生死細胞オートアナライザーVi-CELL BLUを用いたクラスタ計数解析と、サンプル調製方法についての検討

はじめに

ヒト胎児由来腎臓細胞(HEK)のような細胞株は、弱くクラスタ化した弱凝集体、あるいは培地条件によっては細胞塊の解砕が難しい強凝集体の両方を形成します(1)。細胞カウントに関するガイダンスであるISO 20391- 1:2018には、「強凝集体あるいは弱凝集体が存在する場合、細胞カウントの結果が実際に存在する細胞数より少なくなる場合があります。アリコートを取る前に、よく分散したサンプルを調製する手順を確立しなければならなりません。(2)」との指針が示されています。生死細胞オートアナライザーVi-CELL BLUは、細胞塊をより正確にカウントすることができるソフトウエアを実装しています。

実装するソフトウエアの緩和特性では、強凝集体や弱凝集体を分割してカウントすることができない場合、生死細胞オートアナライザーVi-CELL BLUは、より大きな他の集合体を定量し、画像でその凝集塊を赤い四角で囲みフラグ付けします(Figure 3)。赤い四角で囲まれた細胞塊は大きく、三次元構造である場合もあることから正確にカウントすることができないため、計数は行われませんが、ソフトウエアは、大きな集合体を定量し、その数をレポートします。この集合体の数に関するデータをよく検討することで、そのサンプルの凝集度を調べることができる可能性があります。大きな強凝集体があると、代謝物の拡散がうまくいかず細胞があまり増えなかったり、プラスミドの機能不全、あるいはウイルスベクターが細胞内に到達できないことが原因でトランスフェクション/トランスダクション効率が低下し収率が下がったりするなど、研究用の懸濁培養細胞に悪影響を及ぼす場合があるため(3)、継代を行わない方がよい場合があります。凝集度が許容範囲を超えているサンプルの計測が必要な場合は、サンプル調製手順の確立が必要です。

特定の培養条件下にあるHEK293培養細胞など、解砕が難しい強凝集体が含まれる細胞株の場合、分散の手法をさらに最適化し、より均一性の高い懸濁液を用いてVi-CELL BLUでの分析を行うことで、より精度の高い細胞カウントが可能です。本アプリケーションノートでは、細胞分散試薬を用いた分散、およびピペッティングによる分散が、接着性HEK293細胞の凝集度、生存率、生存数に及ぼす影響について説明します。また、継代培養に使用している現行の分散方法をそのまま使用し、Vi-CELL BLUでの計数精度を上げることができるサイドサンプル調製法についても説明します。

1つ目の実験では、3種類の細胞分散酵素(トリプシン、トリプシン+EDTA、TrypLE)について検証しました。また、この3種類の細胞分散酵素を添加したサンプルを分割したものを用いて、1000 μL空気置換式ピペットでのピペッティングによる分散法についても検証しました。2つ目の実験では、トリプシンによる分散を行ったサンプルの一部をサイドサンプルとして取り出し、TrypLEで処理しました。

細胞解離用試薬の最適化プロトコル:

1. HEK293細胞を、T75 cm2フラスコ、DMEM 10% FBS培地で、コンフルエンス>70%まで増殖させる。

  • 分散効果を検証するトリプシン、TrypLE、トリプシン+EDTAのそれぞれに、フラスコを2本ずつ用意します。

2.培地を取り除き、培養単層を5 mLのCa2+、Mg2+フリー不含DPBSで洗浄する。

3.細胞分散試薬を2 mL加え、単層全体にいきわたるよう、フラスコを優しく揺らす。培地を37°C、5% CO2で2分間インキュベートする。

注: 培養層全体に細胞解離用試薬がいきわたるよう、細胞上で試薬をそっと揺らしてもよいですが、フラスコを強くたたいたり振ったりすると、細胞の大きな凝集体が一度にはがれてしまう可能性があります。

4. 2分間インキュベーションして細胞がフラスコから完全にはがれた後、温めたDMEM 10% FBS培地を加え、10 mLセロロジカルピペットで5分間優しくピペッティングし、混合する。

5. 次に、培養物12 mLを5 mLチューブ4本にそれぞれ3 mLずつ分注する。

  • チューブ4本のうち、2本は分散を行わないコントロール、もう2本は分散を行うサンプルです。

分散を行うサンプルでは、懸濁液1000 μLを1000 μL空気置換式ピペットでピペッティング(10回)します。

6. チューブを3回ゆっくりと上下逆さにして混合し、各200 μLの5リプリケートとしてVi-CELL BLUカウンティング用チューブに入れ、Vi-CELL BLUで計数する。

