検査室のためのFCM検査の基礎

リンパ球サブセット・CD34陽性細胞測定・造血器腫瘍解析

本ページでは、臨床検査室で行われている、フローサイトメトリーを用いた検査についてご説明します。

<目次>

  1. 免疫系とは?
  2. 免疫系の中心はリンパ球
  3. リンパ球は1種類ではない
  4. CDは細胞の目印
  5. 目印を見つけるため -抗原抗体反応-
  6. 目印の見つけ方 -抗体による染色-
  7. フローサイトメトリーの臨床検査応用

<リンパ球サブセット検査の例>

参考:フローサイトメトリーとLIS(病院情報システム)との連携

 

1. 免疫系とは?

血液細胞の重要な役割の1つは、免疫です。免疫は、一言で言えば体を守るためのシステムです。体の外から侵入してきた自分の体にとっての異物を排除する働きや、がん細胞に代表される自分の体の中で発生してしまった異常細胞の除去といった重要な働きをしています。白血球には、こうした異物の排除や異常細胞の除去、あるいは異常細胞の発見など、いろいろな働き(機能)を持ったいろいろな種類の細胞からなります。これらの細胞を、免疫細胞と呼ぶことがあります。白血球5分類の中のリンパ球は、免疫系の中心に位置する、免疫系の主役の役割を担う血液細胞です。

例えば、体の中にばい菌(異物)が侵入してきた場合、白血球のうち顆粒球に分類される免疫細胞のひとつである好中球が、こうしたばい菌を自身の中に取り込んで(貪食)殺菌してくれます。生体は常にいろいろな外敵の侵入や攻撃を受けているわけですが、好中球のこうした働きも、病気の発病を抑える仕組みの1つとして活躍しているわけです

もう1つの代表的な免疫の働きに、生体の外から侵入した異物ではなく、自身の体の中で発生した異常な細胞を除去する働きがあります。
例えば、体の中にがん細胞ができてしまった場合、リンパ球の1つであるNK細胞と呼ばれる細胞が、がん細胞に対して攻撃をしかけ、がん細胞を除去するという働きがあります。
このNK細胞による刺激によって、がん細胞はアポトーシスと呼ばれる状態に陥ります。アポトーシスは細胞の自殺プログラムと呼ばれる重要な細胞生物学の現象の1つです。

 

 

2. 免疫系の中心はリンパ球

免疫系は大きく分けると、細胞性免疫と体液性免疫の2つに分類することができます。細胞性免疫は、細胞が直接、何らかの機能を発揮して起こる免疫反応を指します。一方の体液性免疫は、細胞から体液中に分泌された抗体やサイトカインなど、可溶性の成分が関与することによって起こる免疫反応であるということができます。

ただし、細胞性、体液性いずれの免疫系も、上流ではリンパ球の1つであるT細胞の指令を受けています。この意味で、T細胞は免疫系全体の司令官であるということができます。リンパ球の1つであるT細胞は免疫系の中心におり、免疫系全体のバランスを調整しながら促進や抑制の指令を出しています。T細胞は、持っている機能によってさらに詳細に分類することが可能ですが、そうした亜集団のことをサブセットと呼びます。

 

 

3. リンパ球は1種類ではない

リンパ球は免疫系の中心に位置する非常に重要な細胞ですが、実はリンパ球の中にもさらに機能の異なるさまざまな細胞があります。代表的なものとしてT細胞、B細胞およびNK細胞がありますが、これらの細胞が持つ機能はすべて免疫系に関係したものです。

一方、白血球は大きく5つに分類され、コールター血球計数装置で測定することができます。ところが、先に紹介したようなリンパ球の詳細な分類を行うことはできません。こうした詳細な分類は、次章で説明する肉眼では見えない細胞表面の目印をフローサイトメーターとモノクローナル抗体の力で測定して行うことになります。

