Webセミナー:クリニカルフローサイトメトリーの基礎

Steven J. Kussick、MD PhD、CMO、PhenoPath、クエスト・ダイアグノスティクス、ワシントン大学臨床助教授、バーキットリンパ腫ファンド・フォー・アフリカ(BLFA)理事

 

※本セミナーの英語トランスクリプトを翻訳したものです。

既存のHIV検査能を活用した、サハラ以南のアフリカにおけるがん診断の変革

アフリカがん研究・訓練機構 バーチャル教育ワークショップシンポジウム

ベックマン・コールター ライフサイエンスは長年、低中所得国に対する人道支援の必要性を認識してきました。この5年間、バーキットリンパ腫ファンド・フォー・アフリカ(BLFA)の医師や科学者、およびサハラ以南のアフリカの現地外科医との協力により、CARESグローバルヘルスイニシアチブを遂行しています。この取り組みの一環として、臨床検査へのアクセスを拡大するための提携やパートナーシップも構築しています。Tony Boovaが率いるCARESイニシアチブは、多国間パートナーシップを通じて、医療への公平なアクセスの実現に向けた取り組みを行っています。この取り組みは、検査室の診断能を向上することで、世界最貧国の人々の命を守ることを目指すものです。

バーキットリンパ腫ファンド・フォーアフリカ(BLFA)は米国を拠点とする小児がんの非営利団体であり、アフリカのパートナーやベックマン・コールター ライフサイエンスなどのコラボレーターと協力して、小児がん患者の生存率向上に取り組んでいます。

Steven J. Kussick博士はBLFAの理事で、病理学改善イニシアチブを主導しています。また、ワシントン州シアトルにあるクエスト・ダイアグノスティクス社の組織であるPhenoPath Laboratoriesのマネージングディレクターでもあります。今日は臨床フローサイトメトリーの基礎と、それをがんの診断にどのように適用するかについてお話しいただきます。

Flow cytometry and how we apply it to the diagnosis of cancer

本日は、私たちが何を目指しているのかについて、技術的な観点からお話ししようと思います。フローサイトメトリーについて紹介し、BLFAの活動の中心である小児患者だけでなく成人患者も含め、がんの診断にフローサイトメトリーをどのように適用するかを紹介します。

まず、フローサイトメーターのサンプルについてお話します。フローサイトメトリーについては皆さんご存じだと思います。そして、ベックマン・コールターが、アフリカで、フローサイトメトリーを用いたCD4陽性T細胞の計測によるHIVモニタリングに長年携わっていることもご存知かと思いますが、この同じ技術が、がん、特に血液関連のがんの診断にも使えるのです。

まずはフローサイトメトリーサンプルについての話から始めましょう。フローサイトメトリーは、懸濁液中の生細胞を評価する方法で、評価できるのは、血液、骨髄、体液または組織に由来する細胞です。これらの細胞は、細胞の表面や内部に存在する抗原に特異的な蛍光色素標識抗体によって標識され、標識抗体と結合した細胞が、流体系と呼ばれるシステムからフローサイトメーターに送り出されます。

細胞は、フローサイトメーター内で一列に整列するように設計されています。一列に並んだ細胞は、1つあるいは複数の特定の波長を持つレーザーによって照射されます。

レーザーが細胞の表面または内部に結合した抗体上にある蛍光分子を励起すると、蛍光分子から特定の波長の光が放出されます。放出された光は、光学系によって、その波長を測定する検出器に送られます。

この検出器で光学的情報(光エネルギー)を電子インパルスに変換します。電子インパルスはフローサイトメーターに接続したコンピューターに搭載されている解析ソフトウエアによって、2次元散布図(ドットプロット)に変換されます。ドットプロットは読み取り結果としてよく使用されるもので、これを使って、細胞にどんな抗原が存在するかを理解することができます。こちらは、赤で示されるCD4陽性T細胞と緑で示されるCD8陽性細胞を含むT細胞の解析結果で、各ドットは1つの細胞を示しています。

