新機種Avanti J-15遠心機におけるサンプル保護の改善およびサンプル回収率の最大化

Content Type: Application Note
Author: Julia P Luciano-Chadee | Beckman Coulter, Inc., Indianapolis, IN 46268

 

どのようなワークフローであっても、遠心機は実験の下流工程に向けた高品質のサンプルを調製することを目的としている以上、サンプルの保護は非常に重要となる。生物学的および化学的サンプルを処理する際に、最初のステップとなることが多いのは遠心分離である。遠心分離におけるサンプルの純度や量は研究成果を左右するため、これらを適切に確保できれば、データの質が向上し、実験をやり直す必要性を最小限にしてダウンタイムを短縮できる。ベックマン・コールターの新機種Avanti J-15シリーズの遠心機は、このような研究者のニーズを念頭に置いて設計されている。Ultra Harmonic Technologyを搭載したAvanti J-15シリーズは、ペレット形成や分離中において、精密な減速条件を必要とするサンプル処理のための理想的な遠心機となっている。サンプル保護に重点を置いたAvanti J-15シリーズは、加速・減速時にサンプルに生じる乱れを低減することで、サンプル収量の増加、コンタミネーションの減少、および遠心効率の向上を実現している。

 

遠心分離は、多くの生物学および化学研究のワークフローにおいて不可欠かつ重要な作業ステップである。この手法は、組織培養、核酸分離、血液処理、タンパク質精製、ウイルス単離、トランスフェクション、細胞成分分画の分離など、幅広い実験手順において使用されている。ベックマン・コールターは70年以上にわたって高品質の遠心機を製造し続けることで、新たな発見による科学の進歩に対して数えきれないほどの貢献をしてきた。従来の卓上遠心機は、主に時間、温度、および速度を設計の柱としてきたが、ベックマン・コールターは、Ultra Harmonic Technologyを搭載することでサンプル分離およびペレット形成の効率・収率を最大化するという、新たな設計思想に基づいたAvanti J-15シリーズ遠心機で市場に革命を起こしている。

 

Experimental set up and aliquots of bacteria sample.
図1.実験のセットアップおよび分注した菌サンプル。

 

遠視分離における減速時には複数の力がサンプルに作用し、サンプルに乱れが生じる可能性がある。Ultra Harmonic Technologyは、サンプルにかかる力の正味の変化を減少させ、ペレットを形成するサンプル量を最大化し、さらに上清中に含まれる汚染物質やペレット化されていない物質の量を減少させることで、最適な遠心分離を実現している。形成されるペレットが軟らかく、付着しにくく、さらにコンパクトにまとまらないサンプルの場合は、分離効率が非常に重要になるほか、プロトコルを修正して減速中に惰性運転(ブレーキをかけないプロファイル)を行うことが必要となる。ここでは、E. coli DH5-αの調製における、Avanti J-15シリーズのペレット形成効率を、市場に流通している現行の卓上型装置と比較するための実験を実施した。

 

E. Coli DH5-αコンピテントセル(カタログ番号C2989K)はNew England BioLabsより購入した。グリセロール溶液(カタログ番号536407)はSigma-Aldrichより購入した。

Avanti J-15R(製品番号B99517、B99516、B99515、B99514)とこの遠心機に装着したJS-4.750 ロータ(製品番号B77580)、およびAllegra 14R§(製品番号A99465)とこの遠心機に装着したSX4750 ロータ(製品番号392806は、いずれもベックマン・コールターが提供した。

 

E. Coli DH5-αを37℃、170 rpmで一晩振盪培養した。その後、細胞を4℃のウォーターバスで冷却した。培養したサンプルを回収した後、光路長10mmのベックマン・コールター製DU730紫外可視分光解析システムを用いて、吸光度(OD600)を測定した。サンプルは1:3の比率で希釈した。

50 mLのコニカルチューブに細胞を40 mLずつ分注し、Avanti J-15R、Allegra X-14R、および他社製品の各装置に1つずつセットした(図1)。

細胞ペレットを形成するための1回目の操作では、各装置について3,600 x g、20分間、最大の加速および減速プロファイルで遠心を行う設定とした。各ペレットを20 mLの10%グリセロールで洗浄し、サンプルロスを防ぐために加速および減速中にプロファイル4を使用しながら3,600 x gで20分間遠心した。この遠心後、上清を慎重に除去し、グリセロールによる洗浄のステップを2回繰り返した。最後の遠心ステップの後、細胞を20 mLの1x PBSに再懸濁した。この一部を取り1x PBSを用いて1:3の比率で希釈し、Beckman-Coulter製のDU730紫外可視分光解析システムを使用してOD600を測定・記録した。

