NGSワークフローの自動化比較:NGSライブラリ自動調製システム Biomek NGeniuSと従来型自動分注機 *

*従来型自動分注機は当社従来装置を示します。

はじめに

次世代シーケンシング(NGS)の技術的進歩により、ゲノムやトランスクリプトームの機能と構造に関する情報を収集することが可能になりました。多くの研究機関で、多数のサンプルに対するゲノムのコーディング、ノンコーディング領域のディープシーケンシングが一般的に行われています。様々な生物学的状態の遺伝的根拠を高い信頼性で検出することができるようになったのは、NGSによって可能になった極めて深いカバレッジとスループットが要因です(Ma et al., 2019)。

しかしながら、遺伝的状態を確実に検出するにはいくつかの障壁があり、その一つはサンプル処理のスループットです(Hess et al., 2020)。現在のシーケンシング技術では、機器にセットするシーケンシングライブラリを作成するためには、固有のサンプル調製が必要です。要求されるスループットやシーケンシングの種類によっては、ライブラリ調製を手動で行うと煩雑になる場合があります。NGSのライブラリ調製を自動化することで、ハイスループットのシナリオで複雑なプロトコルを使用することが可能になります。さらに、自動化により再現性の向上、エラー低減、マニュアル操作を最小限に抑えることでコンタミネーションを減らすことができます(Fleischer and Thurow, 2018; Pawliszyn and Wilson, 2002; Vonderschmitt, 1991)。このような利点があるとはいえ、自動ワークフローは全て同じであるとは限りません。そこでこのアプリケーションノートでは、従来の自動分注機と、NGSライブラリ調製のために設計された自動分注システム Biomek NGeniuSを比較します。Roche KAPA HyperPrepプロトコルで24サンプル自動化した場合のスループットを比較しました(Figure 1, Table 1)。

Figure 1. Roche KAPA HyperPrepプロトコル(Roche.com)のワークフロー。断片化はオフデッキで実施。

 

ワークフローの比較:NGSライブラリ自動調製システム Biomek NGeniuS、従来の自動分注機

Table 1. Biomek NGeniuS システムと従来の自動分注機によるRoche KAPA HyperPrepプロトコル自動化の比較

 

メソッドのセットアップ

従来のシステムとは異なり、Biomek NGeniuS システムでは、保守契約の一環として、様々な試薬メーカーの各種実証済みメソッドを提供いたします:メソッドにはDNAシーケンシング(全ゲノムおよびターゲットリシーケンス)とRNAシーケンシング(mRNA、全RNA、ターゲットRNA)メソッドが含まれています。アプリケーションライブラリは、カスタマーニーズの変化に応じて進化するようにデザインされています。Biomek NGeniuSのアプリケーションライブラリから実行したいメソッドを選択し、キットに関連するメソッドパラメータを入力します(Figure 2)。ソフトウエアを使用すれば、試薬メーカーが推奨するセーフストップポイントを選択することもできます。一つのネットワークで最大50台のBiomek NGeniuSシステムを同時に同期できるため、ラボ・生産性の拡張に柔軟に対応することができます。また、ラボマネージャが、各ユーザーに異なるユーザー権限を設定して特定のアクセスレベルを付与することもできます。NGSライブラリ調製システム Biomek NGeniuSの使用にプログラミングスキルは一切必要ありません。Google ChromeまたはMicrosoft Edgeがインストールされたコンピュータを用いて、どこからでも場所を選ばずメソッドを設定することができます。それに対し、従来の自動分注機では、装置のソフトウエアを用いて、多くの場合その場でメソッドをプログラミングしなければなりません。

メソッドのオプションを選択すると、Biomek NGeniuSのソフトウエアが、実行に必要な試薬の容量と消耗品を自動で計算します。その後、ユーザーは、そのバッチに必要な試薬と消耗品をリストアップしたワークエイドをバッチごとに作成できます。ユーザーはラボに入室する前に、実施に何が必要かを正確に把握することができます。

Figure 2. Biomek NGeniuSのポータルソフトウエア。(A)試薬メーカー推奨のメソッドパラメータオプションを示すメソッドコンフィグ画面、(B)試薬メーカー推奨のセーフストップポイントを示すメソッドコンフィグ画面

