コールターカウンター法 基礎講座

本ページでは、コールターカウンター法がどのようにして粒子のサイズと数を計測するのか、その原理の詳細と注意点をご紹介します。

【目次】

  1. 背景
  2. コールターカウンターの原理
    1. どのようにして粒子のサイズと数を計測するのか?
    2. コインシデンス
    3. カウント数とコインシデンスの修正
    4. 粒子のアパチャー通過時のパルスの最適化
    5. 高分解性アパチャーチューブと強化された編集回路
    6. 粒子と電気信号の関係
    7. キャリブレーション
    8. アパチャー
    9. 拡張レンジの適用
    10. 電解質溶液の選択
    11. 導電性粒子と多孔性粒子
  3. 測定精度を向上させる方法
  4. 小径または大径のアパチャーチューブ使用時の注意点
    1. 小径アパチャー (< 50 μm)
    2. 10 μmまたは20 μmアパチャー使用時の追加の注意点
    3. 大径アパチャー (> 400 μm)
  5. CFR Part 11への準拠
    1. 電子署名 (21 CFR Part 11)
    2. 電子記録
    3. FDAの要求事項
    4. セキュリティとデータインテグリティ

1.背景

1940年代後半、米国海軍との契約のもと、Wallace H. Coulter は、粒子数および粒子サイズを測定する方法を開発しました。この方法は、当初、血球を計数するために開発されましたが、すぐに、ほぼすべての種類の粒子を素早くかつ正確に計数し得る技術であることが明らかになりました。現在、コールター原理はコールターカウンター法とも呼ばれ、自動血球カウンターの98%以上で取り入れられていることから、この原理が血液学分野で認められているのは明らかです。コールター原理を用いた装置をコールターカウンター装置と呼び、過去60年間、ライフサイエンス研究では細菌、微生物、細胞内小器官、細胞など様々な生物の特性評価に、工業分野においても色素、トナー、食品、研磨材、火薬類、粘土、無機物、金属など工業原料の物性評価にコールターカウンターが利用されててきました。

この方法は、電解質溶液に懸濁できるあらゆる物質を測定することが可能です。最新機種を使用すると、直径0.2 μmほどのサブミクロン粒子から直径1,600 μmの大きい粒子まで測定することができます。この測定法は、国際規格ISO13319に記載されており、いくつかのASTM基準の対象にもなっています。100,000以上のリファレンスで粒子・細胞サイズ計測装置Multisizerシリーズを始めとするコールターカウンター製品が使用されています。

 

2. コールターカウンターの原理

2.1 どのようにして粒子のサイズと数を計測するのか?

コールターカウンターは、1つの粒子または細胞が「穴」を通過することから始まります。しかしながら、この「穴」は特定の基準を満たす必要があります。より正確には、この穴は細長いガラス管である必要があります。ガラス管の中に、微細穿孔ルビーディスクが埋め込まれており、このディスクは、ガラス管の中を通る流体の流れを抑えます。また同時に、流動の変動が少なくなるように調整しています。本講座では、これらの基準を満たしているガラス管/ルビーディスクを「アパチャーチューブ」と呼びます。アパチャーチューブは、2本の電極間に設置され、低濃度の電解質により電流路が形成されると電極間に抵抗が存在 し、測定することができます。アパチャーは、いわゆる、検知帯(アパチャー感応領域)を作り出します。電解質に懸濁された低濃度の粒子がアパチャーを通過するとき、その粒子を計数することができます。粒子がアパチャーを通過することに伴って(図2.1を参照)、電解質溶液と同体積の粒子含む溶液が検知帯で置き代わります。この時、アパチャーチューブをまたぐインピーダンスの短期的な変化が生じます。電圧パルスまたは電流パルスとして、抵抗変化を測定することができます。電圧パルスは、検知された粒子の体積に比例します。

カウンターとパルス分析器回路を用い、検知帯を通過する粒子の数および体積の測定が可能です。体積は、等価な球径相当として体積を表すことができます。測定された粒子の大きさは、波高分析器と得られた粒子サイズ分布を用いて算出します。機器の電気的応答は、同じ体積の粒子であれば、粒子の形状とは本質的に無関係ですが、極端な形状をもつ粒子の場合、電気的応答が変わる場合があります。粒子の色、屈折率、および混濁は結果に影響を及ぼしません。

シンプルな コールターカウンター では、1つのカウンターおよびサイズレベル回路のみで構成されています。一方、Multisizer シリーズ のような、より複雑なシステムでは、最大で400個のサイズチャネルから自動的に粒子サイズ分布を得ることができ、これらの測定はたった数秒で完了します。1 秒間に最大で10,000個の粒子の数およびサイズを測定可能です。サイズ測定の精度は、粒子の数やサイズを個別に測定した場合とほぼ同じく、限りなくバラつきが少ないデータが得られます。懸濁液の容量が既知である、懸濁液中に含まれる粒子数の計数、例えば特定の微粒子汚染研究や血球数の計数では、正確な体積を知る必要があります。最新型の Multisizer 4eでは、ピストン変位測定システム(piston displacement metering system)を用い正確な容量を測定しています。

Pulse generation

図2.1. パルス発生メカニズム

 

Multisizer 4e は、ハイスペックなコールターカウンターです(図2.2を参照)。このコールターカウンターは、デジタルパルスプロセッサ(DPP)を搭載し、高速解析が可能になりました。この技術により、粒子物性評価にパルス面積分析やほかの技術を使用できるようになりました。その場でデータ処理したり、以前のバージョンのように圧縮する必要はなく、データ情報の損失なしに保存することが可能です。これにより、生データに異なる設定を適用した再解析や測定中のサンプル変化をモニタリングすることも可能になりました。

