k-ファクタを利用したロータの効率比較

Rotor and Tubes

ロータの効率を比較する際、ほとんどの研究者が確認するのは最高速度である。しかしこれは必ずしも正しくない。チューブの形状や温度などもロータの性能に寄与しており、類似のロータ間で妥当な比較を行うには、このような要因も考慮する必要があるからである。なかには、同等のロータより低い速度で使用しても、高い遠心効率を得られるロータもある。この理由は単純に、速度以外の要因が影響しているためである。そこで、遠心分離用ラボウェアを比較する際には、最高速度ではなく、k-ファクタという用語を使用すべきである。

k-ファクタは、温度条件は加味していないものの、遠心機-ロータシステムの効率を記述する一般的なパラメータである。温度を考慮すると計算が複雑になるため、単純な式ではこの要因を組み入れられず、ベックマン・コールターのeXPertソフトウェアのような、温度を考慮してバッファの粘性を補正できるプログラムを使用しないと計算できない。しかしそれでもk-ファクタは、遠心分離ステップを反映するすべてのパラメータを含んでいることに加えて、遠心機-ロータシステムの性能を明確に定義できるため、ロータ効率のための優れた指標と言える。

k-ファクタの決定要因

ロータの効率に最も大きな影響を与える要素は、最高速度、最大半径(rmax)、および最小半径(rmin)である—これらはすべて、ロータが生み出す最大遠心力に寄与している。まず、最小半径が大きいほど、チューブ上部の遠心力が大きくなり、速やかに分離が進行する。また、最小半径における遠心力は、沈降が生じる最小の粒子サイズを規定している。ロータの効率に直接影響するもう一つの要因は、ロータの沈降経路長、つまり最大半径と最小半径の差である。経路長が短いほど、粒子がチューブの壁にペレットを形成するまでに移動する距離が短いということである。同等のロータであれば、沈降経路長はサンプルチューブの直径およびチューブが保持される角度の関数として表される。一般的に、チューブが鋭角になるほど沈降経路長は短くなる。これらの変数を考慮に入れ、全体的なロータ効率をシンプルな指標として表したのがk-ファクタであり、次の式で算出される:

Equation 1

k-ファクタが低いほど、ロータの効率は高いということになる。

70,000 rpmのロータ2種類の効率比較

ベックマン・コールターのType 70.1 TiおよびType 70 Tiロータに関して、前述した効率に関連する因子を考えてみると、興味深い結果が得られる。以下の例は、同じ回転数(70,000 rpm)の場合でも、Type 70.1 Tiで450,000 x gの遠心を行う方が、Type 70 Tiを使用してより高いRCF(504,000 x g)で遠心するよりも、実際に物質を早くペレット化できることを示すものである。表1に示したType 70.1 Tiのチューブキャビティの形状を見ると、ロータの最大半径は小さい(遠心力が小さくなる)が、サンプルチューブ内の粒子の沈降経路長も短縮されている。沈降経路長が短縮することの正味の効果として、Type 70.1 Tiのk-ファクタが改善する結果、Type 70 Tiよりもペレット化にかかる時間が18%以上短縮している。

表1. ロータの仕様

ロータタイプ Type 70 Ti Type 70.1Ti
最大回転数 70,000 rpm 70,000 rpm
最大半径(rmax) 91.9 mm 82 mm
最小半径(rmin) 39.5 mm 40.5 mm
最大遠心力 504,000 x g 450,000 x g
総沈降経路長 52.4 mm 41.5 mm
k-ファクタ 44 36

ウシ血清アルブミン(BSA)は、さまざまな研究においてよく利用されるタンパク質の1つであり、その沈降係数(s)は4.4sである。例えば、実験者がType 70 Tiロータを使用してBSAをペレット化したい場合、表1において前もって計算したkファクタを使用して、ペレット化に要する時間を次のように計算することができる。ここでtは、沈降係数(Svedberg単位、s)が既知の粒子をペレット化するのに必要な時間(単位:時間)である。

