小児白血病治療における中央診断 -小児白血病中央診断の現状-

 

出口 隆生 先生
国立成育医療研究センター 小児がんセンター
小児がん免疫診断科 診療部長

小児白血病は抗がん化学療法の有効性が高く、5年生存率は85~90%です 1)。しかし、治療による晩期障害は小児にとって一生を左右する重要な問題であるため、迅速で質の高い診断により治療を層別化し、病型や予後に応じた適切な強度の治療を選択することが重要な課題となっています。本日は、国立成育医療研究センターの出口先生に、全国から依頼される小児白血病検体に対するフローサイトメトリー法を用いた診断方法やその有用性、検体の受付から診断結果返却までの流れ、中央診断における今後の展望などについてお話を伺いました。

 

フローサイトメトリー法を用いた中央診断

58項目の共通抗体パネルを使用した病型診断

日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)としての細胞マーカー中央診断は、2006年にAML-05臨床試験において開始されました。それを発展させることで、2011年からJPLSGは全ての小児造血器腫瘍を対象に細胞マーカー中央診断を実施する体制となり、当初は三重大学、大阪大学および成育医療研究センターの3施設で検査が行われました。

細胞マーカーの診断パネルは、分子生物学的な知見を応用していくことで、現在では5カラー/CD45 gating 法を用いて58抗原のマーカー解析を行う中央診断体制(表1、2)となりました。この中央診断は国際的な診断基準(WHO 分類)にも準拠し、遺伝子異常を予測するため探索的な抗原も含まれることで、遺伝子検査の発展にも対応できるものとなっています。

検査会社や院内検査で実施する保険診療(1940点*)では通常、約18種類程度の細胞マーカーで診断がされています。この方法では白血病を大まかに診断できますが、詳しい病型診断はできません。また当然、混合型や分類不能型等のまれな病型の診断もできません。さらには、WHO 分類に示されている国際的な白血病診断基準にも準拠していません。

当研究センターで実施している58項目共通抗体パネルを用いたフローサイトメトリー法による細胞マーカー解析には、白血病の分化系統診断に必要な検査項目が全て含まれています(表1)。またWHO 分類に準拠した診断が可能であるとともに、最新の知見を応用した抗原発現パターン解析により、遺伝子異常を予測することも可能です。この診断は、臨床試験の結果を国際的な場で発表することにも大きく貢献しています。

*保険点数:2022年2月現在

 

微小残存病変解析による治療反応性の評価とキメラ遺伝子スクリーニング

白血病と診断された患者さんの、治療経過に伴って変化する骨髄残存白血病細胞数(割合)を、最大10種類の細胞マーカーを目印として追跡します。治療経過中の微小残存病変(MRD)の変化は、治療反応性の確認において最も有効な指標の1つです。多くの細胞集団からMRDを検出し、治療反応性を数値化することができる3)ので、MRD解析は治療を進める上で重要な検査です。

表1 JPLSG の白血病病型診断 2)

 T-ALL
 CD3または細胞質内(cy)CD3陽性、かつCD2、CD5、CD7、CD8のうち1つ以上が陽性
 B細胞系 ALL
 B-precursor  CD19、cy-CD79a、CD20、CD22のうち2つ以上が陽性、細胞質内μ鎖、Igκ、Igλが全て陰性
 Pre-B  CD19、cy-CD79a、CD20、CD22のうち2つ以上が陽性、細胞質内μ鎖が陽性、IgκとIgλが陰性
 成熟B細胞性
 (Mature B)
 CD19、cy-CD79a、CD20、CD22のうち2つ以上が陽性、Igκまた はIgλが陽性
 Acute Mixed Lineage Leukemia(AMLL)
 骨髄抗原陽性
 B細胞系ALL
 1. CD19、cy-CD79a、CD20、CD22のうち2つ以上が陽性、かつ、
 2. CD3陰性およびcy-CD3陰性、かつ、
 3. cy-MPO陰性で、CD13、CD15、CD33またはCD65が陽性
 骨髄抗原陽性
 T-ALL
 1. T-ALLの基準を満たし、かつ、
 2. cy-CD79a陰性、かつ、
 3. cy-MPO陰性で、CD13、CD15、CD33またはCD65が陽性
 リンパ系抗原陽性
 AML
 1. cy-MPO陽性、もしくはCD13、CD15、CD33、CD65の2つ以上 が陽性、かつ
 2. CD3陰性およびcy-CD3陰性かつcy-CD79a陰性、かつ、
 3. CD2、CD5、CD7、CD19、CD22、もしくはCD56が陽性
 True mixed
 lineage
 leukemia
 1. cy-MPO陽性、かつ、B細胞系の診断基準を満たす、もしくは、
 2. cy-MPO陽性、かつ、T-ALLの診断基準を満たす、もしくは、
 3. B細胞系とT-ALLの両方の診断基準を満たす
 Acute Undifferentiated Leukemia(AUL)
 B細胞系ALL、T-ALL、AML、いずれの分類にも当てはまらないもの