信号がノイズ閾値を上回る時にピークが始まり、信号がノイズ閾値を下回る時にピークが終わります。その信号を1 秒あたり数百万回調べることで、以下の情報が得られます。

  • 最大の高さ
  • ピークの幅
  • 中間の高さ
  • 最大の高さの増加段階
  • 中央の高さの増加段階
  • ピークの面積

全体として、これらのパラメーターは、過去に比べ、非常に良好な形状に関するパルスの指標であり、より正確な粒子の計数やサイズ分布を得ることが可能になります。

 Multisizer 4e coulter counter Analyzer schematic

図2.2. 精密粒度分布測定装置 Multisizer 4e

2.2 コインシデンス

パルス数と粒子数が同じになるよう、サンプル中の粒子濃度を十分に低くする必要があります。しかし、検知帯の体積によって(可能性は低いですが、場合によっては、電子機器の応答時間よって)、2つ以上の粒子が同時に検知帯に存在する場合があります。これらの粒子は、1つのパルスしか生成しません。このような事象を粒子の同時通過(コインシデンス)と呼んでいます。コインシデンスによって2つの悪影響が起きる可能性があります。1つ目は、上で述べた状況です。つまり、2つの粒子が大きな1つの粒子として計数されます(図2.3を参照)。これにより、粒子の数が少なくなるとともに、サイズ分布にも影響を及ぼします。2つ目は、検出感度以下の小さな粒子が1つの大きな粒子として検出されることによる誤ったサイズ分布をレポートすることになります。(図2.4参照)。濃度が異なる同じサンプルを同一条件で測定した結果を図2.5と図2.6に示しました。(サンプル濃度:A>B>C>D)。サイズ分布に対するコインシデンス効果は、コインシデンス補正が30 ~ 40%を上回る場合にのみ顕著に表れています。Multisizer のソフトウエアを使用した場合、10%(10 個の粒子のうち1つがカウントされていない)までの第1 のコインシデンス効果は、数学的に自動補正されます。第1 のコインシデンス補正は、測定体積中の粒子の数、アパチャーの径、検知帯の有効体積を元に計算を行います。

coulter principle - Effect of primary coincidence.

図2.3. 第1 のコインシデンス

 

coulter principle - Effect of secondary coincidence.

図2.4. 第2 のコインシデンス

 

coulter principle - Effect of coincidence correction on counts.

図2.5. 個数分布におけるコインシデンスの影響

 

Effect of coincidence correction on the size distribution.

図2.6. 体積分布におけるコインシデンスの影響

2.3 カウント数とコインシデンスの修正

ノイズ閾値において瞬間的に計測される濃度を濃度計として使用しており、ユーザーは、手軽にサンプルの濃度を測ることができます。
計数閾値において、ピークのデータと同じ基準を用いてパルスを計数します。したがって、閾値がカウントレベルと等しく設定されている場合、カウント数はピーク・バッファに格納されたパルスの数と等しくなければなりません。カウントレベルにおけるパルスシグナルとパルス面積は、測定が完了するまで蓄積されます。これらの情報をサイズ分布のコインシデンス修正に用いています。多くの場合、計数閾値は、測定開始した直後にサイズ分布の左側に表示されます。ノイズ閾値はより低いレベルに設定することもできます。これにより、計数閾値よりも高いコインシデンス修正の精度を下げることなく、ピークデータ収集を計数レベルよりも低く設定することが可能になります。

 

2.4 粒子のアパチャー通過時のパルスの最適化

粒子がコールターカウンターのアパチャーチューブを通して吸引される際、粒子はアパチャー周りから内部に取り込まれます。一部の粒子はアパチャーの中心を直接通過しますが、ほかの粒子はアパチャーの縁部に近いところを通過します。アパチャーを通過するすべての粒子は、電解質溶液の体積を変化させてピーク電圧を発生させますが、アパチャーの中心を通過しない粒子は、アパチャーの縁部の影響を受け、予想よりわずかに大きいピークを生じます。このわずかに大きい「アーティファクト」パルスが、粒子サイズ分布をごくわずかに、より大きなサイズに歪めてしまいます。(図2.7を参照)。

Pulse shape depends on the particle flow through the aperture.

図2.7. パルス波形はアパチャーを通る粒子の流れによって決定

 

流体速度(粒子速度に直接関係する)も粒子サイズの分散に大切な要素です。アパチャー壁部では、速度は低く、振幅が広くかつ高いパルスが生じます。高出力、広帯域パルスは、サイズ分布をより大きなサイズに偏らせます(図2.8参照)。これらの影響は、非常に均一でシャープな粒子を測定した場合に顕著に表れます。アーティファクト・ピークは、第2集団と思えるようなピークとして検出されます。広く裾を引いているような幅広い分布を持つサンプル(ほとんどの粉末や懸濁液)を測定しても、このような影響は検出されず、考慮する必要はありません。

これらのアーティファクト・ピークの多くは、各々のパルスを調べることによって、分析データから不要なパルスとして「編集」し、取り除く電子的スクリーニングが可能です。パルス編集機能によって歪んだパルスを除くことにより、測定結果がより正確になります(図2.9を参照)。一般的に、サイズ測定の精度を高めるために、粒子が生成したパルスの最大50%までが捨てられます。

パルス編集機能から正確な測定結果を得るために、以下の点に注意してください。

  • 10 ~ 280 μmのアパチャーチューブを使用してください。
  • 測定する粒子のサイズ分布が単峰型であり(全体の測定範囲内の直径で約2:1を越えない)、モーダル直径が使用するアパチャー径の約15%未満(200 μmのアパチャーチューブの場合、モーダル直径が 30 μm未満)でなければなりません。
  • アパチャー・コインシデンス値が10%未満の粒子濃度で測定してください。

size distribution of one-micron standard beads not using the Pulse-Edit function.

