおよびスペクトル検出モジュールの仕様

Marker Fluorochrome Clone Supplier Catalog # Titration Conc. (μg/ml)
CCR2 PE-Cy5 SA203G11 BioLegend 150638 1:400 0.5
CD3 *BV750 17A2 BioLegend 100249 1:100 2.0
CD4 BV650 RM4-5 BioLegend 100546 1:100 2.0
CD8 BV711 53-6.7 BioLegend 100748 1:200 1.0
CD9 *APC-Fire 750 MZ3 BioLegend 124814 1:400 0.5
CD11b BUV563 M1/70 BD Biosciences 741242 1:1600 0.125
CD11c BUV496 HL3 BD Biosciences 750483 1:200 1.0
CD19 eFluor 450 eBio1D3 Invitrogen 48-0193-82 1:100 2.0
CD31 BV605 390 BioLegend 102427 1:3200 0.0625
CD36 Biotin HM36 BioLegend 102604 1:200 2.5
Biotin BV570 Streptavidin BioLegend 405227 1:200 0.5
CD45 APC-Fire 810 30-F11 BioLegend 103174 1:1600 0.125
CD63 *Alexa Fluor 700 NVG-2 BioLegend 143924 1:100 5
CD64 PE-Dazzle 594 X54-5/7.1 BioLegend 139320 1:400 0.5
CD90.2 BV510 30-H12 BioLegend 140326 1:1600 0.125
CD172a *BUV805 P84 BD Biosciences 741997 1:200 1.0
CD206 BV785 C068C2 BioLegend 141729 1:200 1.0
CLEC2 FITC 17D9 Bio-Rad MCA5700 1:400 0.25
ESAM BUV737 1G8 BD Biosciences 752446 1:800 0.25
F4/80 Spark NIR 685 BM8 BioLegend 123168 1:1600 0.3125
Ly6C PerCP-Cy5.5 HK1.4 BioLegend 128012 1:800 0.25
Ly6G *Spark Blue 550 1A8 BioLegend 127664 1:800 0.625
MHC II BUV395 2G9 BD Biosciences 743876 1:1600 0.125
Neutral lipids *LipidTOX Deep-Red - Invitrogen H34477 1:400 n/a
NK1.1 PE-Fire 700 S17016D BioLegend 156528 1:1600 0.125
Siglec-F BV480 E50-2440 BD Biosciences 746668 1:400 0.5
TIM4 PerCP-eFluor 710 RMT4-54 Invitrogen 46-5866-82 1:800 0.25
TREM2 *PE 6E9 BioLegend 824806 1:100 2.0
Viability *Zombie NIR - BioLegend 423106 1:1000 n/a
XCR1 BV421 ZET BioLegend 148216 1:100 2.0

Table 2:抗体の詳細

注意:ここに示すデータは、Lyve-1 が発現していない肝組織サンプルのみから得られたものであるため、この試験ではLyve-1 PE-Cy7 は含まれていません。このマーカーは、脂肪組織の血管周囲マクロファージのゲートに使用されるもので、参考文献1 のFigure 1 に示されているように、肝臓ではそれ以外の役割を果たすものではありません。

  • *Alexa Fluor(「AF」)は、Thermo Fisher Scientific Inc. の登録商標です。
  • *Brilliant Ultraviolet (BUV) は、Becton, Dickinson and Company の登録商標です。
  • *Brilliant Violet(「BV」)は、Becton, Dickinson and Company の登録商標です。
  • *Spark Blue はBioLegend の登録商標です。
  • *APC-Fire、*Zombie はBioLegend の登録商標です。
  • *LipidTox はInvitrogen の登録商標です。

方法

OMIP‐104 に記載されているサンプルの調製および染色の方法を、本テストに用いた異なるコホートのマウスから採取したサンプルに適用しました。簡単に説明すると、サンプルは、60% Kcal 高脂肪食に1% のコレステロールを添加した西洋式食餌を与えた雄マウスの肝臓からソーティングしたCD45+ 細胞です。この試験では、6 匹のマウスの白血球をまとめてプールしました。.

