アフリカにおける治癒可能ながんによる死者数を減らすためのプログラムの拡充

By: Tony Boova, MPH, Medical and Scientific Affairs/Beckman Coulter Life Sciences
Maja Diemel, B.S., ENG, Selling and Marketing – Strategic/Beckman Coulter Life Sciences

アフリカにおけるがん医療の危機的現状

 

世界のどこであっても、がんが患者にとって深刻な疾患であることに変わりはありませんが、一部の国や地域では、治療による治癒の可能性の高いがんであっても、多くの人が命を落としてしまいます1。このような格差が生じている理由はいくつかありますが、東アフリカの一部の地域では、診断の不足が主な原因と考えられます。この問題に対応するため、すでにパイロットプログラムが実施されていますが、国によってリスクとなるものが異なることを理解し、効果的でありながら継続可能なコストで実行できる解決策を展開するためには、まだやらなければならないことがたくさんあります。

アフリカのがん患者数は、全世界の患者数の約70%を占めています2。その一因となっているのは、感染性がんの有病率が高いことです。例えばHIVに感染すると免疫系が損なわれ、長期間に及ぶ抗レトロウイルス療法により、白血病やリンパ腫などの特定の血液がんにかかりやすくなる可能性があるため、HIV自体ががんの危険因子となります3。しかし、アフリカでがん罹患数が多いのは、HIV/AIDS関連のがんだけが原因ではありません。患者数の多いがんに、治療性の高いリンパ腫の1つで、バーキットリンパ腫と呼ばれるものがあります4。このがんは、マラリアとエプスタイン・バーウイルスの感染が関係しています5。バーキットリンパ腫による死亡率は米国で10%ですが、アフリカの一部地域では診断の不一致が原因で、生存率は30%にすぎません6

また、感染症に関連のないがんについても、発展途上国と先進国間で格差が見られます。例えば、非常に重篤な血液がんである急性骨髄性白血病(AML)は、先進国よりもアフリカではるかに多く、 研究者はその理由の解明に懸命に取り組んでいます7。診断に必要なインフラが不足していることが状況をさらに悪化させており、資金の乏しい多くの地域で、正確な診断を速く下すことはほぼ不可能です。

西ケニアにおけるがんコントロールのギャップ

 

西ケニアでは、がんコントロールにおけるギャップは明らかで、多面性を持つ問題です。西ケニアの公衆衛生研究所には、がんを効果的にスクリーニングするためのインフラがありません。これは専門的診断が不可欠な血液がんにおいては特に問題です。国外で治療を受けるような金銭的余裕のある患者はほとんどおらず、血液がん専門医が不足していること(数百万の国民に対して1~2人)がこの問題に拍車をかけています。

診断検査スタッフのトレーニングも、大きな障壁です。血液専門医や腫瘍専門医の育成より、必要なトレーニングははるかに少ないにもかかわらず、資金不足のため実施は困難な状況です。医療に対する財政支援の大部分は感染症(HIV、マラリアなど)への対応に充てられるため、がん治療に拠出される資金が少ない要因になっています。

バーキットリンパ腫のように、治療が難しいわけでも費用がかかるわけでもないがんの治療が十分に行われない状況は本当に心が痛いものであり、何とか変えていく必要があります。

こうした問題に立ち向かおうと、複数の組織(フレッド・ハッチンソンがん研究所、ワシントン大学小児病院、ウガンダ保健省、ウガンダがん研究所、モイ教育・紹介病院のAMPATHラボラトリーズ、ベックマン・コールター・ライフサイエンスCARESイニシアチブ、バーキットリンパ腫アフリカ基金など)が協力して、ウガンダとケニアでパイロットプログラムを立ち上げました。このプログラムの目的は、血液がんの診断にフローサイトメトリーを用いることが可能であると実証することです。

これまで主に使用されてきた形態学的検査(顕微鏡による細胞の観察)と比較して、フローサイトメトリーはより精度が高く、高度な訓練を受けた専門家でなくても検査が可能です。

患者の転帰と今後への期待

 

このパイロットプログラムは、COVID-19の影響で若干の遅れが生じたものの大きく進展しており、これまでにウガンダ、ケニア両国で患者約1,000人の検査が終了しています。このイニシアチブでは、東アフリカですでに確立されている、HIVの診断・モニタリングのためのフローサイトメトリーインフラを活用しています。患者の採血を一元化し、冷蔵輸送の必要のない試薬・プレミックス製剤を使用しているため、調製ミスや高価な試薬を無駄にしてしまうリスクが減少しています。

