超遠心分析法を用いた脂質ナノ粒子の特性評価:包括的レビュー
脂質ナノ粒子(LNP)やリポソーム(Figure 1)は、幅広い種類の治療分子の運搬体(キャリア)として医療分野に革新的な進歩をもたらしており、モデルナやファイザー/ビオンテックが開発したCOVID-19 mRNAワクチンなど、がん治療、薬物送達、ワクチン開発に利用されています。mRNA は免疫原性や毒性があり、RNase による分解や腎クリアランスを受けるため、患者に直接投与することはできません1が、RNA をLNP に内包することでこれらの問題を克服することが可能です。さらに、薬物安定性、標的細胞への到達精度の向上や、変異するウイルス株への適応などの様々な利点があります2。
脂質ナノ粒子(LNP)は、薬剤をより効率よく、効果的に送達することを目的として、医薬品およびバイオテクノロジー産業で使用する微粒子です。LNP は核酸やその他の薬剤を脂質でカプセル化することで、標的細胞への到達精度と薬効を向上させます。
LNP の生物物理学的な特性評価は、LNP の品質、有効性、安全性を評価するうえで極めて重要です。最近の研究でも、LNP 製剤のサイズならびに均一性が免疫原性や治療効果に影響を及ぼす可能性があることが実証されていることから、これらを正確に解析しておくことは不可欠です3。しかし、LNP 製剤は固有の異質性があるため、正確な粒度分布を決定することは困難です。一般的に、粒度分布測定には動的光散乱法(DLS)がよく用いられますが、その測定はブラウン運動に基づいたもので検出範囲の上限が制限されるため、凝集体を検出できない可能性があります4。さらに、DLS は中空粒子とRNAが充填された粒子を区別することができません。このような課題に対処するために、FDA はLNP の解析において直交手法(orthogonal techniques)を採用するよう推奨しています5。粒度分布測定以外の特性評価を行うべき重要なパラメータとしては、遊離カーゴならびに結合/カプセル化カーゴの分布、薬物コピー数分布、LNP の中空/完全体の比率と安定性が含まれます。
超遠心分析法(AUC)はLNP の特性評価技術として注目を集めている解析技術です。試料に遠心力がかかると、解析対象成分が沈降係数(質量と密度に起因)と拡散係数(粒子形状に起因)に基づき流体力学的に分離されます。LNP の場合、脂質構成とカーゴの充填度合いにより、LNP が沈降するか浮遊するか、いずれかの状態になります(Figure 2)。遠心中の解析対象成分の吸収特性を経時的に記録することで、LNP の沈降/浮遊および拡散パターンが測定されます。測定された沈降および拡散データをもとに数値解析を行うことで、AUC は他の解析方法では困難なLNP の粒度分布、カーゴの充填量、モル質量などを解析することができます。
本アプリケーションノートでは、AUC がLNP の特性評価にどのように利用されているか、また、AUC と他の解析方法との違いについて検討します。また、これらのAUC による研究成果から、遠心中に生じる重力により、LNP の挙動に影響を与えることはないと考えられます。もし仮に重力場の影響が生じていたのであれば、解析時に特定できます6。
AUC での遠心中の粒子の移動境界面の形状の例。初期のスキャンは紫色、その後のスキャンは青色、最後のスキャンは緑色で表示。遠心中にA)沈降する粒子、B)浮遊する粒子。
siRNA、mRNA ならびにドキソルビシンなどのカプセル化したカーゴを取り込んだ様々なLNP 製剤のサイズ計測と粒度分布解析において、AUC による解析が複数報告されています5-7。また、これらの研究では、AUC と他の解析技術(動的光散乱法 [DLS]、ナノ粒子トラッキング解析法 [NTA]、透過型電子顕微鏡法 [TEM]、多角度光散乱法 [MALS] と非対称フィールド・フロー・フラクショネーション法 [AF4] の組み合わせ)で測定した平均粒径および粒度分布を比較したものです。その結果、AUC で決定した平均粒径は、比較を行った全ての解析結果とよく一致していました。さらに、AUC で解析した全てのLNP 製剤の粒度分布は、AF4-MALS およびクライオTEM で測定した結果と一致しており、確からしい解析ができていたことが分かりました。また、AF4-MALS およびAUC による解析は、複数の高分子量の成分を含む多分散性の高い試料でも、高い分解能で解析が可能でした(Figure 3)。このような解析が可能であったのは、どちらの解析方法も分離技術と分離過程の検出技術の組み合わせた技術を採用しているためです。さらに、AUC は分子の粒径と密度に基づいて分離することができるため、LNP 試料の正確な粒度分布を決定することが可能になります。
