再生医療分野での細胞集塊体積計測の重要性とMultisizer 4eの有用性

Multisizer 4e

山本 陸 先生

国立大学法人 大阪大学大学院 工学研究科生物工学専攻
生物プロセスシステム領域 紀ノ岡研究室

近年、組織幹細胞、ES細胞、iPS細胞といった細胞種は、細胞治療、遺伝子治療などといった新規モダリティ開発のための原料として、益々、重要な位置づけとなっております。将来、これらの新規モダリティが臨床応用され、医療の現場で実用化されるために、原料となるこれら細胞の大量生産と安定供給を実現するための品質管理が求められます。

再生医療用の培養細胞においても、細胞濃度(細胞数)、細胞体積、Viability、培地成分濃度など、多くの管理項目があり、安定した培養を行うには、これらの計測についての簡便性と正確性が求められます。

コールター法(電気的検知帯法)を原理とした粒度分布測定装置(Multisizer 4e)は、様々な研究や産業で使用される精度の高い細胞計測装置で、測定できる検体も、無機材料から細胞・微生物まで利用実績があり、その細胞の数、サイズ(分布)、体積、濃度などの項目を短時間で高精度に計測できる特徴から、材料開発から再生医療分野における品質管理から研究開発にわたり、幅広い領域で使用されている分析装置です。

そこで、本インタビューでは、貴研究室で取り組んでおられる研究内容や、山本先生の取り組まれておられる研究テーマについてお聞きし、再生医療分野における細胞集塊体積測定の重要性と、コールターカウンタ―(Multisizer 4e)の有用性についてお聞きいたしました。

 

ご研究内容について

Multisizer 4e

① 紀ノ岡研究室で取り組んでいる研究内容に関してご教授ください。

細胞治療や再生医療、創薬や培養肉など、細胞を活用した技術は幅広い分野において需要が高まっております。細胞製造コトづくり拠点では、これらの新展開産業に資する細胞製造技術を構築に向け、「細胞製造性(Cell Manufacturability)」という新たな学問を基軸とし、研究活動に取り組んでおります。その中で、いかに細胞を安心・安定・安価に製造するかを導く細胞製造の技術開発(モノづくり)、必要不可欠な規制や国際標準の構築(ルールづくり)、センスの良い人材育成(ヒトづくり)を同時に行い、技術の社会実装( コトづくり)を目指しています。

 

② 山本先生が取り組まれているご研究のテーマについてご教授ください。

2025年現在、私たちのいる大阪では関西万博が開かれており、iPS細胞から作ったミニ心臓・心筋シートや、培養した細胞で作ったステーキなど、近未来を想像させる、細胞を利用したテクノロジーがいくつも展示されております。このようなテクノロジーを必要とされる方々に実際に届けるためには、産業として細胞製造をする技術が不可欠であり、その中でも私は主に大量製造に関する研究に取り組んでいます。

この“細胞を大量に製造(培養)する技術”は、対象の細胞に合わせて古くから研究され実用化がなされてきました。例えば、ビールや日本酒は酵母を用いたバイオ産業ですが、飲料会社の工場やブルワリーを見学すると数百から数万リットルの巨大なタンクが目に入ります。また近年では微生物よりも高機能な動物細胞を利用し、数千から数万リットルのタンクで高機能医薬品が生産されています。

ではiPS細胞等の培養規模はというと、最大でも数十リットルであり、未だ産業化に対応するレベルではありません。これにはいくつか理由がありますが、「細胞が生存や増殖に“接着”を必要としていること」もその一つです。培養には足場となる担体や細胞同士の接着による集塊の形成が不可欠であり、この集塊レベルの挙動を考慮する必要があります。特にこれらの細胞が“気まぐれ・わがまま”な一面は、生存や増殖には接着が必要なのに、たくさんの細胞がくっつくと増殖を止めてしまうことです(接触阻害)。これは大量に細胞を製造するためには集塊のサイズを制御する技術の必要性を意味しており、例えば、私はこの細胞接着を緩める試薬を添加することで、集塊を膨らませて大きく育てる技術や、もうこれ以上増殖が望めない細胞集塊を小さく分割して効率的に長期間培養する技術の開発に取り組んでおります。

酵素処理並びにボツリヌス菌由来ヘマグルチニン(HA)を用いた新たな細胞集塊の分割継代法

図1. 酵素処理並びにボツリヌス菌由来ヘマグルチニン(HA)を用いた新たな細胞集塊の分割継代法

 

再生医療分野における細胞集塊体積測定の重要性について

Multisizer 4e

① 細胞集塊体積を測定する重要性について、ご教示ください。

私のテーマに関するお話しの中で少し説明してしまいましたが、ヒトや動物の細胞の挙動は“接着”に大きく影響を受けます。“接着“は細胞の生死、増殖や分化といった細胞運命の決定を左右するといっても過言ではありません。そのため、高機能医薬品を生産させる動物細胞は、敢えて接着できないように馴化して利用することが一般的です。

一方で細胞そのものが製品であり、分化や組織形成を行う再生医療の分野では気軽に接着能を欠損させることはできません。そこで、集塊形成を行って培養しますが、これは制御対象のサイズが単一細胞と比較して大きく、また培養初期から刻一刻と変化し続けることを意味しています。

このサイズは培養に大きな意味を持ち、例えば、iPS細胞やES細胞が形成する細胞集塊は、そのサイズに応じて増殖能や分化能が異なることが報告されています(Nath et al. 2017,Bauwens et al. 2008)。近年では、オルガノイドと呼ばれるミニ臓器もこれらの細胞集塊から誘導されますが、この構造や機能にもそのサイズが重要な役割を果たすことが知られています(Yin et al. 2016)。このように、細胞集塊のサイズは目的の細胞や組織の機能に大きな影響を及ぼすために、体積のモニタリングを行う測定技術は、製造管理のうえで非常に重要な役割を果たすことが想定されます。

