フローサイトメトリーによる造血器腫瘍解析検査の病院内実施がもたらすもの

広島赤十字・原爆病院(広島県中区: 565床)は、「人道・博愛の赤十字精神のもと、人々に愛され信頼される病院を目指します。」を理念に掲げる地域の中核病院であり、現在の診療科は32科を数え、地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、災害拠点病院等に指定されています。輸血部血液検査課では2019年からベックマン・コールターのNaviosEXハイエンドクリニカルフローサイトメーター*1 を導入し、年間約1,500件のフローサイトメトリーによる造血器腫瘍解析検査(FCM検査)を行っています。国内医療施設ではFCM検査は省力化等の理由で外注化されることが多い中、FCM検査を外注化せずに病院内で実施する利点について広島赤十字・原爆病院の病理診断科部長の藤原 恵 先生と輸血部血液検査課長の塔村 亜貴 氏にお話を伺いました。


*1 Navios EXハイエンドクリニカルフローサイトメーター
 医療機器製造販売届出番号13B3X00190000050
 一般医療機器( 特定保守管理医療機器、設置管理医療機器)


FCM検査の病院内実施の大きな利点

-病理医 藤原 恵 先生-

年間約7,000件の診断を下す広島赤十字・原爆病院の病理医である藤原先生は非常に多忙でありながらも、血液検査課を含む様々な検査部署のスタッフと議論を重ねて慎重かつ丁寧に診断を下していく。このような血液検査のみならず様々な検査に精通されている藤原先生が思われるFCM検査の病院内実施における利点についてお話を聞いた。
FCM検査に限らずに迅速な結果報告は実際に早期の治療開始につながる重要な項目であるため、他の医療機関ではこの結果報告の迅速性がFCM検査を外注せずに病院内で実施する一番の利点だという声は多い。藤原先生も「免疫染色検査で使用する抗体選択の一助となる」と結果報告の迅速性を病院内FCM検査実施の利点と話す。
しかし、藤原先生は、結果報告の迅速性をFCM検査病院内実施の利点と認めながらも「病理医にとっては結果が早く出ることよりも大きな利点がある」と話し、このように続けた。「FCM検査の利点は、HE標本や免疫組織化学染色のみでは区別できないところが見えることです。FCMのkappa, lambda鎖の差を確認することにより、B cell lymphomaと診断できたlow grade lymphoma症例は数知れません。病理医は全ての検査結果を俯瞰的に見た上で確信を持って診断を下すため、少しでも典型像と異なる所があれば検査実施者と議論を行い、場合によっては様々な部署と意見交換をします。このような議論、意見交換ができることがFCM検査の院内実施最大の利点であると思います。」
また、藤原先生は、「検査方法それぞれに長所と短所があり、いずれかの検査方法に優位性があるわけではなく、様々な検査が相互に補完しあうことで検査結果が診断に結びついていく」と話し、「頻繁に遭遇する例を上げると、FCM検査ではHodgkinlymphomaの様な少数の異常細胞が主体である疾患では取りこぼしがあり、ほとんどの細胞が壊死に陥った症例でも,病理の免疫組織化学染色ではB cell, T cellの確認ができることが多いのに対し,病理組織検査ではlymphoplasmacyticlymphomaの骨髄検体では腫瘍性か否かさえ判定できないことがしばしば起こるが、(下記症例のように)FCM検査により腫瘍性を疑うことができることがある。診断を下すために検査実施者との議論は非常に重要だと思っています」と続けた。
藤原先生は、FCM検査を担当する血液検査課の塔村氏とも普段から多くの検査情報の共有と議論を交わしている。情報量が非常に多いFCM検査では全ての結果情報は報告されず、ゲーティングにより検査実施者が全結果情報の中から選択した情報を報告する。塔村氏は、形態情報等の他の血液検査情報を統合して総合的に選択したゲーティング情報を報告しているため、藤原先生は、塔村氏と行うFCM検査結果についての議論は血液検査全般の結果にまで広がっていく。依頼されたFCM検査のみを実施する外注検査業者のスタッフとでは不可能なこのような議論は検査結果の誤った解釈や見落としを防いでおり、藤原先生は、議論を重ねてきた塔村氏をとても信頼している。


症例呈示;80歳,男性。

病歴;検診でM蛋白を指摘された。
病理所見;骨髄は軽度過形成性で,3系統の細胞は各成熟段階が存在しており,免疫組織化学染色にてCD138陽性細胞は増加し,小集団を形成しており,CD56(-),cyclin D1(-)であり,plasma cell myelomaの診断に至らなかったが,FCMでCD20, CD19が増加し,kappa, lambda鎖に偏りがあるとの情報から病理組織標本で免疫組織化学染色にてCD20, CD3の染色をおこなうことにより,B cell lymphomaさらにlymphoplasmacytic lymphomaを疑うことができた。