Equation 2

このシンプルな計算を行うことによって、貴重な時間を節約できることに加え、最も効率的な遠心時間を知ることができる。BSAの遠心時間をType 70.1 Tiと比較するため、k-ファクタに36を代入すると、遠心に要する時間は8時間11分と算出され、最大遠心力の小さいロータの方が実際にはより効率的であるという結果になる。

ラボウェア間における遠心時間の換算

ベックマン・コールターの高性能ロータのラインナップの中でも、SW 28およびSW 32 Tiの2種類はよく使用されている。ある特定の遠心分離ステップを2種類の異なるロータで同様に実施したい場合、ロータ間で遠心時間を比較するには、各ロータのk-ファクタおよび遠心時間を前述の方法によって求めればよい。そして、次の等式を利用する。ここでk1およびk2は、それぞれSW 32 TiおよびSW 28のk-ファクタである。また、t2は既知のプロトコルの遠心時間、t1はSW 32 Tiロータを使用した場合の未知の遠心時間である。

Equation 3

この計算式を使用した場合でも、2つの異なる遠心機-ロータシステムを用いた方法を簡単に比較することができる。またこの等式を利用して効率を比較することで、異なるラボウェア間であっても粒子を同様に沈降させることが可能になる。

前述したように、ロータのk-ファクタは、特定のロータで使用される標準的なチューブの沈降経路長(rmax/rmin)によって決まる。使用するロータの形状や最大遠心力に制約がある場合でも、沈降経路長を短縮することによってk-ファクタを改善することができる。その一例が、ベックマン・コールターのg-Maxチューブを使用する方法である。この革新的なシステムは、ベックマン・コールターが特許を保有するポリアロマー製のベルトップ式Quick Sealチューブおよびフローティング・スペーサを使用するものである。従来のスリーブタイプのアダプタとは異なり、g-Maxスペーサはチューブの上に「浮いて」いるため、サンプルがチューブキャビティの最大半径の位置に保持されるとともに、各ロータで使用する標準的なチューブの沈降経路長が短縮される。そのため、g力を低下させることなく小容量の遠心を行うことが可能になる。g-Maxチューブによりロータの沈降経路長を短縮し、k-ファクタの値を小さくすることができれば、遠心時間を短縮し、研究生活における重要な時間を節約することができるのである。g-Maxチューブは、ベックマン・コールターのほとんどの超遠心ロータに対応している。

図1には、さまざまなラボウェアとともにg-Maxテクノロジーを使用することで、いかに多くの研究時間を節約できるかを示した。Type 90 Tiロータを使用して90,000 rpmの遠心を行う場合、4.2 mL g-Maxチューブのk-ファクタは11であるのに対し、13.5 mLチューブのk-ファクタは25である。図1の例では、g-Maxテクノロジーを使用することで、遠心時間がチューブ間で56%短縮されていることがわかる。

Figure 1
図1.g-Maxテクノロジーを使用した場合の遠心効率の比較。

 

多くのアプリケーションでは、一晩(18時間)の遠心が必要となるが、g-Maxチューブを使用すれば、8時間以内に同等の分離を行うことができるため、通常の勤務時間内に遠心が終えられるような、より便利なワークフローを構築することができる。

