Vi–CELL XRとVi–CELL BLUの 計数マッチング方法
機器に新しい技術が搭載されると、新しい機器で既存のプロトコルの再検証が必要になるかもしれませんが、これはコストと時間を要する作業になる可能性があります。この点を考慮して、Vi–CELL BLU は、Vi–CELL XR で取得した結果と同じ結果が得られるように、セルタイプを設定することで、同等の結果が得られるように設計されています。
2種の異なる機器の性能が大きく異なれば、すべての計測において両機器で完全な一致を達成できないかもしれません。しかし、異なる機器間で計測結果を許容できるレベルまで合わせることは可能であり、これは様々な細胞の計測にも対応できます。
このことを実証するため、Vi–CELL XRを使って様々な細胞を、その細胞計測に合ったセルタイプ設定で計測しました。同時に(時間による変動を避けるため)、Vi–CELL BLUでは、初期設定のセルタイプを使って、同じサンプルを2本用意し、測定を行いました。その後、Vi–CELL BLUで取得したデータをセルタイプパラメータを調整し再解析を行いました。再解析により、Vi-CELL XRによる測定結果の総細胞濃度±5%*以内、生細胞濃度±2.5%*以内に入るまで合わせ込みを行いました。最後に、設定したセルタイプを使って同じサンプルを解析し、再現性を確認しました。
*計数結果は細胞の種類によって、細胞濃度、生存率の範囲が変わることがあります。
方法
- Vi–CELL XRとVi–CELL BLUは、弊社が推奨する標準粒子とプロトコルを用いて計測し、最初にベースラインを設定しました
- 機器の性能を評価するため、1 M beads/mL BEC濃度コントロール(製品番号 175478)を用いて、Vi–CELL XRとVi–CELL BLUの両機器で計数を行いました(Multisizer コールターカウンターを使って濃度を規定できる場合には、上記以外のビーズを濃度コントロールとして使うこともできます)。
- 検証を進める前に、濃度コントロール測定による両機器の測定結果が、5%以内に収まる必要があります。
- 次に、Vi–CELL XRで細胞をその細胞用に設定しているセルタイプで計測を行いました。計測に必要な細胞濃度は2 M/mL以上、生存率50%(70%以上は、より好ましい)以上が必要です。後の解析のためにデータのエクスポートを行ってください。統計的な信頼性を高めるため、複数サンプルの計測をお勧めします。
- 同じサンプルをVi–CELL BLUで計測します。この時、解析に使用するセルタイプは細胞の種類に近いセルタイプを用います(初めての解析には通常、Mammalianを選びます)。この時に取得したデータもエクスポートしてください。
- セルタイプ設定の再解析機能(Figure 1)を使って、計測に使用したVi–CELL BLUセルタイプのパラメータを調整します。この時、 Vi–CELL XRによる細胞濃度の計測結果の10%以内、生存率の計測結果の5%以内に合わせます。合わせ込みができたら、そのセルタイプを保存します。
Figure 1. セルタイプ設定による合わせ込み
セルタイプパラメータを使った計数合わせ込みの手順
- Vi–CELL XRとVi–CELL BLUソフトウエアのアノテーション画像を見比べ、どのパラメータを調整するかを決めます。
- 最小、最大直径およびクラスター分離機能は、細胞濃度と平均直径に最も関与するパラメータになります。これらのパラメータは、サンプル中の細胞計数において、どのくらいの大きさの物体を計数するかを決める項目であり、計数上とても重要です。緑でマークされた小さな細胞や、大きな細胞を計測に含んでいいかを確認してください。
- 生細胞スポットブライトネスは、生存率を合わせ込むために使用します。アノテーション画像を見ながら確認し、死細胞が緑でマークされた場合や、生細胞が赤くマークされた場合には(次のスライドを参照)、このパラメータを使って生死判定の調整を行います。生細胞スポットブライトネス値は生存率に強く関係しているため、ブライトネス(輝度)の閾値を上げると、生存率は反比例して下がることにご注意ください。
- クラスター分離機能は、細胞が凝集して正確に計数できていない場合や、高濃度細胞の計数時に細胞が塊になった場合に使用します。デクラスター機能を変更する時には、計測時の取得画像をすべて保存してください。クラスター機能が取得した全画像に対して再解析を行うため、より正確な計数評価ができるからです。
- 真円度と細胞シャープネスは、細胞培養液中のデブリやゴミを計数から除外するために使います。生細胞スポットエリアも細胞デブリを計数から除外するために使用します。
機器間で計数値が大きく異なる細胞の場合、解析画像を確認し過度な凝集がないことを確認してください。また、細胞がきちんと染色されているか確認してください。接着細胞の中には、凝集しやすい細胞があります。また、酵母をはじめとする細胞壁を有する細胞は、 トリパンブルーを取り込みにくい細胞があるからです。この課題を解決する手段として、以下の方法があります。