図2.8. パルス編集機能なし。1 μm標準粒子のサイズ分布

 

size distribution of one-micron standard beads using the Pulse-Edit function.

図2.9. パルス編集機能あり。1 μm標準粒子のサイズ分布

2.5 高分解性アパチャーチューブと強化された編集回路

高分解能アパチャーチューブ(標準と比較し、より長いトンネル/厚みを有するアパチャー)を用いることで、サイズ分布が狭く均一性が高いサンプルの解析精度を向上させることができます。高分解能アパチャーチューブの挙動は、アパチャー内部への放物線状の流れが効率よく流れ込むかにかかっています(図2.10を参照)。しかし、真の放物線(ストリームライン)の流れはどのようなアパチャーを使っても到達できません。なぜなら、この方法で測定するためには、アパチャーの筒の長さを放物線の流れに対する直径より、少なくとも100倍長くする必要があるからです。

coulter principle - Cross section of a standard aperture and a long tunnel aperture tube.

図2.10. 標準アパチャーと高分解能アパチャーチューブの断面図

 

液体がトンネルに沿ってストリームライン内を流れる場合、大部分の液体は、軸から0.7 R(Rはトンネルの半径)で周縁部に沿って流れます。最も速いストリームラインは、中心にあります(図2.11を参照)。流体力学的な力は、粒子を最も早い速度に向かわせようとします。なぜなら、実際の粒子では、その直径に沿って速度が変化するためです。粒子は、粒子自身が平均流速内に入るようにし、平均速度が常に最大または中心速度の半分になります。通常の短いアパチャーに比べ、長いトンネルによってより多くの粒子がこの流れの中に入ることが可能になります。しかし、そのようなアパチャーは体積が大きいため、アパチャーのダイナミックレンジがより大きく制限され、アパチャーの直径の2%で粒子によるノイズがより大きくなりがちです。標準アパチャーチューブは、この効果を消しすようにデザインされています。アパチャー体積も同様に大きくなっているため、アパチャー径の2%の大きさの粒子であっても十分に測定できます。

Velocity profile in parabolic flow.

図2.11. 放物線状の流れの速度プロファイル

 

coulter principle - Bulk flow profile for parabolic flow

図2.12. 円形状横断面による、管内の放物線状の大きな(バルク)流れのプロファイル。
粒子の最大濃度は0.7 Rと記された線に沿います。

 

hydrodynamic forces on a particle in parabolic flow.

図2.13. 放物線状の流れの粒子にはたらく流体力的な力

 

シリンダ状トンネル内の流れを、図2.11に示します。シリンダ内では、放物線状のプロファイルをたどる速度で移動する同心シリンダと考えることができます。バルク流体の流れは、その速度に乗じた各シリンダの面積になります。この結果は、図2.12に示されるプロファイルになります。粒子は、均一な濃度でランダムにすべてのシリンダに入ります。しかし、カウンターによって記録される1秒あたりの粒子の数は、最も速いバルクの流れを有するシリンダ内で最大になります。図2.12に示すように、粒子の流速は、流体のバルクの流れと同様のプロファイルになります。

図2.13において、粒子上のポイントaはV / 2で移動しており、ポイントbではその2倍の速さで移動しているので、粒子には回転力が働かなければなりません。また、速度Vでより速いストリームラインに向かって粒子を移動させる傾向にある放物線に対して、概ね接線方向の正味の力がなければなりません。

図2.12は、0.7 Rで液体のバルクの流れを示しています。粒子の大くはこのストリームラインで移動しています。短いトンネルでは、壁に近い粒子が0.7 Rに向かって移動するには、ほとんど時間がかかりません。一方、より長いトンネルでは、移動時間が増加します。その結果、より長いトンネルは主ピークのパルスの割合が大きくなります。0.7 ~ 0.0 Rのパルスは、基本的にベル形状パルスになります。一方、壁部からのものは、粒子がアパチャーの入り口と出口の両方で電流密度の高い領域を横断する結果、「M」形状を有します。

編集回路は、パルスの高さHを基準にして相対的なパルスの幅Wを検出します。トンネルが長ければ、パルス幅も大きくなります。放物線状の流れがより長いトンネルでより確立されるのため、アパチャーの壁部に近い粒子からのパルスは、0.7 Rストリームライン内の粒子から来るパルスよりも極めて大きく広がります。

トンネルが長い場合、パルスの高さも減少します。W / H比率は、トンネルの長さ変化量の二乗で直線的に変動します。重要な点は、編集回路には、パルスを識別するための非常に優れた機能があることです。

Multisizer 4eでは、50 μm、70 μm、100 μm、140 μm、および200 μmサイズの高分解能アパチャーチューブ(長いトンネルを有するアパチャー)を提供しています。

2.6 粒子と電気信号の関係

長さ:直径の比率が、約1:1 または2:1であるアパチャーでは、電気信号は粒子パラメーターとアパチャー・パラメーターの両方に依存します。

Pv * r = i / I

  • Pv = 粒子量
  • I =アパチャー電流
  • i = パルス強度
  • r = 単位体積Vあたりのパルス高さに対する応答係数

r = (i / I) / Pv
V = Pv / (i / I)
Pv = V * (i / I)
V = 1 / R
V = 0.4852 * U2 * (L + 0.93 * U)

  • U = D1.0556
  • D =アパチャー直径
  • L = アパチャー長さ

電圧応答は、アパチャー直径の2%と60%の間にある粒子直径について線形であることが保証されています。Multisizer 4eでは拡張モード機能で使用できるアパチャー直径の80%の範囲まで線形応答を示します。粒子の直径がアパチャー直径の2%未満である場合、ノイズが劇的に増加します。

