Webセミナー:フローサイトメトリー:がん治療を開始する患者に関するウガンダの経験と視点

Carol Achola博士は、ウガンダの首都カンパラにあるウガンダ保健省中央公衆衛生研究所(Uganda Ministry of Health, Central Public Health Laboratories)の主任病理学者で、血液病理学の専門家です。

 

※本セミナーの英語トランスクリプトを翻訳したものです。

ウガンダにおける、リンパ腫および白血病の診断を目的としたフローサイトメトリーの導入事例をご紹介します。

ご存じの通り、世界保健機関(WHO)は、白血病およびリンパ腫を、臨床症状や形態学的検査を含むさまざまな検査結果に基づいて分類していますが、私たちの研究所では、組織がある場合は、形態学的検査と、免疫組織化学パネルを用いた細胞化学的染色法で診断しています。組織がない場合は、形態学的検査と細胞化学的染色法を行います。

診断までは、非常に時間がかかります。これは、患者は最初に一般の医療施設を受診し、そこからの紹介で、国内唯一のがん治療センターであるウガンダがん研究所を受診するという診療体制によるものです。また、診断自体も時間がかかるも大きな課題です。フローサイトメトリー検査は以前から実施可能でしたが、使用はHIVとマラリアを主とする感染症研究に限定されていました。本日は、HIVの検査システムであったフローサイトメーターを活用することで、どのように中央公衆衛生研究所にフローサイトメトリー検査室としての機能を持たすことができたかについてお話しします。

フローサイトメトリー検査室の設立

2018年12月、私たちは、「アフリカのためのバーキットリンパ腫基金」(Burkitt's Lymphoma Fund for Africa:BLFA)の支援を受けてフローサイトメトリー検査室を立ち上げ、同時に検査も開始しました。検査技師を対象としたサンプル処理やサンプル要件に関する1週間のトレーニング、病理医を対象としたデータ解析に関するトレーニングも行われました。このトレーニングには、ウガンダがん研究所(UCI)のがん患者から提供を受けた検体を使用しました。BLFAチームが研究所を発つ頃には、私たちはすでにSteve Kussick博士のサポートを受けながら、診断を始めていました。

がん検査サービスの導入

UCIから送られてきた最初の検体はトレーニング用だったのですが、いくつかの検体に腫瘍細胞があることがわかったため、24時間以内に数名の患者に対する治療を開始しました。治療が始まったことと検査にまだ慣れていなかったことから、Steve Kussick博士が残って難しい症例でサポートをいただけることになりました。

私たちは、このやり方を広げていくことにしました。理由は私たちの患者のほとんどは、一般の医療機関からの紹介でUCIに来るまでに、すでにがんと診断されているか、またはがんの疑いがあったからです。私たち中央公衆衛生研究所(CPHL)のチームは、がんの診断にフローサイトメトリーを使用し始めたという認知を広め、フローサイトメトリーで何ができるのか、フローサイトメトリーによる検査を必要とするのはどのような患者かを伝えるために、継続的な医学的情報の周知活動を開始しました。全国に16ある地域の一般病院を全て回りました。診断推論は一般病院から行われるので、私たちは医療機関に出向き、医師や検査室のスタッフと話しました。

その際、私たちが重点的に伝えたのは、患者に白血病の疑いがあると考えた場合、分析前に何を考慮しなければならないか、何を実施しなければならないか、検体はどのように採取するか、検体は検査のためカンパラのCPHLに送られることを患者に知らせなければならない、ということです。そのうえで、フローサイトメトリー検査の依頼票を渡し、地域の紹介病院にそれぞれ4人ずつ担当者を配置しました。フローサイトメトリー検査が必要な患者がいる場合はいつでも、医師や検査室のスタッフは、病院に配属された CPHL の担当者に連絡し、できるだけ速やかに検体を採取しCPHLに送ってもらうのです。

全体を見ると、検体がCPHLに届くまで最も時間がかかったのは、検体が内陸部から送られてきたケースでの約24時間でしたが、ほとんどの検体が12〜24時間に届きました。私たちが扱う検体の95%以上がUCIから送られてくるもので、CPHLに届くのに2時間もかかりません。検体を採取した医療施設がCPHLからどれだけ離れているかにもよりますが、フロー検査の実施が可能な時間内に検体を入手できます。幸運なことに、ほとんどの検体が採取されるUCIは、内陸部にある他の医療機関に比べてCPHLの近くにあります。

