Webセミナー:小児がん診断におけるフローサイトメトリーの臨床利用
本日は、モイ教育・紹介病院(MTRH)での私たちの経験から、がん診断の問題点についてお話します。がん(特に急性白血病とリンパ腫)の診断の遅れと技術不足を中心に、フローサイトメトリーが診断の解決策になり得るかどうかを検討します。
診断と治療の遅れ
私たちは、これまでの経験と同僚であるNjuguna博士らが発表したデータから、診断における課題は、診断を下し、治療を開始するまでに時間がかかりすぎていることが原因であることに気づきました。
Njuguna博士らが最近発表したこの研究では、非常に大きな遅延が認められました。急性リンパ芽球性白血病(ALL)では、発症後の初回診断から治療が開始されるまで153日、バーキットリンパ腫では98日かかったことがわかりました。こうした遅延の多くが、診断時または診断から治療開始までの間のどちらかで生じている、つまり医療システム内に原因があることは非常に重要なポイントです。
高所得国におけるがんの課題
こうした現状を考えた時、セント・ジュード大学のScott Howard博士が発表した、高所得国の小児がんの問題に関するグラフを思い出しました。
この棒グラフから、高所得国での主な問題は再発だということがわかります。高所得国では、がんと診断された子どもの80〜85%が治癒し、最大の問題は再発です。ほとんどの研究が、再発により治癒に至らなかった15%に関するものです。
低・中所得国におけるがん治療の失敗
これは、次のグラフからわかるように、低所得国での状況とはきわめて対照的です。
私たちのMTRHのあるケニアを含めた低所得国では、診断がなされないことが、患者の治癒に大きな障壁となっています。診断が出ても、誤診であることも多く、また、かなりの割合の患者が治療を拒否あるいは放棄するという問題もあります。これらはすべて、低・中所得国の子どもの治癒率が20%未満であることの原因となっています。
診断の欠如
低・中所得国で診断が欠如している原因は何でしょうか?ここでも、Scott Howard博士の文献を引用します。
この図の左側は、私たちの医療現場で診断が欠如している原因です。上から2つ目に、医療従事者が小児がん患者の初期の徴候や症状に気づけていないことが挙げられています。3つ目には、フローサイトメトリーなどの診断技術不備を含めた診断能力の不足が挙げられています。こうした状況に加え、ほとんどの低・中所得国では、この診断検査の費用が払えないことも問題です。利用できる医療施設が少ないうえ、患者の多くは医療費を支払うことができません。
診断困難モデル疾患としての白血病
私が勤務するモイ教育・紹介病院はケニア西部にあり、Steve Kussick博士が言及した施設のひとつです。当病院で2,000~2,500万人に対して医療サービスを提供しており、毎年約300例の急性リンパ芽球性白血病患者が当院を受診します。しかし、2010年から2016年にかけての受診件数は、年間わずか20〜30件でした。このことから、私たちは、地域の医療関係者からもっと多くの患者を拾い上げることはできないか、そしてこのような診断の問題を解決することはできないか、と考えるようになりました。
スクリーニングによる白血病の早期発見は可能なのか?
