等密度勾配超遠心法によるアデノウイルスの精製: 垂直ロータの有用性
実験の目的
等密度超遠心法を用いた遠心分離(中空と完全体のアデノウイルスキャプシドの分離など)で、最も高い分離能ならびにスループットが得られるロータを特定します。
遠心分離の方法
結果
垂直ロータ VTi 50.1を使用した場合(C、D)、固定角ロータType 50.2 Tiでは分離ができなかった2つのバンド(ii、iii)を得ることができました。これらの2つのバンドを動的光散乱法(データは下記参照)による粒子計測ならびに、屈折率測定法による溶液密度の計測をしたところ、バンドiiとiiiは、溶液の密度に差異が見られ、さらにバンドiiは、粒径が100 nmのウイルスキャプシドのみが検出されました。このことから、垂直ロータ はほかのロータと比較して、短時間で精密にウイルスキャプシド内の遺伝子の有無をもとにして物理的に分離できたことが示唆されました。
垂直ロータVTi 50.1を使用した等密度超遠心法(C、D)では、第3のバンドiiiが形成されたことから、明らかに分離能が高くなったことが分かりました。また、垂直ロータは、ほかのロータ(A:スウィングロータ SW 55 Ti、B:固定角ロータType 50.2 Ti)と比べて沈降経路長が短いため、CsClが平衡状態に到達するまでの時間が短く、ウイルスキャプシドのバンドがより短時間で形成されました。
垂直ロータ用チューブを用いた密度勾配遠心法
考察: 垂直ロータでより高い分離能が得られる理由
垂直ロータはほかのロータより沈降経路長が短く、密度勾配が狭く形成されるため、密度の近い粒子をより精密に分離することが可能です。例えば、同じ遠心条件下においては、沈降経路長の長いスウィングロータで形成される密度勾配は、垂直ロータの密度勾配と比較して5倍以上広くなります。
スウィングロータ(SW 32)と垂直ロータ(VTi 50.1)の密度勾配において、ウイルスバンドが形成される位置の分離能を比較すると、垂直ロータでは、密度勾配を狭く形成させることができるため、中空、中間体、完全体のウイルスキャプシドのわずかな密度の違いで分離することができます。
考察: チューブ内の密度勾配の方向転換
固定角、近垂直、垂直ロータは、ロータの外側向きの遠心力がかかると、チューブ内では垂直方向の密度勾配が形成されます。一方、超遠心が終了しロータが減速・停止すると、密度勾配は重力方向に方向転換するため、チューブ内に形成されたバンドは水平方向に形成されます。
このようにして形成されたバンドは、遠心後に方向転換された場合でチューブ内の溶液の体積は一定ですが、遠心後のチューブ内の密度勾配の方向転換によるバンド間の距離については、チューブの高さと横幅の比率に応じて広がりが生じるため、バンドの分離能が上がります。
例えば、39 mL容量のチューブは、高さが89 mmで、横幅が25 mmですので、高さと横幅の比率が3.5倍となります。この場合、垂直ロータで遠心後のチューブ内の密度勾配の方向転換によるバンド間の距離は3.5倍に広がることから分離能が上がります。対照的に、スウィングロータ使用時は、バケット自体が方向転換するため、チューブ内の密度勾配の方向はそのまま変化しないため、超遠心時のバンド間の距離は維持されます。