フローサイトメトリーで測定されるパラメータ

フローサイトメトリーで測定する細胞特性は主に2つで、1つ目は溶液中のあらゆる粒子に一般的に見られる光散乱特性です。その1つが前方散乱光(全前方角光散乱光)です。これは粒子や細胞のサイズに比例するため、細胞が大きいほど前方散乱光は強くなります。

細胞が死にかけていたり、変性が始まったりすると、膜の完全性が低下し始めることに注意が必要です。このような細胞は前方散乱が低下します。またアーチファクトが生じる可能性があるため、死細胞や死にかけている細胞は解析から除外するのが望ましいです。

検査室でルーチンに使用するもう一つの光散乱パラメータは、細胞質の複雑さや粒度に比例する側方散乱光(直角散乱光)です。

フローサイトメトリーで測定する細胞特性の2つめは、実際に細胞に関連した蛍光分子による蛍光です。その1つ目は内部蛍光または自家蛍光と呼ばれるもので、光源にさらされると自然に蛍光を発する大きな生体分子が細胞内に存在するために起こります。フローサイトメトリーで細胞を解析する際は、自家蛍光について考慮が必要です。

2つ目の蛍光は、レーザーを照射すると蛍光を発する物質を添加することで得られる外因性蛍光で、フローサイトメトリーに最も関連のある蛍光です。DNA(デオキシリボ核酸)結合色素も、このような蛍光特性を付与できる物質の1つで、細胞のDNA含量が正常か異常かを評価することができます。この後お話するなかで「蛍光」あるいは「蛍光標識した抗体」という場合、すべて外因性蛍光を意味していることにご留意ください。

フローサイトメトリーの利点

フローサイトメトリーにはいくつかの利点があります。最も重要なのは、不均一な細胞を一つ一つ解析してマルチパラメトリック情報を大量に取得できることです。そのため、さまざまなターゲットの細胞やDNAの解析が可能です。

血液病理学に携わる私たちが毎日向き合っている命にかかわる疾患の場合、さらに大きな利点となるのが、フローサイトメトリーの速さです。サンプルがラボに届いてから2〜3時間ほどで解析結果が出ます。急性白血病等、生命を脅かす病気の場合、早く結果が得られることは非常に重要です。HIVモニタリングでの実績からわかっているように、フローサイトメトリーは定量的で再現性があり、柔軟な方法です。アッセイやサイトメーターの種類によって、複数のターゲットや試薬などの解析が可能です。

サハラ以南のアフリカでの実に有利な点は何かというと、それがHIVモニタリングに使用されているフローサイトメトリーをがんの診断に使おうと決めた理由の1つでもあるのですが、サハラ以南のアフリカ全体にフローサイトメトリー実行のインフラがすでに整っていた、ということです。そのため、スライドガラスを用いる従来のがん診断が抱える問題を、いくつか回避することができました。

フローサイトメトリーのデメリット

フローサイトメトリーには、覚えておかなければならない欠点がいくつかあります。フローサイトメトリーは溶液中の細胞を一つ一つ評価するものであり、組織全体を見るものでないため、顕微鏡下での組織生検、あるいは、血液や骨髄の塗抹標本の観察により得られる組織学的評価はできません。そのため、古典的ホジキンリンパ腫など特定の造血器腫瘍の悪性細胞はサイトメトリーでの同定が難しく、また多発性骨髄腫を含む形質細胞腫瘍は悪性ではないと判断されてしまう可能性があります。

当然のことながら、フローサイトメトリー解析用の懸濁液を調製するにはそれに適した検体が必要ですが、これは時間的制約のある作業であり、検体が到着した当日、遅くとも翌日中には処理しなければなりません。血液病理学者としての私の経験から、現場には、スライドガラスを用いた診断ほど、フローサイトメトリー診断についての専門的知識が備わっていません。

臨床フローサイトメトリーアッセイ

臨床フローサイトメトリーアッセイには種類が多数あります。

  • リンパ球サブセット解析
  • 免疫不全評価
  • 幹細胞数計数(CD34)
  • 網状赤血球数計数
  • 胎児赤血球の同定
  • HLAクロスマッチ検査
  • 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)
  • 白血病、リンパ腫、骨髄腫の解析