サンプル調製、抗体染色、単染色コントロールの調製の評価方法の詳細については、参考文献1の「Supplementary」をご覧ください。

データの取得

  • フローサイトメーターのスイッチがオンになっていること、ウォームアップされていること、メーカーおよび施設の指示に従って適切にクリーニングされていることを確認します。
  • 精度管理を実行し、アンミキシングテンプレートの作成、実験サンプルのバッチ用Experiment テンプレートを作成します。
  • Assay Settings を使用して実験サンプルを測定します。

結果と考察

スペクトルビューア

Spectrum viewer

Figure 1:スペクトルビューア スペクトル解析ソフトウエアCytExpert for Spectral で生成された蛍光色素の組み合わせ。

 

類似性インデックス

Similarity Index of selected fluorochromes

Figure 2:類似性インデックス(Simillarlty Index) スペクトル解析ソフトウエアCytExpert for Spectral で生成した、このOMIP で使用されている蛍光色素の類似性インデックス。Complexity score は11.0。

ゲーティングストラテジー

Figure 3A は、このパネルで使用したマニュアルゲーティングストラテジーで、Figure 3B に示すFMOコントロールも用いて、肝臓サンプルの主要な白血球サブセットをゲートしています。免疫サブセットとその識別マーカーの詳細は、Table 3をご覧ください。

Time gated strategy Fluorescence minus one control

Figure 3:ゲーティングストラテジー A) データ取得の安定性を検証するためにタイムゲートを設定(画像は不掲載)後、デブリス、ダブレット、死細胞を最初に除外し、次に組織内の総白血球をCD45+CD31- として同定。その後、図示のとおりにすべての主要な免疫細胞ポピュレーションと関連するサブセットを同定。B)FMOコントロール。活性化マーカーLipidTOX Deep Red、CD63–AlexaFluor 700、CD9–APC-Fire750、CD36–BV570、CCR2–PE-Cy5、TREM2–PE をFMO を用いてゲーティング。サンプルは(A) で示すtotal Mph でプレゲートし、FMO はオレンジ、染色されたサンプルは青で示されています。プロットはCytobankで作成した。

注意:オリジナルのOMIP-104 ゲーティングストラテジーは、「B 細胞と好中球を最初に除外し、その後CD64 vs F4/80 でゲーティングしてマクロファージを同定し、CD64 とF4/80 ダブルネガティブからCD11b vs NK1.1 でゲーティングしてNK 細胞を同定する」というプロセスでした。本実験ではこのアプローチを変更し、ゲーティングストラテジーを調整しました。変更後のアプローチでは、「B 細胞と好中球を最初に除外し、NK 細胞をCD11b vs NK1.1 をゲートして除外した後、CD64 vs F4/80 でゲーティングすることにより、NK1.1 陰性からマクロファージを同定」します。このゲーティング戦略の調整は、最終データには影響しません。透明性の維持、OMIP-104 ゲーティングストラテジーの正確な再現を可能にするため、また比較研究や方法論の一貫性の検証に必要な場合のため、ここに記します。

Population Markers
Total leukocytes CD45+CD31-
Eosinophils CD45+Siglec-F+
ILCs CD45+Siglec-F- CD90.2+CD3-
NK T cells CD45+Siglec-F- CD90.2+CD3- NK1.1+
CD4 T cells CD45+Siglec-F- CD90.2+CD3- NK1.1- CD4+
CD8 T cells CD45+Siglec-F- CD90.2+CD3- NK1.1- CD8+
Neutrophils CD45+Siglec-F-CD90.2- Ly6G+
B cells CD45+Siglec-F- CD90.2- CD19+
Total macrophages (Mph) CD45+ Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19- CD64+ F4/80+
Kupffer cells CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64+ F4/80+CD11blowCLEC2+
Pre-monocyte-derived Kupffer cells CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64+F4/80+CD11b+ CLEC2intermediate
Monocyte-derived macrophages CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64+F4/80+CD11b+ CLEC2-
Monocyte-derived Kupffer cells CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64+F4/80+CD11blowCLEC2+ TIM4-
Resident Kupffer cells CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64+F4/80+ CD11blowCLEC2+ TIM4+
NK cells CD45+Siglec-F- CD90.2- CD19-CD11b-NK1.1+
Ly6Chigh monocytes CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64-F4/80-NK1.1- CD11b+ MHC-II- Ly6Chigh
Ly6Clow monocytes CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64-F4/80-NK1.1- CD11b+ MHC-II- Ly6Clow
Transitional monocytes CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64-F4/80-NK1.1-CD11b+ MHC-II+CD64intermediate
Dendritic cells CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64-F4/80-NK1.1-CD11b+MHC-II+ CD64-CD11c+
cDC1s CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64-F4/80-NK1.1-CD11b+MHC-II+CD64-CD11c+XCR1+ CD172a-
cDC2 CD45+Siglec-F-CD90.2-Ly6G-CD19-CD64-F4/80-NK1.1-CD11b+MHC-II+CD64-CD11c+XCR1- CD172a+

