ナノフローサイトメーター CytoFLEX nano が実現する、ナノ粒子解析の新アプローチ
背景
ナノスケールフローサイトメトリーは、フローサイトメトリーの原理とナノテクノロジーを組み合わせた最先端の技術です。この技術が実現するナノスケールでの解析によって、ナノ粒子のサイズ、組成、表面抗原特性に関する貴重な情報を得ることができます。ナノスケールフローサイトメトリーは、生物学、医学、材料科学を含む様々な分野において、幅広く応用されています。この技術を用いることで、ナノ粒子や細胞外小胞(EV)等の微粒子を高い精度と感度で解析し、特性評価することができます。研究用途以外でも、診断ツールや標的化ドラッグデリバリーシステムの開発・品質評価につながると期待されています。ナノ粒子の特性解析が可能なナノスケールフローサイトメトリーは、個別化医療やナノ医療に新たな可能性をもたらします。
ナノスケールフローサイトメトリーは、多くの利点を持つパワフルな技術ですが、以下のような課題もあります。
検出感度: 最もサイズの小さな粒子の正確な検出には、いまだに限界があります。従来のフローサイトメーターは、100 nm未満のEVを検出し特性評価するように設計されていません。ナノ粒子の検出閾値は、バックグラウンドノイズ、自家蛍光、ラベリングや検出プローブの効率性などに影響されます。
サイズ分解能: フローサイトメトリーでナノ粒子の特性評価は可能ですが、サイズが類似している複数のナノ粒子を、正確に分けて検出することは難しい場合があります。サイズ差がわずかしかない粒子(例えば 50 nmの粒子と60 nmの粒子)の識別は、従来のフローサイトメーターの検出力および分解能では困難です。
サンプル調製: ナノ粒子やEVを検出するためのサンプル調製は複雑です。サンプル調製法は、凝集、安定性、調製中に粒子特性が変化する可能性などを考慮したものでなければなりません。正確な解析を行うためには、ポピュレーション全体の特性を適切に反映する均一なサンプルを得ることが重要です。
標準化:ナノスケールフローサイトメトリーは、比較的新しく、急速に進展している分野であるため、プロトコルと標準物質の標準化ついては、まだ定まったものが存在していません。そのため、検査室間でデータ収集や解析にばらつきが生じやすく、結果の比較や、一貫した方法論の確立を困難なものとしています。
データ解析の複雑さ:フローサイトメトリーでは複雑かつ多次元のデータセットが生成されるため、高度なデータ解析技術が必要です。大規模なデータセットの解析と解釈は時間がかかるだけでなく、データ処理、視覚化、統計解析の専門知識が必要です。
本アプリケーションノートでは、ナノフローサイトメーターCytoFLEX nanoとそのワークフローについてご紹介します。CytoFLEX nanoは、最小40 nmの細胞外小胞(EV)などのナノ粒子を検出し、同時にマルチパラメータでの蛍光検出を行うことができる、ナノ粒子専用フローサイトメーターです。さらに、1台で計数、特性評価、粒子径計測(粒度分布)のすべてを行うことが可能で、ナノ粒子研究の新たなスタンダードとして現在の課題を克服します。CytoFLEX nanoのソフトウエアであるCytExpert nanoは、CytoFLEXファミリーの使いやすさを維持しつつ、ナノスケールでの探索を支援する、最先端の機能を実装しています。つまり、EV研究において、これまでは得ることが難しかった疑問に対する答えを、より簡単に見出すことが可能になるのです。
- 最小40 nmのナノ粒子の検出と特性評価が可能な高い感度(ポリスチレンビーズを使用)
- 粒子径の差が10 nm 以内の粒子を正確に区別(シリカビーズを使用)できる高い分解能と、不均質なポピュレーションに内包された極めて微量のターゲットを特性評価できる性能
- 確固としたQCプロセスと蛍光感度のモニタリング、複数のオプションから選択可能なオンボード洗浄機能による、装置の性能とデータ解析の一貫性を保つ
- 6つの蛍光チャネルと5つの側方散乱光パラメータを搭載し、より柔軟な実験計画が可能。
はじめに
細胞外小胞(EV)は、細胞から細胞外に放出される脂質二重膜を持った微小な粒子です。EVは細胞間コミュニケーションに重要な役割を果たし、様々な生理学的や病理学的プロセスに関与しています。EVは、エクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小体など、その生合成機序とサイズに基づいて異なるサブタイプに分類されます。