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:断片化

Roche KAPA HyperPrepプロトコルは、シーケンシングに対応したDNAライブラリを調製します。プロトコルでは、まずDNAサンプルを機械的に断片化し、180~220 bpのフラグメントを得ます(Figure 1)。いずれの自動分注機のプロトコルも、断片化はCovaris社の超音波処理装置(Covaris、米国マサチューセッツ州ウーバン)を用いてオフデッキで行います。

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:サンプル分注

いずれの装置のプロトコルも、切断したDNAを自動化に適したラボウエアに手動で分注する必要があります。24個のサンプルを処理する場合でも、従来の自動分注機では、サンプルインプットに96ウェルのサンプルプレートが必要です。それに対し、Biomek NGeniuS システムでは、24ウェルのリアクションベッセル(RV)をインプットプレートとして使用します(Figure 3)。RVは、最大1億のユニークなサンプルバーコードを付加できるサンプルインプットプレートです。NGSの通常のメソッドでは多くのラボウエアが必要で、少なくとも3種類のプレート(核酸サンプルを入れるサンプルインプットプレート、サーマルサイクリング用のPCRプレート、クリーンアップ用のディープウェルプレートなど)を用意しなければなりません。Biomek NGeniuSのRVは、これら3種類のプレートのいずれの代わりとしても使用できるため、複数の消耗品在庫を管理する必要がなくなり、時間と費用を節約できます。

Figure 3. Biomek NGeniuSのウェル容量600 μLの蓋付きマルチファンクショナルリアクションベッセル(RV)

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:試薬分注

従来の自動分注機の場合、必要な全ての試薬を自動化に適したチューブ(酵素などの小容量の試薬)またはリザーバー(エタノールなどの大容量の試薬)に手動で分注しなければなりません。また、チューブの種類も統一する必要があります。キット試薬は異なる種類のチューブに入っているので、ユーザーは試薬を元のチューブから自動化に適したチューブに手動で分注しなければなりません。また、厳密な温度管理が必要な試薬は、冷却ブロック付きのコールドペルチェにセットしなければなりません。これらのハードウエアコンポーネントは装置の構成には含まれていないため、ユーザーは追加の費用で別途購入しなければなりません。

それに対し、NGSライブラリ自動調製システム Biomek NGeniuSのプロトコルでは、元の試薬チューブを試薬インプットカローセルにそのままセットでき、こうした無駄なピペッティングステップは必要ありません(Figure 4)。カローセルは実験で使用されている多くのバイアルおよびチューブに対応していますので、試薬をプレートに移す必要性を減らすことができます。高度な光学文字認識(OCR)技術により、どの試薬がカローセルにセットされていて、どの必要なバイアルが不足しているかを(バーコードの有無に関わらず)システムで自動識別できます。これにより、プレートに分注することにより発生する試薬デッドボリュームを最小限にし、サンプル4個から24個までの任意のバッチサイズで実行できる柔軟性があります。Biomek NGeniuSの8チャンネルLLS(液面検知)ピペッティングポッドは、メソッドの実行前に試薬量の不足を検知します。厳密な温度管理が必要な試薬はBiomek NGeniuSの冷蔵ストレージ(2~65℃)にセットします。追加のハードウエアを購入する必要はありません。

Figure 4. 0.5 mL、5 mL、10 mLなど、実験で使用されている多くのバイアルやチューブがセットできるBiomek NGeniuSの試薬カローセル

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:デッキセットアップのバリデーション

従来の自動分注機でKAPA HyperPrepプロトコルを自動化するには、自動運転を開始する前に、デッキを慎重に目視確認して全ての試薬が正しいデッキ位置にセットされていることを確認し、さらにラボウエアの種類と状態(キャップされたチューブがないかなど)をチェックしなければなりません。それに対し、Biomek NGeniuSでは、Dynamic DeckOptix Systemがデッキをスキャンして一般的なセットアップエラーを検出します(Figure 5)。Dynamic DeckOptixは、高度な光学分析と24インチのヘッドアップディスプレイを用いて、ラボウエア配置をリアルタイムにフィードバックし、ローディングエラーをほぼ解消しま す。このソフトウエアは、キャップした状態の試薬バイアル、RVのサンプルインプットの置き間違い、ホイルプレートカバーのずれ、サーマルサイクリング用パッドの脱落などのラボウエアの異常を検知できます。このシステムでは、一度使用している使いかけのチップボックスを使用することも可能です。光学分析を用いて、ボックスに残っているチップを自動的に数え、目的のワークフローが完了できる十分な数が残っているかどうか判断します。