 

ご研究におけるコールターカウンタ―の有用性について

Multisizer 4e

① 現在(Multisizer 4eを使用する前)は、どのように細胞集塊体積計測を行っておられるかご教示ください。

細胞集塊の懸濁液をサンプリングし、顕微鏡で観察し撮影した画像を、ソフトウエアを用いて解析することで、一つ一つの集塊の投影面積を測定していました。

② 現在採用されておられる方法で細胞集塊体積計測の際に感じていた課題についてお聞かせください。

まず画像取得を行ううえで難しいのが、大量の細胞集塊を撮影することです。一つの画角では十分な集塊数を確保できないため、集塊懸濁液を入れたウェルプレートの全域を撮影しタイリングを行うのですが、撮影中の移動で集塊が転がりやすく、不自然にブレたり、タイリング時に重ならないことがありました。

また、集塊同士が重ならない画像を撮影することにも難しさがありました。小さい集塊が大きい集塊の下に隠れてしまうと、投影面積を評価することができないため、これらが生じにくい撮影条件の設定や枚数を増やすことが求められました。

さらに、撮影した画像の解析で難しいのが小さい細胞集塊の評価でした。400 μmほどの大きな集塊をターゲットにした場合、崩れて生まれた小さな細胞集塊の解像度が低く、サイズの混在するサンプルの測定が非常に困難でした。

このように適した画像の撮影から測定までは非常に手間が多く時間がかかっていたために、培養途中の状態を評価できないことも難点でした。

 

コールターカウンター(Multisizer4e)について

① 「細胞径・体積分布測定装置 Multisizer 4e」での測定についてお聞かせください。

まず始めに測定の時間と手間が非常に省かれたというのが一番大きな実感としてあります。これまでは実験後に時間をかけて解析評価してから、再度条件を設定して次の実験というサイクルで研究を進めていました。iPS細胞などは培養期間が非常に長いために、このサイクルにかける時間と手間は非常に大きく、実験の進展が遅いことが実状でした。

これに対し、コールターカウンターを活用すると実験室の中で測定がすぐに完了できます。そのため結果に合わせて条件の変更が可能となり、実験効率が非常に向上する場面がありました。

また大小さまざまなサイズの集塊が混在する実験系での測定精度が向上しました。私の研究では、細胞集塊を効率よく分割するための技術開発に取り組んでいるのですが、これまで測定が難しかったシングルセルや小さい集塊まで測定できるようになったことで、分割不十分な条件から分割しすぎている条件までを区別することが可能となり、より正確な条件設定が可能となりました。

「分割継代前」と「分割継代後」の細胞径分布

図2.「分割継代前」と「分割継代後」の細胞径分布

 

再生医療用細胞の大量生産のための技術開発研究におけるコールター法の有効性と将来性について

② ベックマン・コールターやMultisizer 4eに関して、ご要望などございますでしょうか。

Multisizer 4e

私が現在研究室で行っているような技術開発フェーズにおいても、実験精度や効率が上がっており有効な測定技術だと思いますが、加えて実際の製造工程においても期待ができる技術だと捉えています.PAT(Process Analytical Technology)は、製造工程中における重要なパラメータをリアルタイムで測定・制御することにより、品質を設計通りに確保するためのアプローチで、pHや培地成分、細胞密度などがモニタリング対象例として挙げられます。平面培養では画像取得によってコンフルエンシーなどを解析する方法がありますが、大量培養を目的として行われる細胞集塊の懸濁培養系ではこの方法の適用は困難です。

例えばコールター法を懸濁培養系と無菌的に接続することができれば、集塊体積そのものや、そこから概算によって細胞数をリアルタイムモニタリングすることが可能であり、大量生産工程の安定化につながる測定技術として期待できると考えております。

 


Multisizer 4e

山本 陸 先生

国立大学法人 大阪大学
大学院工学研究科生物工学専攻
生物プロセスシステム領域 紀ノ岡研究室

 略 歴 

大阪大学, 大学院工学研究科, 特任研究員
大阪大学, 大学院工学研究科, 助教
大阪大学, 先導的学際研究機構 産業バイオイニシアティブ研究部門, 助教

 専 門 

再生医療
生物化学工学

 所属学会 

化学工学会
日本再生医療学会
日本生物工学会

 

Multisizer 4e

国立大学法人 大阪大学
大学院工学研究科生物工学専攻
生物プロセスシステム領域
生物プロセスシステム工学研究室

再生医療・組織工学を主とした領域にて、細胞・組織製品の製造にかかわる技術構築や、創薬における領域にて、ドラッグスクリーニングシステムの構築と、細胞・組織を活かした技術構築を行っております。さらに、産業化活動として、生物プロセスシステム工学の観点から、細胞製造を介する新産業分野(細胞治療、再生医療、バイオアッセイ、創薬などへ展開する細胞製造業など)に対し、3つの要素(ヒトづくり、モノづくり、ルールづくり)から成る「コトづくり」を実践し、産・官・学の三位一体で産業を興すことへの貢献を目指した研究を行っております。

ホームページhttps://www-bio.eng.osaka-u.ac.jp/ps/indexj.html

Multisizer 4e

精密粒度分布測定装置Multisizer 4eはコールター原理を採用した最新のデジタルテクノロジーにより、粒子の性質や光学的特性にかかわらず様々な粒子の個数、体積、面積粒度分布の正確な測定が可能なISO 13319完全準拠の粒度分布測定装置です。

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