私たちの行ったパイロット研究では、白血病のスクリーニングを地域の医療施設で行うことが可能かどうかを検討しました。高所得国では、急性白血病の診断を下すための最初のステップとして、全血球計算と末梢血塗抹検査が行われることは知っていますが、私たちの医療現場、特にケニア西部では、末梢血塗抹標本よりも、はるかに多くのマラリアスライドが作成されていました。
私たちは、血液像検査の10倍も多く作成されているマラリア検査用血液標本を調べることで、地域の医療施設において白血病症例を見つけることはできないか、と考えました。
その後、マラリアのスライド32,000枚近くのレトロスペクティブ・レビューを行い、白血球数の増加や好中球が20%未満まで減少する好中球減少症のエビデンスを探しました。エビデンスを見つけると、高倍率検査を行い、参照用とWBC画分用に写真撮影を行いました。これを、レビューを行った32,000枚のスライドのうち549例で行いました。次に、194例において、DNAを単離し、B細胞またはT細胞のいずれかにクローン性がないか確認しました。
この症例のPCR結果から、モノクローナルまたはクローン性が確認されました。ご覧のとおり、B細胞またはT細胞のクローン性と一致するモノクローナルピークがありました。これは4歳の女児患者の形態学的検査の例で、多核球が10%でした。病歴を見ると、頭痛と寝汗を呈していたことがわかります。地域の医療施設で実施したマラリア原虫検査は陰性だったため、患者はマラリア薬を投与され退院し、芽球が存在するかを調べるための追跡調査は行われませんでしたが、形態学的検査画像で、このように存在が確認されています。
このパイロット研究では、クローン性またはクローンPCR産物が観察された44枚のスライドを調べました。その結果、この方法で、地域の医療施設において急性白血病患者をスクリーニングできること、医療機関への受診がまだの症例を拾い上げることができることを確認しました。
モイ教育・紹介病院のフローサイトメトリー
これについては、前のスライドでSteve Kussick博士が詳しく説明しています。これは、私たちが見つけた患者ではなく、白血病に罹患していることがわかっていた患者のカラープロットです。MTRHでは、フローサイトメトリー検査を140米ドルで行うことができます。これは、MTRHでCATスキャンやCTスキャンを行うのとほぼ同じです。
ケニアでのALL診断
ケニアにおける急性リンパ芽球性白血病の診断状況についてお話します。
これは、ケニア西部の人口2,000万人から2,500万人のデータです。先ほど申し上げたように、2010年~2016年にかけてMTRHで最も大きな問題は診断できなかったことであり、治癒した患者は一番下の濃青の部分で、10%未満です。
ケニアの医療施設でがんを治癒できない理由は、地域医療施設が抱える多数の患者や、私たちの施設に紹介されて来る患者の診断ができないからです。
このグラフに戻って、低・中所得国の施設における転帰不良の一因である「診断の欠如」という問題には、どのような戦略で対応できるでしょうか?
私たちは、診断が欠如する原因に取り組んできました。医療従事者ががんの兆候を知らない、という問題に対処する戦略の1つとして、医療従事者に対するコミュニティレベルでの訓練があります。
別の問題として診断能力の低さがありますが、これは、フローサイトメトリーなどの新しい診断設備を導入して検査室に病理学的検査および放射線学検査のトレーニングを実施することで対処できます。第3の側面は、政府機関を含めた複数の団体が提唱する、皆保険制度です。
2021年にジャーナル誌Pediatric Blood Cancer(PBC)に掲載されたこちらの論文では、カプラン・マイヤー曲線から、2010年~2016年に診断を受けた小児の生存率が25%未満と非常に低いことがわかります。しかし、私が強調したい重要な点は、カプラン・マイヤー曲線が最初の数ヶ月または最初の100日間に、このように急激に低下していることです。診断の遅れや誤診のために、多くの患者を失っていることから、ここが大きな問題であることは明らかです。患者の多くが、診断後および入院から100日以内に亡くなると推定されます。
結論として、白血病に関して、フローサイトメトリーは診断の迅速化に非常に有用であることがわかったので、医療従事者コミュニティに対して、患者を私たちの施設に紹介するのではなく、患者の血液や骨髄の検体を診断に回すよう働きかけています。フローサイトメトリーで診断が出てから、患者を私たちの施設に紹介するのです。