  • サンプルの読み取りは、分散を行ったサンプルチューブ/分散を行っていないコントロールチューブとリプリケート間を交互に行います。(例:分散を行ったサンプルチューブ1-リプリケート1、分散を行っていないコントロールチューブ1-リプリケート1、分散を行ったサンプルチューブ2-リプリケート1、分散を行っていないコントロールチューブ2-リプリケート1

7.サンプルの読み取りは、Vi-CELL BLUの初期設定、細胞タイプはMammalianを使って行う。

8.この手順を各細胞解離用試薬(各2本)に対して繰り返す。

Materials Manufacturer Catalog Lot Exp
DMEM Gibco 11995-065 2661720 5/30/2024
FBS Gibco A52094-01 2629066RP 1/30/2028
Trypsin Gibco 15050-065 2500310 2/28/2025
TrypEDTA Gibco 25200-072 2518029 8/30/2024
TrypLE Express Gibco 12605-028 2537714 1/30/2025
DPBS Gibco 14190-144 2293643 12/31/2023

Table 1. 使用した試薬

細胞分散試薬最適化の結果

トリプシン+EDTA、およびTrypLEで分散したサンプルは、トリプシンで分散したサンプルよりも、計測された凝集体の平均数が大幅に少なかったことから(p<0.05; Student’s t-test)、トリプシン+EDTA、およびTrypLEを用いた凝集解砕がより効果的であることが示唆されました。トリプシン+EDTA、およびTrypLEで分散したサンプルでは、凝集体の数が同程度であったことから、両試薬の解砕効果が同等であることが示唆されました。トリプシン+EDTA、およびTrypLEによる分散で、凝集体数をより大幅に減少することができた(p<0.05; Student’s t-test)のは、サンプルに存在していた弱くクラスタ化した弱凝集体がピペット操作により解砕された一方、トリプシンによる分散では、強凝集体を解砕することができなかったことを示唆しています。トリプシン+EDTA、およびTrypLEで処理したサンプルでの生細胞数は同程度で、統計的優位差はありませんでした(p>0.05; Student’s t-test)。分散によって、全てのケースで細胞生存率が向上しました。これはおそらく、弱凝集体や強凝集体がなくなったことで、計測アルゴリズムがより有効であったためと考えられます。

Figure 1. 3種の細胞解離用試薬+ピペッティングによる分散後の凝集数、生細胞数、生存率の平均値。結果は、各グループの全チューブ/フラスコの全レプリケートの平均。データはJMP version 16.1.0で解析。

サイドサンプルの解離

1. HEK293細胞を、T75 cm2フラスコ、DMEM 10% FBS培地で、コンフルエンス>70%まで増殖させる。

• サイドサンプルの調製法を検証するため、フラスコを3本用意します。

2.培地を取り除き、培養単層を5 mLのCa2+、Mg2+フリー不含DPBSで洗浄する。

3.トリプシンを2 mL加え、単層全体にいきわたるよう、フラスコを優しく揺らす。培地を37°C、5% CO2で2分間インキュベートする。

4.2分間インキュベーションした後、温めたDMEM 10% FBS培地を加え、10 mLセロロジカルピペットで5分間優しくピペッティングし、混合する。

5.次に、培地12 mLを5 mLチューブ4本にそれぞれ3 mLずつ分注する。

• チューブ4本のうち、2本はコントロール、もう2本はサイドサンプルです。

• コントロールチューブ2本は3回ゆっくりと上下逆さまにし、各チューブから200 μLのサンプルを3リプリケート取り出し、Vi-CELL BLUで読み取ります。これを「分散を行っていないコントロール」(=現行の継代手順)とします。残りは「分散を行ったコントロール」です。

•サイドサンプルチューブ2本も、3回ゆっくりと上下逆さまにした後、全てのチューブ(2400 μLコントロールチューブX2本、3000 μLサイドサンプルチューブX2本)を500 rcfで3分間遠心し、細胞をペレット化します。

6.遠心後、培地を取り除き、分散を行ったコントロールチューブ2本はDMEM‐10% FBS培地400 μLで、分散を行ったサイドサンプルチューブ2本は500 μL TrypLEで再懸濁し、懸濁液を1000 μL空気置換式ピペットでピペッティング(10回)し、細胞を再懸濁する。