2.7 キャリブレーション

コールターカウンターは、2つの基本的な測定である粒子数と粒子体積を測定します。粒子カウントに関しては、キャリブレーションを必要としません。コールターカウンターは粒子数を正確に測定し、コインシデンス補正を行います。しかし、粒子体積を測定する場合、キャリブレーションが必要になります。
理想的なキャリブレーション方法は、質量との統合(mass integration) であり、しばしば質量バランスとも呼ばれています。この方法では、均一な密度をもったキャリブレーション試料を使用することが非常に重要であり、このキャリブレーション粒子を使用し重量と体積を測定することで装置は、測定に用いる装置をキャリブレーションします。
Kd(直径校正ファクター)は、以下の方程式を用いて算出することができます。

Kd = [ ( 6 * W * V) / (Π * VT * ρ * (Δn * V ) ) ]1/3 * 104

  • W = ビーカー中のサンプルの質量(グラム)
  • VT = Wが希釈されている電解質溶液の体積(mL)
  • Vp = ポンプ体積(mL)
  • ρ = 粒子の浸漬密度(g / mL)
  • Δn = サイズ間隔における粒子の数
  • V = 特定のサイズ間隔の算術平均体積(例えば、閾値、アパチャー電流、および減衰の積)

すべての粒子が密度に関して均一であるというわけではありません。このことから、また一般的な便宜上、ポリマーラテックス試料などの標準物質を使用してキャリブレーションを行うことがより一般的です。NISTトレーサブルなキャリブレーション用標準粒子は、弊社から入手することができます。これらは、直交法でサイズが正確に測定されたサイズ変動が少ないラテックス粒子水溶液であり、このサンプルをモード値の標準として用います。サンプルを測定し、得られたサイズ分布のモードをラテックス標準粒子の測定値に関連させます。

  • J = 選択したチャネルの数
  • I = 電流(μA)
  • G = ゲイン
  • D = キャリブレータ・サイズ(μm)
  • X = モーダル・チャネル、左側縁部(μm)

キャリブレーションの方法に関係なく、キャリブレーションはアパチャー / 電解質の組み合わせから得た全範囲の測定値にのみ有効です。キャリブレーション・ドリフトは一般的ではありませんが、精度を要求される研究室では、日常的に性能確認試験を実施しています。
Multisizer 4eは、自動キャリブレーションおよび検証機能を搭載しています。この機能により、この機器のキャリブレーションを操作者やシフトまたは異なる使用場所に影響されることなく、いつも均一に行うことができます。

アパチャー(公称直径μm)
直径(μm)
総計範囲 標準範囲 拡張範囲
10* 0.2–8 0.2–6 6–8
20* 0.4–16 0.4–12 12–16
30* 0.6–24 0.6–18 18–24
50 1.0–40 1.0–30 30–40
70 1.4–56 1.4–42 42–56
100 2.0–80 2.0–60 60–80
140 2.8–112 2.8–84 84–112
200 4.0–160 4.0–120 120–160
280 5.6–224 5.6–168 168–224
400 8.0–320 8.0–240 240–320
560 11.2–448 11.2–336 336–448
800 16–640 16–480 480–640
1000** 20–800 20–600 600–800
2000** 200–1600 200–1200 1200–1600

*システムの清浄度と環境の電気ノイズに依存します。
**サンプル密度に依存します。

2.8 アパチャー

標準アパチャーチューブの直径は、10 μmから2,000 μmにわたります。各アパチャーは、その公称直径の2 ~ 60%のサイズ範囲内にある粒子の測定に用いることができ、必要に応じてすべてのアパチャーで最大80%まで測定範囲を拡張することができます(表2.1)。したがって、全体の粒子サイズ測定範囲としては、0.2 ~ 1,600 μmの粒子を測定できます。分析する粒子は、電解質溶液に適切に懸濁できる粒子である必要があります。測定サイズの上限は、サンプルに依存します。例えば砂の場合、上限は500 μmと考えられますが、タングステンカーバイト粒子の場合は、上限が75 μmになります。サイズの下限は、主にアパチャー自体の中で発生した電子ノイズ(ジョンソン・ノイズとして知られています)によって制限されています。上記の表は、それぞれの標準アパチャーチューブにおける測定可能粒子サイズの範囲を示しています。

最も適したアパチャー・サイズは、測定する粒子に依存します。測定するサンプルがアパチャー直径サイズの30:1 範囲内にほとんどが入る粒子から構成される場合、最も適したアパチャーを容易に選択することができます。例えば、30 μmのアパチャーチューブは、直径がおよそ0.6 ~24 μmの粒子を測定することができます。一方、140 μmのアパチャーチューブは約2.8 ~ 112 μmまでの粒子を問題なく測定することができます。もしサンプル中の粒子が1つのアパチャーチューブでカバーする範囲よりも広い範囲にわたる場合、2つ以上のアパチャーチューブが必要になります。測定後、ソフトウエアで測定結果を重ねることで完全な粒子サイズ分布分析が得られます。

そのほかにより小さなアパチャーに関して考慮すべきことは、サンプル懸濁液内のデブリスやサンプル自体の凝集によって、これらのアパチャーがより一層閉塞しやすくなることです。Multisizerは、測定中の閉塞に関してアパチャーをモニターし、閉塞が検出された際には警告を表示します。オシロスコープもまた、実行中の電圧パルスを表示し、アパチャーの閉塞をよりはっきりとさせ、アパチャーが閉塞しそうになっている場合にはユーザーに警告します。閉塞は通常、機器からアパチャーへ瞬間的に背圧をかけることで、または、柔らかいブラシを用いることで、非常に簡単に取り除くことができます。血球計算用の装置では、「バーン(burn)」回路を組み込んでいます。この回路はアパチャーに高電流を印加し、閉塞を取り除きます。上記の方法によっても閉塞が除去できない場合、アパチャーチューブを装置から取り外し、酸に浸したり、またはより大きな背圧をかけたりすることによってクリーニングすることができます。小径のアパチャーを用いる場合、高電流をかけるとアパチャーにダメージが起こる可能性があるため、細心の注意が必要です。

coulter principle - Electronic blockage detection.