エクソソームまたはsmall EVと呼ばれるサブタイプは、大きさが30~150 nmです。これらのEVは細胞内の多胞体(multivesicular body, MVB)の内向きの出芽によって形成され、MVBが細胞膜と融合し、細胞外へ放出されます。エクソソームは、タンパク質、脂質、核酸(DNA、RNA)、miRNAなどの様々な生理活性分子を内包しています。これらの内包物は標的細胞に伝達され、その細胞の機能や挙動に影響を与えます。
マイクロベシクルは、large EV、微小小胞、またはエクトソームとも呼ばれ、エクソソームよりも大きい100~1,000 nmの粒子です。エクソソームとは異なり、マイクロベシクルは細胞膜から外側に直接出芽して分離されることで形成されます。また、タンパク質、脂質、核酸などの多様なカーゴを運搬し、これらの分子を標的細胞に取り込ませることができます。
アポトーシス小体はEVの中で最も大きく、通常1~5 μmで、プログラム細胞死(アポトーシス)の過程で死にゆく細胞から形成されます。アポトーシス小体は細胞断片、小器官、核物質を内包しており、貪食細胞によって認識・貪食されることで除去されます。
近年、EVは疾患診断および予後のバイオマーカーとしての可能性や、細胞間コミュニケーションに果たす役割、治療用途への応用などから大きな注目を集めています。現在、様々な体液(血液、尿、脳脊髄液など)に存在するEVの研究が行われており、そのEVが内包するカーゴと機能についての洞察が得れています。
EVの研究と特性評価には、ナノフローサイトメトリー、電子顕微鏡、RNAシーケンシング、プロテオミクスなどの分子プロファイリング技術が使用されています。
EVのバイオロジー、カーゴ、機能を理解することは、細胞間コミュニケーションに関する知識を深め、診断、治療、再生医療への応用を促進する大きな可能性を秘めています。
近年、EV解析の重要度は増していますが、正確な解析の難しさも課題になってきています。回収・単離・精製法では、収率の低さ、EV以外の粒子のコンタミネーションや標準化の難しさが問題となっています。EVはサイズや内包するカーゴ、発生機序がことなり不均一であることが知られており、このため研究が複雑になってしまいます。EVは、由来やカーゴによって、生物活性や機能が異なります。しかし、異なる状況でEVが果たす機能や作用の具体的なメカニズムは、まだわかっていません。EVの機能が不均一性であることを踏まえると、より包括的な特性評価と標準化された機能アッセイが必要です。
EVの研究者は、より優れた分離技術の開発や、プロトコルの標準化、EVバイオロジーの理解を促進することにより、こうした課題に積極的に取り組んでいます。EV分野の進展に伴ってこれらの課題を克服することで、EV研究の可能性を最大限に引き出し、さまざまな生物医学分野での応用が可能になります。
最も大きな課題の1つは、EVの粒子数を正確にカウントし、特性評価を行い、サイズを計測するには、複数の技術が必要なことです。そのため時間と労力がかかり、再現性が低くなります。
ナノフローサイトメーターCytoFLEX nanoは、下表に示す機能全てを統合し、この装置1台で、粒子数カウント、特性評価、サイズ計測を可能にしています。
| 性能 | |||
|---|---|---|---|
| バイオレット側方散乱光の感度 | VSSC1: 40 nm のポリスチレンナノ粒子 VSSC2: 80 nm のポリスチレンナノ粒子 |
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| バイオレット側方散乱光検出のダイナミックレンジ | VSSC1: スモールレンジ (40–150 nm) のポリスチレンナノ粒子 VSSC2: ラージレンジ (80–1,000 nm) のポリスチレンナノ粒子 |
||
| バイオレット前方散乱光の感度 | 300 nm のポリスチレンナノ粒子 | ||
| 蛍光感度と分解能 |
500 nm CytoFLEX nano用多強度蛍光粒子の使用により、6つの蛍光検出器で蛍光を同時検出 V477: 8 ピーク B531: 8 ピーク Y595: 8 ピーク R670: 6 ピーク R710: 5 ピーク R792: 4 ピーク |
||
| 蛍光 rCV | rCV < 10%(1 μL/minでQC蛍光粒子を使用) | ||