7.室温で2分間インキュベーションした後、サンプルを元の分量になるよう再懸濁する(分散を行ったコントロール:2400 μL、サイドサンプル:3000 μL)。

8. サンプルは、1000 μL空気置換式ピペットを用いたピペッティング(10回)で混合した後、3回ゆっくりと上下逆さにする。

9. 各チューブから200 μLのサンプルを5リプリケート取り出し、Vi-CELL BLUで読み取る。読み取りは、分散を行ったサンプルチューブ/サイドサンプルチューブとリプリケート間を交互に、各条件10回行う。(例:分散を行ったサンプルチューブ1-リプリケート1、サイドサンプルチューブ1-リプリケート1、分散を行ったサンプルチューブ2-リプリケート1、サイドサンプルチューブ2-リプリケート1

10.サンプルの読み取りは、Vi-CELL BLUの初期設定、細胞タイプはMammalianを使って行う。この手順を3本のフラスコ全てに対して繰り返す。

サイドサンプルの結果:

TrypLEで分散したサイドサンプルは、分散を行わなかったコントロール、分散を行ったコントロールよりも、計測された凝集体の数が大幅に少ない結果となりました(p<0.05; Student’s t-test)。トリプシンでの分散後、さらに分散工程を追加したコントロール、およびTrypLEで分散したサンプルでは、分散を行わなかったコントロールよりもVCDが大幅に高い結果となりました(p<0.05; Student’s t-test)。分散を行ったコントロールでVCDが高い結果となったのは、追加した混合、ピペッティング工程で、弱凝集体が解砕されたからと考えられます。工程を追加したことで、分散を行わなかったコントロールと比較して生存率がわずかに1.5%低下しました(p<0.05; Student’s t-test) 。 TrypLEでの分散は、分散を行わなかったコントロール、分散を行ったコントロールよりも細胞生存率が大幅に高い結果となりました(p<0.05; Student’s t-test)。これはおそらく、弱凝集体や強凝集体がなくなったことで、より正確な計数が可能であったためと考えられます。

Figure 2. TrypLEで分散を行ったサイドサンプル、分散を行わなかったコントロール、培地で分散を行ったコントロールの凝集数、生細胞数、生存率の平均値。結果は、各グループの全チューブ/フラスコの全レプリケートの平均。データはJMP version 16.1.0で解析。

トリプシンで分散を行ったサンプルの画像のレビュー(Figure 3:左の画像)には、計数から除外された大きな凝集体と、それよりも小さい凝集体が表示されています。TrypLEで分散を行ったサイドサンプル(Figure 3:右の画像)では、全体に広がる小さな凝集体と、計数から除外された2,3の大きな凝集体が表示されています。

Figure 3. トリプシンで分散したコントロール(左)とTrypLEで分散したサイドサンプル(右)の画像の例

考察:

以上のように、どの分散方法を選択するかによって、生存率、生細胞数、凝集度に大きく影響することが実証されました。ピペッティングによる穏やかな分散では、弱くクラスタ化した弱凝集体を解砕し、細胞カウントの精度を上げることが可能で、これにより細胞生存率が下がることはありません。より大きく、解砕が難しい強凝集体の場合、ピペッティングによる分散ではあまり効果が得られませんが、分散用試薬であるトリプシン+EDTAあるいはTrypLEで処理することで、より均一性の高い懸濁液が得られます。また、既存の分散方法を引き続き使用する場合は、サイドサンプル手法を追加することで、生死細胞オートアナライザーVi-CELL BLUでより正確に細胞数をカウントすることが可能です。

生死細胞オートアナライザーVi-CELL BLU Cellアプリケーションのお手伝いをいたします。お気軽にお問い合せください。

参考文献:

  1. Iuchi et al. Cytotechnology Feb 2020; 72(1): 131-140. Different morphologies of human embryonic kidney 293T cells in various types of culture dishes 
  2. ISO 20391-1:2018 Biotechnology – Cell Counting – Part 1: General guidance on cell counting methods
  3. Tsap. Y et al. Biotechnology Progress 2000; 16(5): 809-814. Biomass and Aggregation Analysis of Human Embryonic Kidney 293 Suspension Cell Cultures by Particle Size Measurement
  4. Drummen, N. Cell Type settings considerations for counting clumpy cells on the Vi-CELL BLU cell viability analyzer. Beckman Coulter application note. Content ID: 2023-GBL-EN-101699
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