ベックマン・コールターの遠心機を使用したエクソソーム除去FBSの作製:コスト効果に優れた堅実な選択肢
内容タイプ Type: Application Note
Chad Schwartz Ph.D. | Beckman Coulter, Inc., Indianapolis, IN 46268
Abstract & Introduction
エクソソームは、後期エンドソーム由来の微小胞であり、文献では120 nm未満と記述されることが最も多く、すべての細胞種から放出され、癌の転移に関与していることが示されている1-3。エクソソームの生物学的機能はまだ完全には解明されていないが、エクソソームの特性評価および解析は研究分野として急速に発展している。エクソソームには、タンパク質や脂質のほか、様々な標的遺伝子に対する調節機能を持ったマイクロRNAが含まれている。最近の研究では、将来的にエクソソームが、癌だけでなく多くのヒト疾患において、臨床および診断上有用なバイオマーカーとなる可能性が示唆されている4。また、エクソソームが心血管疾患5-7、自己免疫疾患8、アルツハイマー病9やパーキンソン病10といった神経変性疾患、さらには結核11、ジフテリア12、HIV13などの感染症にも関連しているという興味深い知見も新たに得られている。
エクソソームに関する研究の多くは、細胞培養を用いた実験系を使用しているが、血漿や血清、尿、母乳といった体液からエクソソームを単離することも多い。細胞培養では通常、ウシ胎児血清(FBS)を培地に添加するが、FBSにはウシ由来の細胞外小胞が極めて高濃度で含まれており、そのため下流の分析が複雑なものになる懸念がある。近年研究者の間では、ウシ由来エクソソームを除去し、細胞培養用の培地に混入しないようにすることの重要性14を主張する声が上がっている。FBS中のウシ由来エクソソームの除去において日常的に利用されている手法は、作業プロセスが簡便かつ効率的な超遠心分離法である。この方法を使えば、大量のFBSを簡単に高速遠心分離することができ、もともと含まれている細胞外小胞を多くの場合一晩で除去することが可能である。しかし、エクソソームや他の微小胞を除去し、あらかじめ条件調整がされている市販の培地製品も存在する。このような製品の製造プロセスは、メーカーによって異なる独自のものであるが、原料のFBSと比べて非常にコストがかかることが多い。本稿では、超遠心分離によってエクソソーム除去FBSを「自作」するプロセスを説明するとともに、様々なタイプの培地で処理した2種類の細胞株について、細胞の生存率および培地からの除去率を比較した結果を示す。また、培養した細胞から関心のあるエクソソームを分離する方法について、遠心分離プロトコルの例を挙げながら説明する。
Materials & Methods
培地を次の3つの方法で調製した。
- 未処理FBS使用培地: 標準的なHI-FBS(Gibco)50 mLを、Jurkat細胞用のMEM(Gibco)およびHCT 116細胞用のRPMI 1640(Gibco)450 mLにそれぞれ添加した。さらに、10 mM HEPESおよび100 U/mLペニシリン-ストレプトアビジン(Gibco)となるよう、各試薬を培地に添加した。
- 超遠心処理FBS使用培地: 標準的なHI-FBS 500 mLを、アダプタ付きUltra-Clear 94 mL遠心チューブ(ベックマン・コールター、パーツ番号:345777)6本に均等に分注した後、Type 45 Tiロータ(ベックマン・コールター)に設置し、Optima XPN超遠心機(ベックマン・コールター)を使用して120,000×g、4℃で18時間遠心した。各チューブの上清を回収して50 mLずつ分注し、使用するまで-20℃で冷凍保存した。その後、この遠心除去処理済みFBS 50 mLを、MEMおよびRPMI 1640培地450 mLにそれぞれ添加した。最後に、10 mM HEPESおよび100 U/mLペニシリン-ストレプトアビジンとなるよう、各試薬を培地に添加した。
- 市販の除去FSB使用培地: Exo-FBS Exosome-depleted FBS(System Biosciences)50 mLをMEMおよびRPMI 1640 450 mLにそれぞれ添加した。また、10 mM HEPESおよび100 U/mLペニシリン-ストレプトアビジンとなるよう、各試薬を培地に添加した。
両細胞株の凍結ストックを解凍してそれぞれ別々の種類のバッファに懸濁し、最初は6ウェル培養プレート(Becton Dickinson)上に播種した。コンフルエントに達した時点で、細胞をT-175フラスコ(Greiner)に移し、培養をスケールアップした。培養3日目および7日目には継代を行うとともに、ベックマン・コールターのVi-Cellを用いて生存率を評価した。簡潔には、HCT 116細胞をトリプシン処理後、適切なバッファに再懸濁し、SX4750Aロータを設置したベックマン・コールターのAllegra X-15 Rを使用して、500×g、20℃で5分間遠心した。細胞を再び適切なバッファに懸濁した後、1 mLをバイアルに移し、Vi-Cellにセットして分析した。Jurkat細胞については、懸濁液1 mLを直接Vi-Cellでの分析に使用した。
除去量を定量するために行ったFBSのナノ粒子トラッキング解析(NTA)については、各FBS 12 mLを0.22 μmのフィルター(Millipore)でろ過した後、Ultra-Clear遠心チューブ(ベックマン・コールター、344059)に移した。このチューブをSW 41 Tiロータにセットし、ベックマン・コールターのOptima XPNを使用して120,000×g、4℃で2時間遠心した。上清を吸引し、ペレットを1X PBS pH 7.2(Gibco)100 μLに再懸濁した。このようにして得られた粒子を、Nanosight v.2.3(Malvern Instruments)で分析した。
