特性評価

細胞外小胞(EV)の特性評価は、内包性物質の分子の種類やEV粒子の大きさのバリエーションの幅が広いため、非常に困難です。

EV分離後の最初のステップは定量が一般的な方法です。多くの場合、EVのマーカータンパク質の定量を行うことで、間接的にEVの定量値を推定します。これまでに、多くのマーカータンパク質が同定されており、その中でもRab GTPase、SNARE、テトラスパニンなどが、分離したサンプル中のEVの存在を間接的に定量するために使用されてきました(1)。しかしながら、EVsを間接的に定量することの大きな欠点は、そのマーカータンパク質の存在比が細胞の種類やその健康状態に大きく依存してしまうことです。

質量分析は、EVsに内包されたタンパク質の同定だけでなく、サンプル中にEVs以外のタンパク質の凝集体やその他の混入物質が含まれていたかどうかを判断するためにも使用されます(2, 3)。 最後に、EV定量化のための市販キットは数多くありますが、最も確実な定量方法として、フローサイトメトリー法、電子顕微鏡(EM)観察、ナノ粒子トラッキング解析法(NTA)が最近よく使用されています。
EVの定量に加えて、EVのサイズを正確に決定することも、困難ではありますが重要な取り組みです。

characterization of extracellular vesicle

超遠心分析法(AUC)は、流体力学的な原理により、分子の沈降係数とその成分比率、摩擦比を求めることができ、これらの数値をもとに粒子サイズ、不均一性、および形状に関する情報を得ることができる強力な分析法です。例えば、AAVベクターのような粒子サイズが均一で内包性物質の異なる不均一性の高い物質の分析においては非常に有用な結果を提供します。一方、幅広い粒子サイズ範囲を持ち、さらに内包性物質の異なる不均一性の非常に高いEVsの分析においては、調整したサンプルについて粒子サイズの詳細な定義づけができていないと、AUCでの分析は難しいと考えます。この粒子サイズの定義づけのためによく使用される分析法としては、EVsのサイズを分類することが可能なNTAと動的光散乱法(DLS)があります。また電子顕微鏡観察では、小胞の形態とサイズを視覚化することができ、さらに特異的なマーカータンパク質を認識する抗体による免疫標識法と組み合わせて使用することで、EVs表面に存在するマーカータンパク質を指標としたEVsの特定の特徴を解明することができます(4)。最後に、特異的なマーカータンパク質を認識する抗体による免疫標識法と用いた高度なフローサイトメトリー技術 は、極めて高い精度で機能的なEVの検出、特性評価、分取が可能です。

EV調製サンプルの品質(純度)と定量(回収量)を評価するために、これまで使用されてきた方法には次のようなものもあります(4)

  • フローサイトメトリー法
  • 原子間力顕微鏡観察
  • 単一粒子トラッキング法
  • 調整可能抵抗パルスセンシング

ほとんどの場合、EVs分離の究極のゴールは、単にEVsを回収することではなく、この謎に満ちた細胞間コミュニケーションの形態を理解する手段であるEVの内包性物質を調べることにあります。

EVsの分子組成を明らかにするために、研究者は、これまでプロテオーム解析のアプローチとして、SDS電気泳動法とマーカータンパク質を認識する抗体によるイムノブロッティング法の組み合わせを使用してきました。この方法によりEVに含まれる個々の成分を評価・同定する際に、夾雑タンパク質のEVs画分への混入が大きな懸念事項です。このため、Jeppesenらはサンプル純度を高めるために、高い分離が期待できるヨードキサノール試薬を用いた密度勾配超遠心分離法によるEVsの分子組成研究で、これまで同定されよく知られたEVsのマーカータンパク質の上位25種のうち10種が実際には夾雑タンパク質のEVs画分への混入が原因であったことを明らかにしました。

