機能性抗体で免疫応答を制御し、新しい治療戦略と創薬に結びつける ― 研究を加速するフローサイトメーター ―

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January 2018

東北大学 大学院薬学研究科 がん化学療法薬学分野
助教 塚本 宏樹 先生

免疫細胞に対する活性化と抑制の二面性を制御する機能性抗体のご研究についてお話を伺いました。

 



 

薬剤師志望から研究へ

高校生の頃に手術をうけ薬を服用していた経験から、東北大学薬学部に入学した際には薬剤師として医療に関わっていこうと思っていました。しかし、研究室に入って研究を続けるうちに問題解決に取り組むことを楽しむようになり、博士課程で「研究をしていこう」という気持ちになりました。

その頃、大阪大学の審良先生らによるTLRの機能解明をした研究が注目され、自然免疫が脚光を浴び始めていました。私は大学院生の頃は、クロマトグラフィーや質量分析計を用いた分析化学研究にも触れる機会が多かったのですが、分析化学よりもバイオロジーに、そして「なぜ病気になるのか」「どのように治療するのか」ということに強く興味をもつようになり、博士課程を卒業してから免疫学の研究を志しました。

幸い機会に恵まれ、佐賀大学医学部免疫学分野で研究ができるようになりました。また指導者にも恵まれ、先生方からも「やりたいことをある程度修行して、自由にやった方がいい」と言われてきました。現在も自由に研究ができていることに非常に感謝しています。

 

機能性抗体を切り口とした研究

佐賀大学で所属していた研究室(木本雅夫教授)は、モノクローナル抗体、特に細胞膜受容体などの高分子に対する抗体を作製することが得意でした。抗体もただ結合するだけでなく、その受容体を活性化あるいは抑制できるような機能を持つ抗体を作ることができれば研究の新たな展開ができるのではないかと考えていましたが、結果的にこの頃の経験やスキルが今も非常に役に立っています。

TLR4は、病原体成分のLPSを認識し二量体化してシグナルを伝えます。すでに敗血症などを指向したLPSのアナログ化合物がTLR4拮抗薬として開発されていますが、我々はこのような競合型の拮抗薬ではなく抗体でアプローチしています。我々の抗体は、LPSとTLR4の結合を阻害するのではなく、抗体の結合が受容体構造を変化させLPSの結合によるシグナル伝達を阻害すると考えています。TLR4に限らずに、受容体は二量体による構造変化によってシグナル伝達することが多いので、他の分子でも同様のアプローチによる機能制御ができるのではないかと考えています。

我々の作製した機能性抗体には免疫を活性化するものもあります。がんに用いれば、がん免疫を賦活化できる可能性があります。その一方で、同じ受容体に対する抗体でも(炎症のような免疫応答が一過性に起きた後に)免疫応答を抑制するような状態に誘導することもできます。この抑制作用を利用することでアレルギーや自己免疫疾患を抑制することが可能です。このような機能性抗体の二面性を切り口に新たな創薬への展開を目指しています。

 

 



図1 TLR4(Toll-like-receptor4)は細胞外会合分子であるMD-2を介してグラム陰性菌細胞壁の構成成分であるリポ多糖(LPS)に結合し、二量体を形成、シグナルを誘導する。本TLR4抑制抗体はLPS結合非依存的にTLR4の活性化を抑制する。

図2 TLR4活性化抗体は、抗原と同時に投与すると免疫応答を増強するアジュバントとして作用する一方、抗体だけを投与した場合は強い免疫抑制を誘導し、自己免疫疾患やアレルギーの発症を抑制する。

 

2つの研究テーマ ~アレルギーとがん~

免疫には、感染を防ぐような「正」の応答と、その後のブレーキをかけるような「負」の応答があります。細菌感染では、最初に炎症が起こり感染の拡大を防ぎます。次にリンパ球による獲得免疫が誘導され、より特異的に細菌を排除しようとします。以前は、感染が重篤な場合は強い急性炎症反応が起き、その全身性の炎症病態が敗血症の高い致死率の原因になっていると考えられていました。しかし最近では、急性炎症だけが原因ではなく、その後の免疫が抑制された免疫不応答のような病態による二次感染が重要な鍵となるのではないかと考えられています。

我々の抗体は、この相反するような免疫応答の二面性を模倣できるのではないかと考えています。そして、その免疫応答のメカニズムを解明できれば、抗体あるいはその薬理作用を代替するような低分子化合物を使って新たな創薬や治療法、創薬標的分子が出てくるのではないかと思っています。

現在の大きな研究テーマは「アレルギー」と「がん」です。
アレルギーや自己免疫疾患の研究では「予防」としての研究が多いのですが、我々の作製したアゴニスト型のTLR抗体は、1型糖尿病などの自己免疫疾患を発症した動物モデルに投与しても強い抑制効果があります。また、LPS等と比べても抗原特異的な抗体産生を著しく減弱させ、アレルギー疾患モデル動物に対して抑制効果も示します。何故、自然免疫応答を活性化するTLR抗体がアレルギーや自己免疫疾患を抑制するのか? その作用メカニズムを解明することによって、新しい治療戦略や創薬の標的分子がみつかる可能性があると思って研究しています。

免疫を増強するという意味で、機能性抗体を使ったがん免疫の研究も進めています。がん免疫療法の大きなブレークスルーとなった免疫チェックポイント阻害薬が臨床応用されていますが、奏効率はそれでも30%程度です。その効果を違う作用メカニズムの免疫療法で増強できないかそのアプローチを考えています。

 

 

現在、フローサイトメーターは、リンパ球の活性化やポピュレーション解析等のin vivo、in vitroの実験で活用しています。機能性抗体を作製する際にも大いに活躍します。

現研究室の主たる実験者は研究を始めたばかりの学部学生が多いため、教員のサポートが必要ない使いやすいフローサイトメーターを検討していました。他社を含め、いくつか検討した中で、ソフトウエアの使いやすさ、また、蛍光感度と分離(S/N)が他と比較して格段に良かったので、CytoFLEXに決めました。また、納品時に既にフルスペックのレーザーやフィルターが設置されているため、将来的に容易にマルチカラーに機能拡張できることも決め手になりました。

新たな創薬のターゲットや治療法として

機能性抗体を切り口とした研究では、現在当たり前のノックアウトマウスのloss of functionから得られる知見とは異なり、人為的にその受容体機能を制御することで治療への可能性を拓けること、また場合によっては、その抗体が医薬品のシーズになり得ることなどの大きなメリットがあります。機能性抗体のシグナルが必ずしも受容体リガンドと同一ではない場合やバイアスドアゴニスト等の場合もあるため、常法のアプローチからではわからない発見もあります。我々のような小さな研究室から新たな発見、創薬シーズを生み出すためにも機能性抗体は独創的ツールとして欠かせないものになっています。

 

 

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