その後、既存のサンプル輸送ネットワークを活用するため、サンプルの管理方法を編成しなおし、検討しなければなりませんでした。利用するのは全国約100カ所の拠点から検体を回収する全国ネットワークで、がん検体は、HIVウイルス量検体、乳児早期診断(EID)用検体、鎌状赤血球検体とともに回収されます。私たちが扱うのはフロー検査用の検体であることから、検体の配送遅延や損失を避けられるよう調整を行う必要がありました。

フローサイトメトリー用のサンプルは、常に配送物の量が多く、通常よりも時間がかかってしまうことがある主要な物流拠点を経由しないよう調整しました。すべてのフローサンプルは、到着と同時にフロー検査室に運ばれ、待機している技術者が処理し、検査を行います。CPHLは日曜日を除く週6日稼働しています。

ファイルを作成してポータルにアップロードし、そのポータルに病理医がアクセスします。この病理医とは、だいたいは私ですが、他にも状況に応じて分析を行う病理医がいます。作成されたファイルの分析が終わったら、治療を担当する臨床医にメールで報告します。メーリングリストには、UCIの全臨床医、つまり、小児の治療を担当する腫瘍医と成人の治療を担当する腫瘍医のどちらも登録されていることに加え、異常な結果が出た場合、治療担当医に警告を発することができるため、結果が得られるまでの時間が大幅に短縮されました。また、サンプルの損失や時間がかかりすぎるという問題も減少しました。

加えて、リモートでも解析が行えるため、フィールドワークでオフィスを離れている時でも、ポータル経由でデータにアクセスでき、結果を遅延なく臨床医に送信できることも利点です。難しいケースについては、リアルタイムで助言を受けることも可能です。開始当初は助言を求めることも多くありましたが、時間が経つにつれて、難しいケースでも診断できるようになりました。現在も、必要な時にはSteve Kussick博士にリアルタイムで助言をいただいています。

また、CPHL内で液性腫瘍のフローサイトメトリー結果の形態学的相関を行うことができるようになりました。現在のところ、固形腫瘍や免疫組織化学(IHC)などの組織検査は行うことはできません。ですがこの短期間で、形態学的相関が行えるようになったのです。

染色法で診断できかった症例については、UCIにも連絡を取ります。UCIには我々と緊密に連携している検査室があるので、診断に至っていない患者の骨髄IHCを追加で実施してもらうことができます。ポータルシステムによって検査室と臨床医の意思疎通も改善し、診断に良い影響を与えています。検査室では患者を管理する電子システムが十分整備されていないことが多く、文書による検査依頼を多用しており、履歴の記録が十分でないと感じることがよくあります。このポータルシステムのおかげで治療にあたる世界中の臨床医に直接相談することができ、診断につなげることができています。

サンプル経路

これは、検体(EIDサンプル、ウイルス量サンプル、鎌状赤血球サンプル)が通過する経路を示すサンプル経路の概要です。

ご覧のように、我が国の医療システムは、下位の地域医療施設から国立の総合医療施設まで階層化されたネットワークで編成されており、通常、サンプルは下位の施設から国の施設に送られます。国内の検査サービスも同様のしくみで、下位の検査室の上に特定の検査を行える地方の検査室があり、さらにその上に、より高度な検査を行える国の検査室がある、という構成です。

フローサイトメトリーは、UCIにとっては全く新しい技術であり、私たちにとっては、新たに取り入れるものでしたので、検体の輸送ネットワークの構築や、中核となる検査施設の臨床医およびスタッフの確保のため、意見・情報の共有や協力が必要でした。UCIで開始した新しい取り組みでは、CPHLに迅速にサンプルを送り、速やかに結果を出すことができるよう、すでに触れたように、総合物流拠点を使わないようサンプル輸送ネットワークを変更する必要がありました。

結果

フローサイトメトリーラボの立ち上げ以来、検体数は着実に増加しています。

2020年から2021年にかけては、COVIDの影響で公共交通機関を利用するほとんどの患者さんに移動制限がかかり、患者の流れが途絶えましたが、私たちが受け取る検体数は着実に増加しています。送られてくる検体数は、わずかに男性の方が多いです。

これは年齢層別のデータで、子供たちが多く来院したことがわかります。バーキットリンパ腫基金は小児の診断に大きく寄与しました。また、成人白血病患者が多数このサービスの恩恵を受けており、現在、支援と資金提供を計画しています。私たちはすべての患者グループに対応できるよう、この情報とデータを使用して、フローサイトメトリーラボへの資金支援を呼び掛けています。

