ClearLLab 10Cアプリケーションの標準化されたコンペンセーション設定

Jin Zhang, Research & Development, Beckman Coulter Inc., Miami, USA. Sandra Hernandez, Jorge Quintana, Marketing, Beckman Coulter Inc., Miami, USA

はじめに

マルチカラーフローサイトメトリーで一貫性があり比較可能なデータを生成するには、標準化が不可欠です。試薬、ハードウエア、サンプル調製、解析方法を網羅する包括的なセットアップで、確実な標準化が行えます。セットアップには、次の3種類の試薬を使用します。

ClearLLab 10C*の各ロットによって異なります。ClearLLabコンペンセーションキットとコンペンセーションビーズは、ハイエンドクリニカルフローサイトメーターNavios*2およびNavios EX*3のAutoSetUp Schedulerを用いたコンペンセーション設定に使用します。

ClearLLabコンペンセーションキットは、ClearLLab 10カラーフローサイトメトリーアプリケーション用の付属品です。10本のチューブはそれぞれには、CD3、CD4、またはCD8いずれか1種類のモノクローナル抗体が含まれ、調製済みドライ試薬フォーマットで提供されます。各抗体は、以下の10種類の蛍光色素のいずれかで標識されています。各抗体は、FITC、PE、ECD、PC5.5、PC7、 APC、APC-A700、APC-A750、Pacific Blue、Krome Orangeの10種類の蛍光色素のいずれかで標識されています(Table 1)。ドライ試薬フォーマットでは、液状の抗体をマニュアル分注する必要がないため、コンペンセーション設定のワークフローを簡素化・標準化することができます。ClearLLabコンペンセーションビーズをClearLLabコンペンセーションチューブで染色して、コンペンセーション設定を行います。

ClearLLabコンペンセーションビーズはClearLLabコンペンセーションキットと共に使用し、ClearLLab 10C*パネルによるマルチカラー測定の前にコンペンセーション設定を行います。装置の「Cytosettings」を使用すると、染色されたコンペンセーションビーズから、ハイエンドクリニカルフローサイトメーターNaviosまたはNavios EX**でコンペンセーションマトリックスが生成されます。

装置の標準化とコンペンセーションのセットアップは、毎日行う必要はありません。毎日の精度管理で要求される仕様を満たさなかった場合や装置の整備を受けた場合、またはFlow-Set Pro Fluorospheresを新しいロットに切り替えた場合に実行します。コンペンセーションマトリックスは、ポジティブビーズとネガティブビーズを用いて生成されます。パネルチューブごとに最適化して保存することができるため、細胞株によって異なるコンペンセーションを設定できます。

1. ClearLLabコンペンセーションキット

ClearLLabコンペンセーションキットは10チューブで構成され、それぞれのチューブに、Table 1に示す蛍光色素で標識したシングルカラー抗体が入っています。

Table 1. ClearLLabコンペンセーションキット

1Pacific Blue. 2APC-Alexa Fluor 700. 3APC-Alexa Fluor 750.

各コンペンセーションキットは5パウチ入で、それぞれのパウチにはシングルカラーチューブが10本入っています。1パウチ(10チューブ)がコンペンセーション設定1回分で、チューブは単回用です。

2. ClearLLabコンペンセーションビーズ

ClearLLabコンペンセーションビーズは、懸濁された3.0-3.4 μmビーズの2バイアルで構成されています。抗体取得ネガティブビーズはネガティブコントロールとして機能し、抗体に結合しません。抗体取得ポジティブビーズには、マウスのアイソタイプ抗体に結合するIgG結合物質でコーティングされたビーズが含まれています。

コンペンセーションビーズは、蛍光色素標識抗体を捕捉し、ハイエンドクリニカルフローサイトメーターNaviosおよびNavios EX**で検出が可能で、マトリックスを生成することができる蛍光シグナルを発光します。

3. コンペンセーション試薬の性能

ClearLLab コンペンセーションキットで染色してClearLLab コンペンセーションビーズを調製し、ハイエンドクリニカルフローサイトメーターNaviosおよび Navios EX**で解析しました。Figure 1aとFigure 1bは、それぞれ単一ビーズの散乱ゲーティングと、ポジティブビーズとネガティブビーズの蛍光プロファイル (FL1) プロットの例です。

Figure 1. 染色したClearLLabコンペンセーションビーズ

Figure 1a. 染色ビーズの散乱ゲーティング

Figure 1b. 染色したビーズの蛍光プロファイル

ClearLLabコンペンセーションキットは、18 ~ 30°Cで最長545日間保存可能です。1回のコンペンセーション設定に1パウチ使用します。ClearLLabコンペンセーションビーズは、2 ~ 8°Cで最長720日間保存可能で、バイアル開封後365日間、安定性を維持します。調製したビーズサンプルは、サンプル解析前、2 ~ 8°Cで最長6時間保存できます。

ClearLLabコンペンセーションビーズ4ロットとClearLLabコンペンセーションキット6ロット(Table 2)について、新たに調製したもの、調製後時間の経過したものの8通りの組み合わせで試験しました。ビーズサンプルの測定は、調製後すぐ、調製4時間後、7時間後、24時間後の各タイムポイントで行いました。

Table 2. 安定性試験に使用したClearLLabコンペンセーションビーズおよびコンペンセーションキットのロット

各サンプルについて、MFIと各蛍光色素標識抗体のシグナルとノイズの分離を観察した結果、分離に問題は認められませんでした(Figure 2)。

Figure 2. ネガティブビーズとポジティブビーズの平均蛍光強度(MFI)