| サンプル間のキャリーオーバー | ≦1%a | ||
| データ取得速度 | 電子データの最大取得速度 | 16,000イベント/秒(≧95%収率) | |
| 推奨される最大サンプル取得速度 | 5,000イベント/秒(複数の同時通過の可能性やコインシデンスを回避するため) | ||
| 粒子数カウントの精度 | ≧ 90%b | ||
a.ポリスチレンビーズビースでのテスト結果
b.同装置3台を用いて144 nm QC散乱光粒子を以下の条件で測定した結果
条件; サンプル流量 1 μL/min、2 μL/min 3 μL/min、4 μL/min、5 μL/min、6 μL/minの条件下で3分間記録、これを5回繰り返し、各流量での平均総イベント数を計算し、その後、計算で得た体積当たりのイベント数と理論上のイベント数を比較した 。
Figure 1. ナノフローサイトメーターCytoFLEX nanoの性能仕様
プロトコル
1. システムの起動
1日の使用に十分な量のシース液と洗浄剤があり、廃液コンテナが空であることを確認したら、デスクトップのリンクをクリックしてCytoFLEX nanoの電源を入れ、CytExpert nanoソフトウエアを起動します。「System Startup」を選択します。この手順には約6分かかります。この間、システムが、シース液ダンパーのパージ、シース液フィルタ・シース液流路・フローセル・ピストンポンプのデバッグ、サンプル流路の洗浄を自動で実行し、流路系の準備を整えます。
2. 設定
CytoFLEX nanoには、波長をそのままに光を分割するWavelength Division Multiplexer(WDM)が搭載されています。これによりフローセルから得た光を2つに分け、1つを散乱光フィルタを持つ検出器(Violet SSC1、Violet SSC2、Blue SSC、Yellow SSC、Red SSC)にとどけ、もう1つを蛍光光学フィルタを持つ検出器(V447、B531、Y595、R670、R710、R792)に届けます(Figure 2を参照)。
Figure 2. CytoFLEX nanoのデフォルトの検出器構成
Violet SSC1:バイオレットレーザーの側方散乱光1、Violet SSC2:バイオレットレーザーの側方散乱光2、Blue SSC:
ブルーレーザーの側方散乱光、Yellow SSC: イエローレーザーの側方散乱光、Red SSC:レッドレーザーの側方散乱光
3. デイリーQCの実行
「QC/Sensitivity」を選択し、ビーズのロット番号を入力します。QCを実行することで、CytoFLEX nanoのシグナル強度が適切で、精度が高いことが保証されます。
QCプロセスで、レーザー出力とシース流速の評価を開始します。
この後のプロセスは、3つのステップに分かれます。
- • 装置のバックグラウンド評価: 5 nmフィルタでろ過済みのCytoFLEXシース液を使用しています。システムがシース液とサンプル流路の限界に極めて近いバックグラウンドノイズを評価することで、装置の検出下限までの測定を確保します。
- • 散乱性能評価: システムが、CytoFLEX nano Daily QC Scatterspheresを使用して、イベントレートとシグナル強度をモニタリングします。
- • 蛍光性能評価: システムが、CytoFLEX nano Daily QC Fluorospheresを使用して、イベントレート、レーザーディレイ、蛍光検出性能をモニタリングします。各チューブ間に、シース液を用いた自動バックフラッシュが実行されます。生成されたQCレポートで、各ステップで望ましい結果が得られていることを確認できます。エラーが発生した場合は、対象の箇所が明示されます。
4. 感度モニタリング
蛍光感度が重要な場合は、CytoFLEX nanoで分離できる蛍光ピークの数と、分離されたピークの中で最も暗いピークとノイズとの間の距離を示すための感度モニタリングを行うことで、データの信頼性に確信を持つことができます。「QC/Sensitivity」メニューで「Sensitivity Monitor」を選択し、使用する製品のロット番号を入力します。このプロセスでは、多色蛍光多強度の500 nmポリスチレンビーズであるMulti-fluorescent Fluorospheresを測定します。QCレポートおよび感度モニタリングレポートの例を、Figure 3に示します。
