レーザー回折・散乱法vsコールター法
レーザー回折・散乱法では計測できないわずかな違いを測定するコールター法
粒子計測には、さまざまな測定原理・方法があります。その中で、最も多く導入されている装置として「レーザー回折・散乱法」が挙げられます。
このレーザー回折・散乱法は、研究開発、品質管理、製造管理などの分野で広く使われていますが、全てのサンプルで納得いく結果が得られてるわけではありません。測定するサンプル粒子の種類やサイズ、測定内容によって、適した測定方法を選択する必要があります。
本ページでは、測定レンジの近いレーザー回折・散乱法とコールター法を比較します。
<目次>
- レーザー回折・散乱法とは?
- コールター法(電気的検知帯法)とは?
- レーザー回折・散乱法とコールター法の違い
- コールター法によるソリューション
- 4-1. 異型粒子が再現性に影響している場合
- 4-2. 低濃度のサンプルの場合
- 4-3. 粗大粒子の測定
- 4-4. 電池用電解液、メッキ液、海水の測定
- 測定目的によるコールター法とレーザー回折・散乱法の使い分け
- コールター法を用いた粒度分布測定装置 Multisizer 4e
1. レーザー回折・散乱法とは?
測定範囲
レーザー回折・散乱法の一般的な測定範囲は、湿式測定(水または有機溶剤に分散する方法)を用いた場合で0.01~3000µm、乾式では、原理的にサブミクロンクラスの粒子は粉末の状態で分散するのはほぼ無理な為、0.1µm~3500µmになります。幅広い範囲の大まかな分布を見るのに適しているため、研究開発や生産管理、共通機器のような大きさの異なるサンプルを測定する部門でよく使用されています。
通常の赤色光(500~900nm)の波長と青色光(400~450nm)程度の波長を使う場合が多いです。これ以外にも、メーカーごとにセンサーの配置や数、各種アルゴリズムに違いがあるため、得られるデータが異なります。
レーザー回折・散乱法の原理
レーザー光が粒子に当たると回折・散乱現象が起こります。この回折・散乱現象の散乱パターンを観測し、そのパターンから粒子径を求めるのが、レーザー回折・散乱法です。レーザー回折・散乱法はフランホーファー回折理論とミー散乱理論の2種類の測定原理が用いられており、測定装置はこれらの理論を自動で使い分けて測定を行います。
レーザーが照射され、サンプル分散経路内の粒子にレーザー光が当たると、粒子表面で散乱が発生し、その光をフーリエレンズを通してフーリエ変換した後、検出器がその散乱パターンを受け取ります。この散乱光パターンの情報をPCないの各種アルゴリズムや屈折率等の高額的モデルのあてはめを行い、粒度分布として計算されます(Fig 1)。
粒子の大きさの違いや幅の違いは、複数のセンサーで見た散乱情報から想定されます。この時、散乱した光の内訳により、受け取るセンサーの位置が異なります。散乱した光がどのセンサーに集中しどこまで幅が広く検出されているか、という情報を基に、材質の情報を加え、最終的に粒度分布が得られます。この粒度分布は、検出するセンサーの配置や数により得られる情報が異なります。そのため、製造メーカーによって同じ粒子を測定してもメーカー毎に値や分布の形が異なってきます。更にセンサー以外にも、そのあとの屈折率やアルゴリズムの計算方法により、得られる分布も変わってきます。各社粒度分布の結果が異なるのはこれに起因します。
2. コールター法(電気的検知帯法)とは?
測定範囲
コールター法は、電気的検知帯法や現在のISO12219の規定名では液体体積置換法とも呼ばれています。この装置は、フルレンジで0.2~1600 µmの範囲で測定できますが、レーザーの様に一度にこの範囲を測定できるわけでは無く、検出するセンサーを付け替えることで、特定の範囲を精密測定します。
コールター原理とレーザー回折散乱法の最大の違いは、コールター原理は粒子の数を数え、粒度分布を作っていくことです。レーザー回折・散乱法の様に大きな違いが無いと見えなかった微妙な差が、コールター法では見ることができ、より高精度に測定することが可能です。
コールター法の原理
コールター原理は、電気的検知帯法を利用した原理で、粒子が検知帯(アパチャー感応領域)を通過する際に生じる、2電極間の電気抵抗の変化を測定します。電解質溶液中に懸濁させた粒子が、バキュームによりアパチャー(細孔)の検知帯を通過する際に、粒子体積分の電解液が排除されます。この排除された電解液の体積を電圧パルスとして測定します。このパルスの大きさが粒子体積に、パルスの発生数が粒子数になります。これによって、粒子の正確な体積から粒子径(粒度分布)と粒子数を測定することができます。
3. レーザー回折・散乱法とコールター法(電気的検知帯法)の違い
レーザー回折散乱法は手軽に測定できますが、何か違和感を覚えることが無いでしょうか?
その原因は、レーザー回折は散乱パターンを分布パターンに近似して変換しているため、幅広い範囲を網羅できる反面、小さな違いが出にくい傾向にあります。得られた散乱パターンから推定された大きさと割合の情報から、記録されているパターンをマッチングさせて分布を作るため、個々の分布パターンはあらかじめ決まった分布パターンを混ぜ合わせるように分布にします。
一方で、コールター法は粒子を一粒一粒大きさを見ながらカウントし、その粒子の情報をそのまま分布にします。
この2つの原理は、「粒度分布をみる」という点では同じですが、幅広い範囲をざっくり見るレザー回折・散乱法と狭い範囲をじっくり見るコールター法、と粒子の情報を見る観測方法が異なるのです。
4. コールター法によるソリューション
4-1.異型粒子が再現性に影響している場合
レーザー回折・散乱法では、レーザーが当たった面の長さが粒子径になるため、異形粒子は検出された面によって複数のパターンが現れ、再現性が難しくなります。そのため、レーザー回折では再現性が悪い場合がありますが、コールター法は粒子の形状を球に換算し、その球の直径が粒子径となるため、計上がどのような異型であれ安定した粒度分布が得られます。