Table 3:肝組織中の免疫細胞ポピュレーション一覧

自家蛍光除去とアンミキシング

スペクトルアンミキシングのための単染色コントロールのほとんどは、パネルの全蛍光色素のスペクトルと一致するように、細胞を用いて作製されました。しかしいくつかのマーカーでは、細胞ではその色素のスペクトルが綺麗に得られませんでした。例えば、自家蛍光スペクトルが強く、FSC/SSC だけでは区別が困難な好酸球にのみ発現するマーカーであるSiglec-F – BV480 にはビーズを用いました。BV480 では、ビーズを使用した方がスペクトルの決定が容易でした。未染色サンプルのプールからは、4 つの自家蛍光ポピュレーションを同定しました(Figure 4)。

本測定では、アンミキシングの過程で4 種類の自家蛍光固有スペクトル(自家蛍光シグネチャー)を除去すると、1種類の自家蛍光シグネチャーだけで自家蛍光除去をした場合と比較して、アンミキシングエラーが減り、分解能が向上することが示されています(Figure 5 A-B)。Figure 5 から、複数種類の自家蛍光シグネチャーの抽出が、アンミキシングの正確性の向上に重要であることがうかがえます。

Fluorescent spectra of unique autofluorescent populations

Figure 4:未染色コントロールから同定した自家蛍光を有する複数のポピュレーションの自家蛍光スペクトル スペクトルはスペクトル解析ソフトウエアCytExpert for Spectral で生成。

複数の自家蛍光シグネチャーでのスペクトルアンミキシング 

Figure 5:複数の自家蛍光シグネチャーでのスペクトルアンミキシング A) 同一サンプルを1種類の自家蛍光シグネチャーを用いてアンミキシングした例。B)4 種類の自家蛍光シグネチャーを使用して除去した例。プロットはFigure 3A のtotal leukocytes プレゲート。プロットはCytobank で作成。

スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic に搭載されているアンミキシングアルゴリズム

スペクトル検出モジュールCytoFLEX mosaic には、2 つのアンミキシングアルゴリズムが搭載されています。1 つは一般的に用いられている最小二乗法(LSM)、もう1 つは、スプレッドエラーの懸念が大きい複雑なパネルの解像度を改善するためにポアソン(Poisson)アルゴリズムを改良したものです。これら両方のアンミキシングアルゴリズムを実際に使ったうえで、特定のパネルの解析にはどちらが最適かを判断するとよいでしょう。

OMIP-104 は慎重に設計されたパネルであり、どの蛍光色素の組み合わせも類似度指数は0.84 以下のため、スプレッドエラーのリスクは最小限と考えられます(Figure 2)。これらのアルゴリズムが細胞同定の解像度に与える影響を比較するため、Cytobank でopt-SNE マップを作成しました。Figure 6 に示したデータから、どちらのアンミキシングアルゴリズムを用いても、このパネルが細胞ポピュレーションを定義、分離する性能は、同じであることがわかります。

Manual Gating Overlay on optSNE

Figure 6:マニュアルゲーティングオーバーレイ on opt-SNE マニュアルゲーティングで同定したポピュレーションをopt-SNE マップ上にオーバーレイ表示。同一サンプルのtotal Leukocyte ポピュレーションをLSM(左)またはポアソン(右)でアンミキシング。

考察と結論

OMIP-104 はマウス代謝器官の免疫細胞サブセットを解析するための堅牢なツールであり、様々な組織や特定の白血球サブセットの研究へも容易に適用できます。私たちはこのパネルをスペクトルフローサイトメーターCytoFLEX mosaic システムに適用し、Figure 3 に示すように、すべての主要な白血球ポピュレーションとそのサブセットの同定に成功しました。このパネルは元々CytoFLEX mosaic 用に設計されたものではないため、タイトレーションおよび実験設定の最適化によってパネルのパフォーマンスをさらに向上させることができた可能性があります。例えば、現行のパネルには808 nm 近赤外線レーザー用の蛍光色素は含まれていませんが、このような蛍光色素を加えることで、パネルの拡張や、スプレッディングエラーの原因となる蛍光色素との入れ替えを容易にします。これは、他の機器での抗体パネルをCytoFLEX mosaic に自信を持って適用するための信頼できる方法です。

略語

略語 正式名称
APC アロフィコシアニン
BUV ブリリアントウルトラバイオレット
BV ブリリアントバイオレット
Cy シアニン
FITC フルオレセインイソチオシアネート
IR 赤外
ILCs 自然リンパ球
Mph マクロファージ
NIR 近赤外
NK ナチュラルキラー
PE フィコエリスリン
PN 製品番号
QC 精度管理
TIM4 膜タンパク質TIM4
TREM2 骨髄細胞-2トリガー受容体2
XCR1 X-Cサイトカイン受容体1

参考文献

  1. Lambooij JM, Tak T, Zaldumbide A, Guigas B. OMIP-104: A 30-color spectral flow cytometry panel for comprehensive analysis of immune cell composition and macrophage subsets in mouse metabolic organs. Cytometry. 2024;105(7):493–500.

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