また、遊離したカーゴは毒性や免疫反応を増加させる可能性がある9 ため、これらの解析は重要な指標となります。AUC は、製剤中に存在する遊離したカーゴおよびLNP に内包されたカーゴの研究に使用されています6,7。分析用超遠心機Optima AUC は、1 回の実験で190 ~ 800 nm の波長を最大20 波長で測定可能な光源を備えており、多波長でカーゴの光吸収(核酸では260 nm、Doxil では490 nm)を測定可能です。LNP 自身のシグナルも検出できますが、脂質は光を吸収しないため、このシグナルはLNP から生じた散乱光です。散乱光シグナルはLNP の大きさに依存し、一般的に215 ~ 280 nmの範囲で検出されます。LNP からの散乱光シグナルとカーゴからの光吸収シグナルでは、スケールが異なることに注意が必要です6。Mehn らは、実験全体を通して試料の沈降パターンおよび拡散パターンを測定することにより、存在する遊離薬物の量を解析し、その結果がHPLC およびDLS での測定結果と一致していました7。Henrickson らは多波長測定法と蛍光検出法を用いて、siRNA LNP 試料にはカプセル化されたRNA のみであったことを実証しました6。
4) バッチDLS、B) MADLS(多角度DLS)、C) バッチNTA、D) AUC で解析した4 種のLNP 製剤の流体力学的直径の決定。解析の詳細および図中の参照色の解釈については、https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38253203/ Parot et al.DOI:10.1016/J.jconrel.2024.01.037, Epub 2024、https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/ を参照。画像は未修正。
薬物治療中に中空LNP が投与された場合、どのような役割を果たすかはまだ明らかではありませんが、LNP の特性評価はLNP 製造の改善や治療の安全性確保に役立つ可能性があります。密度マッチング速度法(試料を異なる密度の溶媒で複数回測定する手法)を用いると、試料全体の密度分布を測定することができます5-7。試料の密度分布が分かれば、中空LNP試料と比較できます。密度の重複が検出された場合、試料中に中空LNP が一定の割合で含まれている可能性が示唆されます。Bepperling とRichter はこの方法を用いて、LNP あたりのmRNA コピー数を計算しました10。その結果、彼らが用いたmRNA LNP 製剤の流体力学的半径分布は25 ~ 100 nmで、LNP 当たりのmRNA コピー数は1 ~ 10 個でした。彼らはこの1 桁のコピー数の値が妥当であり、同様のサイズのLNP を用いた他の研究結果と一致していると判断しました11-13。これらの研究は、AUC によって、中空/ 完全体のLNP 分布とmRNA ペイロード量の特性評価が可能であると強調しています。どちらのパラメータも細胞活動およびmRNA 発現動態に影響を与える可能性のある重要なパラメータであり12、さらにこれらはLNP 製造やより多様な治療薬の送達の最適化に役立ちます。
最後に、LNP 製剤の安定性については、凍結解凍や室温での取り扱い時など、実際のアプリケーションで発生する状態に従って試料の処理を行いながら、様々な時点で評価を行う必要があります9。Thaller らは、異なるストレス条件下でのLNP の多分散性と安定性の評価をAUC とDLS を使い、解析比較を行いました8。DLS は、凍結融解や機械的ストレスに曝された場合、定性的な流体力学半径の測定と製剤の変化の同定が可能でしたが、50°C の熱ストレスを与えた試料の測定は不可能でした。一方、AUC は、検証を行った全てのストレス条件下で、DLS では不可能であったLNP の定量的な特性解析やより正確な粒度分布の解析が可能で、さらに粒子の密度変化までも解析することができると、Thaller らは結論付けました。
これらの研究は、LNP 製剤の特性評価におけるAUC の汎用性と有用性を強調しています。AUC はAF4-MALS やTEMの測定結果と一致しており、正確なLNP 製剤の粒度分布解析ができることが分かります。さらに、溶液中の遊離カーゴおよび中空のLNP の存在を同定および定量化が可能で、LNP あたりのmRNA コピー数も定量的に解析することもできます。まとめると、AUC は非破壊的な、第一原理に基づいた定量的な解析法であり、LNP の特性評価を包括的かつ高い信頼性で実行できるアプローチとして、LNP 研究に不可欠なツールとなっています。
引用:
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