血小板

血小板は、直径が1~3 µmの円盤状の小さな細胞で、血中を1.4~4 x 108/mlの濃度で循環しています。血小板の最もよく知られている機能は止血であり、その過程で損傷を受けた血管からの過剰な血液損失を防ぐために、血管内で血栓を形成します。近年、血小板は宿主の炎症反応や免疫応答にも関与することが明らかになっています。

血小板の形成と構造

血小板は、骨髄中で巨核球(造血幹細胞から分化する8種類の主要な血球型の1つ)から形成されます。成熟した巨核球は、プロプレートレット(proplatelet)と呼ばれる構造を形成します。核以外の細胞内容物はこのプロプレートレットに分配され、その結果、1つの巨核球から数千個の血小板が産生されます。血小板には核がなく、この点で多くの循環細胞と異なります。ただし、最も若い「網状」の血小板にはRNAがわずかに残っているため、チアゾールオレンジで染色してフローサイトメトリーで検出できます1。 この未熟な網状の状態はおよそ1日しか続かないため、網状血小板 の比率は、骨髄における巨核球形成の指標となり得ます。成熟した血小板は、血中を約9日間循環した後、脾臓によって除去されます。

活性化状態の血小板と白血球

各血小板の細胞膜には、多様な糖タンパク質受容体とシグナル伝達タンパク質が豊富に存在し、刺激に対して迅速に応答できます。この細胞膜のすぐ下には微小管リングがあり、これによって、非活性化状態の血小板特有の円盤状形態が保たれます。血小板の細胞質には、活性化すると放出される分泌顆粒が数種類存在し、それらの中には、フィブリノーゲン、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、フィブロネクチン、ADP、5-HT、ケモカイン、成長因子など、血栓形成や創傷修復を促進する様々な因子が含まれています。

 

止血および血栓症における血小板の役割

血小板は非活性化状態では血中を循環していますが、血管壁の損傷に反応して急速に活性化します。損傷を受けると、内皮細胞はvWFを放出し、損傷部位では内皮下の細胞成分タンパク質(主にコラーゲン)が露出します。コラーゲンとvWFは血小板表面の受容体に結合し、接着、形状変化、広がり、前凝固活性の増強、血管内容物の放出、凝集などの様々な反応を引き起こします。その結果、一次止血栓が形成され、出血が止まり、損傷後の感染リスクが低減します。

病変を有する血管で血小板が活性化すると、心筋梗塞や脳卒中などの血栓性イベントを引き起こします。したがって、血小板活性化の基盤となるプロセスを理解することは、新規抗血栓薬ターゲットの探索に不可欠です。

血小板減少症は、血小板濃度が異常に低いことを特徴とする病態で、骨髄の異常、免疫系の問題、あるいは特定の薬剤の副作用など、原因は多岐にわたります。血小板減少症は、軽度で自他覚症状はほとんどないことが多いですが、場合によっては血小板数が著しく低下し、危険な出血を引き起こすこともあります。

近年注目されている研究–免疫および炎症における血小板の役割

血栓形成や止血における血小板の役割はすでによく解明されていますが、近年の研究では、 宿主防御2 や組織修復3 など、他の生理的プロセスにおける血小板の新たな役割が注目されています。このプロセスは、がん転移4 や関節リウマチなどの炎症性疾患にも関与しています。 そのため、このような疾患に関与する血小板の機能を媒介する受容体や、その基盤となるメカニズムの研究が、現在の血小板研究の主要な焦点となっています。また、血小板が活性化されると放出され、炎症に関与する血小板由来細胞外小胞(PEV)についての理解も深まっています。 PEVはヒトの血液中に最も豊富に存在する細胞外小胞であり、初期の知見からは、治療においても注目される重要な解析対象物である可能性が示唆されています。

血小板の研究ツール

培養法

血小板には細胞分裂能がないため、培養できません。機能アッセイに使用する血小板は、通常、血液サンプルから採取し、全血中、血小板リッチ血漿(PRP)中、または「洗浄血小板」(血漿を遠心分離して血小板を取り出し緩衝液で再懸濁したもの)として実験に使用します。血小板は一度単離されると温度やpHの変化、あるいは物理的ショックに対して非常に敏感で、凝集を起こす可能性があるため、保存には十分な注意が必要です。