Figure 3. QCレポートおよび感度モニタリングレポートの例。
5. ナノフローサイトメーターCytoFLEX nanoのオンボード洗浄プロセス
CytoFLEX nanoでは、さまざまなサンプルやワークフローのニーズを満たせるよう、自動洗浄のオプションが複数用意されています。どのワークフローを選択しても、バックグラウンドノイズがEVやナノ粒子の評価に影響を与えないことが保証されるため、EVなどの生物学的ナノ粒子を正確かつ再現性のある方法で解析できます。
使用可能なワークフロー:
- • 気泡除去(Backflush)は「Unload」プロセスに組み込まれており、QCおよび感度モニタリングの後に実行されます。また、「Acquisition Control Panel」の「Backflush」をクリックして実行することもできます。「Cytometer」メニュー内の「Cytometer Configuration」を選択し、装置が実行する気泡除去の回数を設定できます。
-
•
「Cytometer Configuration」メニューで、プリセットされたオンボード洗浄オプションが3つと、CytoFLEXクリーナーでの洗浄を何往復行うか(BFF)をカスタム設定できるオプションから選択できます。
— Option 1: 1 BFF(サイクルタイム:7分19秒)
— Option 2: 5 BFF(サイクルタイム:10分26秒)
— Option 3: 10 BFF(サイクルタイム:14分18秒)
— Option 4: カスタム - 往復サイクル(BFF)を1~10から選択すると、サイクルタイムが表示されます。 - • Manual Clean(マニュアル洗浄)は、CytoFLEXのデイリークリーンと同様の洗浄プロセスです。マニュアル洗浄の時間をオンボード洗浄と同じ長さに設定すると、同等の洗浄結果が得られます。「Cytometer Menu」から「Manual Clean」を選択すると、次の手順で洗浄剤を使用した洗浄時間と、水またはサンプルバッファを使用した洗浄時間を設定できます。
-
• シャットダウン時の洗浄
— Option 1:選択したオンボード洗浄を実行後、自動的にシャットダウンします。
— 一晩(推奨8時間)、サンプル流路をソーキング(つけ置き洗い)することで流路の完全な洗浄が期待できます。ソーキングはいつでも停止可能なため、柔軟に対応できます。 -
•
フローセルの洗浄が必要となるのは、ごく稀なケースであるため、弊社サービス担当までご連絡ください。このプロセスは、CytoFLEX nanoの前面に配置されたボトルに、新たに10%に調製した Contrad 70 洗浄液を入れて実行します。
— 「Cytometer Menu」で「Flow Cell Clean」を選択します。システムが、10% Contrad 70 洗浄液でフローセルのすすぎとソーキングを行います。ソーキングは30分以上行うことをお勧めします。その後、複数のFlow Cell Primeを使用してContrad 70を洗い流します。
— Flow Cell Prime(「Cytometer Menu」にあります)はフローセルの洗浄時以外でも選択・使用できます。洗剤を使用する場合に便利です。
Figure 4. 「Backflush Setting(気泡除去設定)」および「On-board Cleaning Setting(オンボード洗浄設定)」。
6. 測定条件の設定
- • 「File」を選択し、「New Experiment」を開きます。
- • 「Cytometer Menu」で、「Cytometer Configuration」を選択し、サンプルポンプでサンプルチューブから収集するサンプル量を入力します。考慮が必要なデッドボリュームは32 μL、サンプルチューブ内の最小ボリュームは100 μLです。
- • 「Cytometer Menu」から、「Settings and Options」を選択します。サンプルボリュームのモニタリング機能はデフォルトで有効に設定されているため、システムはサンプル消費量を監視します。残りの量が設定したサンプル収集量以下になると、自動的に停止します。サンプルボリュームのモニタリングを無効化するには、チェックボックスのチェックを外します。
-
• 左側の「Acquisition Control Panel」で、以下を選択します。
