バイオ医薬品製造における超遠心分析法(AUC)の可能性

超遠心分析法(AUC)は基礎研究でのベクター開発・タンパク質の性状解析から製剤開発における凝集物の確認、脂質ナノ粒子(LNP)などのナノ粒子、相互解析、さらには原体や製剤の品質管理に至るまで、様々な場面で利用されています。

本ページでは、各ステージでのAUCの活用の一例をご紹介します。

基礎研究ステージ

治療用遺伝子を導入したウイルスベクターの性状解析が可能です。アデノウイルスベクター等研究開発者にとって、分析用超遠心機Optima AUCは強力なツールとなります。

ウイルスに内包された核酸量を推定可能

アデノ随伴ウイルスの解析

アデノ随伴ウイルス(AAV)は遺伝子治療のアプローチに使用され、治療用遺伝子が導入されていないAAVと導入されたAAVを見分けることは、治療効果や副作用に関わるため非常に重要です。内包された遺伝子量に応じてAAV粒子の密度が変化します。つまり、遺伝子量が多いほど、密度が大きくなり、沈降係数も大きくなります。このため、沈降係数から導入されている遺伝子量を推察できることから、作成した、AAVの品質管理等に使用することができます。

 

  • タンパク質の性状解析沈降速度法

AUCはタンパク質を溶液の状態ままで、分子量測定や純度検定が可能なゴールドスタンダードです。さらに、溶液中でのタンパク質のコンホメーション変化、均質性、形態に関する情報を得ることができます。

複合体を構成する分子のモル比の決定が可能

TRAPとanti-TRAPの複合体形成の確認


図1

複合体を形成しているタンパク質の結晶化やX線回析の解析の際に、溶液中で分子同士が何対何で結合しているか示唆するデータを取得することは非常に有用です。タンパク質翻訳を調整しているTRAP(trp RNA-Binding Attenuation Protein)は、anti-TRAPの複合体を形成します。TRAPに対し、anti-TRAPをモル比で0.5、1、2、6、10倍加えて沈降係数の分布がどう変化するか測定した結果が、図1です。anti-TRAPを全く入れていない場合、 TRAPの沈降係数は4.7 Sですが、 anti-TRAPの含量が増加すると沈降係数が大きい方(右側)へシフトしていきます。6倍以上では、それ以上大きい方へシフトしないことから、 TRAPとanti-TRAPが1:6で複合体を形成していることが示唆されます。この濃度比で結晶化を行い、X線回析データの収集を経て、立体構造の決定することができます。 このように、AUCにより立体構造の根拠を示すデータを得ることができます。

  • 医薬品の特性評価

AUCは、抗体医薬品(ADCs)やナノ粒子と低分子医薬品の複合体の特性評価において、日常的に使用されています。

AUCから得られる結果は明確で信頼性があり、また再現性もあります。巨大分子の特性解析やタンパク質相互作用解析などの研究にはAUCが最適です。このため、私はAUCを選択します。

Jia Ma, PhD Director Bioanalytical Core, Purdue University

 

製剤開発ステージ

  • 製剤

AUCは溶液の状態で測定が可能ですので、製剤の溶媒条件検討、滴定、製剤化の研究に最適です。

我々のサンプルのコンホメーションの不均一性とその大きなサイズのため他の分析手法では不可能でしたが、AUC の沈降速度法の実験によりクロマチン凝集メカニズムについての多くの発展性のある研究結果が得られました。

Jeffrey C. Hansen, PhD, Colorado State University

 

  • 凝集物の確認 - 分散性・凝集性評価 -沈降速度法

AUCにより、ペプチドやポリマーの分子の状態(立体構造や安定性)を分析することができます。

特に、溶液中でのペプチドなどの分子同士の非共有結合的な凝集物の分析にAUCは有効です。

0.1%の凝集体を定量可能

モノクローナル抗体製剤に含まれる凝集物の解析

モノクローナル抗体製剤などのバイオ医薬品において、その会合体の存在は薬効に影響を及ぼし、副作用の原因となりえます。このため、さまざまな研究開発ステージにおいて、バイオ医薬の原料並びに製剤の凝集体を解析することはきわめて重要です。バイオ医薬品の品質管理は、「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法」に準じ実施されています。AUCはバイオ医薬品中の凝集物を0.1%オーダーで定量できることから非常に重要な分析方法に位置付けられており、FDA (Food and Drug Administration, USA)は、バイオ医薬品の品質管理技術としてAUCを高く評価しています。

