超遠心分析法がもたらすmRNA-LNP製剤CQA評価の新たな指標
― 密度に基づくmRNA-LNPの品質特性の理解と管理 ―

はじめに

近年、mRNA-LNP製剤の実用化に向けた取り組みが進む中、不均一性の高い mRNA-LNP 製剤における品質特性の理解および管理の重要性が高まっています。これまで、主に海外を中心として、mRNA-LNP製剤に特有の重要品質特性(Critical Quality Attributes:CQA)に関する研究が進められ、ガイドライン等においては、多面的な特性評価の必要性が示されています1 。例えば、mRNA-LNP製剤では、粒子サイズ分布のみでは品質や薬効を十分に評価できないケースがあります。このような場合、LNP中における mRNA の内包状態を反映した密度分布など、より本質的な物理化学的な特性評価による補完が重要となります。ここでは、mRNA-LNP の特性評価に有効な手法として、超遠心分析法(AUC)に着目し、その有用性と課題について解説します。

LNPは粒子径・密度の不均一性が高い
LNPは粒子径・密度の不均一性が高い

超遠心理論を活用したmRNA充填量に起因するLNP不均一性の理解とCQA評価指標

mRNA-LNP精製において、超遠心分離で得たS値(密度)の異なる3つのフラクションの物性および生物活性解析から、内包mRNA充填量の違いが粒子密度、粒子径、形状、さらには生物活性と強く相関することが示されました2,3,4 。これは、LNPの不均一性が粒子サイズや拡散特性ではなく、mRNA量に起因する密度および沈降挙動の差によって特徴付けられることを示唆しています。したがって、粒子径や拡散定数を指標とする分離法よりも、沈降係数や密度を指標とする超遠心分離法が有効であると言えます。さらに、これらの遠心理論に基づく物理パラメータは、mRNA-LNP製剤のCQA評価、特に内包RNA分布、サイズ分布、多分散性の詳細な理解と管理に有用な指標となり得えると示唆されます。

分画超遠心法(30,000xg、120分)で超遠心後、<br>
3つのフラクションに分画。OLNPは中空構造、<br>HDLNPは過剰にmRNAが内包されていた
分画超遠心法(30,000xg、120分)で超遠心後、
3つのフラクションに分画。OLNPは中空構造、
HDLNPは過剰にmRNAが内包されていた2
生体投与試験の結果、LDLNPが最も高い活性を示し、mRNA密度の高いHDLNPでは活性が最も低いことから、mRNAの充填量(密度)や粒径、形状といった物理的パラメータが大きく影響することが示唆された
生体投与試験の結果、LDLNPが最も高い活性を示し、mRNA密度の高いHDLNPでは活性が最も低いことから、
mRNAの充填量(密度)や粒径、形状といった物理的パラメータが大きく影響することが示唆された2

密度マッチング速度法による、mRNA-LNPの内包性を反映させた特性評価

超遠心分析法の解析手法の一つである密度マッチング速度法(Density Matching SV-AUC)は、mRNA-LNP中のmRNA内包量分布を定量評価するための重要な解析手法です5。重水によりサンプル溶媒の密度を段階的に変化させつつLNPの沈降係数を測定し、その溶媒密度依存性から沈降係数がゼロとなる点を外挿することで、LNPの実効密度および偏比容を求めます6 。本手法により、サンプル中のmRNA-LNPの偏比容分布を評価でき、さらに、mRNAとEmpty LNPの偏比容・モル質量を組み合わせることで、単一LNP粒子あたりのmRNAコピー数を理論的に推定することも可能です6

重水を使用した密度マッチング速度法を用いて、
LNPの密度を測定し、偏比容を推定
重水を使用した密度マッチング速度法を用いて、
LNPの密度を測定し、偏比容を推定6
lipidのモル質量とmRNAのモル質量および、 
LNP(Full)のモル質量分布を組み合わせることで、
LNP当たりのmRNAコピー数(理論値)を算出
lipidのモル質量とmRNAのモル質量および、
LNP(Full)のモル質量分布を組み合わせることで、
LNP当たりのmRNAコピー数(理論値)を算出6

他の分析法で検出困難な不均一性・微量成分に対するSV-AUCの技術的優位性

SV-AUCの大きな優位性は、動的光散乱法(DLS)や電子顕微鏡(cryoTEM)では見落とされやすい不均一性や微量成分を、高分解能かつ定量的に検出できる点にあります。

DLSは散乱強度加重かつ非分離型の手法であるため、大粒子や凝集体の影響を強く受け、実際には多分散であっても単分散に見える場合があります7,8

一方AUCは、遠心場下での沈降挙動に基づき成分を分離解析でき、サイズ分布や多分散性に加え、微量凝集体やフリーRNAまで同時に評価可能です7

LSでは粒子サイズが34nm付近の単一ピークとして検出されたが、<br>AUCでは15~60nmの多分散として検出
DLSでは粒子サイズが34nm付近の単一ピークとして検出されたが、AUCでは15~60nmの多分散として検出7
)DLSではLNP3は粒子サイズ110 nmで単分散という結果が得られ
DLSではLNP3は粒子サイズ110 nmで単分散という結果が得られた。
AUCではLNP3(赤線)は沈降係数の分布関数が-300~-10Sと広く多分散であること、さらにmRNAのシグナルも検出されたことから、mRNAが漏出していたことも明らかとなった
AUCではLNP3(赤線)は沈降係数の分布関数が
-300~-10Sと広く多分散であること、
さらにmRNAのシグナルも検出されたことから、mRNAが漏出していたことも明らかとなった8