ベックマン・コールターの遠心機を使用して、両細胞種および3つの培養条件のすべてから、目的のエクソソームを分離した後、DelsaMax Core(ベックマン・コールター)を用いてサイズの特性を評価した。図1Aに分離のワークフローを示した。高い生存率で細胞が得られたことをVi-Cellのアッセイによって確認した後、培養した細胞40 mLを50 mLのコニカルチューブに移し、50mLのコニカルアダプタとともにSX4750Aロータにセットして、Allegra X-15R卓上遠心機を用いて750×gで10分間遠心した。その後、回収した上清を0.45 μmのフィルターでろ過し、2,000×gで20分間遠心した。SW 32 Tiロータを装着したOptima XPN超遠心機を用いて、上清をさらに10,000×gで30分間遠心し、細胞残渣を除去した。再び上清を回収し、0.22 μmのメンブレンでろ過した後、Optima XPNにSW 41 Tiロータを装着して100,000×gで90分間遠心した。今度は上清を吸引した後、回収したペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。この再懸濁液を粗エクソソームとする。このサンプルは、-20℃で長期間安定である。
図1A:細胞由来エクソソームの回収と分析。ベックマン・コールターの遠心機を用いて目的のあるエクソソームを分離するためのワークフローを示した。 |
勾配層 | 推定密度 (g/mL) | 容量 (mL) | %イオジキサノール(0.25Mスクロース;pH 7.5) |
1 | 1.223 | 3 | 40 |
2 | 1.127 | 3 | 20 |
3 | 1.079 | 3 | 10 |
4 | 1.054 | 2 | 5 |
図1C:DelsaMaxの動的光散乱法の代表的なヒストグラム。推定されるエクソソームサイズを示した。 |
サンプルをさらに精製するため、図1Bに示した体積および密度の遠心密度勾配を作製した。迅速で一貫性があり、かつ再現性の高い方法で作製するために、ベックマン・コールターのBiomek 4000ラボオートメーション用ワークステーションを使用した。勾配の上に再懸濁した粗精製エクソソームサンプルを重層し、SW 41 TiロータおよびOptima XPNを用いて、100,000×g、4℃で18時間遠心した。遠心分離ステップ後に行う勾配画分の分取には、再びBiomek 4000を利用した。合計13画分について、液面のトラッキング機能を利用して上側から1 mLを回収し、TLA 120.2ロータを装着したOptima Max-XP卓上遠心機を用いてペレット化した。得られたペレットを再びPBSに懸濁してサイズ分析を行い、さらに回収したエクソソームについて予想される密度・サイズに基づいて画分6-9を混合した。TLA 120.2ロータを使用してこのサンプルを再度ペレット化し、最終的に少量のPBSに再び懸濁した。精製した画分のサイズついて、Jurkat細胞由来エクソソームの代表的なトレース数を利用しながら、ベックマン・コールターのDelsaMaxで再度分析した(図1C)。
Results
NTAによって評価した除去率
培地作製に使用したすべてのFBSについて、ナノ粒子トラッキング解析を実施した。遠心による除去処理を行った培地および市販培地のトレース数は、未処理FBS使用培地に比べると非常に少なく(図2)、いずれの方法もFBS由来のエクソソームや他の粒子の混入を防いでいることが示された。
図2:処理後のFBSにおける除去率の解析。培地作製に使用した3種類のFBSを遠心し、得られたペレットを回収して汚染源となるエクソソームの分析を行った。 |
血清ごとの生死細胞
エクソソーム除去が細胞の正常な増殖に及ぼす影響を理解するため、各細胞株からエクソソームを分離する前の2時点において、ベックマン・コールターのVi-Cellを用いて生細胞数を測定した。高出力の光学系とトリパンブルー染色を利用して細胞数および生存率の分析を行うVi-Cellは、自動化技術を備えることで、卓越した使いやすさと高い再現性を併せ持つ装置である。図3に示したように、除去処理を行った培地は、細胞の生存にほとんど、あるいは全く影響を与えなかった。
図3:培地に使用するFBSが2種類の細胞株の生存性に及ぼす影響。Jurkat(A)およびHCT 116(B)細胞を7日間培養し、3および7日目で継代を行った。3種類のFBSについて、これらの時点における細胞数および細胞の生存率を計測した。 |
Discussion
ほぼすべての細胞培養条件において標準的に添加されているウシ胎児血清(FBS)には、エクソソームやその他の細胞外小胞が高濃度で存在している。エクソソームに関する研究分野が拡大していることもあり、細胞培養を利用した実験におけるFBS除去の方法を標準化することが重要になっている。現在は、市販の除去FBSを使用すると、どの販売業者から購入しても、他の熱不活性化処理済みの高純度FBSに比べて2倍以上のコストがかかる場合がほとんどである。このような高額な実験コストに伴う負担を和らげるための代替的なソリューションが考案されており、ここではその効果を実証する結果を得ることができた。遠心による除去処理を行ったFBSを培養に使用しても細胞の生存性が変わることはなく、またこの処理によって、FBSに含まれるエクソソームやその他の微粒子数が低下することがNTAの結果から示された。分画遠心分離および密度勾配による清澄化を利用したこの処理法は、細胞由来のエクソソームを適切に精製するための手段として利用できる。
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