細胞計数

血小板数は、自動血球計数装置、または血球計算盤を用いたマニュアル法で測定できます。血小板数は、疾患のモニタリングや診断、異常な出血や血栓の原因を調べる目的で測定されます。

機能アッセイ

  • 血小板凝集:血小板凝集試験は、血小板活性化のアゴニストおよびアンタゴニスト、ならびにそれらの基礎的メカニズムの解析に用いられます。最も基本的な試験形式では、PRPまたは洗浄血小板を血小板凝集計に入れ、アゴニストを添加して、サンプルを通過する光の変化から凝集を測定します。体内での血小板活性化をより正確に再現した手法では、血小板を生理学的なせん断速度を模倣した条件下でアゴニスト上に流し、その結果生じた凝集体を顕微鏡で観察します。付着・凝集した血小板は蛍光色素で標識し、蛍光顕微鏡で観察します。
  • フローサイトメトリー:フローサイトメトリーは、血小板のフェノタイプや機能を分子レベルで詳細に評価できます。血小板は、非活性化状態または活性化後の状態で、刺激後に発現する差動表面マーカーに基づいて解析することができます。解析がすぐに行われない場合は、サンプルを固定する必要があります。

細胞マーカー

血小板の活性化は、非活性化時と活性化時で発現している表面マーカーが違う、ということに基づいて、モニタリングできます。特定のマーカーの発現が低下、または消失している場合、それが疾患の診断に有用である可能性があります。

非活性化および活性化血小板に特徴的なマーカーの概要

表面マーカー 別称 発現部位
非活性化血小板
CD9 TSPAN-29, MIC3, BA2, DRAP-27, MRP-1 細胞表面
CD29 インテグリン β 1、ITGB1、フィブロネクチン受容体サブユニットbeta、FNRB、GPIIA、MDF2、MSK12、VLAB 細胞表面
CD31 PECAM-1、血小板内皮細胞接着分子 細胞表面
CD36 脂肪酸トランスロカーゼ、糖タンパク質IIIb、GP3B、GP4、GPIV、PASIV、SCARB3 細胞表面
CD41 インテグリン α IIb、GPalpha IIb、ITGA2B、GP2B、GTA 細胞表面
CD42a 血小板糖タンパク質IX、GPIX、GP9 細胞表面
CD42b 血小板糖タンパク質Ib α 鎖、BSS、GP1B、GPIbα 細胞表面
CD61 インテグリン β 3、インテグリン beta-3、ITGB3、GP3A 細胞表面
GPVI 細胞表面
活性化血小板
CD62P P-セレクチン、SELP、LECAM3、GRMP、PADGEM α顆粒。活性化時に細胞表面に移行。
CD63 LAMP-3、グラニューロフィシン、MLA1、ME491 高密度顆粒。活性化時に細胞表面に移行。
CD107a LAMP-1 リソソーム。活性化時に細胞表面に移行。
CD107b LAMP-2 リソソーム。活性化時に細胞表面に移行。
CD154 CD40リガンド、Gp39、TRAP、HIGM 1 活性化細胞の表面に発現。可溶性型(sCD154)として放出。
活性化型 IIb/IIIa 細胞表面。活性化により立体構造が変化し、PAC-1などの特定の抗体で検出可能。

参考文献

1. Hoffmann JJ. (2014) Reticulated platelets: analytical aspects and clinical utility. Clin Chem Lab Med. 52(8):1107-17. https://www.degruyter.com

2. Cloutier N, Allaeys I et al. (2018) Platelets release pathogenic serotonin and return to circulation after immune complex-mediated sequestration. Proc Natl Acad Sci U S A. 115(7):E1550-E1559. https://www.pnas.org

3. Gawaz M and Vogel S (2013) Platelets in tissue repair: control of apoptosis and interactions with regenerative cells. Blood. 122(15):2550-4. https://ashpublications.org

4. Lucotti S and Muschel RJ (2020) Platelets and Metastasis: New Implications of an Old Interplay. Front. Oncol. 10:1350. https://www.frontiersin.org

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