k-ファクタとラージスケールのワクチン製造

k-ファクタは、上で議論した超遠心機だけでなく、あらゆるタイプの遠心機においてペレット形成時間に影響する指標である。以下に例を挙げて、高性能遠心機のロータ効率にk-ファクタがどのように影響するかを明らかにしていく。人類が世界中に蔓延する疫病と闘い、病気を根絶するためには、ワクチンの大量生産が必要不可欠である。多くの場合、細胞の回収には大容量の遠心機が使われ、5,000 × g前後の速度で遠心を行う。このアプリケーションには昔からスウィングバケットロータが使われてきたが、収量を増加させ、市場投入までの時間を短縮するためには、ハイスループットな方法を実装することが欠かせない。表2に示したベックマン・コールターのJ-LITE JLA-8.1000およびJ-LITE JLA-9.1000ロータは、k-ファクタの値が小さく、1回の遠心で大容量を処理するのに最適な設計となっている。k-ファクタの低い高効率なロータであるため、貴重な実験時間を削減し、ローターの摩耗を予防し、さらに電気代も節約することができる。また、ワクチン製造において、細胞をペレット化する最初のステップの後、病原性ウイルス抗原を精製する際には、15,000 x gを超える速度が必要となる。1Lの容量を持つベックマン・コールターの大容量ロータは、いずれもこの速度性能を有しており、これまでの効率的なロータよりもさらに機能性の高いものとなっている。ベックマン・コールターの機器は、製造プロセスのパフォーマンス向上、コスト削減、および市場投入までの時間短縮を実現できる性能をメーカーに提供することが可能である。

表2. 容量1Lの大容量固定角ロータの比較。

ロータ J-LITE JLA-8.1000 J-LITE JLA-9.1000 Fiberlite™ F9-6 x 1,000 LEX Fiberlite F8-6 x 1,000y Fiberlite F5-10 x 1,000 LEX Fiberlite F6-6 x 1,000y
タイプ Fixed-Angle Fixed-Angle Fixed-Angle Fixed-Angle Fixed-Angle Fixed-Angle
最大容量(mL) 6x1,000 4x1,000 6x1,000 6x1,000 10x1,000 6x1,000
最大回転数(rpm) 8,000 9,000 9,000 8,500 5,500 6,000
最小半径(mm) 119 82 65 54 124 54
最大半径(mm) 222.8 185 194 196 275 196
最大遠心力 15,970 x g 16,800 x g 17,568 x g 15,900 x g 9,333 x g 7,900 x g
総沈降経路長(mm) 103.8 103 129 142 151 142
最大容量・最大回転数におけるk-ファクタ 2,482 2,540 3,415 5,096 6,662 9,060

表3. 分離用超遠心ロータおよびそれぞれのk-ファクタ。

ロータ 最大回転数(rpm) 最大RCF(g力) チューブ本数 x 容量(mL) 最大容量・最大回転数におけるk-ファクタ g-Maxチューブ使用時のk-ファクタ g-Max チューブの容量(mL)
固定角ロータ
Type 100 Ti 100,000 802,400 8x6.8 15 7 2
Type 90 Ti 90,000 694,000 8x13.5 25 11 4.2
Type 70.1 Ti 70,000 450,000 12x13.5 36 17 4.2
Type 70 Ti 70,000 504,000 8x39 44 24 15
Type 50.2 Ti 50,000 302,000 12x39 62 39 15
Type 45 Ti 45,000 235,000 6x94 133
Type 50.4 Ti 50,000 270,000 44x6.5 39 15 2
Type 42.2 42,000 223,000 72x0.230 9
Type 25 25,000 92,500 100x1 62
Type 19 19,000 53,900 6x250 951
近垂直および垂直チューブロータ
NVT 100 100,000 750,000 13x51 8 6 2
NVT 90 90,000 645,000 8x5.1 10 7 2
NVT 65.2 65,000 416,000 16x5.1 15 7 2
NVT 65 65,000 402,000 8x13.5 21 8 6.3
VTi 90 90,000 645,000 8x5.1 6 6 3.5
VTi 65.1 65,000 402,000 8x13.5 13 13 6.3
VTi 50 50,000 242,000 8x39 36 36 15
VTi 65.2 65,000 416,000 16x5.1 10 10 2
スイングトロータ
SW 60 Ti 60,000 485,000 6x4 45 24 1.5
SW 55 Ti 55,000 368,000 6x5 48 29 2
SW 41 Ti 41,000 288,000 6x13.2 124 27 3.5
SW 40 Ti 40,000 285,000 6x14 137 35 3.5
SW 32 Ti 32,000 175,000 6x38.5 204 74 8.4
SW 32.1 Ti 32,000 187,000 6x17 229 56 4.5
SW 28 28,000 141,000 6x38.5 246 87 15
SW 28.1 28,000 150,000 6x17 276 67 4.2