— 表示するイベント数と記録の停止条件。これは、特定のゲート内のイベント数、時間、ボリュームのいずれでも設定できます。複数のオプションを選択した場合は、そのうちのいずれかに到達すると停止します。
— サンプル流速。推奨のサンプル流速は、ビーズ測定時 1 μL /分、生物学的サンプル測定時 3 μL /分です。他 に 6 μL /分が選択可能で、1 ~ 6 μL /分の範囲で設定できます。 - • アイコントップバーのアイコンで、実験に必要なヒストグラムとプロットの種類を設定します。このメニューには、統計、階層ゲーティング、マニュアル/自動ゲート、スケーリング、ゲイン、コンペンセーションツールもあります。
7. サイズキャリブレーション
信頼性の高い正確な測定値を得るには、サイズキャリブレーションが必要です。NanoVisサイズ標準粒子は、44 nm、80 nm、100 nm 144 nm、300 nm、600 nm、1 μmのサイズの異なるポリスチレンビーズが混合された製品です。VSSC1閾値はリファレンスキャリブレーション法により複数要素を評価した結果であり、この高い感度がCytoFLEX nanoを使用したキャリブレーション済データの生成を可能にします。
8. サンプルバッファとベースラインモニタリングの設定
-
• 左側の「Acquisition Control Panel」の
アイコンを使用して新しいチューブを選択し、サンプルバッファチューブをローディングします。「RUN」をクリックし、「Acquisition Setting」に進みます。このメニューから、進行中の実験に必要なすべてのチャネルの閾値とゲインを調整します。このステップでは、これから実行するサンプルの基準値(ベースライン)を作成します。 -
• サンプルバッファチューブを使用して、ベースラインモニタリング設定を生成できます。左側の「Acquisition Control Panel」の
アイコンで、新たに「Blank」を選択します。チューブの上で右クリックし、「Baseline Monitor」を選択します。「Menu」で次の各項目について、いずれかのオプションを選択します。
— ブランクサンプルタイプ:ベースラインモニタリングでは、毎回、サンプルチューブをサンプルホルダーに収める際にサンプルバッファチューブが必要になります。ベースラインモニタリングでは、5 nmのシース液がサンプル流路に引き込まれます。
— 合格基準:イベント/秒、または全イベント中、あるいは表示されている特定のゲート中のイベント数。最も感度の高い散乱光チャネルVSSC1のノイズの右側にゲートを設定することができます。このゲートでサンプル流路内に残るサンプルバッファのノイズ以外の残留物をモニタリングし、装置が次のサンプルを測定できる状態であるかを判断できます。
— 洗浄サイクル設定:合格基準を満たさない場合は、バックフラッシュのサイクル数、1サイクルで実行するバックフラッシュ回数を設定します。「On-board Clean」のチェックボックスにチェックを入れると、その洗浄サイクルが選択されます。各洗浄サイクル間に、装置は基準値(ベースライン)と合格基準を満たしているかどうかを再評価します。合格基準が満たされた場合、モニタリングを停止します。満たされていない場合は、設定した洗浄の次のサイクルが実行されます。
— ベースラインモニタリングはFCSファイル形で保存されます。「All Cycles Data」は、ベースラインモニタリングの全でのランのデータを1つのFCSファイルに統合したものです。「Last Cycle Data」には、最後に実行したモニタリングのデータのみが保存されます。
— 設定が完了すると、解析中に、新しいブランクチューブを作成して「Run」をクリックすれば、その設定を使ったベースラインモニタリングを行うことができます。設定を変更するには、ブランクチューブ上で右クリックし「Baseline Monitor」を選択します。
Figure 5. Baseline Monitor(ベースラインモニタリング)」の設定画面。
9. サンプルデータ取得
-
• 左側の「Acquisition Control Panel」の
アイコンを使用して、サンプルバッファと同じ設定のチューブを作成し、サンプルチューブをローディングします。 - • 新しいサンプルタイプを使用する場合は、最初にサンプルのタイトレーションを行い、最低濃度から開始して最高濃度まで実行します。ゲインと閾値を微調整することによって、サンプルを最適に分離することができます。その場合は、再度サンプルバッファを用いた測定行い、「Baseline Monitor」の設定を変更することをお勧めします。