EVsには、DNA(4)、RNA(6,7)、タンパク質(8,9)を含む多数の分子が同定されています。これらの小さなメッセンジャーは、生命現象においてどのような役割をしているのか理解するために、分析されています。これらの分析の中には、RNA配列分析のように、慎重にかつ再現性のある反応系を組み立てる必要のある実験もあります。再現性の高い実験の実現には自動分注機が有用です。一方、ELISA解析のような、プレートの準備、加温処理、プレートの吸光度の読み取り機能が必要な実験には、実験プロトコルをプログラムとしてインプットしたスマートで柔軟な自動分注システムを導入することでシームレスなワークフローを組むことができます。

EVs研究は近年精力的に研究・開発が進められていますが、まだ不確実なことが多い研究分野です。そのような中でEVの研究者たちは次に示すように、この分野の発展のためにリソースをさき、彼らの研究成果を多くの研究者たちが活用できるようにしてきました。

  • Vesiclepedia:オンラインで自由にアクセスできる細胞外小胞のコミュニティ概論サイト。閲覧者は、ユーザーが投稿したデータセットと実験ガイダンス情報にアクセスすることができます。
  • ExoCarta:エクソソームの内包性物質を同定および物性評価をする研究者にとって特に有用なサイト。このデータベースには、特定のエクソソーム調製物から同定されたタンパク質、RNA配列、および脂質に関する情報が提供されています。

細胞外小胞(EV)の分離と特性評価の標準化は、信頼性と再現性が高いバイオアッセイや臨床・治療を含む下流のアプリケーションの結果を得るために不可欠なステップです。

EVを回収するサンプルの出発材料は無数にあり、さらにEVの分離技術もバラエティーに富んでいます。そのため、EVsの分離プロトコルを標準化して一貫性と再現性のある結果を得られるようになるまでには、まだ多くの課題が残っています(4)

 

References

  1. Raposo G, Stoorvogel W. Extracellular vesicles: exosomes, microvesicles, and friends. J Cell Biol. 2013;200(4):373-83.
  2. Abramowicz A, Widlak P, Pietrowska M. Proteomic analysis of exosomal cargo: the challenge of high purity vesicle isolation. Mol Biosyst. 2016;12(5):1407-19.
  3. Keerthikumar S, Gangoda L, Liem M, Fonseka P, Atukorala I, Ozcitti C, et al. Proteogenomic analysis reveals exosomes are more oncogenic than ectosomes. Oncotarget. 2015;6(17):15375-96.
  4. Witwer KW, Buzas EI, Bemis LT, Bora A, Lasser C, Lotvall J, et al. Standardization of sample collection, isolation and analysis methods in extracellular vesicle research. J Extracell Vesicles. 2013;2.
  5. Lazaro-Ibanez E, Sanz-Garcia A, Visakorpi T, Escobedo-Lucea C, Siljander P, Ayuso-Sacido A, et al. Different gDNA content in the subpopulations of prostate cancer extracellular vesicles: apoptotic bodies, microvesicles, and exosomes. Prostate. 2014;74(14):1379-90.
  6. San Lucas FA, Allenson K, Bernard V, Castillo J, Kim DU, Ellis K, et al. Minimally invasive genomic and transcriptomic profiling of visceral cancers by next-generation sequencing of circulating exosomes. Ann Oncol. 2016;27(4):635-41.
  7. Stevanato L, Thanabalasundaram L, Vysokov N, Sinden JD. Investigation of Content, Stoichiometry and Transfer of miRNA from Human Neural Stem Cell Line Derived Exosomes. PLoS One. 2016;11(1):e0146353.
  8. Lasser C, O'Neil SE, Shelke GV, Sihlbom C, Hansson SF, Gho YS, et al. Exosomes in the nose induce immune cell trafficking and harbour an altered protein cargo in chronic airway inflammation. J Transl Med. 2016;14(1):181.
  9. Winston CN, Goetzl EJ, Akers JC, Carter BS, Rockenstein EM, Galasko D, et al. Prediction of conversion from mild cognitive impairment to dementia with neuronally derived blood exosome protein profile. Alzheimers Dement (Amst). 2016;3:63-72.