ご覧のとおり、成人に対する拠出は、バーキットリンパ腫基金が支援の対象としている子供たちよりも多いという状況です。

私たちが診断した症例のほとんどは急性白血病で、これはバーキットリンパ腫基金の目的に合致しています。慢性白血病も数例あり、全てではありませんが、ほとんどが成人の患者です。多発性骨髄腫も多数確認されましたが、使用していたパネルの設計からフローサイトメトリーを用いる大きな利点はないと感じたため、臨床医に依頼して、形態学や免疫固定などの他の技術で多多発性骨髄腫の診断を下すこととしました。このように、フローサイトメトリー検査は、私たちが選別した特定の疾患の診断に用いました。

多発性骨髄腫や慢性骨髄性白血病(CML)などの慢性白血病は、より進行しない限り、フローサイトメトリーを使わなくても診断を下すことができると判断したわけですが、急性白血病の診断を最適化するためにこれと同様の判断を意図的に行ったケースは他にもあります。

今後の注力分野

すでに10カラーパネルの検証を完了しているため、より確実なデータが得られるようになり、当初は形態学的検査とIFC検査に頼らざるを得なかったケースをより多く診断できるようになります。外部に依頼しなければならない骨髄IFC検査の結果を待つ必要がないため、より早く結果が得られるようになります。

今回導入したのが新しい情報システムだったことに加え、COVIDに見舞われたことで、電子情報システムの開発が完全に終わっておらず、サポートされていなかったことも課題でした。現在は、臨床医がどこにいても、フローサイトメトリー検査を依頼し、リアルタイムに報告が受けられることを最も重視しています。このシステムは、プログラムの監視、情報や作成したデータの報告にも有用で、特にウガンダ保健省との連携に役立っています。

現在は支援を提供してくれる組織等からの寄付やサポートに頼っていますが、この取り組みへの支援を国のリーダーシップ層に働きかける必要があると強く感じています。公衆衛生問題が複数存在するなか、最大かつ最優先の公衆衛生問題は 依然HIVと結核である現状において、がんへの資金提供は最も後回しになってきました。私たちはこの情報をリーダーシップ層と共有したうえで、私たちの検査室は現在、国内唯一のフローサイトメトリー検査室であり、小児・成人を含む全国民に診断サービスを提供できることを訴えることで、支援を得られるのではいかと考えています。

教訓

フローサイトメトリー検査室およびがん診断検査室の設立費用に関しては、サハラ以南のアフリカですでに十分に構築されているHIV検査技術を活用することで、がん診断を開始し、診断の改善につなげることは十分可能だと考えます。

また、拠点施設に集約する形でもタイムリーながん診断サービスを行うことができるので、フローラボを全国各地に設置する必要がないこともわかりました。ウガンダを含む多くのアフリカ諸国で、病理医は非常に少なく病理検査すらままならないことから、私たちの実証結果よりもコストが高くなる可能性があります。診断サービスを一元化することができれば、中央拠点施設でフローラボを妥当なコストで運営することができます。ラボラトリー情報管理システム(LIMS)は欠かせない要素なので、システムを完成させ徹底した検討を行ったうえでフローサイトメトリーサービスを開発する必要があります。

謝辞

現在、中央公衆衛生研究所は、国立衛生診断サービス研究所(主にHIV、マラリア、結核に対応)としてのサービスも兼ねています。政府は、私たちが何を必要としているかを把握することで、その他多くの疾患(鎌状赤血球症、その他の癌など)の検査・診断業務の改善を図ろうとしています。

すでに確立されているHIVインフラを活用すれば、高価ながん診断ネットワークをより低費用で立ち上げることができるというこの事実を、アフリカ諸国でがん診断の改善を目指す臨床医に知ってほしいと感じています。

Burkitt’s Lymphoma Fund for Africa(アフリカのためのバーキットリンパ腫基金)に対しては、ウガンダで活動を実行していただけたこと、私たちがここまで成長するのを援助してくれたことに感謝するとともに、今後もご支援をお願いいたします。また、このがん診断システムをさらに優れたものとし、ウガンダ全国民をサポートすることが可能になることを心から願っています。ベックマン・コールターには、ご提供いただいたすべての物資・人的サポートに感謝いたします。私たちに常に寄り添い、リアルタイムに助言をくださったSteve Kussick博士に謝意を表します。そして、ウガンダがん研究所のチーム、腫瘍医、小児および成人の腫瘍医、中央公衆衛生研究所のチーム、技術者、病理学者のみなさん、ありがとうございます。そして国内で唯一の上級血液病理学者でもある事務局長、多忙なスケジュールにもかかわらず、いつも時間を取って症例に立ち会ってくださいましたこと、感謝いたします。

ご清聴ありがとうございました。

Leukemia and Lymphoma

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