- 細胞の凝集を解離させるためにアスピレーション回数を上げて、培養液をよく懸濁します。
- 死細胞の染色が不十分で緑でマークされた場合や、細胞の染色が弱い場合には、トリパンブルーの混合回数を上げて染色時間を長くします。
機器の合わせ込みを評価する際に、 3台のVi–CELL BLUと3台のVi–CELL XRを使いました。セルタイプは以下に示すセルタイプ設定で解析を行いました。この検証は、細胞濃度と細胞直径を±5%(10%範囲)以内に収め、生存率を±2.5%(5%範囲)以内に合わせ込むことを目的としています。この合わせ込み範囲の許容数値は、Vi–CELL BLUの性能を基に設定されています。ユーザーは自分の判断基準で合わせ込みを行えますが、このアプリケーションノートで示す手順に従うことで、統計的な許容限界内に 計測結果を収めることができます。
結果
CHO細胞
CHO細胞をVi–CELL XRとVi–CELL BLUで計測しました。解析時のセルタイプは、既存のCHOセルタイプをVi–CELL XRで使い、Vi–CELL BLUでは、初期設定セルタイプMammalian Cellを使って解析を行いました。
Vi-CELL BLU | Vi-CELL XR | |
セルタイプ |
Mammalian | CHO |
最小直径 (μm) | 6 | 6 |
最小直径 (μm) |
30 | 70 |
画像枚数 | 100 | 50 |
セルシャープネス | 7 | 100 |
最小真円度 | 0.1 | 0 |
クラスター分離度 | Medium | Low |
アスピレーション回数 | 3 | 1 |
生細胞スポットブライトネス(%) | 55 | 75 |
生細胞スポットエリア(%) | 5 | 5 |
混合回数 | 3 | 3 |
Figure 3. Vi-CELL BLU(B01~03)と Vi-CELL XR(XR1~3)でぞれぞれ測定した細胞濃度
Figure 4. Vi-CELL BLU(B01~03)と Vi-CELL XR(XR1~3)でぞれぞれ測定した細胞生存率
Figure 5. Vi-CELL BLU(B01~03)と Vi-CELL XR(XR1~3)でぞれぞれ測定した細胞直径
Vi–CELL BLUの計測結果は、 Vi–CELL XRの計測結果と比較し、数値的な許容限界内に合わせ込むことができます。両機器の平均細胞濃度、平均生存率、平均直径データを取得すると、目標の設定限界値±5%以内に収まります。この検証結果から、初期セルタイプMammalian Cell がとてもよく機能していることが分かりました。この検証においては、これ以上の調整は必要ありません。
細胞濃度 ± 5% | 生存率 ± 2.5% | 平均細胞直径 ± 5% | |
Vi–CELL XRによる測定結果(平均値) | 2.05 | 95.46 | 16.23 |
Vi–CELL BLUによる測定結果(平均値) | 2.02 | 93.51 | 16.52 |
Vi-CELL XRの測定平均値との差 | -1.66% | 1.14% | 1.79% |
HeLa 細胞
HeLa細胞は細胞生物学の研究に広く用いられ、 CHO細胞やJurkat 細胞と異なり、接着して増殖する性質を有しており、細胞懸濁溶液を作製するためにはトリプシン処理が必要です。このような理由により、浮遊細胞と比較してHeLa細胞は凝集しやすい細胞でもあります。また、HeLa細胞の大きさはCHO細胞に比べて広い範囲を有します。
Vi-CELL BLUの初期セルタイプ設定であるMammalian Cellを使って、HeLa細胞を評価しました。フラスコで培養し、約6 M/mLになるように再懸濁しました。
この測定の評価に、3台のVi–CELL BLUと2台のVi–CELL XRを使用しました。用いたセルタイプは上記と同じものを使いました。両機器で得られた測定結果の平均値を基に、計数の合わせ込みを行いました。この測定の目的は、両機器の測定結果において、 細胞濃度および細胞直径、±5%(10%範囲)、生存率、 ±2.5%(5%範囲)に収まるように合わせ込みを行うことです。この数値許容範囲はVi–CELL BLUの性能を基に設定されています。 ユーザーは自分の判断基準で合わせ込みを行えますが、このアプリケーションノートで示す手順に従うことで、統計的な許容限界内に計測を収めることができます。
Vi-CELL BLU | Vi-CELL XR | |
セルタイプ |
Mammalian | CHO |
最小直径 (μm) | 6 | 6 |
最大直径 (μm) |
30 | 70 |
画像枚数 | 100 | 50 |
セルシャープネス | 7 | 100 |
最小真円度 | 0.1 | 0 |
クラスター分離度 | Medium | Low |
アスピレーション回数 | 3 | 1 |
生細胞スポットブライトネス(%) | 55 | 75 |
生細胞スポットエリア(%) | 5 | 5 |
混合回数 | 3 | 3 |
さらに、初期設定セルタイプMammalian Cellを基にして様々なセルタイプ項目を設定し、再解析によりVi–CELL BLUとVi–CELL XRの間で、より正確な一致が可能か評価しました。