この中で、白血病、リンパ腫、骨髄腫の解析に焦点を当てて見ていきます。

白血病、リンパ腫、骨髄腫のフローサイトメトリー解析のユニークな側面

T細胞サブセット検査などの定量的な計測検査とは対照的に、白血病、リンパ腫、骨髄腫の分析には、興味深い特徴がいくつかあります。この解析は、免疫表現型が未知の異常な細胞集団を探すものです。私たちは小児科以外の成人集団を対象に解析を行うと、異常な細胞集団が複数存在する可能性があります。これは、高齢な患者集団ほど、より多くの疾患を抱えていることに関連しています。

ですが、すべての異常集団が臨床的に有意であるとは限りません。さまざまながんに、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)やモノクローナルB細胞リンパ球増加症(MBL)などの前がん病変があることがわかっています。このような病変の存在を認識することは必要ですが、完全な悪性腫瘍として過剰診断すべきではありません。

白血病、リンパ腫、骨髄腫の評価に最適な抗原

フローサイトメトリーでどのような抗原を解析するか、という点については、過去20年間でコンセンサスが得られているため、アッセイの設計において、組み入れる抗原を決めるのは難しくはありません。

私は2006年にメリーランド州ベセスダで開催されたコンセンサス会議に参加し、左側に示す疾患の指標として調べるのに最も適した抗原のリストを作成しました。リストは、B細胞、T細胞、骨髄関連抗原、形質細胞抗原に分かれています。赤で塗りつぶされているものは、組み入れの必要性について3分の2以上のコンセンサスが得られたもので、本日お話するアッセイにも、多く組み入れられています。

造血抗原発現の基礎:異常細胞を認識するには正常細胞の理解が必要

フローデータの解析から未知の異常細胞ポピュレーションを探す際に重要になるのは、正常な抗原発現を理解し、それとは異なるものとして、異常なポピュレーションを認識できるようにすることです。そのためには、血液、骨髄、リンパ組織の様々な細胞系統の様々な細胞がどのように発生し、抗原発現のパターンが、初期の幼若な前駆体から最終分化細胞でどのように変化したかを理解する必要があります。

骨髄で発生するB細胞は、発生のさまざまな時点で多数の抗原が発現しますが、私たちはこれらの抗原について理解しなければなりません。

同様に、胸腺で発生するT細胞についても、このように多くの抗原が発現します。私たちはこれらの抗原の正常な発現のタイミングを理解しなければなりません。

骨髄系細胞として骨髄で発生する顆粒球についても、ここに示すような多数の抗原の発現について、最も幼若な形態である芽球から最終分化細胞まで、理解する必要があるのです。

単球や他の骨髄系細胞についても、同じように分化段階で変わる発現抗原について理解する必要があります。これら全ての細胞系統の経時的な抗原発現のパターンが理解できれば、複数の細胞種が複雑に混ざりあった検体でも調べることができます。

これは、PhenoPathの私の研究室で採取した正常な骨髄サンプルを、後で説明するものと同様のアッセイを使用して10カラーのフローサイトメトリーで調べたものです。さまざまな技術を使用し、まずはCD45(白血球共通抗原)と側方散乱光(細胞内粒度)を調べ、骨髄細胞をいくつかのタイプに分けました。次にCD34陽性骨髄前駆細胞(赤色の細胞)を調べました。この矢印のように、前駆細胞は顆粒球か単球のいずれかに分化します。

顆粒球と単球を観察する場合、私たちはいつも、単球をラベンダーピンク、顆粒球を濃い緑色に着色します。このパターン認識作業は非常に複雑なため、同じような色にすると、細胞が単球または顆粒球のどちらに分化したかがわかりません。このパターンは過去25年間見てきましたが、正常な骨髄で非常に再現性が高く、正常細胞中に存在する異常な個体群を簡単に特定できます。