白血病患者さんに検出されるキメラ遺伝子にはさまざまな種類があり(表3)、それぞれ白血病の発症に関係し、タイプによって治療反応性に違いがあります。細胞マーカーやPCRを用いたMRD解析と、定量PCR法によるキメラスクリーニングや遺伝子パネル検査の結果を統合的に解析することで、将来的には各々の病型に従ったリスク層別化が可能となると考えられます。

 

余剰検体を保存して未来に投資

病型診断やMRD 解析、キメラスクリーニングは今現在の患者さんにおける予後の層別化や治療の選択のために実施していますが、将来、新しい抗原や遺伝子が発見された場合などに、もう一度解析し直すことができるよう、検査で残った余剰検体を臨床的な診断データと共に保存しています。診断情報を蓄積してデータベース化することは、国家的な財産であり、希少疾患発症の実態把握や新たな亜群の同定、さらに今後の治療法の改善・開発に有用であり、未来に対する投資と考えています。

表2 JPLSGマーカー中央診断共通パネル 標準58項目

     FITC  PE  PC7  APC  APC/FireTM
 750
 PerCP
 細胞表面  1  IgG1  IgG1  IgG1  IgG1    CD45
(gating)
 2  Kappa  CD13  CD19  Lamda  
 3  CD65  7.1  CD10  CD33  
 4  CD66c  CD24  CD34  HLA-DR  
 5  Mue  CD22  CD20  CD56  
 6  CD58  CD11b  CD117  CD38  
 7  CD4  CD8  CD3  CD5  
 8  CD36  CD42b  CD61  CD14  
 9  CD99  CD7  CD2  CRLF2  
 10  CD21  CD64  CD41  CD1a  
 11  CD15  TCR-g/d  CD235a  TCR-a/b  
 15  CD263  CD261  CD95/FAS  CD133/1  
 16  CD264  CD262  CD27  CD244  CD11c
 17  CD44  GPI-80  CD123  CD371  CD25
 細胞内  12  cy-IgG1  cy-IgG1  cy-IgG1  cy-IgG1    CD45
(gating)
 13  cy-TdT  cy-MPO  cy-CD3  cy-CD79a  
 14  cy-Mue  cy-CD22    cy-CD3  

 

表3 BCP-ALLに検出されるキメラ遺伝子

 
 EP300-ZNF384 ー BCP-ALLの約4%
 TCF3-ZNF384 x2
 TAF15-ZNF384
 EWSR1-ZNF384
 CREBBP-ZNF384
 
 MEF2D-BCL9 ー BCP-ALLの約3%
 MEF2D-HNRNPUL1
 
 P2RY8-CRLF2   ー BCP-ALLの約3%
 
 EBF1-PDGFRB   ー BCP-ALLの約1%
 

 

フローサイトメトリー法の有用性

白血病細胞表面に発現するタンパク質分子に結合した抗体数を蛍光量として測定するフローサイトメトリー法は、診断に直接関係しないCRLF2やNG2といった抗体を組み込むことで、病型診断や予後予測に役立てることができます。今後、病型や予後に関連する新たな因子が同定されても、その抗原を加えることで容易にアップデートしていくことが可能です。

フローサイトメーターは現在多くのメーカーから販売されています。私は、以前は日本ベクトン・ディッキンソン、現在はベックマン・コールターのフローサイトメーターを使用していますが、どちらも、手技は簡便であり、迅速に診断・定量ができます。近年、白血病に関連する遺伝子検査の重要性が高まっていますが、ゲノム時代においてもフローサイトメトリー法は、白血病細胞上に発現しているタンパク質の種類、量、性質を一度に、迅速に検索可能な優れた方法であることに変わりはなく、遺伝子検査との併用により重要な知見をもたらすために必須の検査だと思います。