沈降速度法において、モノマーにくらべて凝集体は速く沈降します。この沈降の様子から沈降係数の分布として凝集体の含量を測定することができます(図A)。

図Bは、製造直後のモノクローナル抗体試料の沈降パターンから、2つのロットの違いを解析した沈降係数分布です。2%以下しか含まれない凝集体の存在が確実に定量的に測定されているとともに、わずか0.1%の凝集体も検出できます。

図Cは、過酷試験により凝集体を形成させたモノクローナル抗体試料の測定結果です。各凝集体の割合を正確に得ることができ、Heptamerが0.1%含まれていることも分かります。

  • ナノ粒子沈降速度法

AUCは、製剤を包括する前後のナノ粒子において粒子径測定や形状の変化を調査するのに有効です。

 

流体力学的半径、薬剤の充填度、不均一性評価が可能

脂質ナノ粒子(LNP)

似たような沈降係数の粒子が混在したLPN粒子を解析するために、重水と軽水で異なる密度の溶媒をいくつか作成して、超遠心分析法で得られたデータを解析することで、LNPの特性解析の重要項目となる、流体力学的半径、薬剤の充填度、不均一性評価が可能です。

 

 

 

多波長AUCデータからの薬物内包効率

治療用リポソームの品質管理

Optima AUCのデータから、空のリポソームと薬物内包リポソームを、ベースライン分離により定量的に識別できます。さらに、溶液に含まれる非封入(遊離)薬物の存在を検出することも可能です。これは、正確な投与と患者の安全を確保する上で重要です。

 

 

 

0.1 nmの驚異的な分解能

白金コロイド分析データ

直径が0.1 nm異なるコロイド粒子の分布を測定できます。

 

 

 

似て非なる物質の解析が可能

カーボンナノチューブ分析データ

単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と2層カーボンナノチューブ(DWCNT)を簡単に区別することができます。

 

 

  • 相互作用解析沈降平衡法

担体への固定が不要、溶液中での相互作用解析が可能

溶液中の分子間相互作用解析

AUCはタンパク質などの分子を担体(基盤)等に固定することなく、水溶液のサンプルをそのまま測定することができるので、不自然でない状態での解離定数を求めることができます。例えば、2量体の分子間相互作用を測定する場合、片方を担体に固定したときの解離定数K’よりも、溶液状態で測定した解離定数Kの方が、より現実的な値が得られます。

前臨床並びに治験ステージ

  • ロット間差評価(毒性試験)
  • 製剤化開発
  • 製剤評価(特性解析、安定性、ロットリリース試験)
  • 医薬品の加速安定性試験
  • 製造方法バリデーション(ストレス試験)

 

原体や製剤の品質管理

  • 医薬品原体
  • 製剤
  • 医薬品原体と製剤の品質分析
  • 医薬品原体と製剤の安定性
  • 参照標準品の評価

 

超遠心分析法は、溶液中でのタンパク質やその他のマクロ分子の分析において最も強力で汎用性の高い分析手法の1つで、私のラボのワークフローにおいて非常に重要な位置づけにあります。私たちが扱っているタンパク質サンプルが単量体または、凝集体を含む高次構造を形成しているのかどうか超遠心分析法によりわかります。このため、私たちは、超遠心分析法は新しいタンパク質の動態の迅速な特性解析のためのベストな方法だと解りました。また、私たちは、溶液中のタンパク質の構造データ、タンパク質-リガンド結合の定量的な解析や、フォールディング過程の検証ができるので、超遠心分析法は構造生物学者たちの理想を補完する技術です。

Andrew Herr, PhD; Cincinnati Children’s Hospital Medical Center

 

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