血液検査のスペシャリストとしての高みへ

-臨床検査技師 塔村 亜貴 氏-

広島赤十字・原爆病院の輸血部血液検査課は塔村氏を中心に常勤スタッフ6名と週1 回血液業務を支えるサポートスタッフ2名の合計8名で通常の血液検査業務に加え、年間約1,400 件の骨髄穿刺検査や年間1,500 件のFCM検査等を行う。FCM検査は2019年にNavios EXを導入した際に現在国内で主流の3カラー解析から5カラー以上の解析に変更し、検査パネルの内容も一新した。新しい知見と臨床医の要望を組み込みながら新検査パネルをご自身で考案し、血液検査課をまとめる塔村氏に新たに始めたFCM検査の5カラー解析や外注検査に対する病院内FCM検査実施の利点についてお話しいただいた。
FCM検査の外注と院内実施おける結果報告の迅速性の違いについて塔村氏は、「今は場合によっては当日検査結果が届くこともあるので、結果の迅速性については大きな差は出ないかもしれません」と言い、「FCM検査を外注化せずに院内行う強みは他にある」と話す。FCM検査での多種の細胞を含む多くの測定データから目的細胞のデータを抽出・解析するゲーティングを効率良く、効果的に行うには細胞の形態情報を活用することだと言う塔村氏は、「細胞の形態情報や他の血液検査結果情報を持つ私たちが行う解析(ゲーティング)結果とFCM検査を単独で実施する外注検査の結果には違いがあるかもしれない。」と話す。
さらに、塔村氏は、「限定された検査項目の組み合わせでFCM検査を請け負う外注検査に対して、院内実施の強みは検査項目の選択自由度の高さだ。」と言う。「細胞の形態情報や他の検査結果、以前のFCM検査の結果、検体の細胞数、疑われる疾患等の情報から追加項目等を検討して検査パネル設定ができるため、速やかに臨床医の要望に沿った検査を実施できる。」と塔村氏は話す。
そして、塔村氏は、「病院内でFCM検査を実施することの醍醐味は、形態で判別できない異常細胞を自分達の知識と技術、経験を駆使することで検出できることだ」と言い、「外注検査に出してやきもきしながら結果を待つより、自分の力でしっかり解明したい。だから、技術の習得は大変だったけれども3カラーから5カラーに変更したことで、少ない細胞数の検体でも異常細胞を捉えられるようになったことは非常に喜ばしい成果だと思っている。」と話し、「次は今できていないことが可能になるであろう10カラー解析を実施したい。」と続けた。
10カラー解析の実施導入を視野に入れる等FCM検査に対する非常に高いモチベーションを持ち続ける理由に塔村氏は、「藤原先生や他の臨床医とFCM検査を含めた検査結果について議論する機会が多く、意見を求められる場合がある。そのため、自分を常に研鑽し続けることが必要だと感じる」と言い、「先生方と議論をする機会があることで、自分が得た知識や技術、経験がより高度な医療提供につながっていると実感できている」と話す。
より高度な医療を提供するために血液検査室から塔村氏は血液検査のスペシャリストとして常に更なる高みを目指し続けている。



数値化されない付加価値があるFCM検査の病院内実施

FCM検査を外注化している病院は多く、その理由は様々である。病院内での検査実施と外注検査を比較する際には数値化されるコストやTAT*2 が注目されることが多いが、数値化されない付加価値についてはほとんど注目されない。今回はその付加価値について藤原先生、塔村氏に教えていただいた。藤原先生と塔村氏は普段から本当に多くのことを議論していることがうかがえる程、非常にリズム良く会話をされる。そして、症例の話になった際の二人の会話から共有し議論した情報の多さを感じることができる。FCM検査の病院内実施が病理医藤原先生と臨床検査技師塔村氏を繋ぐ一因となり、この繋がりがより良い医療提供につながっていると感じさせられた。
そして、この繋がりは更なる高品質な医療を生むためのサイクルを生みだしている。藤原先生や他の臨床医と議論をすることでモチベーションを高く持つ塔村氏は、FCMの技術、知識を高めることでマルチカラー化を含めた高品質なFCM検査を実施していく。その結果は検査を依頼した医師から喜ばれるにちがいない。そうなると塔村氏と臨床医の議論はますます増えていく。
さらに、この効果は塔村氏を起点に血液検査のスタッフにも広がっていることが感じられる。FCM検査の情報提供に広島赤十字・原爆病院を訪ねるとほとんど全員のスタッフが質問を用意している。質問内容は共有化されており、塔村氏をはじめ多くのスタッフが自分の質問以外のQ&Aセッションにも時間が許す限り立ち合い追加で質問をされる。立ち会えないスタッフには参加スタッフが説明して情報を共有するのであるが、スタッフ全員がFCM検査の技術、知識の習得に非常に貪欲であることが訪問の度に感じられる。そして皆が明るくまさにスペシャリストが集っていると思わされる。
国内有数のFCM検査実施数を誇る広島赤十字・原爆病院内でのFCM検査実施は、数値化されるTAT等の利点よりも、数値化されない付加価値によって高品質な医療提供に寄与していることを教えていただいた。


*2 TAT(Turn Around Time: 検査依頼から報告までの時間)

患者さんのために協力し合い、新しい検査技術修得に積極的に取り組む輸血部血液検査課の皆様
(写真中央がNavios EX)


Navios EX ハイエンドクリニカルフローサイトメーター

高速・高感度のマルチレーザー・マルチカラー解析

・ 3レーザー/10カラーによる最大16パラメータ同時取得

自動化が実現する迅速化と省力化
・サンプル攪拌機能付き自動オートサンプラー内蔵

・ 電子カルテとの連携にも対応

省力化・ヒューマンエラーの最小化

・ 精度管理プログラムによる信頼の検査システム

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