 

検体の受付から診断結果返却までの流れ

それぞれの施設から規定の梱包・手続きをした骨髄液が宅配便で当研究センターに発送され、大半は翌日の朝9~10時に到着します。受付後に、検査方法によって検体を分類し、10時頃から検体調整を始めて、12~13時にフローサイトメーターにかけ、14時頃からデータ取り込みが終わった検体の解析を始め、検体を受け取ったその日のうちに診断書を付けて報告するという流れになっています(表4)。

表4 小児白血病細胞マーカー解析測定のフロー

 
 1)細胞数を計算板でカウント
 2)PBS洗浄と細胞数調整→1x107に調整
    遊離抗原(特に免疫グロブリン)を除去、多くの抗原は血中に分泌される
 3)抗体との反応(室温、15分)
       抗体はあらかじめ分注して凍結保存
       抗CD45抗体は後から追加→薄めで使用
 4)溶血+洗浄、シース液に浮遊
 5)測定
 6)結果の確認と蛍光補正の修正
 7)陽性率算出、サイトグラム作成
 8)報告書作成(緊急時は最短30分位で報告)
 

報告書に関しては、当研究センターと検査会社で大きな違いがあります。当研究センターでは、報告書に検査の数値だけでなく、医師の立場から白血病の病型の診断結果やコメントも付けてお返ししています。一方、検査会社の報告書には、数値とドットプロットが記載されているだけです。

治療法については、表向きには我々の診断に基づいて各施設が選択することになっていますが、助言を求められることもあります。

 

中央診断における今後の展望

今後は遺伝子パネル検査が小児造血器腫瘍でも一般化し、遺伝子異常がきちんと検出される症例が多くなると考えられるため、白血病の診断や治療選択での重要性が高くなると思われます。ただ、遺伝子パネル検査は結果が出るまでに少なくとも4週間くらいかかるので、結果が早く得られる細胞マーカー診断による初期治療の選択は引き続き必須であると考えられます。

フローサイトメーターによる細胞マーカー解析は、細胞表面のタンパク発現を直接確認しますので、遺伝子パネル検査で得られた遺伝子異常が、マーカー診断の病型と一致しているかを確認することが重要となります。それらが一致していれば、その遺伝子異常は重要な病因となりますし、一致しなければ何かほかの因子の関与が考えられます。これらの結果を予後と比較検討し、必要に応じてさらに検査を進めることで、新たな病因や予後因子の発見につながる可能性があります。

また、小児ALL治療における最も強力な予後因子の1つであるMRD の測定には、フローサイトメトリーによる方法(FCMMRD)とPCR による方法(PCR-MRD)があります。

FCM-MRD では、測定可能な患者の割合が95%以上と高く、適用性・迅速性の点でPCR-MRDより優れていますが、初発診断時とは異なる表面形質パターンに変化して偽陰性となる可能性も指摘されています。PCR-MRDはFCM-MRDと比べて高感度ですが、プライマー設計の成功率は一般的に60〜95%であり、比較的高額な費用がかかります。近年、次世代シークエンサー法を応用したPCR-MRDの開発が進められており、将来的には主流となる可能性が高いですが、やはり測定可能性の確認まで時間が必要となります。再発治療などのように早期に頻回の測定を要する症例では、FCM-MRD が補完的な役割を果たす必要性が生じてくると思います。海外では通常、2通り以上の手法でMRD が測定されており、検査結果の検証に用いられています。また、フローサイトメーターも進化することで、DNAやRNA、リン酸化タンパク質の測定など、新しい貢献ができる可能性もあります。我々も新しい進歩にアンテナを張りつつ、遺伝子検査などの検査技術の進歩に対応していくべきだと考えています。

(左)出口先生、(右)清河先生

 

参考文献

1)Pui CH, Yang JJ, Hunger SP et al. J Clin Oncol 2015; 33: 2938-48.
2)清河信敬 : 小児造血器腫瘍診断の手引.2 免疫学的診断,日本医学館,2012,pp 11-31.
3)Campana D, Pui CH. Blood 2017;129:1913-1918.

 

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