Figure 5. デッキをスキャンして一般的なセットアップエラーを検知するBiomek NGeniuSのDynamic DeckOptix

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:ノーマライゼーション

NGSワークフローにおけるノーマライゼーションとは、核酸濃度を等しくするプロセスのことを指します。従来の自動分注機のプロトコルでは、必要量を計算して自動分注機を再プログラミングすることにより、ユーザーが手動でノーマライゼーションを実行しなければなりません。それに対し、Biomek NGeniuS システムのプロトコルには、作業時間をさらに短縮するための自動化されたノーマライゼーションステップが含まれています。

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:末端修復・Aテール付加

自動分注機は、チップミキシングによる末端修復・Aテール付加反応のセットアップを自動化することができます。従来の自動分注機では、インキュベーション反応を行うためにはサーマルサイクラーを組み込まなければなりません。組み込まれていない場合、ユーザーはプレートを取り出して別のサーマルサイクラーで反応を行い、プレートを装置に戻して次のステップに備えなければなりません。これにはユーザーのマニュアル操作と多大な作業時間が必要です。Biomek NGeniuS システムでは、末端修復・Aテール付加のインキュベーションを内蔵のサーマルサイクラーとラブウエアトランスポートシステム(グリッパーツール)で行います(Figure 6)。これにより、ウォークアウェイ時間が増え、マニュアル操作による自動分注機補助が最小限に抑えられます。

Figure 6. Biomek NGeniuS オンデッキサーマルサイクラー

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:ライゲーション

いずれのプロトコルも、アダプタライゲーション反応のセットアップを自動化します。従来の自動分注機では、ライゲーションのインキュベーションをオンデッキで行うためにはサーマルサイクラーを組み込まなければなりません。それに対し、Biomek NGeniuSシステムには、インキュベーションとサーマルサイクリングを自動化するためのサーマルサイクラーとラブウエアトランスポートシステムが内蔵されていますので、ハードウエアやソフトウエアを追加で組み込む必要はありません(Figure 6)。

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:PCR

エンドリペア・Aテール付加やライゲーションのインキュベーションと同様、従来の自動分注機でオンデッキPCRを行うためにはサーマルサイクラーを組み込まなければなりません。それに対し、Biomek NGeniuS システムにはサーマルサイクラーが内蔵されているため、運転開始後は自動で実行され、ユーザーはその場から離れることができます(Figure 6)。Biomek NGeniuS システムには、マニュアル操作による自動化プロセスの中断を最小限に抑えるため、ラボウエア移動用のグリッパーツールが組み込まれています。オンデッキのサーマルサイクラーのない従来の自動分注機では、マニュアル操作が必要なステッ プによるプロセスの中断が6回必要ですが、NGSライブラリ調製システムBiomek NGeniuSでは、デッキのセットアップ後は一度も中断する必要がありません。

従来の自動分注メソッドでは、サーマルサイクリングでフルスカートタイプのPCRプレートが必要ですが、Biomek NGeniuSのワークフローでは、PCRに特定の種類のラボウエアを使用する必要はありません。マルチファンクショナルRVは耐熱性プラスチック製であるため、このRVをサーマルサイクリングに使用できます(Figure 3)。

 

Roche KAPA HyperPrepプロトコル:クリーンアップ

いずれの装置のプロトコルも、チップミキシングによる磁性ビーズベースのクリーンアップステップを実行します。従来の自動分注機では、ビーズ分離のために別のマグネティックプレートが必要です。それに対し、NGSライブラリ自動調製システムBiomek NGeniuSは、デッキ上にマグネティックステーションが組み込まれているため、追加のラボウエアを購入する必要はありません(Figure 7)。クリーンアップでは大容量を処理しなければならないため、従来の自動化プロトコルではクリーンアップ用のディープウェルプレートが必要です。それに対し、Biomek NGeniuSのRVは600 μLまでの容量に対応できるため、 クリーンアップステップに最適です。