表4. 微量超遠心ロータおよびそれぞれのk-ファクタ。

ロータ 最大回転数(rpm) 最大RCF(g力) チューブ本数 x 容量(mL) 最大容量・最大回転数におけるk-ファクタ g-Maxチューブ使用時のk-ファクタ g-Max チューブの容量(mL)
固定角ロータ
TLA-120.1 120,000 627,000 14x0.5 8
TLA-120.2 120,000 627,000 10x2.0 16 14 1.5
TLA-110 110,000 657,000 8x5.1 13 5 2.0
TLA-100 100,000 436,000 20x0.2 7
TLA-100.3 100,000 541,000 6x3.5 14 11 2.0
TLA-55 55,000 186,000 12x1.5 66
MLA-150 150,000 1,003,000 8x2.0 10.4 6.2 1.5
MLA-130 130,000 1,019,000 10x2.0 8.7 7 1.5
MLA-80 80,000 444,000 8x8.0 29 18 4.2
MLA-55 55,000 287,000 8x13.5 53 28 4.2
MLA-50 50,000 233,000 6x32.4 92 50 15
近垂直および垂直チューブロータ
TLN-120 120,000 585,000 8x1.2 7
TLN-100 100,000 450,000 8x3.9 14
MLN-80 80,000 389,000 8x8.0 20 16 4.1
スイングロータ
TLS-55 55,000 259,000 4x2.2 50 37 1.5
MLS-50 50,000 268,000 4x5.0 71 29 2.0

表5. 高速冷却遠心機用ロータおよびそれぞれのk-ファクタ。

JS-24.15
ロータ 最大回転数(rpm) 最大RCF(g力) チューブ本数 x 容量(mL) 最大容量・最大回転数におけるk-ファクタ
固定角ロータ
JA-30.50 Ti 30,000 108,860 8x50 280
JA-25.50 25,000 75,600 8x50 418
JA-25.15 25,000 Outer Row: 74,200
Inner Row: 60,200
24x15 Outer Row: 265
Inner Row: 380
JA-21 21,000 50,400 18x10 470
JA-20.1 20,000 Outer Row: 51,500
Inner Row: 43,900
32x15 Outer Row: 371
Inner Row: 465
JA-20 20,000 48,400 8x50 769
JA-18.1 18,000 42,100 24x1.8 156
JA-18 18,000 47,900 10x100 566
JA-17 17,000 39,800 14x50 690
J-LITE JLA-16.250 16,000 38,400 6x250 1,090
JA-14.50 14,000 35,000 16x50 787
JA-14 14,000 30,100 6x250 1,764
JA-12 12,000 23,200 12x50 1,244
J-LITE JLA-10.500 10,000 18,600 6x500 2,850
JA-10 10,000 17,700 6x500 3,610
J-LITE JLA-9.1000 9,000 16,800 4x1,000 2,544
J-LITE JLA-8.1000 8,000 15,970 6x1,000 2,482
スイングロータ
24,000 110,500 6x15 376
JS-24.38 24,000 103,900 6x38.5 334
JS-13.1 13,000 26,500 6x50 1,841
JS-7.5 7,500 10,400 4x250 5,287
JS-5.9 5,900 6,570
JS-5.3 5,300 Conical Bottles: 6,870
Deep-Well Plates: 6,130
4x500 Conical Bottles: 7,728
Deep-Well Plates: 1,536
JS-5.0 5,000 7,480 4x2,250 9,171
JS-4.3 4,300 4,220 4x750 11,800
JS-4.2 4,200 5,020 6x1,000 11,500
JS-4.0 4,000 4,050 4x1,000 15,300

利用可能なチューブサイズの完全なリストやその他の情報については、各ロータのマニュアルを参照してください。ロータのその他の数値に関する情報については、www.beckman.comをご覧ください。

CENT-66APP07.14-B

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