HIVの経験を活かした、白血病、リンパ腫、骨髄腫の細胞測定アッセイ

サハラ以南のアフリカでのコラボレーターとともに、これまでに得たHIVフローサイトメトリーでの経験を活かし、検査室を再配置したり、新しい検査室を設立することで、白血病、リンパ腫、骨髄腫の検査を集中的に行える検査室を確保しています。これを、ウガンダのカンパラにあるウガンダ国立衛生研究所サービス(中央公衆衛生研究所)と、ケニアのエルドレットにあるモイ教育・紹介病院のアンパス研究所の2ヶ所で実施しました。

この3年間、私たちは19種類の抗原を測定できる4チューブで5カラーアッセイを行っています。ここに示しているのは、抗原と、その抗原に対する抗体に標識する蛍光色素の一覧です。このアッセイは、リンパ腫、白血病、骨髄腫といったさまざまな悪性腫瘍のタイプの特定と診断に特に有用です。

ですが、2022年初頭までにこれとは別の4チューブアッセイが両研究所に導入されることになり、大変喜んでいます。これまでは1チューブで解析できる抗原(蛍光分子)は5つでしたが、10抗原を解析することが可能になります。得られる情報量が指数関数的に増加し、それぞれのチューブを、B細胞、T細胞、骨髄細胞1、骨髄細胞2などの特定の細胞系統にフォーカスして解析を行えます。解析したい細胞集団が明確な場合は、1~2本のチューブで解析することもできます。

UNHLS:正常な骨髄成熟10カラーサイトメトリーデータ

これはウガンダ国立衛生研究所(UNHLS)で行った10カラーのフローサイトメトリーのデータですが、私の研究室で、わずかに異なるアッセイを用いて得た結果と同様のパターンを示しています。このアッセイでこのように不均一な細胞の検体においても正確な結果を導けることが、バリデーションによっても確認されました。

UNHLS:悪性B細胞腫瘍10カラーサイトメトリーデータ

私たちは多くの悪性検体を見てきましたが、これは悪性B細胞腫瘍の例で、確定診断にはスライドガラスを用いた組織形態学的所見との相関が必要です。栗色/錆色の細胞集団ががん細胞です。かなりがんが進行した若年成人/青年期の男性患者のデータです。

10カラーフローサイトメトリー検査の範囲を拡大

2022年は、10カラーでの検査を強化する予定です。また、形質細胞新生物における細胞質軽鎖発現や、分化系統不明瞭の急性白血病の同定に使えるアッセイをいくつか開発・展開し、診断の範囲を広げていくことにしています。

治療後に残る少量の悪性細胞を検出できるよう、測定可能な残存病変(MRD:微小残存病変)検査を導入する予定です。この検査を導入した場合、1チューブあたり1,000,000以上の細胞を評価できるようになり、残存病変の検出に必要な感度が得られます。

UNHLSは、組織生検と体液生検の評価能力の開発を支援する予定ですが、体液生検の評価はARLラボでも日常的には行っていません。体液生検が加わることで、悪性の同定が可能な検体タイプの範囲が広がります。フローサイトメトリーは、少量の悪性細胞や脳脊髄液(CSF)の解析に有用です。

私たちは、カメラを顕微鏡に接続してライト染色塗抹標本やサイトスピン用検体をルーチンで作製し、写真を撮って形態学的所見とフロー所見を相関させることで、私が両ラボに症例についての助言を行うことができる方法を開発したいと考えています。米国をはじめ、様々な地域のフローコミュニティの友人・知人が、外部コンサルタントとして支援することを申し出てくれています。

これは長年にわたる多大な努力のたまものであり、協力していただいたカンパラのUNHLS(中央公衆衛生研究所)、Caroline Achola博士、ケニアのAMPATHグループ、ウガンダがん研究所の臨床医のみなさん、5カラーアッセイの開発をお手伝いくださったVicki RatliffさんをはじめとするPhenoPathのみなさん、本当に大勢の皆さんに感謝いたします。

コラボレーターとしてご協力くださった、BLFAの仲間たち、そしてTony Boova、Eda Hollをはじめとするベックマン・コールター ライフサイエンスの皆さんです。

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