現行機種に対する、新機種に搭載されたUltra Harmonic Technologyの優位性を検討するため、同一初期量のサンプルを用意し、3種類のユニットについてすべて同一の設定で処理を行った。得られたデータを表1にまとめた。OD測定に用いたサンプルは1:3希釈液であるが、細胞数は希釈を補正した実数で記載している。細胞を培養した後、初期条件の吸光度を測定して細胞密度を計算すると1.35×109細胞/mLであった。密度の計算(genomics.agilent.com)には、分光解析システムによるOD600の測定から明らかになるE. coliの吸光係数を使用した。

3回のグリセロール洗浄が終了した時点の回収率を、測定結果に基づいて算出し、3装置間で比較した。表1の結果は、Ultra Harmonic Technologyがサンプルを保護し、回収率を最大限に高めていることを明確に示している。

装置 OD
測定値
(1:3希釈)
回収細胞数
(個/mL)
(希釈倍率を補正した実数)
サンプルロス
(遠心分離前の初期値) 0.56 1.35 x 109 N/A
Avanti J-15R 0.55 1.33 x 109 1.6%
Allegra X-14R 0.48 1.15 x 109 14%
他社製品 0.30 0.73 x 109 46%

新機種Avanti J-15の性能は優れており、サンプルの分離およびペレット形成効率が現行モデルよりも向上していることが示された。複数回のグリセロール洗浄後に失われたサンプルは、わずか2%未満であった。この結果は、測定値だけでなく肉眼でも確認することができる。ペレット形成ステップの後にAvanti J-15から取り出したサンプルの上清は、Allegra X-14Rと比べると明らかに透明度が高い(図2)。

他社の装置を使用すると、サンプルの50%近くが失われており、実験の下流のワークフローに大きな影響を及ぼす可能性がある。適切量のサンプルを回収できない場合、実験を繰り返す手間が発生する場合もある。このようなことに気づかないまま実験を繰り返していると、コストがかさみ、人的リソース含め膨大な損失を生じてしまう。

大変興味深いことに、ベックマン・コールター社のAllegra X-14Rは、他社の装置よりも効率が3倍高く、サンプルを大幅に保持することができていた。

サンプルの中には、これらと同じ形・同じ効率でペレットを形成しないものもある。このようなサンプルはコンパクトにまとまらず、軟かいペレットを形成する。このような性質を持ったサンプルの場合、サンプルロスが発生しやすいため、加速・減速時間を長くしたプロファイルで遠心を行うことでサンプルが乱れるのを防ぎ、収量を最大化することが多い。軟らかいペレットは、自然界に存在するもの(藻類など)のほか、人工的な物質でも生じることがある。コンピテントセルの作製においては、グリセロールを用いて細胞を洗浄する工程が何度も必要になる。グリセロールは、凍結保存を可能にすることに加えて、浸透圧を維持し、電気による形質転換効率を高めることが知られている。

細菌の細胞は、グリセロールでの洗浄工程において付着性を消失する特徴がある。そのため、遠心プロトコルを修正し、加速および減速プロファイルを4に設定することで、ペレットの乱れを少なくできる。

サンプルを保持すること、そして収量をなるべく多く確保することは、研究において非常に重要である。サンプルロスがあると、実験を何度も繰り返す必要が出てくる場合もある。また、汚染物質とサンプルを適切に分離できないと、結果の正確性を損なう可能性もある。Ultra Harmonic Technologyは、加速・減速をよりサンプルの性状に即したものにし、サンプル分離の質を向上させる。そのため、新機種Avanti J-15シリーズでは、サンプルロスが回避されているとともに、サンプル収量が最大限に高められている。

Avanti J-15シリーズの遠心機には、Ultra Harmonic Technologyが搭載されている。注目すべき特長は、精巧な超遠心機並みの加速・減速機能を卓上型遠心機に搭載した点であり、この機能によって、サンプル調製の成否を左右する加速・減速時に、サンプルが乱れるのを抑えている。この技術は、時間や温度、速度といった要素を超えて、日常的に卓上で行う遠心分離を大きく進歩させた。Ultra Harmonic Technologyにより、サンプル収量を最大限に高めたのである。同じ装置設定条件において、他社の技術ではベックマン・コールターの製品で観察されたサンプル保持効果を得ることができなかった。Avanti J-15シリーズでは、加速・減速プロファイルが改良されており、これによってサンプルの保持性能が向上していることが示された。

 

Visual comparison between Allegra X-14R and Avanti J-15R sample.
図2:Allegra X-14RおよびAvanti J-15Rのサンプルの肉眼的な違い。

 

§Allegra X-14RおよびAllegra X-15Rは、ここで報告する速度では遠心効率が同等である。

CENT-3018APP09.17

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