図2.14. 電子的な閉塞の検出画面

2.9 拡張レンジの適用

コールターカウンターMultisizer 4eは、アパチャー直径の2 ~ 80%の範囲で粒子を測定することが可能です。また、すべての標準アパチャーチューブにおいて、アパチャー直径の10 ~ 80%の範囲で粒子を測定することが可能です。標準範囲は2~60%であり、拡張レンジを使用することで、60 ~ 80%の範囲まで、広く分散を調べることが可能です。この拡張レンジは、60%を超えて存在する分布の小さい「テール(tail)」の粒子を調べるための機能です。最良の結果と阻害物を最小にするために、アパチャー直径の約60%を上回る粒子が高い濃度で存在するサンプルを測定する場合には、より大きいサイズのアパチャーチューブを使用することをお勧めします。

60 ~ 80%の拡張レンジを測定する場合は、SOMの設定を行う必要があります。この設定は、ユーザーが設定したアパチャー電流やサイジング閾値などの一部のパラメーターを任意のパラメーターに置き換えます。カスタマイズした設定を使用して、より大きな粒子の結果を得るためには、より大きなアパチャーチューブを選択してください。
アパチャーの閉塞は、サンプル直径がアパチャーの直径の60%よりも大きい場合に起こりやすくなります。拡張レンジは、60%より大きい球面粒子で、濃度が低い場合にのみ用いてください。アパチャー直径の60%を上回る、著しく濃い濃度の粒子を含むサンプルの場合には、最良の結果を得るために、より大きなアパチャー・サイズを用いることをお勧めします。

coulter counter - Graphical view of the extended range.

図2.15. 拡張範囲のグラフ図

2.10 電解質溶液の選択

粒子を懸濁する電解質を選択する際に考慮していただきたいポイントがいくつかあります。溶液は、サンプル試料と化学反応を起こさないものであり、またサンプルは、溶液中で分散している必要があります。界面活性剤の添加や超音波処理による分散が必要になる場合もあります。
サンプルの測定範囲内にある粒子を含まない溶媒をご使用ください。電解質溶液は、通常0.45 μmまたは0.22 μmのメンブレンフィルターを用いてろ過してください。
測定に使用する溶媒は、0.2 ~ 20% (w/v) 塩化ナトリウム水溶液とほぼ同じ電気的特性を持っている必要があります。この溶液を使用した時に測定されるアパチャー抵抗は、1 ~ 100 k、理想的には5 ~ 40 kの間でなければなりません。開発当初、コールターカウンターは血球計算に使用され、通常の塩類溶液バッファ(0.9 g NaCl / 100 mLH2O)が電解溶液としてよく使用されました。5%オルトリン酸3ナトリウム溶液も良く用いられる溶媒の1つであり、特に、塩化物イオンが分散を阻害する粘土、シリカ、またはほかの無機物を測定する場合に用いられます。コールターカウンターで一般的に用いられる電解質溶液のリストは、弊社ウェブサイトで閲覧できます。

既に述べたように、コールターカウンターは電解質中に懸濁された粒子の数やサイズの測定に用いることができます。大きな粒子を懸濁するには、グリセロールやスクロースなどの増粘剤を添加して、溶液の粘度と密度を上げる必要があります。また増粘剤を使用することにより、低粘度の電解質溶液が大きいアパチャーチューブ(d>560 μm)を通過する時に発生する、乱流によるノイズを減少させます。最大限の撹拌や増粘剤を用いても、十分に大きな粒子の均一性を保てず、再現性のある結果を出せない場合があります。原因の1つとして、測定に使用する(ビーカー)として、丸底ビーカーではなく、平底ビーカーを使用することによる粒子の分散性低下が挙げられます。

2.11 導電性粒子と多孔性粒子

理論的には、導電率の僅かな差異がパルスの発生に必要です。しかし、実際には、導電体からイオンへの放電電位(可逆電磁界)が、導電体を絶縁体にする障壁を作るため(ただし、粒子全体の電位は放電電位を越えません)、電位障壁を壊すことがあり、このときの電圧を、破壊電圧と呼びます。

アパチャー全体に印加される電圧が破壊電圧を上回らないとう要件で、導電性の粒子をコールターカウンターで正確に測定することができます。導電材料を分析するために、破壊電圧(図2.16と表2.2を参照)未満で印加可能である最適電流を検証しました。この導電性粒子を測定するためには、いくつかの確認が必要です。最初の試験(テスト)では、電流とゲインを機器によって自動的に設定します。続いて、何度か試験することによって、各々の試験における電流を減少させます。プラトーに達するまで、平均サイズが増加します。プラトーに達した点が、印加電流が破壊電圧を下回る電流になります。

非常に低い電圧を用いること、および障壁を増加させること、すなわちセトリミドの0.5%溶液を添加するという条件においては、表面層を容易に形成しない高導電性材料(例えば、銅、銀、およびプラチナ)の粒子サイズを正確に計ることができます。
膜によって囲まれる細胞の場合、細胞体積に対する線形応答は、印加電圧の一部の「破壊(breakdown)」値で変化します。この値は、分析の条件を設定する際に考慮しなければなりません。血球分析装置は、血球破壊電位未満で動作するように設計されています。

粒子に孔がある場合、粒子の多孔性による影響を実験的に調べる必要があります。多孔性粒子については、電場線に平行な孔の体積が測定されませんが、これらの線に垂直な孔の体積が測定体積に寄与します。

coulter principle - Determining the breakdown voltage.