リンパ球を機能面から細かく分けた亜集団を、リンパ球サブセットと呼びます。例えば、リンパ球サブセットの1つにT細胞やB細胞があります。このサブセットという言い方は、リンパ球だけでなく、単球や樹状細胞など、他の細胞に対して用いられることもあります。 例)単球サブセット、樹状細胞サブセットなど

 

 

4. CDは細胞の目印

細胞には、見た目は同じでも機能の異なるさまざまな細胞があります。フローサイトメトリーではこうした機能の異なる細胞を解析できますが、このときに細胞表面に存在する目印を利用します。この目印は目視による形態観察ではわかりません。
例えば、リンパ球サブセットは、その機能に応じて、自身が持っている機能に特異的な目印(分子)を持っており、これら目印の多くはCD番号(CD3、CD4、CD19…など)によって分類されています。CDはCluster of Differentiation の略です。

フローサイトメトリーの基本的なアプリケーションの多くは、CD分子に代表される、こうした細胞表面の目印を探索(細胞の機能を調べる)することと言うことができます。

ただし、細胞表面の分子はすべてがCD番号を持っているわけではなく、MHCやTCRなど、それぞれに独特の呼び方を持っているものも少なくありません。こうした分子を総称して、non-CD分子(抗体の場合はnon-CD抗体)と呼ぶこともあります。

CDとは細胞表面に発現している機能分子(目印)をクラスター分類して通し番号で整理したもので、これは国際会議HLDAで評価された結果であり、世界共通のナンバリングです。

 

 

5. 目印を見つけるため -抗原抗体反応-

細胞表面の目印を見つける技術の基礎は、抗原抗体反応です。
抗原は、通常生体にとっての異物を指すことが多く、例えばスギ花粉症の場合、スギ花粉が抗原ということになります。これに対して抗体は、この抗原を除去するための生体側が持っている防御因子の1つで、体液中に存在しています。

これら、抗原と抗体が結合する反応のことを抗原抗体反応と呼びますが、抗原と抗体の関係はよく鍵と鍵穴の関係にたとえられます。
すなわち、抗体と抗原は一対一の対応を示す性質があり、先の例でいうとスギ花粉に対する抗体は、スギ花粉にだけ結合することになります。こうした一対一の反応性のことを、特異性と呼びます。

ヒトの抗体には5つのクラス(構造の異なるものの大別)があり、それぞれIgG、IgM、IgD、IgA、IgEと呼ばれます(IgはImmunogloblinの略です)。それぞれのクラスの抗体は役割や存在している場所が異なり、血液中や消化管粘膜など、生体内のさまざまな場所で免疫系を担っています。

 

 

6. 目印の見つけ方 -モノクローナル抗体による染色-

 

ある目印を持った細胞を見つけ出すためには、抗原抗体反応を利用します。まず、蛍光色素を標識した、目印に対して特異性を持つ抗体(モノクロ―ナル抗体)を用意します。蛍光色素は、ある特定の波長の光を当てると、色素に特徴的な蛍光を発する物質です。使用する蛍光色素の多くは細胞に対する高い反応性を持っていないため、直接、細胞に結合することはほとんどありません。

次に、蛍光色素をつけた抗体を、詳細情報を調べたい細胞と反応させて、細胞表面の目印と結合させます。
これで、細胞が蛍光色素で標識された状態が出来上がります。一方で、抗体には特異性がありますので、特異性の異なる抗原(目印)を持った細胞は蛍光色素で標識されません。

下図の例では、CD3という目印を持った細胞だけが蛍光色素で標識され、それ以外の目印を持った細胞は標識されないということになります。

 

          


CD分類チャートへ

 

 

7. 目印の見つけ方 -フローサイトメトリーの臨床検査応用-

■ Immunophenotyping Results

                       
                 
                       
                   
                 
                   
               
                   
                   
                       
                   
                   
                 
                       
                 
               
               
                       
               
             
   
                       

*症例によっては当てはまらない場合がある

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