コンペンセーションキットとコンペンセーションビーズの3ロットから取得したデータを基に、それぞれのプライマリチャネルとセカンダリチャネル間のコンペンセーション率の再現性を評価しました。コンペンセーションビーズサンプルはそれぞれ複製を3セットずつ調製し、それぞれNaviosで、調製直後、4時間後、7時間後、おび24時間後に解析しました。平均コンペンセーション率とそれに対応する再現性(%CV)をTable 3にまとめ、Figure 3に図示します。

Table 3は、プライマリチャネルからセカンダリチャネルへのスピルオーバーのレベルによって色分けされています。

  • スピルオーバーなし:黒で塗りつぶし
  • 軽微なスピルオーバー(グレーの背景色):コンペンセーション率≤0.2%;低い値のため%CVは比較的高い。
  • コンペンセーションが大きい(>0.2%、最大76%)FLチャネルは、緑の背景色(平均)/ピンクの背景色(%CV)で表示。再現性%CVは10%未満(0.4〜9.3%)で、異なるロット間、サンプル年齢間、および複製間に一貫性を認めた。

Table 3. 全ロットとサンプル年齢の平均コンペンセーション率と対応する%CV(Figure 3)。

Figure 3. プライマリ(Y軸)チャネルとセカンダリ(X軸)チャネル間のコンペンセーション率の変動チャート:異なるロット、サンプルの年齢、および複製間に一貫性が認められます。

Flow-Set Pro FluorospheresをDay 1に設定した「Cytosettings」 を用いて、装置を最長6 週間モニタリングしました。コンペンセーションマトリックスは週に2回作成され、(コンペンセーションセットアップ:12)、6週間の全試験期間にわたって一貫性が認められました。

Figure 4. 一貫したコンペンセーションが最長6週間維持されます。Naviosを1台使用した測定例(Y軸:プライマリチャネル、X軸:セカンダリチャネル)。

4. 装置セットアップのワークフロー

以上の結果から、ClearLLab コンペンセーションビーズとコンペンセーションキットを使用したコンペンセーション設定が、ハイエンドクリニカルサイトメーターNavios*2およびNavios EX*3でのClearLLab 10C*パネルを使用したワークフローにおいて堅牢であることが明らかになりました。NaviosおよびNavios EXは、6週間の試験期間中、安定性を維持し、コンペンセーションマトリックスはロット間および試験中で一貫しており、試薬安定性が仕様書記載のとおりであることが示されました。

そのため、ClearLLab 10C*パネルを使用した測定用として、本ワークフロー(Figure 5)を提案し、実装しました。ワークフローには以下が含まれます。

  • AutoSetUp (左パネル) でFlow-Set Pro Fluorospheresを実行して指定されたターゲット範囲に装置を標準化するには、コンペンセーションマトリックスを設定し、AutoSetUp Schedulerを使用して設定とコンペンセーションを確認します。
  • 毎日のQCでは、AutoSetUpで設定したCytosettingsを使用してFlow-Set Pro Fluorospheresの細胞とClearLLabコントロール細胞を測定し、機器設定(右パネル)のモニタリングを行います。
    • Flow-Set Pro FluorospheresのXモード値は、各チャネル用AutoSetUpのXモード値のDaily QC ± %の範囲内に収まっていなければなりません。
    • コントロール細胞:各ポピュレーションの陽性率は、使用するロットのアッセイ範囲内でなければなりません。

Figure 5. ClearLLab 10C*パネルを使用したワークフローのセットアップ

装置の標準化とコンペンセーションのセットアップは、アプリケーションの初期セットアップ時、毎日の精度管理で要求される仕様を満たさなかった場合や装置の整備を受けた場合、またはFlow-Set Pro Fluorospheresを新しいロットに切り替えた場合に実行します。

マルチカラーフローアプリケーションのコンペンセーションは常に難しいもので、4 パネルで構成されるClearLLab 10C*では特にそうです。同じコンペンセーションマトリックスが常にすべてのパネルに適しているとは限らないため、AutoSetUpでは、4つのClearLLab 10C*パネルのコンペンセーションマトリックスを調整して保存し、各細胞株で異なるマトリクスを適用できます(Figure 6)。これによって、オフラインでコンペンセーションを調整する必要が減り、オフラインでのデータ解析が簡単に行えます。

Figure 6. ClearLLab 10C* B、T、M1、M2セルチューブ用のコンペンセーションマトリクスを使用したCytosettings

5. おわりに

この研究では、ハイエンドクリニカルサイトメーターNavios*2およびNavios EX*3ClearLLab 10C*パネルのAutoSetUpとして、ClearLLab コンペンセーションキットおよびClearLLab コンペンセーションビーズをコンペンセーション設定に使用できることを実証しています。このプロセスの実行により、検査室におけるClearLLab 10C*パネルを使用したワークフローの標準化と簡素化が可能です。AutoSetUpは、毎日行う必要はありません。装置の標準化とコンペンセーションのセットアップは、アプリケーションの初期セットアップ時、毎日の精度管理で要求される仕様を満たさなかった場合や装置の整備を受けた場合、またはFlow-Set Pro Fluorospheresを新しいロットに切り替えた場合に実行します。これにより、サンプル調製と分析のプロセスがより合理化されます。4つの ClearLLab 10C*パネルそれぞれにコンペンセーションマトリックスをカスタマイズして保存することで、細胞系統に異なるマトリックスを適用できます。これにより、オフラインでコンペンセーションを調整する必要が減り、コンペンセーションプロセスが簡素化されます。

*本製品は日本国内においては、研究用試薬です。‌*非ホジキンリンパ腫のみに対応
*2製造届出番号:13B3X00190000021
Navios ハイエンドクリニカルフローサイトメーター
一般医療機器(特定保守管理医療機器、設置管理医療機器)
*3製造販売届出番号:13B3X00190000050
Navios EXハイエンドクリニカルフローサイトメーター
一般医療機器(特定保守管理医療機器、設置管理医療機器)

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