図2.16. 破壊電圧の測定

 

平均粒径(μm)
テスト 1 20.3
テスト 2 22.2
テスト 3 22.7
テスト 4 23.1
テスト 5 25.2
テスト 6 26.3
テスト 7 30.7
テスト 8 32.2
テスト 9 32.9
テスト 10 33.3
テスト 11 33.4
テスト 12 33.4

表2.2. 破壊電圧の測定

 

実際には、状況ははるかに複雑です。粒子の孔の方向は、ほとんどの場合、ランダムに分散されており、孔には以下のような可能性があります。(1)相互作用する可能性があること、(2)粒子全体を貫通している可能性または貫通していない可能性があること、(3)孔の大きさが1 nm未満から最大で数 μmまでサイズがばらつく可能性があることです(このことはすべての孔が電解質によって濡れているわけではないことを意味しています)。多孔性の影響を決定する唯一の方法は、粒子を2回測定することです。すなわち、1 回目は開いた孔(何も処理しない状態で)によって、そして次は不活性媒体で満たされた、また はそれによって閉じられた孔の状態で、粒子を再び測定します。粒子の多孔性が知られている場合、測定されたサイズに及ぼす影響を容易に確かめることが可能です。

coulter principle - porous particle size

図2.17. 多孔性粒子の2つの「異なる」サイズ

 

相互に接続した孔を持つ粒子は、粒子の「エンベロープ/外殻(envelope)」の体積ではなく、中実の(solid)体積を反映したサイズが測定されます(図2.17参照)。電解質によって孔を満たすことが可能であり、それにより電流が粒子内を通過できるようになり、アパチャーから小さなパルスを生じることになります。室温で固体になる有機物質(通常は溶媒)を用いて孔を満たす性質に基づいて、この問題を解決するいくつかの技術があります。探索的分析のために、「エンベロープ」サイズの初期評価は、ほかの方法(すなわち、顕微鏡法)によって評価が可能です。このように、補正係数を得ることができ、この計数をソフトウエアに入力することで、結果が補正されて「中実(solid)」のサイズの代わりに「エンベロープ」のサイズが得られます。品質管理において、エンベロープ・サイズを知ることは重要ではありません。製品の仕様を、中実のサイズに適用することができます(そして、実用上は、それによる違いはありません)。

3. 測定精度を向上させる

測定精度を最大にするためには、測定における潜在的な2つの競合要因を考慮しなくてはなりません。第1 に、計数される粒子の総数は、十分に高くなければなりません。そして、第2には、粒子の濃度は、コインシデンス限界を超えないものでなければなりません。言い換えれば、理想的な計数条件は、粒子濃度が低く、十分大きな測定量が理想的です。通常、これらの条件はいずれも実用的でも、必ずしも達成可能なものでもありません。しかしながら、重要なことは、結果にとって最も大きな統計的信頼性を得るためには、多数の粒子の数とサイズを測定しなければならないことです。多数の計数値を集めることが可能ではない場合(すなわち、きれいな液体を分析する場合)、3回の連続した分析を実行し、3回の実行から得られた平均値を使用することをお勧めします。

表 3.1 は、10 μmのラテックス粒子を31 回測定した実験データを統計処理し精度を出しました。

平均計数値 (n=31) SD (n-1) CV %
106 9.46 8.92
1,076 30.8 2.86
9,755 85.8 0.88
10,005 85 0.85
10,500 99.4 0.95
49,444 221 0.45
98,559 234 0.24

表 3.1. 様々な粒子数における測定精度

 

図 3.1. 少ないカウント数における粒子計数値

 

良好な統計値は、DIFFモードでの連続したチャネルにほとんどふぞろいのない状態のときであり、それに加えて、DIFFVOLモードでの最大のチャネルで、データの規則的な増大がないことが好ましい状態です。このことは、各々のチャネルでたった1つの粒子が検出されていることを示しています。図3.1 は、不十分な粒子計数カウント値の影響を示す図です。一方、図3.2はより多くの粒子計数カウントデータを蓄積した後の正確な分析を示しています。

coutler principle: correct analysis after accumulating more data

図 3.2. より多くのカウント数における粒子計数値

4. 小径または大径のアパチャーチューブ使用時の注意点

小径のアパチャーチューブ(10、20、30、および50 μm)または大径のアパチャー(400、560、1,000、および2,000 μm)を用いる場合、これらのアパチャーの個々の性質により、注意するポイントがいくつかあります。

 

4.1 小径アパチャー (< 50 μm)

一般的に、800 μAを超える電流を使用してはいけません。しかし、30 μmのアパチャーチューブに対して1,000 μA、50 μmのアパチャーチューブに対して1,600 μAの電流を流すことが許容される場合があります。アパチャー電流は、10 μmおよび20 μmのアパチャーチューブでは決して800 μAを越えてはいけません。

小径のアパチャーチューブに関する注意点は、機器がその能力の限界近くで作動しているため、可能な限りバックグラウンド計数値を低くする必要があります。以下の情報で示されるように、バックグラウンドノイズが高くなる要因はいくつかあります。

電解質の特性: この要因(ほかの要因よりも小径のアパチャーチューブに良好な影響を及ぼします)は電解質溶液のイオン強度と清浄度です。電解質溶液のろ過は極めて重要 になります。

ほとんどの電解質溶液に関して、塩濃度を増加させることで、1 μm未満のサイズの測定におけるS/N比を向上させます。

例えば、1%のNaClの代わりに2 ~ 4%のNaCl、2%のNa3PO4 の代わりに4 ~ 6%のNa3PO4を用います。しかしながら、電解質溶液の濃度が増加すると分析中の物質に悪影響を及ぼす場合があることに留意すべきであり、十分に検証してご使用ください。