Figure 7. マグネティックステーション(A)と温調試薬ストレージ(B)

 

システムステータスのモニタリング

従来の自動分注機では、装置を目視確認してシステムステータスをモニタリングしなければなりません。Biomek NGeniuSでは、ポータルソフトウエアにより、Google ChromeまたはMicrosoft Edgeがインストールされたコンピュータからシステムステータスをモニタリングすることができます(Figure 8)。また、Biomek NGeniuSの360°マルチカラーライトバーは、色の変化によりシステムステータスを表示します。

Figure 8. Biomek NGeniuSの上部の360°マルチカラーライトバー

 

まとめ

NGSライブラリ調製を手動から自動に切り替える利点は多くあります。自動調製はより迅速かつ効率的で、(ピペッティングなどが原因の)ヒューマンエラーが起こりにくく、コンタミネーションの影響を低減でき、信頼性と一貫性が向上します。しかし、全ての自動分注機が同じようなハードウエア・ソフトウエア機能を備え、自動化の利点を全て提供できるとは限りません。このような背景から、従来の自動分注機とNGSライブラリ自動調製システムBiomek NGeniuSの比較を行い、従来の自動分注機と比べて、Biomek NGeniuS システムは、NGSライブラリ調製の自動化の恩恵を十分に受けられるハードウエア・ソフトウエア機能を備えていました(Table 1)。

 

参考文献

  1. Fleischer, H & Thurow, K. (2018) Automation Solutions for Analytical Measurements: Concepts, and Applications, Wiley-VCH, Weinheim, Germany
  2. Hess, J. F. et al. (2020) Library preparation for next generation sequencing: A review of automation strategies, Biotechnology Advances, 41. doi.org/10.1016/j.biotechadv.2020.107537
  3. Ma, X. et al. (2019) Analysis of error profiles in deep next-generation sequencing data. Genome Biol 20, 50. doi. org/10.1186/s13059-019-1659-6
  4. Pawliszyn, J & Wilson, C.L. (Eds.), Sampling and Sample Preparation for Field and Laboratory: Fundamentals and New Directions in Sample Preparation (1st ed.), Elsevier, Amsterdam (2002)
  5. Ma, X. et al. (2019) Analysis of error profiles in deep next-generation sequencing data. Genome Biol 20, 50. doi. org/10.1186/s13059-019-1659-6
  6. Roche.com Retrieved from https://sequencing.roche.com/content/dam/rochesequence/worldwide/resources/brochure-kapa-hyperprep-kits-SEQ100003.pdf

 

重要:本アプリケーションテンプレートにおいて、ベックマン・コールターは、明示または黙示を問わず、特定の目的や商品性への適合性の保証、本アプリケーションテンプレートが他者の権利を侵害していないことの保証を含め、いかなる種類の保証も行いません。全ての保証は明示的に放棄されます。本アプリケーションテンプレートはお客様ご自身のリスクのみにおいて使用されるものとし、ベックマン・コールターは一切の責を負いません。本アプリケーションテンプレートは、アプリケーションが選択・作成された時点で示されていたケミストリーキットのバージョンとリリース日についてBiomek NGeniuS システムでの使用を確認したものですが、ベックマン・コールターは疾患やその他の臨床状態の診断への使用についての検証は行っていません。

製品および本書に示したアプリケーションは、診断手順での使用を意図しておらず、検証も行っていません。

 

研究目的のみ - 診断目的の使用はできません。
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Biomek NGeniuS は、次世代シーケンサー用ライブラリ調製の自動化システムです。煩雑で時間の掛かるNGSのライブラリ調製を、少ない作業時間、高い柔軟性を持つシステムで運用したい研究室に適しています。ユーザーフレンドリーなソフトウエアは高度なプログラミングスキルを必要としないため、簡単に誰でもセットアップできます。

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