AUCとナノフローサイトメーターの併用によるmRNA-LNP製剤CQA評価の高度化

AUCは高い分離・分解能を有しますが、一方で粒子数を直接測定することはできません。このため、ナノフローサイトメーターなどの粒子数測定法と併用することで、mRNA-LNP製剤のCQA評価に定量性と信頼性を付与することが可能となります。

脂質とmRNAをそれぞれDiDおよびSYTO9でラベリングした上で、ナノフローサ
イトメーター CytoFLE脂質とmRNAをそれぞれDiDおよびSYTO9でラベリングした上で、ナノフローサ
イトメーター CytoFLEX nanoを用いてLNPのポピュレーション解析を行った。

脂質とmRNAをそれぞれDiDおよびSYTO9でラベリングした上で、ナノフローサイトメーター CytoFLEX nanoを用いてLNPのポピュレーション解析を行った。
mRNAを含まない空のLNPも免疫活性化作用を有するため、ワクチンなどへの応用には有用であると考えられる。一方で、免疫活性化が不要な薬剤への応用(タンパク質補充療法やゲノム編集等)においては、空のLNPが過剰な免疫応答や炎症反応などの副作用を引き起こす可能性がある。

今後、ワクチン以外の用途においては、mRNAを含むLNPと空のLNPを分離し、それぞれを定量的に評価する必要がある。その点で、本測定法は有用であると考えられる。

データ提供:ベックマン・コールター株式会社
解説:名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 生物有機化学研究室 木村 誠悟 先生

おわりに

分析用超遠心システムOptima AUCは、サイズや密度が不均一なmRNA-LNP製剤を高分解能かつ定量的に解析できる有用な手法で以下の測定・評価が可能です。

  • 高分解能で定量性のあるサイズ分布測定
  • RNAカプセル化の評価
  • 高度な凝集物・粒子の評価
  • 無固定・無標識(ラベルフリー)の非破壊解析
  • 他の測定法の解析データを補完

さらにCytoFLEX nanoを用いることで、mRNAを含むLNPと空のLNPの割合および粒子数を定量的に評価することが可能となります。

このように、AUC とナノフローサイトメーターを組み合わせることで、密度・サイズ・粒子数・内包率を統合的に評価することが可能となり、品質評価から製剤設計、プロセス開発まで幅広く貢献し、物性理解を深めることで薬効最大化と品質保証の両立を実現します。

CytoFLEX nano

参照文献

  1. Nogueira S S, Samaridou E, Simon J, Frank S, Beck-Broichsitter M, Mehta A Analytical techniques for the characterization of nanoparticles for mRNA delivery European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 198 (2024) 114235
  2. Liao S, Tan Z, Wu S, Huang X, Xu J, Zhang Y, et al. Transfection potency of lipid nanoparticles containing mRNA depends on relative loading levels. ACS Appl Mater Interfaces. 2024;17(2):3097-105.
  3. Vaidya A, Parande D, Khadse N, Vargas-Montoya N, Vikram Agarwal V, Ortiz C, Ellis G, Kaushal N, Sarode A, Karve S, DeRosa F Analytical Characterization of Heterogeneities in mRNA-Lipid Nanoparticles Using Sucrose Density Gradient Ultracentrifugation. Anal. Chem. 2024, 96, 5570-5579
  4. Patel N, Mukandavire C, Kim J, Choi J, Lee H, Shin S, et al. Development and characterization of an in vitro cell-based assay to predict potency of mRNA–LNP-based vaccines. Vaccines. 2023;11(7):1224.
  5. Henrickson A, Liu J, Jobby N, Xu Y, Arisaka F, Sahin G, et al. Density matching multi-wavelength analytical ultracentrifugation to measure drug loading of lipid nanoparticle formulations. ACS Nano. 2021;15(3):5068-76.
  6. Bepperling A, Richter G. Determination of mRNA copy number in degradable lipid nanoparticles via density contrast analytical ultracentrifugation. Eur Biophys J. 2023;52(4-5):393-400.
  7. Zhao H, Sousa AA, Schuck P. Flotation coefficient distributions of lipid nanoparticles by sedimentation velocity analytical ultracentrifugation. ACS Nano. 2024;18(28):18663-72.
  8. Guerrini G, Mehn D, Scaccabarozzi D, Gioria S, Calzolai L. Analytical ultracentrifugation to assess the quality of LNP-mRNA therapeutics. Int J Mol Sci. 2024;25(11):5718.
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