電解質溶液の濃度を決める際、制限要因の1つがアパチャーの抵抗であることを考慮に入れる必要があります。理想的には、すべてのオリフィスにおけるアパチャー抵抗は1 ~ 100 kの範囲になければなりません。

環境要因: 機器が粉塵環境に置かれている場合、満足な計数値を得ることは困難です。機器は適度に塵のない部屋に設置することが望まれます。

電気的干渉: 電気的干渉はどのようなものであろうともバックグラウンドノイズを増加させます。電気的干渉については、濃度指数(Concentration Index[C.I.])で確認することができます。電気干渉が存在する場合、C.I.はその読み取り値を増加させる傾向があり、不安定である場合にも同様です。通常のC.I.読み取り値からのずれは、即座に明確にしなければなりません。干渉を取り除くためには、機器を異なる電源に移すかまたは電圧調整器を取り付け、電気ノイズを抑制する必要があります。

スタラー・モーター: 別のノイズ源として、スターラー ・モーターがあります。アパチャー直径の2%で測定する場合、分析実行中にはスターラー・モーターの電源をオフにしてください。基本的に、この短い時間で小さな粒子は沈降しません。

アパチャーの損傷: ノイズ源としてさらに可能性のあるものはオリフィスそのものです。これは、通常、ブランクの電解質溶液上の様々なノイズとして、最小サイズ・レベルでのみ示されます。このノイズは通常存在しません。オリフィスに問題がある場合、ブランクでのカウントが通常と大きく異なります。これは異常なアパチャーの電流極性が正常なものと異なるために起こります。同一径のほかのアパチャーチューブに取り換えて測定を行ってください。

過剰なアパチャー電流: 過剰なアパチャー電流により、アパチャー内の電解質溶液が加熱、または沸騰することで、ノイズが生じます。電流の低減、電解質溶液の導電率増加によって最適な測定を行うことができます。長期間にわたる沸騰は、アパチャーチューブのオリフィスにダメージを与えることになります。

非水性溶媒: 蒸発温度が低い有機溶媒を使用する場合、アパチャー電流が溶媒を加熱し電気ノイズを発生させる可能性があります。このような電気ノイズは、より低い電流設定値の選択もしくは電解質溶液の温度を下げることにより低減させることができます。

周囲の音と装置の振動: 小径アパチャーの場合、高い電流密度で測定しており、装置の振動または音(強く打つ音や叫び声など)の影響を受ける可能性があります。このようなノイズが起きないような環境で測定してください。

4.2 10 μmまたは20 μmアパチャー使用時の追加の注意点

Multisizer 4eで小径アパチャーチューブ(10 μmもしくは20 μm)を用いて下限(約0.2 μm)に近い直径の粒子を測定する場合、ノイズの発生源を排除することは非常に重要ですが、それ以外の要因についても考慮する必要があります。小径アパチャーチューブを使用する場合、以下の点を考慮してください。

  1. 電解質溶液をポアサイズ0.1 μmのメンブレンフィルターで2回ろ過してください。また、可能であれば、4%塩類溶液または同等の導電を持った電解質溶液に変更してください。
  2. 必ずアパチャー電流が800 μAを超えない設定で測定してください。高電流では電気的ノイズが発生するとともにアパチャーにダメージを与えます。
  3. コンピューター用モニターは、運用上可能な限り、Multisizer 4eから遠ざけてください。

4.3 大径アパチャー (> 400 μm)

通常の電解質を用いると、流体に乱流を引き起こす可能性があり、この乱れにより分析が妨げられます。2,000、1,000、800および560 μmのオリフィス、場合によっては400 μmのオリフィスを通る低粘度の電解質溶液は流速が速くなると乱流を引き起こし、実際に聞き取れるほどの笛のような音のノイズを発生します。装置はこの音を電気的なノイズとして拾います。このような問題は、電解質溶液の粘度または密度を高めることで解決され、密度の高い粒子の懸濁に役立ちます。粘性は、70%グリセロール(22.5 cP、20℃)相当よりも高い粘度の電解質溶液は使用しないでください。通常、40%グリセロールの溶液で十分な粘性を有しています。

400 μmアパチャーチューブを使用して試験することで増粘剤添加の必要性についてボーダーラインを設定することができます。すなわち、特定の大径アパチャーチューブは、グリセロールを電解質溶液に添加してノイズを抑える必要がありますが、ほかのものは粘度の低い電解質溶液(例えば、ISOTON II希釈液)で問題なく機能します。強調しておくべき点として、粘度を高くした電解質溶液を400 μmアパチャーチューブで使用したとしても物理的に何ら問題が起きることはありません。実際に、グリセロールの添加には2倍の効果があります。すなわち、(1)乱流の減少と、(2)それと同時に、粒子径が大きく、高密度の粒子の懸濁が容易になることです。1,000 μmおよび2,000 μmアパチャーチューブで測定可能なサイズの上限は、分析する粒子の密度に大きく依存しており、実際の測定上限は、粒子の密度が1 g/ml 以下の場合に約16,000 μmということになります。

5. CFR Part 11への準拠

5.1 電子署名 (21 CFR Part 11)

電子形式での文書提出や電子署名による承認を行うための要求事項や承認基準を定義するために、米国食品医薬品局(FDA)により電子記録・電子署名規則(21 CFR Part 11)が制定されました。電子記録の使用や記録保持を選択した組織は、21 CFR Part 11 に準拠する必要があります。これは、組織の品質管理を改善し、その一方で公衆を保護するためにFDA憲章を遵守させることを意図しています。Multisizer 4eのような分析機器システムは、電子記録を使っているため、電子記録の規則を順守しなければなりません。