2つ目は、医師が白血病の徴候や症状を見逃すことのないよう、医療従事者コミュニティに対する継続教育を提供するとともに、診断・治療開始までにかかる時間を短縮し、生存転帰の改善を可能にする紹介ネットワークを構築することです。私たちは、プロジェクトECHOのプラットフォームを使用して、地域の医療従事者とプライマリケア従事者、そしてセカンダリケア従事者を結び付けることによって、これを実現しようとしています。
バーキットリンパ腫の特徴と診断
2つ目の目的は、フローサイトメトリーがバーキットリンパ腫の検査にどのように役立つかを理解することでした。
この画像で顔の左側に見えているように、明らかな腫瘤として現れた場合は、組織を採取してフローサイトメトリーで診断するのは簡単です。診断後、早期に治療を開始することができます。採取した組織を使ってフローサイトメトリーで診断することが可能です。右の写真からお分かりのように、この患者は治療により、良好な転帰が得られています。
1. 最初の目標は、バーキットリンパ腫の診断と病期分類をいかに改善できるかを検討することです。
a. フローサイトメトリーとFISHによる診断の迅速化と精度の向上
b. 診断から治療開始までの期間を1週間以内に短縮
c. 臨床転帰の改善を目指した治療の早期開始
2. 2つめの目標は治療中断への対応です。
a. 毎週、家族に電話連絡
b. 定期的な化学治療のための来院にかかる交通費を支給
c. 6か月間の治療期間中、1日1ドル支給して収入の損失を補填
研究成果
このサンプル研究では、研究の最初の段階である診断に94人の患者を募集し、このうち43人がバーキットリンパ腫でした。この43人を第2段階に登録し、治療期間中、経済的支援を行いました。
この研究の結果、患者を6か月間の治療期間中、医療施設においてサポートすることで、治療放棄が35%から10%未満と大幅に減少しました。これは、診断までの期間が10日から7日に短縮されたことにも、大きく影響しました。フローサイトメトリーを用いることで迅速に診断が出たことで、患者に結果を伝え、治療を開始するまでにかかる時間も短縮されました。
バーキットリンパ腫の生存率の改善
データを見ると、赤で示した過去のコホートと比較して、青線では、イベントフリー生存率が大幅に増加していることがわかります。
最初の100日間に急激な減少が認められることから、バーキットリンパ腫であっても、診断の遅れという最初の問題に対応できれば、全生存率を改善できると確信しました。
これは2020年のデータで、MTRHでがんと診断された全小児に関する最新のデータです。診断の向上および医療提供者とのコミュニケーションの改善により、急性白血病の診断数を20〜30から54に増やすことができました。バーキットリンパ腫の診断数も同様に増加しました。
フローサイトメトリーは、MTRH患者の40%以上において、診断の向上や診断の遅れの軽減に役立つ可能性があることは言うまでもありません。この40%とは、フローサイトメトリーを使用して診断を下すことが可能な、急性白血病、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)の3つの患者集団です。フローサイトメトリーはケニアにおいて白血病やリンパ腫の診断に有用であり、前のプレゼンテーションでも触れられていたように技術も進歩しています。
また、白血病やリンパ腫の潜在的な患者を見つけるためには、地域の医療従事者に対するトレーニングを継続する必要があります。これは、医療従事者コミュニティにおけるプロジェクト ECHOなどのチャネルや、がんの初期兆候に関する継続的医学教育を通じて実行可能です。また、バーキットリンパ腫の血液サンプルおよび骨髄サンプル、腫瘤の穿刺細胞診サンプルを採取して中核検査施設に搬送し、迅速に診断するシステムの開発も必要です。
いずれにせよ、コストが障壁として残りますが、これは国民皆保険制度や健康保険制度によって支えることができます。
最後になりますが、モイ教育・紹介病院とMoi大学との10年にわたる協力関係、そしてMTRHの同僚の皆さんに感謝したいと思います。また、Terry Vik教授が率いるインディアナ大学からも多くの助言をいただきました。また、オランダのプリンセスマキシマ病院、UMass Medical Center、JOOTRH、AMPATHの皆さん、ありがとうございます。そして最後に、病理学チームのフローサイトメトリー技術の向上をサポートしてくださったBurkitt's Lymphoma Fund(バーキットリンパ腫基金)に、感謝いたします。