このイニシアチブの主な目的は、ウガンダ、ケニア両国の検査能を拡大し、他国にも導入可能なモデルを開発することですが、それよりもさらに大きな目的があります。診断を受けた後、患者が地元の医療施設で治療を受けることが非常に重要です。バーキットリンパ腫の場合、治療や支持療法を行わなければ、生存率は 低くなります4 ウガンダがん研究所などでは患者に治療を受けさせるという点において大きな成果をあげていますが、さらに、その数を増やさねばなりません。

もう一つの目的は、血液がんの病態や地域間の差異を理解することです。また、患者の居住地域の近くで診断ができるようにする、つまり、高度に中央に集約されたシステムを分散し、地域や地区レベルで診断ができるようにすることもメリットがあるかもしれません。そうすれば、結果が出るまでの時間が短縮し、患者ケアの向上につながる可能性があります。また、ベックマン・コールター ライフサイエンスのグローバルヘルスイニシアチブで収集されたデータを根拠として、将来、健康・医療政策が変更され、WHO等のガイドラインが、より効果的な診断戦略を推奨することにつながる可能性があります。

これらすべての活動と密接に関連しているのが、各地域での教育です。がんの症状や、がんに対処する治療にはどのようなものがあるかについて、もっと知ってもらうことによって、より早い段階で医療機関を受診する人を増やすことができれば、数えきれない人命を救うことにつながる可能性があります。ベックマン・コールター ライフサイエンスのグローバルヘルスイニシアチブのパイロットプログラムは、そのための対応を始めていますが、どんな選択肢があるのかを住民に知ってもらうには、やらなければならないことは山積しています。

ベックマン・コールター ライフサイエンスのグローバルヘルスイニシアチブでは、必要に応じて機器に関する技術サポートを提供したり、検査室に常に試薬をストックしておいたりする必要があるなど、課題は多くありますが、研究者はこのイニシアチブが持つ潜在的な価値を大きく評価しており、引き続き、この取り組みと、新たに支援・参画してくださる組織・団体との協働を通じて、米国とアフリカにおけるがん生存率の差を、今後数年間で大幅に縮小したいと考えています。

参考文献:

  1. Shad et al. (2013) PAEDIATRIC ONCOLOGY IN ETHIOPIA: AN INCTR-USA AND GEORGETOWN UNIVERSITY HOSPITAL TWINNING INITIATIVE WITH TIKUR ANBESSA SPECIALIZED HOSPITAL. Cancer Control 2013; 108-112
  2. World Health Organization. (2020). Assessing national capacity for the prevention and control of noncommunicable diseases: report of the 2019 global survey. World Health Organization.
  3. Palella FJ Jr, Baker RK, Moorman AC, Chmiel JS, Wood KC, Brooks JT, Holmberg SD; HIV Outpatient Study Investigators. Mortality in the highly active antiretroviral therapy era: changing causes of death and disease in the HIV outpatient study. J Acquir Immune Defic Syndr. 2006 Sep;43(1):27-34. doi: 10.1097/01.qai.0000233310.90484.16. PMID: 16878047.
  4. Molyneux, E., Scanlan, T., Chagaluka, G. and Renner, L. (2017), Haematological cancers in African children: progress and challenges. Br J Haematol, 177: 971-978. https://doi.org/10.1111/bjh.14617
  5. Rowe M, Fitzsimmons L, Bell AI. Epstein-Barr virus and Burkitt lymphoma. Chin J Cancer. 2014 Dec;33(12):609-19. doi: 10.5732/cjc.014.10190. Epub 2014 Nov 21. PMID: 25418195; PMCID: PMC4308657.
  6. World Health Organization. (2021). CureAll framework: WHO global initiative for childhood cancer: increasing access, advancing quality, saving lives. World Health Organization. https://apps.who.int/iris/handle/10665/347370
  7. Williams Christopher KO, Foroni Letitzia, Luzzatto Lucio, Saliu Idris, Levine Arthur, Greaves Mel F (2014) Childhood leukaemia and lymphoma: African experience supports a role for environmental factors in leukaemogenesis ecancer 8 478

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