 

5.2 電子記録

電子記録という言葉は、コンピューターシステムによって作成、修正、保持、アーカイブ、検索、または配布される、デジタル形式のテキスト、グラフィックス、データ、オーディオ、ピクトリアル、またはほかの情報表現の組み合わせのことをいいます。この定義は、FDAに提出されるデジタルコンピューターファイル、または提出されなくても保存しておく必要がある情報に当てはまります。電子形式での提出が許諾されている書類の種類や提出する場所については、Public Docket番号92S-0251(Federal Register, Vol. 62, No. 54)で定められています。

 

5.3 FDAの要求事項

Multisizer 4eコントロールソフトウエアは、ユーザーが電子記録・電子署名規則を順守できるように設計されています。電子署名の採用を決定した組織は、採用に際し、その意思をFDAに宣言しなければなりません。
FDA規則には以下のようなガイドラインが含まれています。

  • FDAは、これらの規則は必須ではなく、むしろ電子記録および署名の使用を許諾していることを強調しています(パブリックコメントのセクション)。
  • 電子記録の使用とFDAへの提出は任意です(最終決定の概要)。
  • 電子申請は以下のように行われます。
    紙の記録の代わりに電子記録を、伝統的な署名の代わりに電子署名を用いることが可能であり、その条件として、(1)Part 11 の条件が満たされていること、(2)提出された書類または書類の一部がPublic Docket 番号92S-0251で確認されていることです(Section 11.2 Subpart A)。

Section 11.3 Subpart A には、クローズドとオープンという2つのクラスのシステムについて言及されています。クローズド・システムとは、取り扱う電子記録に責任を持った管理者によってシステムへのアクセスが制御されるシステムです。システム上の情報を作成かつ維持する責任のある人および組織もまた、システムの稼働と管理に対し責任があります。
オープン・システムは、取り扱う電子記録に責任を持った管理者によってシステムへのアクセスが制御されていないシステムを指しています。
Multisizer 4eシステムは、典型的なクローズド・システムであると考えることができます。

5.4 セキュリティとデータインテグリティ

このような環境でMultisizer 4eを運用するためには、システムセキュリティとデータインテグリティを担保するための適切な運営、維持、および管理が確実行えるように定めた手順をもっている必要があります。管理者から一般ユーザーに至るまで、システムにアクセスする人は、この手順を順守しなければなりません。したがって、最終的な責任は、電子記録と署名を運用する組織の元にあります。Multisizer 4eソフトウエアは、重要な1つのファクターではありますが、あくまで、プロセス全体の1つのコンポーネントにすぎません。クローズド・システムに適用される制御については、Subpart B, Section 11.10に記載されています。

5.4.1 Electronic Controls: 電子規制の主要な目的は、信頼性、完全性、および適切な場合には電子記録の守秘性を確保することであり、また、署名者が直ちに署名した記録を本物では ないとして拒否することができないようにするための規制です。Section 11.10に記載された規制の多くは、データ保存と検索、アクセス制御、訓練、責任、文書化、記録管理、および変更管理を目的としており、FDAが求める手順書(SOPs)についても言及しています。

5.4.2 System Validation: そのほかの規制に対する対応は、Multisizer 4eソフトウエア自体、またはエンドユーザーによって定められた手順との組み合わせで行います。最も重要なこ とは、精度、信頼性、一貫性のある性能や、無効または変更された記録を識別する機能を確保するためのシステムについての検証が求められているということです[Section 11.10 Paragraph(a)]。組織によって開発されるシステムの完全かつ総合的な検証によって、システムとそのデータの完全性が保証されます。Multisizer 4eソフトウエアの特徴は、これらの規則の規格に従うように設計されていることです。

Multisizer 4e ソフトウエアは、Subpart C, Section 11.300の仕様に準拠するよう、ユーザー名とパスワードのシステムを採用しており、許可された人のみがシステムを使用し、記録への電子署名、オペレーションまたはコンピューターシステム入力または出力、デバイスへのアクセス、記録の改変、あるいは手作業による操作を行えることを保証しています。

5.4.3 Audit Trail: Multisizer 4eソフトウ エアは、データ入力や動作チェックを行い、適宜、データ入力や操作指示の内容の妥当性を決定します。また、これまでの一連のステップとイベントの過程の監査を強化しています(Subpart B, Section 11.10)。これらの2つの特徴により、可能な限り、確実に有効なデータがシステムに入力され、すべての必要なステップを完了し、目の前の作業に取り掛かることができます。

このようなすべてのデータのチェックと検証の目的は、FDAによる監査、レビュー、およびコピーに適した形式(人が読み取れる形式と電子的な形式の両方)で、システムがデータを正確かつ完全にコピーできるようにすることです[Sectio n 1 1 . 10, Paragraph (b)]。Multisizer 4eソフトウエアシステムを使用すると、ソフトウエアを使用して行うデータへのすべての変更履歴を記録し厳密に管理することができます[Section 11.10, Paragraph(e)]。

Multisizer software security

図5.1. Multisizerソフトウエアのユーザー権限選択画面

コールターカウンター法を用いた粒子計測装置 Multisizer 4e

Multisizer 4e coulter counter for particle characterization

コールターカウンターは数千ものサンプル種の解析に使用されています。工業分野においては、インク・トナー、研磨剤、フィルタ、金属、半導体、そして電池分野といった産業における様々な材料粒子サンプルの品質管理、工程管理の部門で、材料の均一性、異物の検出などの目的で広く利用されています。ライフサイエンス分野でも細胞サイクルや病理過程における細胞応答、アポトーシス、幹細胞、低温生物学、海洋生物学、生態学等といった、多くの分野の研究において、細胞数と細胞径の変化を計測するのにコールターカウンターが用いられています。

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