- • 細胞のフローサイトメトリーでは、コインシデンスや複数の同時通過が発生するかどうかは、サンプル濃度によりますが、ナノフローサイトメーターCytoFLEX nanoでは、粒子サイズも関係します。サイズが100~150 nm以上のサンプルの場合、同時通過が起こらず、かつ効率を維持できる限界濃度は、およそ104 particles/μLと考えられます。粒子径が小さい(または、large EVに対するsmall EVの比率が高い)ほど、濃度を高くできます。同時通過が多すぎる場合、「Acquisition Control Panel」 の「Events Processed %」が100%未満になります。
- • 1秒あたり、または特定ゲート内のイベント数、サンプル分解能と対象の散布図が示す相関関係から最適なサンプル希釈率を選択したら、シングルカラー染色したサンプルの測定を開始し、「Acquisition Setting」メニューで蛍光ゲインを調整します。
-
• カラーパネルを実行する場合、コンペンセーションで蛍光の漏れ込みを補正し、不要なシグナルを除去できます。コンペンセーションは、「Acquisition control panel」の
アイコンを選択してCompensation Matrix(コンペンセーションマトリックス)を使用して行うか、トップバーの
アイコンから、マニュアルで実行することも可能です。 - • CytoFLEX nanoには、染色や標識付けした特定のポピュレーションに特に注目したい場合に有用な蛍光トリガリングオプションが備わっています。
- • 異なるサンプルタイプ間、低濃度のサンプルの測定、または染色サンプルの測定後に未染色サンプルの測定を行う場合には、ベースラインモニタリングを実行することが推奨されます。
- • MIFlowCyt-EV position paper(参考文献 #1)に示されているように、必ず全てのコントロールを実行してください。デタージェント処理(界面活性剤で処理)したサンプルを測定する場合は、まずデタージェントのタイトレーションを行い、最低濃度から測定を始めることをお勧めします。そうすることで、CytoFLEX nano のデタージェントのバックグラウンドの評価が行われます。デタージェントまたは高濃度のチューブを複数回測定する場合は、気泡除去のオプションとPrimeを実行して、ナノバブルおよびマイクロバブルを除去します。
Figure 6.「Acquisition Setting(データ取得設定)」および「Compensation Matrix(コンペンセーションマトリックス)」 設定画面。
10. 洗浄およびシステムのシャットダウンプログラム
- • 別の実験を開始する前に、オンボード洗浄を行うことが推奨されます。メニューバーの「Cytometer」を選択し、「Onboard Clean」を選択します。
-
• 1日の終わりに、メニューバーの「Cytometer」から「System Shutdown」プログラムを選択します。このプログラムには、様々なニーズに対応する3つのオプションがあります。
— システムのシャットダウン前に、選択したオンボード洗浄サイクルでサンプル流路を洗浄(洗浄剤使用)。
— システムのシャットダウン前に長時間のソーキングを実行。
— すぐにシステムをシャットダウン。
Figure 7.「System Shutdown(システムシャットダウン)」 設定画面。
おわりに
ナノフローサイトメーターCytoFLEX nanoは、最小40 nm*の細胞外小胞を明確に検出できる初のフローサイトメーターです(*ポリスチレンビーズで測定)。微粒子に対する高い感度と分解能だけでなく、自動洗浄、広範なQCプロセス、蛍光感度のモニタリング機能を備えたCytoFLEX nanoが、研究の前進に貢献することは疑うまでもありません。CytoFLEX nanoが持つ優れた性能や特性は、これまで未知であったナノ領域の探索を実現し、より包括的で正確なデータの取得を可能にします。この最先端のツールによって細胞外小胞研究が飛躍的に進展し、EVに関する理解が深まり、様々な分野への応用が促進されると期待されます。
参考文献
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