骨髄異形成症候群
骨髄異形成症候群(MDS)は、何らかの原因により骨髄細胞の発生と成熟に異常をきたす、まれな血液疾患群です。発症は高齢の男性に多いものの、その有病率は、すべての年齢層、性別、民族で10万人あたり0.22〜13.2例です1。 WHOは、MDSを、単細胞系列異形成、多系列細胞異形成のどちらを伴うか、環状鉄芽球が存在するか、過剰芽球を伴うか、および染色体異常del(5q)を伴うか、という基準に基づいて、6つのタイプに分類しています2。 骨髄異形成と診断された患者の約30%が急性骨髄性白血病(AML)に進行し、その予後は非常に不良です。MDSを引き起こす後天性の遺伝子変異に関する分子的洞察から、p53活性化因子、IDH1/2阻害剤、スプライソソーム阻害剤などの標的療法が開発されています2。
形成
MDS は、正常な状態からAML発症に至るまでの中継点です。造血前駆細胞が骨髄系前駆細胞(赤血球、顆粒球、巨核球)へ分化できないと、骨髄の正常細胞は異常な芽球細胞に置き換わってしまいます。この原因には、de novo(新生)変異や、化学療法・放射線療法による環境曝露があります。患者の90%以上にスプライシング因子やDNAメチル化パスウェイの遺伝子異常が認められ、これが患者の転帰を決定する要素となります。SF3B1変異は予後良好ですが、TP53、RUNX1、EZH2、ETV6、ASXL1の変異が存在している場合は、予後不良であることが示唆されます2。
診断と治療の評価
汎血球減少症と骨髄中の芽球細胞が認められる場合にMDSが疑われますが、診断の確定には遺伝子異常を確認します。特徴的な末梢血液所見として、偽ペルゲル核異常、二相性の好塩基性斑点を有する赤血球、大型の脱顆粒血小板、環状鉄芽球(有核)、芽球20%以上、および白赤芽球症を示します。MDS国際予後スコアリングシステム改訂版(IPSS-R)で臨床マーカーと細胞遺伝学的マーカーを点数化し、管理計画の指針とします3。
Figure 1. 骨髄異形成症候群の顕微鏡写真の例6。
治療は、AMLへの進行を防ぐことを目的として、主に化学療法が選択されます。新規薬剤のレナリドマイドや抗胸腺細胞グロブリンは、del(5q) MDS等で生存率を改善することが示されていますが、根治的治療法は骨髄移植のみです3。
細胞マーカー
CD45、CD34、CD117、HLA-DR、CD123 は、骨髄芽球の分化マーカーです。 フローサイトメトリーによる解析で CD45、CD117の発現の欠如または低下が確認された場合、幼若な骨髄系細胞に異形成が生じていると評価することができます4。
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フローサイトメトリーを用いた診断に関する詳細は、 こちらからご覧いただけます。
参考文献
- Deborah P Lubeck, Mark Danese et al. (2016) Systematic Literature Review of the Global Incidence and Prevalence of Myelodysplastic Syndrome and Acute Myeloid Leukemia. Blood 128 (22): 5930. doi: https://doi.org/10.1182/blood.V128.22.5930.5930
- Hong, M., & He, G. (2017). The 2016 Revision to the World Health Organization Classification of Myelodysplastic Syndromes. Journal of translational internal medicine, 5(3), 139–143. https://doi.org/10.1515/jtim-2017-0002
- Eva Hellström-Lindberg, Magnus Tobiasson et al. (2020) “Myelodysplastic syndromes: moving towards personalized management”. Haematologica. 105(7): pp.1765-1779. doi: 10.3324/haematol.2020.248955.
- Germing, U., Kobbe, G et al. (2013) Myelodysplastic syndromes: diagnosis, prognosis, and treatment. Deutsches Arzteblatt international. 110(46):783–790. https://doi.org/10.3238/arztebl.2013.0783
- Laeiz Cameirao Benta, Radolfo Patussi. (2017) The Use of Flow Cytometry in Myelodysplastic Syndromes: A Review. Front. Oncol. https://doi.org/10.3389/fonc.2017.00270
- https://image.shutterstock.com/image-photo/myelodysplastic-sydrome-showing-copper-ring-600w-738912982.jpg