4-2.低濃度のサンプルの場合
レーザー回折・散乱法では、散乱強度パターンから分布を計算するため、散乱情報が十分に得られないと粒度分布として計算ができません。特に透明で水とほぼ同じ屈折率のサンプルの場合、透過してしまい、散乱自体が起きないため検出ができません。
それに対し、粒子の個数をカウントして分布を作るコールター法では、透明なサンプルでも粒子濃度が薄いサンプルでも測定が可能です。


4-3.粗大粒子の測定合
レーザー回折・散乱法では、ある程度粒子数が少ないものは検出範囲でも分布の計算には加えないアルゴリズムが組み込まれています。粒子数を数えられないため、その都度検出される微量の粗大粒子の影響で測定の度に大きくデータが異なるため、良品・不良品の差まで見ることが難しくなります。
コールター法では、粗大粒子があれば大きい粒子が1個2個、と検出します。さらにメインピークの情報には影響せず、全体の分布を変えてしまわないため、良品と不良品の差を検出することができます。


4-4.電池用電解液、メッキ液、海水の測定
海水やメッキ液は、サンプル中の粒子が少ない上に、薄めると状態が変化します。ほとんどが水に溶けてしまうので、希釈が前提のレーザー回折・散乱法ではそのままの状態を測定することが出来ないか、測定自体が出来ません。
しかし、コールター法は導電性溶媒環境下で測定を行う必要から、メッキ液や海水、生体内細胞等は希釈せずにそのまま測定することが可能です。


5.測定目的によるコールター法とレーザー回折・散乱法の使い分け
コールター法では緻密な測定や分布の微妙な違いの検出が可能であり、製品の品質や精度の管理に適していると言えます。レーザー回折散乱法では、幅広い範囲をバラエティに富んだ条件で測定が可能なため、複数の粒子を色々な条件で測定する場合に適しています。粒子を測定する際は条件や目的によって適切な装置を選択する必要があります。
6.コールター法を用いた粒度分布測定装置 Multisizer 4e
コールター原理は数千ものサンプル種の解析に使用されています。工業分野においては、インク・トナー、研磨剤、フィルタ、金属、半導体、そして電池分野といった産業における様々な材料粒子サンプルの品質管理、工程管理の部門で、材料の均一性、異物の検出などの目的で広く利用されています。ライフサイエンス分野でも細胞サイクルや病理過程における細胞応答、アポトーシス、幹細胞、低温生物学、海洋生物学、生態学等といった、多くの分野の研究において、細胞数と細胞径の変化を計測するのにコールター原理が用いられています。