セルタイプ | MT01 | MT02 | MT03 | MT04 | MT05 | MT06 | MT07 | MT08 | MT09 | MT10 |
最小直径 (μm) |
6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 5 | 5 |
最大直径 (μm) | 20 | 40 | 20 | 40 | 20 | 40 | 20 | 40 | 20 | 20 |
画像枚数 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
セルシャープネス | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 | 7 |
最小真円度 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 | 0.1 |
クラスター分離度 | High | High | High | High | Low | Low | Low | Low | Low | None |
アスピレーション回数 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 |
生細胞スポットブライトネス(%) | 40 | 40 | 90 | 90 | 40 | 40 | 90 | 90 | 75 | 75 |
生細胞スポットエリア(%) | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 |
混合回数 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 |
Figure 6. Vi-Cell BLUの測定評価(測定値:HeLa細胞の細胞濃度)
Figure 7. Vi-Cell BLUの測定評価(測定値:HeLa細胞の細胞生存率)
Figure 8. Vi-Cell BLUの測定評価(測定値:HeLa細胞の平均直径)
以下の表では、様々なセルタイプを用いてVi–CELL BLUで計測した値とVi–CELL XRの値の差を示しています。
セルプロファイル | 細胞濃度 ±5% | 生存率±2.5% | 平均細胞直径 ±5% |
Mammalian | -0.01% | 2.73% | -2.53% |
MT01 | 4.82% | 9.84% | -2.84% |
MT02 | 5.00% | 9.52% | -1.85% |
MT03 | 4.34% | -7.42% | -2.46% |
MT04 | 2.23% | -7.63% | -1.58% |
MT05 | 5.35% | 9.54% | -1.08% |
MT06 | 5.92% | 9.82% | -0.08% |
MT07 | 5.26% | -6.30% | -0.68% |
MT08 | 6.40% |
-7.31% |
0.25% |
MT09 | 2.32% | -1.81% | -3.19% |
MT10 | -13.43% | -3.04% | -1.67% |
上の表において、初期設定セルタイプMammalian Cellを使って解析すると、細胞濃度、生存率 および平均細胞直径はVi-CELL XRの数値とよく一致しましたが、セルタイプMT09は、この3項目のすべてにおいて、よく一致しており、評価したセルタイプの中で一番の候補になります。
さらにVi-CELL XRの値に近づけるためには、セルタイプMT09を基準にして最適化を行います。以下に示すように、セルタイプMT09の項目を変更することで(MT09*)、生存率、細胞直径の値がよりVi-CELL XRの値に近づきます。
セルタイプ | MT09 | MT09* |
最小直径 (μm) | 5 | 5 |
最大直径 (μm) | 20 | 25 |
画像枚数 | 100 | 100 |
セルシャープネス | 7 | 7 |
最小真円度 | 0.1 | 0.1 |
クラスター分離度 | Low | Low |
アスピレーション回数 | 3 | 3 |
生細胞スポットブライトネス(%) | 75 | 70 |
生細胞スポットブライトネス(%) | 5 | 5 |
混合回数 | 3 | 3 |
セルプロファイル | 細胞濃度 ±5% | 生存率 ±2.5% | 平均細胞直径 ±5% |
MT09 | 2.32% | -1.81% | -3.19% |
MT09* | 2.58% | -1.25% | -1.71% |
結論
Vi–CELL XRとVi–CELL BLUの数値を合わせ込むためには、Vi–CELL BLUソフトウエアにある初期セルタイプを基準にして合わせ込みを行うことをお勧めします。もし、測定結果が目的の値(例えば5%、または10%)を超えた場合には、セルタイプ設定のパラメータを微調整する必要があります。
アプリケーションノートはこちら
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